
通信会社はもう通信会社ではない(NTT × KDDI × 楽天G × ソフトバンク)|第7章⑥
※投資理論編・第7章「企業価値の再定義」の6回目です。単体でも読めますが、第1章から順に読むと理解が積み上がります。
前回の最後に、こう書きました。
通信会社なのか?
金融会社なのか?
それとも、インフラ企業なのか?
通信という土台の上に、金融・決済が乗っている
さらにその上に、AIとデータセンターという次の投資が重なっている
そして両社とも、巨額の研究開発を続けている
今回はその交差点を見ます。
そして最初に、少し不可解な数字を置いておきます。
2026年4〜6月期、売上が最も伸びたのはNTT(+10.9%)でした。 でも、利益が最も伸びたのはKDDI(+21.1%)です。
売上と利益の順番が、入れ替わっている。
この入れ替わりの理由が、そのまま「通信 × 金融 × 研究開発」という3つのお金の流れの正体です。
※本記事は公開情報の整理であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は各時点のもので、投資判断はご自身の責任でお願いします。
1. まず決算を並べてみる
2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の実績です。楽天のみ12月決算のため、2026年12月期の上期(1〜6月)を並べています。
NTT(9432)
営業収益:3兆6,177億円(前年同期比 +10.9%)
営業利益:4,251億円(+4.9%)
四半期利益:2,748億円(+5.8%)
EBITDA:8,362億円(+4.3%)
KDDI(9433)
売上高:1兆4,873億円(+5.1%)
調整後営業利益:3,143億円(+21.1%)
四半期利益:1,954億円(+22.1%)
ソフトバンク(9434)
売上高:1兆8,147億円(+9.4%)。第1四半期として過去最高
営業利益:3,023億円(+4.0%)
純利益:1,501億円(+3.3%)
楽天グループ(4755・上期)
売上収益:1兆3,090億円(+12.9%)
営業利益:504億円(前年同期は66億円の損失)
中間利益:7年ぶりの黒字
ここで注意点があります
KDDIの+21.1%という数字は、そのまま前期と比べられません。
KDDIは当第1四半期から、報告セグメントの利益を「営業利益」から「非経常的な損益やポートフォリオ見直しに伴う一時損益を除外した調整後営業利益」に変更しました。前年同期の数値も、同じ基準に遡って修正されています。
つまり+21.1%は、新しい定義同士を比べた数字です。
第2章のテーマそのものです。
実態が変わっていなくても、測る物差しが変われば見え方は変わる。
決算を読むときに最初に確認すべきなのは、増減率ではなく「何を測った数字か?」です。以下、KDDIの利益はすべてこの調整後ベースで記載します。
2. NTTの売上を膨らませたのは通信ではなかった
NTTの営業収益が10.9%増えた理由の大きな部分は、銀行を連結したことです。
旧・住信SBIネット銀行は、2025年10月1日にドコモの連結子会社になりました。
2026年8月3日、社名は「ドコモSMTBネット銀行」に変わっています。ドコモと三井住友信託銀行による共同経営体制になったことを反映した商号です。
銀行を連結すると、決算はこうなります。
銀行の収益が丸ごと売上に乗る → 売上は大きく増える
一方で、銀行は資金原価や人件費を抱えている → 利益率は薄まる
つまり、売上10.9%増の中身は「通信が伸びた」ではなく「金融が加わった」です。
第7章①で扱った「見える顔と稼ぐ顔のズレ」が、ここでも起きています。
もうひとつ、利息の問題があります
NTTは、2027年3月期の純利益について通期▲5.5%の減益予想を据え置いています。
