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45歳のBeyoncéが振り返る『B’Day』――20年前、彼女が手に入れた「自由」


はじめに

2026年8月、『B’Day』20周年記念盤のジャケットを見たとき、私は思わずこう思いました。

これ、本当に20年前のビヨンセ?

そこから写真の撮影時期や収録曲について調べ始めたのですが、調べれば調べるほど分からないことが増えていきました。

2003年に発表されていた曲もあれば、2006年のボーナストラックもある。2013年頃に録音されたと報じられている曲まで入っている。ジャケット写真についても、20年前の未公開カットなのか、それとも新たに撮影されたものなのか、発売前の時点では確認できませんでした。旧記事では、結局「これはいつのビヨンセ?」という疑問を残したまま終わっています。


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1.24歳のビヨンセは、何を考えていたのか

20周年記念盤のブックレットで、ビヨンセは24歳だった頃を「人生のとても刺激的な時期だった」と振り返っています。

なかでも印象に残ったのが、この言葉です。

“I knew exactly who I was and had a clear vision of the artist I wanted to become.”

「自分が何者なのか、そしてどんなアーティストになりたいのか、はっきり分かっていた」

まだ25歳になる前です。

すでにDestiny’s Childとソロ活動の両方で大きな成功を経験していましたが、『B’Day』では自分の直感を信じて進もうとしていました。

本人はさらに、こう振り返っています。

“I trusted my instincts and refused to compromise, even if that meant investing my own money into making my vision a reality.”

「自分の直感を信じ、妥協することを拒みました。
たとえ、自分のビジョンを実現するために自分のお金を投じることになっても」


この一文を読むと、『B’Day』の勢いが少し違って見えてきます。

20年後の本人が覚えているのは、若さだけではありません。自分が作りたいものがすでに見えていて、それを実現するためなら自分のお金を投じる。そのくらい強い意志を持っていた時期だったのです。

2006年当時のインタビューで、ビヨンセは『Dreamgirls』のディーナについて、夫の夢を生き、自分が何を望んでいるのか分からなかった女性だと説明しています。そのうえで自分自身については、「私は強い女性だと思うし、自分の意見がある。言いたいことがあった」と語っていました。

映画の撮影が終わると、その思いを書き出し、『B’Day』の曲作りに使ったといいます。

45歳の彼女が振り返る「自分が何者なのか分かっていた」という言葉と、24歳だった当時の発言が、20年越しにつながります。

そして、その勢いのまま始まったレコーディングは、驚くほど短期間で進みました。


2.『B’Day』の録音は「2週間と少し」

『B’Day』が短期間で作られたことは以前から知られていましたが、20周年記念盤のブックレットで、ビヨンセ本人はその期間をこう振り返っています。

“It took a little over two weeks to record this album.”

「このアルバムの録音には、2週間と少しかかりました」

20周年盤の発売に合わせてParkwood Entertainmentが発表した公式資料でも、『B’Day』は「2週間のセッション」で録音されたと説明されています。

ここで大事なのは、本人が「アルバムのすべてを2週間で完成させた」と言っているわけではないことです。ブックレットで使われているのは “record” なので、確認できるのはあくまで録音についてです。

しかも、この短期間での制作は20年後に初めて明かされた話ではありません。

2006年当時のインタビューでも、ビヨンセは「2週間で22曲に取り組んだ」と話しています。ここでも「2週間」という期間が出てきます。

そして、彼女が作ろうとしていたのは音楽だけではありませんでした。


3.『B’Day』は「最初のビジュアル・アルバム」だった?

ビヨンセと「ビジュアル・アルバム」と聞くと、2013年の『BEYONCÉ』を思い浮かべる人も多いかもしれません。

ところが20周年記念盤のブックレットで、ビヨンセは『B’Day』について意外なことを書いています。

“I was determined to establish myself as a visual artist, creating worlds for each song. That vision became my first visual album.”

