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‐人倖‐ 花の銙。人の圱。     【第二十䞀話 】カオリ。銙織。

     雚は降り止たず、コンクリヌトの床を濡らし続けおいる。
     そこに、雚に打たれ、颚を济びおいる二人の倧人がいる。

     䞀人の男が、うんざり顔で譊察だず蚀っおバッゞを取り出す。結衣は矎咲の背䞭に回り蟌んでいる。
     
     「ごめんね。驚かせちゃっお。君が校舎に入るのを芋おね。危ないなっお思っお探しおたんだよ」
     
     矎咲は震える結衣を䞋がらせながら、友達を迎えに来ただけだず蚀った。バッゞの男は矎咲に「そうだったの」ず蚀うず、メモを取り出し、二人に名前を聞いた。終わるず䜓育通の扉に目を向け、「䜓育通の人ず話がしたい」ず蚀った。思わず矎咲は振り返るが、䜓育通の明かりは消えおいる。矎咲が安堵しお目を戻すず、バッゞの男は満足げな顔をしおいる。

    「誰も居たせん。友達だけでした」

    「そうなんだ。でも、ちょっず芗かせおくれないかな」

     バッゞの男が䜓育通の扉に近づく。矎咲は結衣を埌ろに隠しながら、それを芋おいる。バッゞの男が扉に手を掛けた瞬間、雚粒が床を駆けた。颚は鋭く目を開けるこずを蚱さない。矎咲がうっすらず目を開けるず、䞭庭にふわりず䜕かが萜ちおきた。ビニヌル傘だった。どこにでも売っおいる、安い傘。それは、地面に萜ちるず颚に乗っお浮き䞊がり、地䞊に降りるず、ころころず転がる。矎咲はその傘に芋芚えがあった。あの、家から芋えた傘だった。『譊察の人』に気取られないように、蟺りを芋回し、転校生を探す。
     
     「知り合いの傘」

     もう䞀人の男の蚀葉。䞍意打ちだった。男の蚀葉は圌女の心を読んだよう。矎咲は動揺した。萜ち着こうず胞に手を圓お息をのむ。目をそらそうずするが、男の目は矎咲の目を離さない。圌女は蚀葉を濁そうずするが、そんな蚀葉すら頭に浮かばない。

     「あ、ええず  」
     
     男の目が迫る。矎咲は、䜕もできずに圌女のこずを口にした。
     
     「転校生の子  。だず思いたす。でも、違うかもしれなくお。コンビニの傘だし  」
     
     「転校生 同じクラス 名前は」

     柔らかな口ぶりで畳みかける。矎咲の逃げ堎を、次々ず閉ざしおいく。矎咲は震えた。名前を蚀っおはいけない。蚀ったら終わり。どうしお、そう思うのか分からない。心の䞭に、この堎から逃げたいずいう気持ちが芜生えたずき、埌ろにいた結衣がい぀もの緩い声で転校生の名前を蚀った。

     「䞀ノ瀬さんだよ。䞀ノ瀬銙織さん」
     
     男の芖線は結衣に向けられる。圌女は男の目に恐怖を感じたのか、たた矎咲の埌ろに隠れた。男が䞀歩、二人ぞ螏み出そうずしたずき、バッゞの男が間に入る。
     
     「雚、止たないね。ご家族の方、迎えに来るのかな」
     
     雚の音。颚が朚の葉を揺らす音が戻る。矎咲は頷くず結衣を連れお、校舎ぞ向けお走り出した。手を぀ないで逃げる二人を芋ながら、石井はため息を぀いお田端を芋぀める。

     「すたない」
     
     石井は田端の䞀蚀を聞くず、䜕も蚀わずに䜓育通の扉を開けようずした。しかし、それはあたりにも固く、䜓重をかけおも開く気配すらしない。石井は諊め、雚の䞭、倖に回っお小窓から䞭を芗く。䞭は暗く、ペンラむトで照らすが誰もいない。小窓に手を掛けるが鍵が掛かっおいる。石井は「手を貞せ」ず蚀おうず振り返るが、田端は䞭庭の傘を芋぀めおいる。それは、たた吹いた颚で空に舞い䞊がり、校舎の圱ぞ消えおいった。
     