営業利益がほぼ横ばいなのに最終利益が減る理由として、会社側は支払利息の増加を挙げています。
NTTデータの完全子会社化、データセンター投資、その他の成長投資。
これらの資金需要が、金利上昇局面と重なっている。
稼いだ利益が、利息で削られる構造に入っているということです。
3. 金融は4社とも「持ち方」が違う
通信4社はすべて金融を抱えていますが、抱え方がまったく違います。
NTT/ドコモ:買う
住信SBIネット銀行を子会社化(2025年10月1日)
マネックス証券がドコモグループ唯一の証券会社
2026年8月20日から、銀行サービスとdアカウントの連携を開始
KDDI:持つ
auじぶん銀行、auカブコム証券などを自前で抱え、通信と一体で運営
第1四半期のパーソナルグロース:売上2,808億円(+8.6%)/調整後営業利益554億円(+9.3%)
ソフトバンク:作って、上場させる
PayPayは2026年3月12日、米ナスダックに上場。時価総額は約121億ドル(約1.9兆円)で、日本企業の米国上場としては最大級
2026年6月、PayPayがT&Dフィナンシャル生命の子会社化を発表
2026年8月3日、SBペイメントサービスがSP.LINKSの子会社化に関する契約締結を発表(株式取得実行日は2026年9月30日予定)。両社合算のオンライン決済取扱高は約13兆円
楽天:貸す
フィンテックがグループ最大の稼ぎ頭(上期:売上5,707億円 +25.1%/セグメント利益1,277億円 +46.9%)
楽天カードの取扱高7.1兆円、楽天銀行の口座数1,846万
そして、JR東日本のJRE BANKに、楽天銀行がシステムを提供している
最後が重要です。
JRE BANKは、ビューカードが楽天銀行を所属銀行として媒介する仕組みです。
つまり、JR東日本は銀行を作らず、楽天銀行から借りている。
「顧客基盤を持っている会社」と「金融の仕組みを持っている会社」は別で、後者は前者に貸すことができる。
これが金融というお金の流れの性質です。
4. 楽天:金融が通信の赤字を埋めている
楽天の上期セグメントを見ると、構造が一目でわかります。
インターネットサービス:売上6,557億円(+4.1%)/セグメント利益442億円(+67.2%)
フィンテック:売上5,707億円(+25.1%)/セグメント利益1,277億円(+46.9%)
モバイル:売上2,525億円(+13.3%)/セグメント損失710億円(前年同期は884億円の損失)
フィンテックが1,277億円稼ぎ、モバイルが710億円失っている。
楽天モバイルの契約回線数(MVNO含む)は1,075万回線(+178万)、ARPUは2,921円(+60円)まで来ました。損失は確実に縮んでいます。
ただし、まだ黒字ではありません。
7年ぶりの中間黒字は、モバイルが黒字化したから達成したのではなく、金融が通信の赤字を上回ったから達成しました。
ここで第2章のテーマが効いてきます
楽天は長く「モバイルで赤字を垂れ流す会社」という枠組みで見られてきました。
黒字化が近づくと、その枠組み自体が入れ替わる可能性があります。
数字の改善そのものより、枠組みの入れ替わりのほうが株価には効く。
第2章のヤマダHDで見たのと、同じ構造です。
5. ただし金融を束ねると株は下がることがある
2026年5月20日、楽天グループと楽天銀行が金融再編の最終合意を発表しました。
楽天銀行が、楽天カードと楽天証券ホールディングスを株式交付で子会社化
効力発生日は2026年10月1日
みずほ銀行が楽天銀行の議決権10.52%を持つ大株主に
楽天銀行の上場は維持
資料には「年850億円の利益創出」と記載
規模だけ見れば、日本有数の金融グループが誕生する話です。
ところが翌21日、楽天銀行株は前日比▲15.43%のストップ安になりました。
なぜか?