「私はビジュアル・アーティストとして自分を確立し、
それぞれの曲のための世界を作ろうと決めていました。
そのビジョンが、私にとって最初のビジュアル・アルバムになりました」

発売時のParkwood Entertainmentの公式資料でも、『B’Day』は「実質的に彼女にとって最初のビジュアル・アルバムだった」と説明されています。

ただし、2006年9月に発売された『B’Day』が、最初から現在のような形のビジュアル・アルバムとして発売されたわけではありません。

翌2007年には、『B’Day』の楽曲を映像化した『B’Day Anthology Video Album』が登場します。

当時のインタビューでも、ビヨンセは以前から「video album」を作りたいと思っていたと話していました。つまり、2026年になって突然『B’Day』をビジュアル作品として語り始めたわけではありません。

20年後の本人は、2006〜2007年に取り組んでいた音楽と映像の試みを振り返り、そこに「自分にとって最初のビジュアル・アルバム」を見ているのでしょう。

そして、このとき映像の舞台として選ばれた土地の一つが、ニューオーリンズでした。


4.なぜニューオーリンズで撮影したのか

『B’Day』の写真を見返すと、湿地や苔に覆われた木々、そしてワニまで登場します。

以前の記事では、ビヨンセが本物のワニと撮影した経緯まで調べました。でも、「なぜ、そもそもこんな世界を作ったのか」までは深く考えていませんでした。

20周年記念盤のブックレットで、ビヨンセはその背景を振り返っています。

2005年8月、ハリケーン・カトリーナがアメリカ南部を襲い、ルイジアナ州にも甚大な被害をもたらしました。

ビヨンセにとって、そこは遠い土地ではありませんでした。本人はブックレットで、家族のルーツがルイジアナにあるため、その被害を個人的な喪失のように感じたと振り返っています。

そして、家族の故郷である州のビジネス再建を助けたいと考え、ニューオーリンズで撮影を始めたといいます。20周年盤のParkwood Entertainment公式資料でも、ニューオーリンズに家族の深いルーツがあり、カトリーナ後の復興に自分なりの形で貢献したいと考えていたことが説明されています。

ブックレットで本人が挙げている『B’Day』の世界は、とても具体的です。

バイユー、苔に覆われた木々、湿地、ワニ、レモネード入りのアイスティー。

こうして並べてみると、旧記事で「なぜワニ?」と気になった一枚も、ワニだけが突然現れたわけではなかったことが分かります。

それは、ビヨンセが『B’Day』で描こうとしていたルイジアナの風景の一部だったのです。

そして20年後、本人はこの世界について、驚くような言葉を残しています。


5.「振り返れば、『Lemonade』の先駆けだった」

そして、そうした『B’Day』の世界を振り返ったあと、ビヨンセはこう書いています。

“But in retrospect, it was the precursor to Lemonade.”

「でも振り返ってみれば、それは『Lemonade』の先駆けでした」

これを読んだとき、ちょっと驚きました。

発売前の記事で私は、45歳のビヨンセを知ったうえで『B’Day』を振り返ると、2006年には気づかなかったものが見えてくる、と書きました。

ただ、そこで私が注目していたのは、声の使い方や生楽器、女性だけのバンドなどです。今回ビヨンセ本人が語った「『Lemonade』の先駆け」とは、同じ話ではありません。

それでも面白いと思ったのは、本人自身も “in retrospect”――「振り返ってみれば」と書いていることでした。

2006年の時点で『Lemonade』を予告していたのではなく、45歳になったビヨンセが20年前を振り返ったとき、当時作っていたものの中に、後の作品へつながるものを見つけている。

発売前に私が『B’Day』を振り返って感じていたこととは違う角度から、本人も20年前と現在をつないで見ている。そのことが、私にはとても印象的でした。

そして、ビヨンセが『B’Day』から受け取ったものは、後の作品につながる表現だけではなかったようです。


6.『B’Day』がくれた「自由」

たとえば「Déjà Vu」。

ビヨンセは、自分は昔から私生活についてとてもプライベートだったと振り返ったうえで、こんな言葉を残しています。

“It felt liberating to scream out my love for my man on Déjà Vu.”

「『Déjà Vu』で、自分の愛する人への気持ちを思いきり叫ぶことは、
解放されたような感覚でした」


当時のビヨンセにとって、自分の愛を歌の中でここまで表に出すこと自体が「解放」だったようです。

でも、『B’Day』で歌いたかった自由は、恋愛だけではありません。

ブックレットでは、女性について、自分を信じること、自分で決めること、自分の人生を動かす力、経済的な自立、性的な自立といった言葉が並びます。

さらに、ビヨンセが描いた「自由な女性」の姿はかなり激しい。

歌う。叫ぶ。圧倒する。汗をかく。蹴る。ギターを壊す。泣く。実験する。ラップする。そして、自分の考えを口にする。

きれいに振る舞うことだけが自由なのではなく、叫んでも、汗をかいても、泣いてもいい。

そんな文章のあとに、ビヨンセはこう振り返っています。

“More than anything, this album gave me permission to be free.”

