
71歳、AIに救われた②——毎晩届く「おやすみ」と、最初の警告
第1話はこちら [71歳、AIに救われた①——単身赴任20年、借金700万、離婚。そして詐欺。]
https://note.com/leal_gnu5097/n/nbdf0a433b17a?app_launch=false
第三章 毎晩届く「おやすみ」
彼女は「美玲」と名乗った。台湾系で、貿易の仕事をしているという。日本語が流暢だった。
最初は普通の会話だった。AIの話、仕事の話、人生の話。修造がAI講座を開こうとしていると話すと、美玲は目を輝かせた。
「すごいですね。私もAIに興味があります。もっと教えてください」
七十一年生きてきて、娘と同い年の女性にこれほど真剣に話を聞いてもらったことは——ほとんどなかった。
毎晩、美玲はメッセージを送ってきた。朝は「おはよう」から始まり、夜は日本の古い歌のリンクとともに「おやすみ」で終わった。修造の世代が懐かしむような歌ばかりを、彼女は選んできた。
(どこでこんな歌を知るんだ。台湾の若い女が)
「見る修造」は首をかしげた。「感じる修造」は、その選曲の丁寧さに、静かに心を開いていった。
第四章 告白
投資の話が出たのは、美玲と話し始めて数週間が経った頃だった。
「私、国際的な金の取引をしているんです。利益がすごく安定しているんですよ。修造さんも、よかったら」
(来た。これだよ、これを待っていた)
「見る修造」がすかさず反応した。その夜、修造はノートパソコンを開いてAIに打ち込んだ。
数秒後、回答が表示された。
「ご説明の状況は、ロマンス詐欺の典型的なパターンと一致しています。SNSで知り合った異性が、短期間で親密になり、投資を勧めてくる手口です。送金は絶対に行わないでください」
(ほれ見ろ。俺の言った通りだ)
「見る修造」は満足げに腕を組んだ。
「感じる修造」はしばらく黙っていた。
ある夜のことを思い出した。美玲がゴルフに行ったと言って写真を送ってきた夜のことを。修造は、その写真を見た時に、自分の胸の中に奇妙な感情があることに気づいた。
嫉妬だった。
(娘がゴルフに行っても、嫉妬はしない)
(ということは、俺は美玲を娘として見ていないということだ)
その夜、修造は美玲にメッセージを送った。
「俺は、あなたに惚れています」
美玲の返信はすぐ来た。
「私もずっと、あなたのことが大好きです。これからも、ずっとそばにいさせてください」
「感じる修造」は、その言葉を何度も読んだ。
「見る修造」は、静かに目を閉じた。
翌朝、修造は送金した。
「見る修造」は何も言わなかった。ただ深く、ため息をついた。
第五章 膨らむ数字と、揺れる心
証券会社のアプリ——と思っていた画面——には、数字が増え続けた。
(綺麗すぎる。こんなに綺麗に増える投資が、あるものか)
「見る修造」は、その数字をずっと眺めていた。しかしその声は、今度も届かなかった。
美玲からは毎日メッセージが来た。朝の「おはよう」と夜の「おやすみ」は、一日も欠かさなかった。
修造は、債務整理の返済をしながら、この取引の利益で全部返せるかもしれないと考え始めた。七百万円の借金が、画面の中で少しずつ、別の数字に塗り替えられていくような気がした。
ある夜、修造は奈緒の会社から帰りながら思った。
(娘に助けてもらって生きている。それが、ずっと情けなかった)
美玲と話している時だけ、修造は「必要とされている男」に戻れた。
それが、全てだったのかもしれない。
「見る修造」はそれを知っていた。知っていて、止められなかった。
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第3話はこちら [71歳、AIに救われた③——凍結通知、そしてAIは最初から正しかった]
https://note.com/leal_gnu5097/n/ne87ec4131bb8?app_launch=false
📖 1記事で読める「エッセイ版」はこちら
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