第5章で扱った視点で読むと、答えははっきりしています。
「誰にとっての再編か?」が問われたからです。
楽天銀行の少数株主から見ると、この取引はこう見えます。
自分が株を持っている銀行が、親会社の都合で兄弟会社を抱え込む
対価として新株が発行され、既存株主の持ち分は薄まる
銀行に貯まったキャッシュが、グループ全体の事情に使われやすくなる
親会社にとって合理的な再編が、子会社の少数株主にとって合理的とは限らない。
これは第4章の制度の話でもあります
銀行法や金商法の規制により、フィンテック事業のキャッシュを親会社や兄弟会社に自由に流すことはできません。
だから「銀行の下に束ねる」という形が選ばれた。
制度が形を決め、その形が株価を動かした。
制度 → 企業行動 → 評価の枠組み、という順番がそのまま観察できる事例です。
6. 研究開発費を並べると順番がまた逆になる
2026年3月期の有価証券報告書ベースで、各社の研究開発費を並べます。
ソフトバンクグループ:9,755億円(売上比 12.5%)
NTT:3,979億円(売上比 2.8%)
ソフトバンク(9434):968億円(売上比 1.4%)
LINEヤフー:481億円(売上比 2.4%)
KDDI:400億円(売上比 0.7%)
NTTとKDDIで、約10倍の差があります。
そして冒頭の数字を思い出してください。
研究開発費3,979億円のNTT → 営業利益 +4.9%
研究開発費400億円のKDDI → 調整後営業利益 +21.1%
研究開発を多く行っている会社ほど、直近の利益が伸びていない。
これは偶然ではありません。研究開発費は、その期の費用として利益から引かれるからです。
売った瞬間に回収できる通信料と違い、研究開発の回収は10年単位で起きる。
同じ損益計算書の中に、回収の時間軸がまったく違うものが同居しているわけです。
なお、ソフトバンクグループの9,755億円は、大半がArmなどの子会社によるものです。
自社の研究所ではなく、買った会社の研究所が計上されている。
前回扱った「投資会社という物差し」が、研究開発費の内訳にもそのまま表れています。
7. 買うか? 作るか? 取り次ぐか?
同じ「次の技術への投資」でも、3社のやり方は正反対です。
KDDI:転用する。大阪堺データセンター
2025年4月、シャープ堺工場跡地を取得
2026年1月22日、稼働開始
土地取得から稼働まで約10か月(データセンターは通常3年程度かかる)
延床面積は約5万7,000平方メートル、地上4階
NVIDIA GB200 NVL72などのAIサーバーを搭載し、全フロアで直接液体冷却に対応
なぜ10か月でできたのか?
大規模工場の電力設備と冷却設備を、そのまま再利用したからです。
液晶パネル工場は、もともと巨大な電力と冷却を必要とする施設でした。その資産が、AIサーバーの要件とほぼ一致した。
KDDIは「作った」のではなく「転用した」わけです。
NTT:自前で作る。IOWNと、3年ずらしたゴールポスト
光技術を基盤にした次世代通信インフラを、ゼロから研究する
目標は2030年
年間約4,000億円の研究開発費を投じ続ける
そしてNTTは今回、業績予想は据え置いた一方で、別のところを動かしています。
中期財務目標であるEBITDA4兆円の達成時期を、2027年度から2030年度へ3年先送りしました。
これは業績修正よりも重い開示です。
業績予想の修正は「今期どうなるか」の話ですが、目標時期の変更は「この会社をどの時間軸で評価してほしいか」の宣言だからです。
一方で市場は四半期で評価します。
だからNTTは、こう言うしかありません。
「4兆円は達成する。ただし、2030年度に」
時間軸を、市場に対して延ばした。
これが今回のNTT決算で最も重要な内容です。
楽天:取り次ぐ。防衛ドローンという新しい入口
2026年8月、楽天グループがドイツの防衛スタートアップヘルシング(Helsing)と提携したと報じられました。
攻撃型・迎撃用ドローンを陸上自衛隊向けに提案し、日本への導入を支援する
防衛省は導入可否を判断するため、2026年9月末まで陸自で実証実験を実施
用途や調達規模は未定。実験の結果次第では、国内でのライセンス生産・国産化も視野
ヘルシングは2021年設立のミュンヘン拠点企業。ウクライナに数千機の「HX-2」を納入している
日本での実績が乏しいため、防衛省とのつながりがある楽天が仲介役となった
楽天は2026年4月にも、ウクライナのドローンソフト企業Swarmerによる自衛隊向け実証を支援している
注目すべきは、楽天が自分で開発していないという点です。
楽天は既にドローン事業を持っていますが、中心は建物の外壁調査・点検用で、防衛用は扱っていませんでした。
つまりこれは、研究開発ではなく取次ぎです。
そして、これは楽天の一貫した型でもあります。
金融では、楽天銀行の仕組みをJR東日本に貸している
防衛では、ドイツ企業の技術を防衛省につないでいる
自分で作らず、持っている側と必要としている側をつなぐ。
第1章のコアコンピタンスで言えば、楽天の本体は商品ではなく「つなぐ場所」です。
だからこそ、研究開発費が少なくても新しい領域に入れる。一方で、技術そのものは自分のものではないという弱さも同時に抱えます。
なぜ、いま楽天なのか?