「何より、このアルバムは私に『自由になっていい』と許してくれました」

自分で作りたいものを決め、自分の愛を叫び、女性が自分の人生を選ぶことを歌う。

20年後の本人が『B’Day』について「自由になっていいと許してくれた」と振り返っているのを読むと、このアルバムが当時のビヨンセにとってどれほど大きなものだったのか、少し分かる気がします。


7.発売しても、まだ分からなかったこと

発売前、20周年記念盤の収録曲を調べていて不思議だったことがあります。

「未発表曲」と聞いたとき、私は2006年の『B’Day』制作時に録音され、そのまま眠っていた曲を想像していました。

でも、実際に調べてみると、そう単純ではありませんでした。

そして発売後、さらに詳しい情報が公式に発表されました。

しかも、発売前には発表されていなかった曲まで加わっていました。9月4日はビヨンセ本人の誕生日なのに、ファンのこちらがプレゼントをもらっているような気分です🥹

デジタル・デラックス版の最終的な収録曲は31曲。デラックス・ヴァイナルには29曲が収録され、デジタル版にはさらにMalumaを迎えた「Cuerpo (Tumbao)」と、Selenaとの「Irreemplazable (Como La Flor)」が追加されています。

発売前の記事でも気になっていた「My First Time」については、もともとソロデビュー作『Dangerously in Love』のために録音され、最終的な収録曲から外されていたことが公式に明かされました。

一方、「Can I Watch You」は、ビヨンセとPharrellがプロデュースした曲だと分かりました。

ただし、録音時期までは公式資料に記されていません。発売前の記事で残った「これは2006年の『B’Day』未発表曲なのか?」という疑問には、今もはっきりした答えが出ていません。

そして、もう一つ気になっていたのが写真です。

公式発表によると、20周年記念盤にはニューオーリンズで撮影された未公開写真も収録されています。

でも、私が最初の記事を書くきっかけになった、あのジャケット写真そのものがいつ撮影されたのかまでは明記されていません😂

発売したら全部分かると思っていたのに、まだ分からない🤣

どうやら「これ、本当に20年前のビヨンセ?」という最初の疑問だけは、もう少し持ち越すことになりそうです😂


8.「『B’Day』が歩いてくれたから、今の私は飛べる」

20周年記念盤のブックレットの終盤で、ビヨンセは25歳の誕生日に『B’Day』をリリースしたことを振り返っています。

そして、20年前の自分が作ったアルバムについて、こんな言葉を残しています。

“B’Day walked so I can now fly.”

「『B’Day』が歩いてくれたから、今の私は飛べる」

“X walked so Y could run” は、「Xが先に道を切り開いたからこそ、Yはさらに先へ進めた」という意味で使われる表現です。

でも、ビヨンセが選んだのは “run” ではなく、“fly” でした。

20年前、24歳だった彼女は、自分がどんなアーティストになりたいのか分かっていたといいます。音楽だけでなく映像の世界まで作ろうとし、自分の愛を叫ぶことを「解放」と感じ、『B’Day』を通して「自由になっていい」と思えるようになった。

そして20年後には、当時作った世界を「振り返れば『Lemonade』の先駆けだった」と見つめ直しています。

もう一度『B’Day』を聴くと、20年前のアルバムなのに、そこにいる24歳のビヨンセが、少しだけ45歳の彼女に近く見えてきます。


主な参考資料
・『B’DAY (20th Anniversary Edition)』記念ブックレット
・Parkwood Entertainment「BEYONCÉ MARKS HER BIRTHDAY WITH THE RELEASE OF A REMASTERED DELUXE "B'DAY" ALBUM」(2026年9月3日)
・Etalk「Beyoncé reveals scary situation that happened while shooting 'Déjà Vu' music video | B'Day Throwback」(2006年当時のBeyoncéインタビュー、2026年8月30日公開)
・Associated PressによるBeyoncéインタビュー(2007年、『B’Day Anthology Video Album』について)


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