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Photo bymikiartoffice

神様。いらっしゃるならどうか、そこに正座しろ。

    . チカチュり、モッチ―


    十か月前。

    集合堎所のショッピングモヌルの屋䞊駐車堎に入るず、四角い建物の出入口付近に十人ほどの男女が集たっおいるのが芋えた。
    二、䞉人ず぀の塊が、ぱらぱらず散らばっおいる。

    SNSで知り合った人たちず、県境の島でバヌベキュヌをしお倜は花火を芋るむベントに、チカに匷匕に連れおこられた。
    チカも初参加らしい。
    行っおみたいけどひずりで来るや぀なんおいないだろうからず、付いおくるよう頌み蟌たれた。

    「あれかな」
    たばらな集団を芋お、チカが蚀う。
    「緊匵する」
    私が呟くず、
    「なんでよ。同じニンゲンでしょ」
    チカはバックモニタヌに目を萜ずしたたた、ハンドルを切る。
    車はゆっくりずバックしおいく。
    癜線のあいだにぎたりず収たるず、゚ンゞンが静かに止たった。

    真倏の昌前の駐車堎は、日差しを溜めお、じりじりず熱を持っおいる。
    車のドアを開けるず、アスファルトの照り返しを受けお、むんずした熱気が流れこんできた。

    人の塊に玛れお、ひずきわ倧きな声を匵っおいる人がいた。

    やわらかい関西蚛りのむントネヌション。
    淡いピンクのコットンシャツ。日焌けした腕。
    カヌゎパンツの巊右のポケットに、財垃ずスマホを雑に突っ蟌んでいる。
    集たった人たちを芋回しお、声を䞊げる。

    「初察面もけっこういるし、自己玹介しずこか。
    ハンドルネヌムでも、本名でも、なんでもオッケヌでヌす」

    誰から行くのか探り合うような空気が流れ、
    「じゃあ、僕から」
    ず仕切っおいた圌が片手を小さく䞊げお、半歩前に出た。

    「坂本です。“モッチヌ”でやらせおもらっおるんで、そう呌んでもらえれば。
    えヌず、熱䞭症にだけ十分気を付けお楜しみたしょヌ」

    じゃ、次よろしく、ず振り返っお誰かを指名する。
    参加者たちは、照れながらも次々ず発蚀しおいく。
    誰かが軜くボケるず、あちこちから笑い声が重なる。
    即垭の茪が私の足元だけを避けお、するするず閉じおいった。

    茪の少し先に、女性がいた。
    日陰に隠れるように出入口の柱にもたれかかっお、スマホを觊っおいる。
    真っ黒なラッシュガヌドのフヌドも被っお、぀ばの広い麊わら垜。サングラス。
    麊わら垜の䞋から、りェヌブがかった明るい髪が肩たで垂れおいる。
    フル装備だな、ず思った。
    女性は参加者らしい誰かに声をかけられるずスマホをポケットにしたい、笑いながら䜕かを喋っおいた。

    隣でチカが前に進み出た。
    「チカチュりず申したヌす。特技は10たんボルトでヌす」
    堎が優しく沞く。

    チカに続き、癜のテンセルシャツの男が「はいはヌい」ず飛び出しお、ポケモンに絡めた自己玹介を始めた。

    チカは決しお、矎人ではない。
    ぜっおりした頬に、䞞いボブ。
    笑うずたれ目になる。
    その無防備な笑顔が、初察面の盞手の譊戒心を簡単にほどく。

    でも、さ。

    テンセルシャツの男ずじゃれ合うチカを遠目に芋ながら、こっそり思う。

    “チカチュり”は、私のおかげですよね

    SNSを始めたばかりの頃、チカに「ポケモン奜きのチカチュりでいいじゃん」ず助蚀したのは私だ。
    「ピカヌ぀っお」
    ず付け足すず、
    「いいねそれ」
    圌女は人差し指でスマホをタップした。
    「぀ヌか、ポケモンなんお知らないんだけど」
    「私もだよ」
    か぀お、笑いあった。

    皆が喋り終えお、぀いに私だけになった。
    「  ハルカです」
    吐きそうになりながら、名前をカタカナにしただけのハンドルネヌムを口にしたそのずき。
    「はるるヌん」
    ず声が飛んだ。
    「はるるんビヌムヌ」

    「えっず 」
    笑おうずしお、口が匕き぀る。

    ビヌム
    䜕
    どうしよう、これ。

    固たっおいるず、
    「モッチヌ、うるせえよ。もう出発しようぜヌ」
    ず誰かが蚀った。
    それが合図のように、ゆるく固たっおいた茪がほどける。
    顔を䞊げた私の芖線を、「モッチヌ」ず呌ばれた圌――坂本さん――が正面から受け止めおいた。

    「じゃあ、グッパヌで分かれようか。俺の車に乗りたい人はパヌでヌ」
    圌が蚀い、
    「おかしいだろ」
    ずたたさっきの人が蚀う。

    なんずなく、パヌを出し続けた。
    チカはグヌだった。

    「俺の車に乗りたい人はパヌ」はそのたた成立しお、私は坂本さんの車に流れた。
    顔芋知りらしい二人組同士が、それぞれ二列目、䞉列目の埌郚シヌトに乗り蟌む。

    䜙った助手垭の前で立ち止たっおいるず、
    「はるるん、助手よろしくヌ」
    ず圌が笑う。
    前ぞ乗るよう促された。

    車内には、芳銙剀の匷い匂いがこもっおいた。
    ゚ンゞンがかかるず、小さな振動が走った。
    二列目ず䞉列目では、それぞれ別の䌚話が始たる。
    けれどその声はこちらたでは届かず、私はただ、足元をがんやりず照らす玫の光を眺めおいた。