制度が先に動いていた
この提携は、突然出てきた話ではありません。制度のほうが、先に動いていました。
順番に並べると、こうなります。
① 2026年3月:無人アセットに予算と期限がついた
防衛省が「防衛力の変革の方向性」として公表した資料に、こう記されています。
令和8年度予算案で1,001億円を計上し、無人アセットの導入を進める
令和9年度中に、無人アセットによる多層的沿岸防衛体制【SHIELD】を構築する
SHIELDは Synchronized, Hybrid, Integrated and Enhanced Littoral Defense の略
目指す姿として世界でもっとも無人アセットを駆使する組織を掲げている
そのためにRapid Innovation Cycle(急速に変化する戦い方に適応できる開発サイクル)を実現すると明記
金額と期限が入った瞬間に、これは構想ではなく調達になります。
② 2026年4月21日:5類型が撤廃された
政府が防衛装備移転三原則の運用指針を改正し、救難・輸送・警戒・監視・掃海の非殺傷5分野に限ってきた「5類型」を撤廃しました。戦闘機や護衛艦を含む完成品も制度上は移転の検討対象に入った形です。ただし移転先は防衛装備品・技術移転協定を結ぶ国に限定され、自衛隊法上の武器には国家安全保障会議(NSC)の個別審査と国会通知・外為法上の輸出許可が必要です。「枠が外れた」のであって「自動的に移転できる」のではない点は重要です。
③ 2026年8月4日:白書が「新しい戦い方」に章を割いた
令和8年版防衛白書では、無人アセット・AI・宇宙・サイバー・電磁波・認知領域を扱う「新しい戦い方」に独立した章が新設され、「防衛生産・技術基盤」も独立した部(第Ⅳ部)へ格上げされました。スタートアップや研究者が、政策の対象として明示されたのがこの部です。
制度が用意したのは「自前で作れなくても参入できる入口」
そして2026年8月3日、防衛省は現行の国家防衛戦略・防衛力整備計画の評価をまとめています。ここに、楽天が入り込んだ隙間がはっきり書かれていました。
日本が保有する無人アセットは、情報収集用途かつ航続距離が短いものが中心
スタンド・オフ・ミサイルと組み合わせて運用する攻撃用UAVの取得には未着手
SHIELDが完成しても、無人アセットの数量は数千機程度にとどまる
有事を見据えた量産体制の構築は初期段階
参考として、米陸軍が今後2〜3年で少なくとも100万機のドローンを購入する見通しであること、ロシア・ウクライナの生産量が年間数百万機規模と指摘されていることが並記されている
数千機と、数百万機。
桁が3つ違うという自己評価を、防衛省自身が公表しているわけです。
しかも同じ資料には、スタートアップ企業等の優れた技術を迅速に導入するための「ファストパス調達制度」を導入したことも成果として記されています。
ここまで並べれば、なぜ楽天が仲介役になれたのかは明らかです。
無人機が「その他装備」ではなく、予算と期限のついた調達の柱に格上げされた
短いサイクルで更新される装備は、開発に10年かける従来型の防衛産業と相性が悪い
国内の量産体制も攻撃用UAVも、まだ揃っていない
だから、すでに実戦で使われている海外の技術を、早く持ってくる回路が要る
そして制度は、その担い手としてスタートアップと新規参入者を明示的に想定した
つまり制度が、「自前で作れなくても参入できる入口」を先に用意した。
第4章で見た通りです。
制度は土俵を作る。その上で誰が動くかは、制度が決まった後に決まる。
楽天が仲介役になれたのは、楽天が防衛技術を持っていたからではなく、制度が仲介役を必要とする形に変わったからです。
そして、3社の投資は同じ一枚の紙につながっている
同じ防衛省の資料で、指揮統制・通信の項目を見ると、こう書かれています。
低消費電力・大容量・低遅延の伝送に向けて、光電融合技術によるオール光ネットワーク(APN:All-Photonics Network)などの技術開発が進んでいる
