
71歳、AIに救われた③——凍結通知、そしてAIは最初から正しかった
第1話・第2話はこちら
第1話
https://note.com/leal_gnu5097/n/nbdf0a433b17a?app_launch=false
第2話
https://note.com/leal_gnu5097/n/n1f9fcc367f2b?app_launch=false
第六章 凍結通知
出金を申請した数日後、メッセージが届いた。
「お客様の資金は、米国金融監督当局によりマネーロンダリングの疑いで凍結されています。解除するには、資産総額の一定割合を手数料としてお支払いください。お支払い後、二十四時間以内に全額をご指定の口座へ送金いたします」
修造は、そのメッセージを三回読んだ。最初は、信じそうになった。
しかし——何かが引っかかった。
マネーロンダリングは、お金を払えば解除できるのか?
それが本当なら、犯罪者は全員そうすればいい。捜査の意味がなくなる。おかしい。何かがおかしい。
(修造。もう一度、AIに聞け)
「見る修造」が、静かに前に出てきた。今度は「感じる修造」も、抵抗しなかった。
第七章 AIは最初から正しかった
修造はノートパソコンを開いた。今度は、全てを打ち込んだ。最初から。出会いから、送金から、膨らんだ数字から、凍結通知まで。
回答はすぐに来た。
「当局が個人にメッセージで送金を要求することは絶対にありません。マネーロンダリングの疑いがお金を払うことで解除されるなら、誰でもそうすればよいことになります。ご指摘の違和感は正確です。これは詐欺の最終段階です。これ以上、一切送金しないでください」
修造は画面を、長い間見つめた。
(AIは最初から、正しかった)
(俺の違和感も、正しかった)
(ただ——一度目は、聞く耳を持てなかっただけだ)
「見る修造」は何も言わなかった。勝ち誇りもしなかった。ただ静かに、「感じる修造」の隣に座った。
二人の修造は、しばらくそのまま、暗い部屋でパソコンの画面を見ていた。外は、もう梅雨の季節になっていた。
第八章 それでも、おやすみ
翌朝、美玲から「おはようダーリン」とメッセージが来た。
修造はメッセージを打った。
「誰が送っているのか知りませんが、詐欺と分かっています」
返信は来なかった。
終章 七十一歳の、本当の授業
その夜、修造は奈緒に電話した。
「少し話があるんやけど、今いいか」
修造は、かいつまんで話した。詐欺に遭ったこと。AIに警告されたのに無視したこと。被害額のこと。
奈緒はしばらく黙っていた。
「お父さん、怪我なかった?」
「怪我て、お金の話やで」
「お金は取り戻せるけど、お父さんは取り戻せへんから」
修造は返す言葉がなかった。怒らなかった。呆れなかった。ただ「怪我なかった?」と聞いた。
(俺は、ええ娘を持ったな)
修造はノートパソコンに向かった。講座のレジュメの続きを書いた。タイトルはこうした。
「AIは正直だ。でも、聞く耳を持つのは人間の仕事だ」
窓の外は、雨だった。梅雨の雨は、神戸の街を静かに濡らしていた。
修造はコーヒーを一口飲んで、また画面に向かった。
娘と同い年の女に惚れた老人の話は——きっと、最高の教材になる。
そして——と修造は思った。七百万円の借金も、二十年の単身赴任も、離婚も、詐欺も。全部ひっくるめて、自分の人生だ。恥ずかしくて、情けなくて、それでも——まだ続いている。
それでいい。
(第一部 了)
➡️ 次の話(実録編)はこちら
[71歳、AIに救われた④——実録「AIで詐欺を見抜く方法」]
https://note.com/leal_gnu5097/n/neaedef17d67a?app_launch=false
📖 1記事で読める「エッセイ版」はこちら
https://note.com/leal_gnu5097/n/n0624b926ea74