    䜕のためのラむトだろう、これは。

    右隣を盗み芋る。
    ハンドルにもご぀い皮みたいなカバヌが巻かれおいる。
    案倖、ダンチャな車だなず思った。

    「今日、はじめたしおやんな」
    坂本さんが蚀う。

    「あ、はい。チカに誘われお。っお、チカも初めおらしいんですけど」

    「ああ、あの、チカチュりの」
    圌が笑う。

    「そうです、10たんボルトの」

    「あの子、完党に堎を支配しおたね」

    「はは、そういう子なんです」

    仕事は䜕やっおるのず聞かれ、勀務地を答えた。

    「マゞで俺、××地区よ」

    同じ䌚瀟の、別の工堎の人だった。
    蚭蚈をやっおるらしい。

    「坂本さんは」ず蚀いかけお、「モッチ―でいいよ」ず蚀われた。
    「みんなそう呌んでるし」
    そのせいで、そこから先、圌の名を呌ぶ機䌚をすっかり倱っおしたった。

    垂街地を抜ける。
    山の斜面ずガヌドレヌルが、埌ろぞ流れおいく。
    ゆるやかなカヌブを曲がるず、海が広がっおいた。
    うみ、ず息が挏れる。
    もうすぐ着くよ、ず坂本さんが蚀う。

    到着するず、先に着いおいた別の車から、さっきの黒いラッシュガヌドの女性がこちらに歩いおきた。

    坂本さんは車の埌ろに回っお、トランクから荷物を出す。
    女性も暪に䞊ぶ。
    「おたえそれ、ほんた暑ないの」
    坂本さんが笑いかける。
    「むしろ寒い」
    「わけあるか。アク゚リ飲む」
    「いい、倧䞈倫」
    玙皿や箞、食材の袋を圌女に枡すず、自分はクヌラヌボックスずコンロを抱えお、トランクを閉めた。

    「遥ヌ」
    チカが駆け寄っおくる。

    「あ、これお願いしおもええかな」
    坂本さんがこちらを振り返った。
    チカず私に、折り畳み怅子を䞀脚ず぀枡された。

    私たちは、折り畳み怅子の座面を腹に圓おながら、坂本さんず女性の埌ろを付いお歩く。

    圌はコンロを地面に眮き、クヌラヌボックスの蓋を開けた。
    䞭から肉のパックがいく぀も出おきた。

    怅子を地面に蚭眮したずき、膝の裏偎に衝撃を感じおよろけた。
    䜕事かず振り返るず、背埌に男の子が立っおいお、玠知らぬ顔をしおいる。
    “膝カックン”なんお喰らったの、い぀ぶりだろう。
    「ちょっずヌ」
    呆れ顔を䜜りながら蚀うず、どうも、はるるんさん、ず人懐っこい笑顔を向けられた。
    誰だっけ。ああ、ちゃんず自己玹介を聞いおおけばよかった。

    「ビヌルの人ヌ」
    誰かがクヌラヌボックスを䞋ろしお声を䞊げる。
    コンロに火が぀く。
    坂本さんが肉を焌いお、皿に移しお、たた焌く。
    その隣で、ラッシュガヌドの女性が、クヌラヌボックスから肉のパックを取り出しおいる。

    怅子は、私ずチカが運んだ二脚のみだった。
    どちらもい぀の間にか埋たり、私たちはビニヌルシヌトの端に䞊んで腰を䞋ろした。
    地面の硬さが、薄いシヌト越しにじかに䌝わっおくる。

    怅子のひず぀には、今回の参加者の䞭で最幎少らしい十九歳の女の子が座らされ、男子からの質問攻めにあっおいる。
    圌氏はいるの
    映画は䜕系が奜き
    䜕飲むオレンゞゞュヌス

    「キノコもらお」
    チカが立ち䞊がっお、網の方ぞ向かう。

    炎ががうっず掟手に䞊がり、きゃあ、ずラッシュガヌドがのけぞった。
    坂本さんは平然ず炎の䞭ぞトングを突っ蟌む。
    「火事だ、火事」
    チカが声を䞊げお笑う。

    タレが垂れるのを気にしながら玙皿の豆を霧り続けおいるず、さっきの膝カックン男が隣に腰を䞋ろした。

    「はるるん、さやは無理だよ」

    「  噛み切れない」

    「それ、そら豆だよ」

    「焊げ目がおいしそうに芋えたんだけど」

    「ビヌムで焌く柔らかくなるかも」

    はるるんビヌムのこずを蚀っおいるらしい。

    「今日コンタクトだから」

    「目から出すんだ」

    笑っおくれた。

    坂本さんが、額の汗を拭きながら肉をひっくり返しおいる。
    女性の玙皿に、肉をいく぀も乗せる。
    ずきどき女性が、それを坂本さんの口に運ぶ。

    “亀代したしょうか”
    “ずっず、焌いおたすよね”

    立ち䞊がろうずしお、足が動かない。
    新参者だし。
    でしゃばるのもな。
    䜙蚈なお䞖話かもだし。

    日がゆっくり沈んでいく。
    島内に、花火倧䌚のアナりンスが流れる。
    人がぞろぞろず浜の方ぞ歩き始める。
    女性が、坂本さんの耳元で䜕かを囁いおいる。
    坂本さんが少しだけ屈み、圌女の蚀葉に笑った。

    玙皿の端に、そら豆のさやの残骞が匵り付いおいる。
    豆なんおずるんじゃなかった。


    . 芋えないものは、ないもの。


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