大量のAI学習用データを蓄積・処理するため、オンプレミス中心から脱却し、民間のクラウドサービスを併用するハイブリッド・クラウドへ移行する
その際、「安全性」と「主権性」を確保する
通信網は低軌道衛星コンステレーションやHAPSを含む多層構成にする
読み替えると、こうなります。
オール光ネットワーク=NTTがIOWNで作っているもの
主権性を確保した国内クラウド=KDDIが堺データセンターで掲げている「ソブリン性」そのもの
HAPS=ソフトバンクが取り組んできた成層圏通信
3社がそれぞれの理由で進めてきた投資が、同じ一枚の政策文書の上で交差している。
前章までの言葉で言えば、これは評価の枠組みが増えたということです。
これまで通信各社の研究開発は「通信事業の設備投資」として見られてきました。そこに、安全保障という別の物差しが加わりつつある。
同じ資産でも、当てる物差しが変われば見え方が変わる。第2章で見たとおりです。
なお、防衛省の評価資料は、防衛産業について低収益・予見可能性の不足・レピュテーションリスクを理由に事業撤退した企業があることにも触れています。
この市場は、入れば必ず儲かる市場ではありません。
安保三文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)は年内に改定される見通しで、無人アセットの導入目標や投資計画はそこで具体化されます。実証実験の結果と三文書改定、この2つが次の分岐点です。
では、なぜNTTは自前でやるのか?
買ったものは、他社も買えるからです。
シャープ堺工場跡地は1つしかありませんが、NVIDIAのサーバーは誰でも買えます。ヘルシングの代理店も、理屈の上では他社が担えます。
第1章のコアコンピタンスに戻ると、買えるものは差別化になりません。
NTTが賭けているのは、そこです。
その賭けが正しいかどうかは、2030年まで分かりません。
8. 逆を行った2社:ソニーGとJR東日本
通信4社が金融を取り込んでいる時期に、逆方向に動いた会社があります。
ソニーグループ(6758)
2025年9月29日、ソニーフィナンシャルグループが東証プライムに再上場
保有株の80%超を現物配当としてソニー株主へ分配(パーシャル・スピンオフ)
ソニーグループは約2割を保持し、持分法適用関連会社に
以後、業績見通しは金融事業を除く継続事業ベースで開示
そして、その継続事業ベースの数字がこれです。
2027年3月期 第1四半期:売上高2兆8,378億円(+8.2%)、営業利益4,765億円(+40.2%)、四半期純利益3,422億円(+32.1%)
通期予想を上方修正:営業利益1兆7,200億円(+18.8%)、純利益1兆2,100億円(+17.4%)
前回、この動きを「一文を自ら作った」と表現しました。
金融を抱えたままでは、ゲームと半導体とコンテンツを説明する一文が書けなかった。だから外に出した。
通信各社は「金融を足すことで顧客基盤を現金化する」道を選び、ソニーGは「金融を引くことで説明を通す」道を選んだ。
同じ金融という事業が、会社によって足し算にも引き算にもなります。
JR東日本(9020)
Suicaを「移動のデバイス」から「生活のデバイス」へ拡張する構想
2026年秋、モバイルSuicaにコード決済と送金機能を追加(チャージは最大30万円まで)
将来的にウォークスルー改札、2028年度に「Suicaアプリ(仮称)」
日本最大級の決済接点を持ちながら、JR東日本は銀行を買っていません。
JRE BANKは、楽天銀行のBaaSを使っています。
第7章③で扱った通り、鉄道は運賃が認可制で、維持費が先に来て、路線をやめられないという縛りを持っています。そこに銀行の自己資本規制まで抱え込む選択を、いまのところしていない。
顧客基盤を持つことと、それを自分で現金化することは、別の話です。
日本郵政は2021年に楽天へ約1,500億円を出資し、2023年4〜6月期に約850億円の減損を計上しました。
顧客基盤同士を組み合わせても、使い方が設計されていなければ現金にはなりません。
