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新社会人に伝えたい「したたかさ」の話 ⑧

    第7章 スランプからの脱却法


    ※本記事は柔道にまつわる物語(自作)を題材に、仕事観に関する考えを展開するものです。柔道初心者の鈴木太郎が指導者である先生とともに、黒帯を目指す過程を描いています。

    <物語>

     柔道教室の通い始めて早いもので1年が経過しました。鈴木は1か月後に色帯への昇段試験に挑戦することが決まっています。ところが、試験が近づくにつれ、鈴木は今一つ調子があがらなくなってきました。これまで学んだことを丁寧に実践しようとしているつもりですが、いざ組手となると思うように体が動きません。鈴木は内心、焦っていました。ある日、そんな鈴木の様子に気付いた先生が声をかけてきました。

    「鈴木さん。最近、少し動きの切れが悪くなっているように見えますが、ご自身で何か感じるところはありますか」

    鈴木は苦しい胸の内を先生に語り始めました。

    「実は昇段試験に挑戦することが決まってから、どうもイメージ通りに体が動かなくなってしまって。体調が悪いわけではないんですが、なんでですかね。自分でもよくわかりません」

    鈴木の言葉を穏やかな表情で聞いていた先生は、しばらく考えたのち、次のように言いました。

    「鈴木さん。これは私の推測ですが、何もかもうまくやろうと考えていませんか。鈴木さんはここまで本当に真面目に練習に励んでこられました。できることもかなり増えたと思いますが、そうした時期にふと迷いが生じることはあります。私も経験がありますが、できることが増えれば増えるほど、気負う部分も増えていくような気がします。それで鈴木さんに一つ提案ですが、柔道を始めたばかりのころを思い出してみましょうか。最初は一つできることが増えただけでも、うれしかったし達成感があったと思います。改めてその感覚を思い出して、例えば、今日は足がよく動いていたら良しとするといったように、小さな目標をクリアしていきましょう。小さなことだからといって馬鹿にしてはいけません。そうした積み重ねが時に大きな壁を崩す突破力を生み出します」


    スランプからの脱却法

     ビジネスシーンにおいても考えすぎて身動きだとれなくなることがあります。いわゆるスランプの状況です。私はそうした状況に至る原因として、少なくとも次の2つの原因があると考えています。

     1つ目は、同時にすべてを解決しようと考えていることです。つまり、対峙している課題のテーマが大きすぎて飲み込めていないのです。第3章で、提案する際にテーマを細分化して相手に伝えることの有効性について述べましたが、それと逆のことをすればいいと思います。まずは課題を手を付けやすいレベルに細分化し、1つずつ解決していきます。1つずつでは時間がかかるし、もどかしいと感じるかもしれませんが、最終的にその方が課題全体の解決に近道になるケースもあります。

     これは私のスランプ脱却法ですが、頭のなかで「動脈硬化」と「蟻の一穴」という言葉をイメージすることがあります。動脈硬化はご存じのように血管の内側が狭くなり、血流が悪くなるこです。また、蟻の一穴は、どんなに頑丈な堤防でも、蟻があけた小さな穴から崩れることがあるという比喩に由来する、油断大敵を意味することわざです。スランプに陥り行き詰っている状況はまさに動脈硬化そのものです。そして、蟻の一穴は、小さな前進の積み重ねが、結果として大きな堤防を崩すきっかけになることを連想させます。先ほど、課題を細かくし、1ずつ解決した方が課題全体の解決に近道だと述べましたが、蟻の一穴はまさにその様子を象徴しています。つまり、小さな穴は、どこかのタイミングで指数関数的な加速力とパワーで大きな壁を崩し始める場合があるのです。私はそのようなイメージをもって、できるところから手をつけるようにしています。

     次に2つ目の原因ですが、それは、完璧な仕事をしようと気負いすぎている点です。私は、どんな仕事も7割は自分で、残りの3割は他のメンバーが補完・完成させてくれると考えています。もちろん、これは最初から手を抜いてやるとか、他人任せという意味ではなく、どんなに完璧を目指してやっても、最終的にはこのような割合に帰結するであろうという私の感覚を述べています。つまり、最後の仕上げの段階では、他者の知恵を借りることになるということです。

     あなたの職場にもいるかもしれませんが、自分の作った資料について、他人から間違いや矛盾を指摘されることを極端に嫌がる人がいます。私はそういう人は完璧な仕事をしなければならないという観念に縛られすぎているか、もしくは第5章で述べたように、仕事と人格が強くむずびついているかのどちらかだと思います。おそらくそういう傾向のある人は、締め切り直前まで一人で悶々と考えた挙句、時間をかけた割に完成度の低いものをリリースします。ですので、仕事の途中経過を上司に報告したり、意見をもらったりというような、いわゆる「報連相」は今の時代においてもかなり有効な手法です。最初から仕事の3割は他人が完成させてくれるものだと割り切ってしまえば、色々なダメ出しがあったとしても、それは最後の仕上げを手伝ってくれているのです。そのように考えて、「ありがとう」と思えるようになったら、もうあなたは黒帯です。

    ☆続き(第8章 師匠との別れ)はこちら

    ☆1つ前の話(第6章 ルールブック)はこちら


     
     
    労働問題エッセイスト。地方のとある法人で人事や労務、財務といった、いわゆる管理部門の仕事を長年担当してきました。仕事をとおして考えてきたことを気が向いた時に発信していこうと思います。

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