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48歳コンビニバイト〜おでんの汁で世界を救う〜|第3話 『 蛇、ヤベェ…!パネェ… 』

※本作品は創作です。

※登場する人物、企業、生物、 巨大なタコ、    すべての出来事は フィクションです。
   ……たぶん。

※本作品を読んだあと。
  深夜二時のコンビニへ行きたくなっても、
  作者は責任を負いかねます。

※本物語は全10話で完結します。
  第1週は、月・水・金に更新。
  第2週は、毎日更新します。……多分。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇
48歳コンビニバイト
〜おでんの汁で世界を救う〜
第3話 『 蛇、ヤベェ…!パネェ… 』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「うわっ、来た――っ!」

巨大なアオダイショウが一直線に突っ込んでくる。大木健次は反射的に身体をひねった。

避ける。

………そのつもりだった。

だが、四十八歳の身体は頭の命令ほど素直には動かない。しかも、慢性的な腰痛持ちである。

華麗なステップになるはずだった足さばきは、床へ散らばった特売のカップラーメンに乗り上げた瞬間、あっさり裏切られた。

「うわぁぁぁっ!」

足が滑り、身体が宙を舞う。そして次の瞬間…。

ガッシャーーーーン!!

豪快な音を立てながら尻もちをつき、そのままダンボールの山へ突っ込んだ。

崩れた箱の中から粉末スープが舞い上がり、健次の制服は一瞬でしょうゆ味の香りに包まれる。

「……なんで、こんな終わり方なんじゃ……」

人生の締めくくりがカップラーメンの粉末まみれとは、さすがに想像したことがなかった。

そんな健次の目の前で、アオダイショウはゆっくり鎌首をもたげる。

「シュー……」

細く割れた舌が何度も空気を探る。黒い瞳はまっすぐ健次を見据えていた。逃げ場はない。

「店長――っ!」

頭上からミクの悲鳴が飛ぶ。

「早く何とかしてください!」

「無茶言うな!」

健次も叫び返した。

「わしはコンビニの夜勤じゃ!
 ヘビ捕獲の資格なんか持っとらん!」

「でも店長しか下にいません!」

「それが一番の問題なんじゃ!」

換気ダクトへしがみついたままのミクは、今にも泣き出しそうな顔で健次を見下ろしている。降りて助ける気配はまったくない。

その横では、騒動の元凶であるジャージ姿の男が、なぜか満足そうに腕を組んでいた。

「ほぉ」

感心したように頷く。

「今の転び方は見事じゃった」

「褒められても嬉しくありません!」

「特に最後の回転が美しかった」

「採点するな!」

健次の怒鳴り声が倉庫中へ響く。

「全部あんたが変なこと
 言い出したせいでしょうが!」

「いやぁ、人生には予想外が必要なんじゃ」

「今はいらん!」

そんな言い争いなど気にも留めず、アオダイショウはさらに距離を詰めてくる。床を擦る音だけが静かに近づいてくる。

健次は後ずさる。

ダンボール。

壁。

もう逃げ場がない。

「……終わった」

人生最大の修羅場。老後の心配をする前に、ヘビに噛まれて終わるかもしれない。

そう覚悟した、その瞬間だった。

ピピッ。

乾いた電子音が店内へ響いた。

続いて……。


カチャッ。


金属が外れる音。

健次はハッと顔を上げる。
その聞き慣れた音は、毎日何十回も聞いている……レジスターのドロアが開いた音。

それも通常の会計ではない。
無理やりこじ開けられた時の音だった。

「……え?」

時間が止まる。

ヘビ。

ジャージ男。

ミク。

すべてが一瞬頭から消えた。

「店長……」

ミクも異変に気付いたらしい。

「今、レジの音……聞こえた」

健次は小さく頷く。
嫌な予感しかしない。

深夜の店で客はほとんどいない。だから、レジには誰もいないはず。なのにドロアが開いた。つまり……。

「誰かがおる」

健次はできるだけ音を立てないよう、床を這う。その姿を、アオダイショウも不思議そうに見ていたが今は動かない。

倉庫の扉までたどり着く。
ゆっくりと隙間を開ける。
売り場の様子をそっと覗く。

そこには、一人の男が立っていた。

黒いパーカーに深くかぶったフードで、顔はほとんど見えない。

男はレジスターの前へ立ち、慣れた手つきでドロアを探り、中の紙幣を無造作につかみ取っている。その動きに迷いがない。

明らかに初めてではない動きだった。

健次の背中へ冷たい汗が流れる。

「……うそじゃろ」

思わず声が漏れる。

ヘビ騒動の最中に、今度は強盗。
……そんな偶然があるだろうか?

いや、この夜なら、もう何が起きても不思議ではない気がしてくる。

四十八歳。
正社員経験なし。
老後資金も心細い。

深夜のコンビニで静かに働くだけの人生だったはずなのに。

巨大なヘビ。
長ねぎを武器にした謎の男。
天井へ避難する女子高生。
そして、レジを荒らす強盗。

頭の中で出来事を整理しようとするほど、状況はますます意味を失っていく。

「……俺の人生、なんで急にイベント密度だけ
 ゲーム終盤みたいになっとるんじゃ?」

誰にも聞こえないほど小さく呟く。

その時だった!

レジをあさっていた黒いフードの男が、ふと動きを止め、ゆっくりと首をこちらへ向ける。

そして、健次と視線が合った。

……。

……。

……。

ほんの数秒。

しかし、その数秒は異様に長く感じられた。

そして男は、何も言わずに一歩、こちらへ踏み出した。

倉庫ではアオダイショウが再び鎌首をもたげる。

前には強盗。後ろには巨大なヘビ。
逃げ道は、もうどこにもなかった……。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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