その教訓は、まだ生きています。
9. これまでの投資理論を当ててみる
以下の6つの考え方は、投資理論編マガジンに第1章から順に収録しています。
① コアコンピタンス(第1章)
通信そのものは、もう差別化要因ではない
差がつくのは「顧客基盤をどう現金化するか?」の設計
買えるもの(サーバー、跡地、銀行、代理店契約)と、買えないもの(IOWN)を分けて見る
② 評価の枠組み(第2章)
KDDIは今期からセグメント利益の定義を「調整後営業利益」に変更し、前年同期も遡及修正した
楽天は「赤字企業」から「黒字企業」へ枠組みが入れ替わりつつある
通信各社の研究開発は「通信の設備投資」として見られてきたが、安全保障という別の物差しが加わりつつある
同じ実態でも、指標の定義や枠組みが変われば評価は変わる
③ 需給(第3章)
NTTは上限2,000億円の自己株式取得を実施している
業績が横ばいでも、需給を変えれば株価は動く
④ 制度(第4章)
銀行法・金商法の規制が、楽天のフィンテック再編の「形」を決めた
楽天の防衛ドローン参入は制度変更の後に起きている。令和8年度予算案で無人アセットに1,001億円が計上され、令和9年度中のSHIELD構築が示された(2026年3月)→ 5類型撤廃(4月21日)→ 令和8年版防衛白書で「新しい戦い方」に独立章(8月4日)という順番
スタートアップ向けのファストパス調達制度が導入されるなど、制度側が新規参入者を想定した設計に変わっている
制度が、企業の選択肢そのものを規定している
⑤ ガバナンス(第5章)
楽天銀行のストップ安は「誰のための再編か?」への回答だった
親会社の合理性と、子会社少数株主の合理性は一致しない
上場子会社を持つ限り、この問題は必ず表面化する
⑥ 学習(第6章)
「NTT=電話会社」は30年前の理解
「KDDI=au」は10年前の理解
「楽天=ECサイト」は、フィンテックが最大の稼ぎ頭になり、防衛ドローンまで扱う今、すでに古い
理解を更新しないまま持ち続けることが、最大のリスク
10. まとめ:3つのお金の流れは回収の速さが違う
2026年4〜6月期は、NTTが売上+10.9%/営業利益+4.9%、KDDIが売上+5.1%/調整後営業利益+21.1%。売上と利益で順番が入れ替わった
NTTの売上増の大きな部分は銀行の連結によるもの。売上は膨らみ、利益率は薄まる。加えて支払利息の増加で通期純利益は▲5.5%予想
金融の持ち方は4社4様。ドコモは買い、KDDIは持ち、ソフトバンクはPayPayをナスダックに上場させ、楽天はJRE BANKに貸している
楽天の中間利益7年ぶり黒字は、フィンテックの利益1,277億円がモバイルの損失710億円を上回った結果。モバイル単体はまだ赤字
楽天のフィンテック再編(2026年10月1日効力発生)は「年850億円の利益創出」を掲げたが、発表翌日に楽天銀行株は▲15.43%のストップ安。親会社の合理性と少数株主の合理性は一致しない
研究開発費(2026年3月期)はSBG 9,755億円、NTT 3,979億円に対しKDDI 400億円。研究開発を多く行う会社ほど、直近の利益は伸びていない
NTTはEBITDA4兆円の達成時期を2027年度から2030年度へ3年先送り。業績修正ではなく「時間軸の申告し直し」
KDDIの大阪堺データセンターは旧シャープ工場の電力・冷却設備を転用し、土地取得から約10か月で稼働。作ったのではなく転用した
楽天は独ヘルシングと提携し、防衛ドローンの取次ぎという新領域へ。自分で開発せず、持っている側と必要としている側をつなぐ型
その背景には制度変更がある。令和8年度予算案で無人アセットに1,001億円が計上され、令和9年度中に多層的沿岸防衛体制「SHIELD」を構築する方針(2026年3月)、5類型の撤廃(4月21日)、令和8年版防衛白書での「新しい戦い方」独立章と防衛生産・技術基盤の部への格上げ(8月4日)。制度が「自前で作れなくても参入できる入口」を先に用意した