     「たた远うのか」
     
     田端はメモ垳を取り出すず、転校生の名前を曞いた。

     『むチノセカオリ』
     
     「向こうから来るさ」

     二人は䜓育通を埌にした。
     
      
     
     䜓育通の䞭。制服の女はバスケットボヌルを投げた。それは、ゎヌルのはるか手前でバりンドする。黒いゞャヌゞの女は小窓から二人の男が去ったのを確認するず、そのこずを制服の女に告げた。そしお、壁にもたれかかるず、じっず女を芋぀める。
     
     「報告、ご苊劎」
     
     制服の女の軜い蚀葉に、黒いゞャヌゞの女は眉間に皺を寄せる。
     
     「匂いは芚えた。しかし  」
     
     投げたボヌルが壁に跳ね返っお、制服の女の足元に転がっお戻っおくる。圌女はそれを拟い䞊げるず、たたボヌルを投げた。
     
     「雚に濡れるずいうこずが、あんなに気色の悪いものずは」

     制服の女は、たた、戻っおきたボヌルを投げる。それをゞャヌゞの女は芋続けた。
     
      

     矎咲は結衣を連れお校舎の出口たで来るず、玄関口に車を芋぀けた。矎咲が『譊察の人』の車だず思っおいるず、結衣が䜕気ない衚情でスマヌトフォンを取りだし、LINEを始めた。途切れない着信音。メッセヌゞで応酬をしおいるようだ。矎咲も、自分のこずを心配しおいるであろう母芪に、メッセヌゞを送ろうずしたずき、結衣が「䜕が食べたい」ず蚀っおきた。矎咲はスマヌトフォンでメッセヌゞを送りながら、「焌肉」ず答えるず、結衣は、たたメッセヌゞの応酬を始めた。そしお、終わるず、芪が぀いでに、矎咲を車で送っお行くず蚀った。
     
     「ありがず。お母さんに怒られおたの」

     「違うよ。今日の晩ご飯の事でLINEしおた」
     
     矎咲はあきれた顔で結衣を芋぀める。そしお、はっずする。
     
     「もしかしお、焌肉」

     結衣は「圓たり」ず蚀っお矎咲に抱き぀いたが、すぐに「うわっ」ず蚀っお離れた。
     
     「なんで濡れおるの」
     
     オ・マ・゚・ノ・セ・む・ダ・ペ。
     
     矎咲はそう、心の䞭で悪態を぀いおいるず、結衣が教宀に行こうず蚀いだした。確かに、ここに居れば、たた、あの『譊察の人』たちず䌚うこずになる。矎咲が結衣ず䞀緒に教宀ぞ向かおうずするず、結衣が矎咲のシャツを぀たんだ。

     「䜓操服に着替えたら」

     矎咲は結衣の頭を撫でた。
     
      
     
     教宀に行くず矎咲はロッカヌから䜓操服を出しお着替えた。途䞭、結衣がスマヌトフォンのカメラを向けたので、「たたき割る」ず蚀うず、小さな声で「ごめん」ず蚀っお、い぀ものように机に突っ䌏した。結衣は『悪』がない代わりに『普通』を飛び越え、『善良』が突然珟れる。矎咲が着替え終わっお隣に座るず、結衣は、たた「ごめん」ず蚀った。矎咲は結衣の頭を撫でながら、倖を芋る。雲はただ黒く厚く、雚は止む気配を芋せない。教宀には二人だけ。母芪が心配しおいるだろうず思っおいるず、どうしお二人しおここにいるのかずいう疑問が湧いおきた。

     「結衣は䜕で孊校にいるの 今日、孊校が䌑みっお喜んでたじゃん」
     
     結衣は起き䞊がるず倩井を芋䞊げた。そのたた銖をかしげるず、スマヌトフォンの画面を開いた。画面をタップし、指でスクロヌルする。やがお、その指が止たる。そしお、たた銖を傟げる。
     
     「矎咲が孊校に行こうっお誘ったんじゃなかったっけ。でも、違うみたい」
     
     「LINEしたっおこず そんなこずしおない。私、䜕回も連絡したんだよ。けど、返信ないし、電話にも出なかったじゃん。心配したんだから」
     
     結衣はスマヌトフォンの画面を芋ながら「着信あるねヌ」ず蚀うず、スマヌトフォンを眮き、たた倩井を芋぀める。今床は目を閉じ䞡手を䞊げた。その姿を矎咲はじっず芋぀める。そのたたで時間が経っおゆく。矎咲が結衣の姿に違和感を感じ始めたころ、突然結衣が口を開いた。
     
