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新社会人に伝えたい「したたかさ」の話 ⑦

    第6章 ルールブック


    ※本記事は柔道にまつわる物語(自作)を題材に、仕事観に関する考えを展開するものです。柔道初心者の鈴木太郎が指導者である先生とともに、黒帯を目指す過程を描いています。

    <物語>

     道着にあいた穴を指摘された鈴木でしたが、その後も道着を新調せずに、しばらく使い続けていました。そんなある日、練習を見ていた先生が鈴木の道着の異変に気付きました。

    「鈴木さん。道着に穴があいていますよ」

    先生は穴のあいた部分を指さしながらそう言いました。

    「そうなんです。この前、佐藤に指摘されて気づきましたが、まだ使えそうなので大丈夫かなと思って」

    鈴木が先生にそう言うと、先生はすかさず次のように言いました。

    「鈴木さんは大丈夫でも、対戦相手がけがをする可能性があります。あいた穴に対戦相手の指が入ったら、どうなると思いますか。柔道は自分のことだけを考えていてはいけません。対戦相手にケガをさせないという視点も極めて重要です。すぐに道着を新調しましょう」


    ルールブック

     ビジネスシーンにおいても、あと一歩、想像力を働かせればよかったと痛感することがあります。

     例えば、あなたが、ある業務のAというプロセスは手間だからやめようと提案するとしましょう。しかし、実はそのプロセスが、別の部署(財務部)の重要なプロセスと密接に関連していたとしたらどうでしょうか。あなたはそのことを知らずに、もしくは知ろうとせずに、そうした提案をした場合、もしかすると財務部の心情は穏やかではないかもしれません。もちろん、あなたに悪意があるわけではないのは皆わかっています。しかし、業務の行き着く先のことを考慮していない提案は、時に思わぬ反感を買うことがあります。そして、そうした小さな想像力の欠如が、職場の部門間対立を助長する原因になっていると思います。

     私は、どのような仕事にも、大きく分けて前工程、中間工程、後工程の3つの工程があると考えています。例えば、経理の仕事で言うならば、前工程は各部署の担当者が請求書や領収書を受理するプロセス、中間工程は経理部門がそれらの請求書や領収書を取りまとめて清算するプロセス、最後に後工程は、経費等のデータを集約して法人の決算書に落とし込むプロセス、といったようなイメージです。そして、各工程では、重きを置いているポイント、優先順位が少しずつ違っています。ですので、どこか一部の工程の都合だけで話を進めようとするのは危険であり、他の工程の都合にもきちんと向き合い、知ろうとする姿勢が大切です。当然、自分の担当業務以外はわからないことが多いと思いますが、わからなければその担当部署の人に聞いてみればいいのです。また、会社には知識・経験ともに豊富な生き字引のような人が一人はいます。そうした人に業務全体の流れや、過去の経緯を聞いてみるのもいいでしょう。おそらく、人は「知らない」ことよりも、「知ろうとしていない」姿勢にモヤモヤとした感情を抱くはずです。

     業務に関する各種ルールや業務の仕組みは、柔道で言うところのルールブックにあたります。そうしたルールブックをさらりとでもいいので眺めてみることは、知らぬうちに危険な行為(反則技等)を犯してしまうのを抑制する上で重要です。仮にあなたの提案を上司が却下したとしても、もしかするとそれは社内ルールや法律との兼ね合いから許可できなかったのかもしれません。そうなると、そもそも根本的な部分の攻め方が変わります。

     せっかくやる気があっても、提案内容が的外れになったり、反感を買ってしまったりしてはもったいないです。そうした状況を回避するためにも、提案を練る過程で立ち止まる時間を作りましょう。そして、近視眼的な考え方になっていないかどうか、また、木を見て森を見ずになっていないかどうを振り返ってみることが大切です。

    ☆続き(第7章 スランプからの脱却法)はこちら 

    ☆1つ前の話(第5章 古い道着は脱ぎ捨てよう)はこちら


     
     
    労働問題エッセイスト。地方のとある法人で人事や労務、財務といった、いわゆる管理部門の仕事を長年担当してきました。仕事をとおして考えてきたこと、とりわけ「目に見えにくく言語化しにくいけれど大切なこと」をキャッチアップしていきたいと思っています。

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