防衛省自身の評価では、日本の無人アセットは情報収集用途が中心で攻撃用UAVは未着手、SHIELDが完成しても数千機規模。米陸軍の100万機規模の調達見通しとは桁が違うという自己認識が公表されている
そして防衛省の資料には、オール光ネットワーク(APN)、主権性を確保したハイブリッド・クラウド、HAPSが並んでいる。NTTのIOWN、KDDIの堺データセンター、ソフトバンクの成層圏通信が、同じ一枚の政策文書の上で交差している
ソニーGは金融を外し、継続事業ベースで第1四半期に営業利益+40.2%、通期を上方修正。金融は足し算にも引き算にもなる
企業価値の再定義として
これまで、こう積み上げてきました。
第7章①:企業価値とは、その会社が止まったときに社会がどれだけ困るかの大きさ
第7章③:不可欠であることと、儲かることは別の話
第7章④:資産を持っていることと、資産から利益を引き出せることは別の話
第7章⑤:事業の数ではなく、それらを束ねる論理があるかどうかで評価は決まる
今回、もう一段足します。
「企業価値とは、回収の時間軸が異なる事業の集合体であり、株価はそのうち市場が見ようと決めた時間軸だけを反映している。」
通信は毎月回収する。金融は残高が積み上がるほど数年かけて回収が加速する。研究開発の回収は10年単位で起きる。
そして損益計算書は、この3つを同じ1つの数字に押し込めます。
だから、こうなります。
研究開発を減らせば、来期の利益は増える
研究開発を続ければ、来期の利益は減る
どちらが正しいかは、10年後にしか分からない
KDDIの+21.1%とNTTの+4.9%は、優劣ではなく時間軸の差です。
NTTがEBITDA目標を3年先送りしたのは、下方修正ではありません。「この会社を、どの時間軸で見てほしいか」を市場に申告し直した行為です。
それを受け入れるかどうかを決めるのは、市場のほうです。
11. チェックすべきポイント
セグメント利益の定義が変わっていないか?(変わっていれば、増減率はそのまま比較できない)
売上の伸びと利益の伸びが乖離していないか?(乖離しているなら、連結範囲の変更を疑う)
研究開発費の売上比率:同業他社と何倍違うか? その差は時間軸の差として説明できるか?
金融事業を「自前で持つ/買う/上場させる/借りる」のどれで抱えているか?
上場子会社があるか?(あるなら、親会社の資本政策が少数株主とぶつかる場面が必ず来る)
NTT:EBITDA4兆円が2030年度に近づいていく進捗が示されるか? 支払利息の増加が最終利益をどこまで削るか?
KDDI:堺データセンターのGPU稼働率と収益化。調整後営業利益の伸びが通期でも維持されるか?
楽天:モバイル単体が黒字化するか? 10月1日のフィンテック再編後、楽天銀行の株価がどう評価されるか? 防衛ドローンの実証実験(9月末まで)の結果は? 2027年に控える社債償還への対応
制度の次の分岐点:年内に改定される安保三文書で、無人アセットの導入目標(現状は数千機規模)と投資計画がどこまで具体化されるか。数字が出た瞬間に、関連企業の「見られ方」が変わる
ただし防衛は必ず儲かる市場ではない:防衛省の評価資料でも、低収益・予見可能性の不足・レピュテーションリスクを理由に事業撤退した企業があると指摘されている
ソフトバンク:PayPayの上場後の株価と、クラウド・AI領域(2025年度2,558億円から年平均30%成長の見通し)の進捗
次回に向けて
今回、金融というお金の流れを「通信会社の一部」として見てきました。
でも、このお金の流れはそれ自体が巨大な構造を持っています。
銀行が預金を集め
証券が資産を運用に回し
決済が日々の取引を処理し
その全体を「信用」という見えない仕組みが支えている
そして今回見た通り、このお金の流れはいま通信・鉄道・小売から同時に侵食されています。
ドコモが銀行を買い、KDDIが銀行を持ち、PayPayがナスダックに上場し、楽天銀行がJRの銀行にシステムを貸している。
では、もともとそこにいた銀行・証券・カード会社は、どうなっているのか?