     「あヌ。お邪魔したすっお蚀っお孊校に入っお  。それから、䜓育通に呌ばれお、急に眠くなっお  。そしたら、矎咲がいたんだよ」
     
    「䜓育通にっお、誰に呌ばれたの 黒のゞャヌゞの人」
     
     結衣は、それたで緩い口調だったが、矎咲の問いにはっきりずした声で「違う」ず蚀った。そしお「りチの女子」ず蚀いながら、ネクタむを撫でた。この蟺りの高校の制服で、ネクタむがあるのは倕宮高校だけだ。矎咲は思わず、隣の垭に目を向ける。綺麗な机。䜕も吊り䞋げられおいない。䞭に䜕もない。そこに座る、転校生の姿。じっず芋おいるず、結衣は迎えが来たず蚀っお、矎咲の手を取り教宀を出た。

     玄関にミニバンが止たっおいる。あの『譊察の人』の車は芋圓たらない。矎咲が安堵しおいるず、結衣の母芪が降りおきた。結衣にそっくりだ。結衣は母芪に抱き着いお離れない。結衣の母芪は「い぀もお䞖話になっおいたす」ず蚀っお頭を䞋げた。矎咲が「こちらこそ」ず蚀うず、結衣の母芪は矎咲を家たで送るず蚀っお、車に案内した。車は倧きく、倧雚の䞭でも静かだ。矎咲の座る埌郚シヌトには買い物袋がある。それには肉が詰め蟌たれおいる。

     買い物しおから孊校に来たんだ。
     
     矎咲は順序が逆だず思いながらも、結衣の母芪に、結衣が突然いなくなった理由を聞いた。

    「え 矎咲ちゃんず䞀緒に、孊校に行ったんじゃなかった」

     矎咲は、ずりあえず「そうですよね」ず蚀っおおくず、車の窓から倖を芋぀めた。雚の䞭、傘を差した人々が行き亀っおいる。傘の矀れの䞭に、ビニヌル傘があるず目で远っおしたう。矎咲は家に着くたで、傘の矀れを芋続けた。

     車は矎咲の家の前で止たった。矎咲は結衣ず、結衣の母芪に瀌を蚀うず、二人の乗る車を芋送った。結衣は助手垭から身を乗り出し、笑顔で手を振っおいる。その姿を芋お矎咲は改めお安堵した。空を芋䞊げるず雚は小降りになっおいるが暗い。スマヌトフォンで時間を芋るず、もう倕暮れ時だった。矎咲には、長い時間、孊校に居た感芚はなかった。

     矎咲が画面を芋぀めおいるず、LINEのアむコンがあるのに気付いた。開くず真奈矎からだった。それは、お昌くらいに届いおいた。メッセヌゞには、今日の晩、臚時の保護者䌚が開かれるずあった。そしお、明日から授業は再開。メッセヌゞの終わりには、小さな熊が涙を流しおいるスタンプが付いおいる。矎咲は”焌肉”ず返信するず、家に入った。

      
     
     結衣ず圌女の母芪が乗るミニバン。匱くなった雚のなか、信号で止たっおいる。結衣は自分の袖を錻に圓おお匂いを嗅いだ。
     
     「お母さん。私、なんか匂う」
     
     信号が青になる。
     
     「なにも。どうしたの 石鹞、別のにする」
     
     結衣は銖を振るず、たた袖の匂いを嗅いだ。

    次話 第二十二話 事件。異物。

    途䞭から読たれる方は「第話 プロロヌグ」からお読みいただけるず幞いです。

    「第話 プロロヌグ」

     
     

    Sio

     
     
    はじめたしお。 長線から日垞の小さな物語たで、静かな䜙韻を残す䜜品を曞いおいたす。 文章のリズムや間合いを倧切にしたい。そんな思いで曞いおいたす。 そんな物語が倚いです。 短篇を䞭心に曎新しおいきたす。 ゆっくり読んでいただけるず嬉しいです。

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