金利が上がり、預金の価値が変わり、決済の主導権が移動している今、金融インフラそのものの構造はどう組み替わっているのか?
銀行 × 証券 × 決済 × 信用
次回はそこを扱います。
前回の記事
コングロマリットの評価を扱っています。多角化そのものが罰せられているのではなく、説明できない多角化が罰せられている。境目を3つの条件から整理しました。
この章の他の回
食品、半導体、鉄道、IP、コングロマリット、通信、金融、物流、小売。業界ごとに「見える顔」と「稼ぐ顔」を分解しています。
参考
日本電信電話(NTT)「2026年度 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」「決算説明会」(2026年8月)
日本電信電話(NTT)「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年5月8日)
KDDI「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」「決算説明会プレゼンテーション資料」(2026年8月7日)
ソフトバンク「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」「2027年3月期 第1四半期 決算説明会 要旨」(2026年8月4日)
ソフトバンクグループ「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年8月6日)
楽天グループ「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔IFRS〕(連結)」「決算説明会資料」(2026年8月10日)
楽天グループ・楽天銀行「楽天銀行株式会社の株式交付による楽天カード株式会社、楽天証券ホールディングス株式会社の子会社化等に関する最終合意について」「フィンテック事業再編に関する補足説明資料」(2026年5月20日)
ソニーグループ「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕」「2026年度 第1四半期 連結業績概要」(2026年7月31日)
NTTドコモ「住信SBIネット銀行およびマネックス証券と業務提携契約を締結」(2025年12月19日)
ドコモSMTBネット銀行(旧・住信SBIネット銀行)社名変更およびdアカウント連携に関する各リリース(2026年8月)
KDDI「大阪堺データセンター1月稼働開始」(2025年10月28日)、「大阪堺データセンターを1月22日から稼働開始」(2026年1月22日)
JR東日本「Suica Renaissance」第2弾(2025年11月11日)、Suicaの中長期構想に関するリリース(2024年12月10日)、事業紹介ページ
研究ネット(WDB)「情報・通信業業界の研究開発費ランキング」2026年6月更新(各社有価証券報告書・EDINETベース)
日本経済新聞「PayPayが米上場 時価総額1.9兆円も、ライバルの背中は遠く」(2026年3月13日)
日本経済新聞「楽天が攻撃型ドローン、陸自配備と国産化を推進 独巨大新興と提携」(2026年8月17日)、時事通信「楽天、独ドローン新興と提携 攻撃型、防衛省納入に向け」(2026年8月17日)
防衛省「令和8年版 防衛白書」(2026年8月4日公表)。第Ⅰ部「新しい戦い方をめぐる動向」、第Ⅳ部「防衛生産・技術基盤に関する取組」
防衛省「防衛力の変革の方向性②/同志国との連携」(令和8年3月)※無人アセット防衛能力・SHIELD、指揮統制・通信(APN、ハイブリッド・クラウド、HAPS) https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/henkaku/pdf/20260319b.pdf
防衛省「現行の国家防衛戦略・防衛力整備計画の評価(課題と今後の方向性)」(令和8年8月3日) https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/henkaku/pdf/20260803c.pdf
政府「防衛装備移転三原則の運用指針」改正(2026年4月21日、いわゆる5類型の撤廃)
ITmedia ビジネスオンライン「楽天銀行『ストップ安』 フィンテック事業の再編に“冷ややかな目”、なぜ?」(2026年5月22日)
日経クロステック「KDDIが大阪堺DCの稼働を開始 松田社長は『AI基盤と通信基盤の両輪』を強調」(2026年1月23日)
ケータイ Watch「楽天モバイルの第2四半期決算は増収+損失改善」「楽天グループ第2四半期決算、基地局建設は『年内計画分リソース確保済み』と三木谷氏」(2026年8月10日)
ダイヤモンド・オンライン、日本経済新聞 各記事(日本郵政の楽天グループ株減損、2023年6〜7月)