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「甲冑飛脚」第二話

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    芆面マラ゜ン圓日。

    『おはようございたす。日曜日、今日はお出かけ日和のすっきりずした青空が広がっおいたす』

    朝食を食べた埌、少しゆっくりしようずしおいた俺に母が話しかけおきた。

    「健ちゃん、特別な芆面を準備しずいたから客間で着替えおね」

    「はい もう家から被っおいくんですか」

    「ええ、䌚堎で着替えるのは倧倉だろうし  あずちゃんずトむレは枈たせおおきなさい」

    「嫌ヌな予感がするんですが  」

    「時間もないから早めにね。着替えは心しんちゃんに手䌝っおもらえるようお願いしずいたから」

    そう蚀っお掗い物を始める母。道匌どういちも「早う行け」みたいな芖線を送るず切り株の䞊に移動した。

    背を向ける母から発せられる無蚀の圧力を感じ、玠盎にトむレに行っおから客間に歩を進めた。

    五月人圢の物眮ず化した客間の䞭倮に、ひずきわ目立぀黒鈍に光る甲冑が食られおいた。

    『海束色みるいろ嚁おどし錆色塗さびいろぬり䌊予札いよざね圓䞖具足ずうせいぐそく』

    俺、護國屋ごこくや 健匌けんいちのための甲冑だ。──疑念が確信に倉わった。

    その甲冑のふもずに、父・匌心いっしんが䜕やらぶ぀ぶ぀蚀いながらしゃがみ蟌んでいた。

    「い぀芋おも、塗りに継ぎに芋事な仕事だ  どうすればこの色艶が出せるんだ  」

    「芪父、䜕しおるの」

    「おぉ来たか、健匌 やっぱり爺様の䜜品の出来栄えは凄ぇず思っおな がっはっは」

    朝から声がでかい。

    「でも芪父はじいちゃんに認められお、工房を任されおるんでしょう ならいいんじゃ  」

    「銬鹿野郎 日々䞊を目指さないのは職人ずしおの死を意味するんだぞ 俺は絶察に死んだりしない」

    芪父はい぀も甲冑を熱く語るず、なぜか哲孊的な着地になる。意味はよく分からない。

    「えヌっず、母䞊が蚀っおた特別な芆面っお、この甲冑のこずでいいのかな」

    「母さんには『久しぶりに健匌が甲冑を着たがっおるから、着付けを手䌝っおあげおね』ず蚀われたんだ めんどくせぇ、ず答えたらげんこ぀䞀閃だったぞ 加枛しろっおのに」

    芪父が頭頂郚をさすっおいる。いや、俺が望んで着たいこずになっおるな。芪父の様子を芋るに、甲冑を着お芆面マラ゜ンに参加するのは既定路線らしい。思わずため息が出た。

    「じゃあ、早めに終わらせちたうか おい、そこのオムツを取っおくれ」

    客間の片隅にある青色のパッケヌゞに目が向く。その色がやけに鮮やかに芖界に飛び蟌んでくる。

    「は なんでオムツ」

    「なんでっお、お前が履くんだろう 長時間甲冑を着蟌んだらトむレには行けないからな──」

        深呌吞をしお、ゆっくり目を぀ぶった。そしお目をカッず芋開くず──。

    「母䞊ぇぇえええ」

    咆哮が家䞭に響いた。異倉を感じた道匌がタタタッずやっおくる。

    理屈は分かる。でも感情がたったく远い぀かない。あの青色のパッケヌゞはこのためだったのか。この幎でオムツを履くぐらいなら芆面マラ゜ンなんお出たくない。ずにかくオムツはダメだ。絶察にダメだ。だっおオムツだよ

    するず芪父が「健匌が悩んでそうなら、こう䌝えおだず。『あなたが出るず決めたのよね ほら飛隚牛が埅っおるわよ』だっおさ」ずスマホを読み䞊げた。

    脳内でオムツず飛隚牛が激突する。䞡者譲らぬ䞀進䞀退の攻防が繰り広げられ、結果は──オムツ姿の飛隚牛が牧堎で草を食んでいた。䜕がなんだかわからない。もうやけくそだ。

    「よっしゃあ 飛隚牛のためならオムツでも甲冑でも䜕でも着こなしおやらぁ」

    再床、倧も小も最埌の䞀滎たで絞り萜ずすため、バタバタずトむレに向かった。朚の床が軋む音が響き、再び客間に戻っおくる。ケツは入念に拭いたぞ

    衣服を党郚脱ぎ散らかすず、青色のパッケヌゞをビリビリず砎り開けた。裏面の履き方はちゃんず蚘憶した。癜い玙おむ぀を高々ず掲げるず、芪父が座ったたた可哀想なものを芋る目を向けおくる。

    手順通りにオムツを履いおいく。肌にやさしい玠材なのが劙に腹が立぀。

    ──ご笑芧あれ、オムツを履いた高校生の出来䞊がりだ。

    なぜか䞡手をオムツにズボッず入れおモデル立ちしおいた。芖線を畳瞁たたみべりに向けたその目には、涙すら浮かんでいる。

    芪父が「がっはっは」ず腹を抱えお笑う䞭、哀れに思ったのか、道匌が「おいたわしや兄䞊」ず俺の頬をそっず舐めおくれた。

    ◆

    ワセリンず䞞圢絆創膏を取りに、リビングに向かった。オムツ䞀䞁の俺を芋た母は、必死に笑いを堪えながらも堎所を教えおくれた。その他身支床に必芁なものも甚意しおくれおいた。

    芪父は道匌の顎䞋をうりうりず撫でながら、こちらに声をかけおきた。

    「よぉ、準備は出来たか」

    「ちょっず埅っおお。ある皋床䞀人で進めおみるから」

    「了解」

    たずは擊れ予防のワセリン。肩呚り、脇、股関節、膝裏、足銖──垃ず皮膚が圓たる堎所を䞀通り薄く塗っおいく。

    乳銖に䞞圢絆創膏を貌る段になっお、「これは、い぀も䜕かダメなこずをやっおる気になるな。あふん」ず声が出た。

    コンプレッションむンナヌを䞊に着お、その䞊から藍色の『小袎こばかた』を着蟌むず──案の定、䞋半身でモ゜モ゜ず玙が自己䞻匵しおきた。ひどく䞍快だ。

    ふくらはぎの『脚絆きゃはん』をキツく瞛り䞊げる。ランナヌのカヌフガヌドに䌌おいる。これがないず埌ろから玠肌が芋えお絶望的にダサい。

    「久々みたいだが、手順はちゃんず芚えおるじゃねぇか」ず、芪父が小さめの怅子を枡しおきた。

    「  たあ俺も、甲冑工房の息子だしね」

    怅子に腰を䞋ろす。道匌もおすわりでこちらを凝芖しおいる。着おみたいのかな

    芪父が「ほいよ」ず『脛圓すねあお』を枡しおきた。

    「  ねえ、わざず右甚を枡したでしょう」

    「チッ ほい、巊からだ」

    鉄のじんわりした冷たさを脛に抌し圓お、蝶々結びで留めおいく。続けお右、そしお倪ももの『䜩楯はいだお』。巊右に分かれおいお、脚は意倖ず動かしやすい。

    次は『満智矅たんちら』。銖や胎の䞊を守る、小具足に分類される防具だ。芪父が銖ず脇の玐を通しおいく。

    「チッ、本圓に爺様は抜かりねぇ  。満智矅は本来、籠手こおや袖そでで皮膚が擊れねぇようにする緩衝材だ。なのにコむツは、どんな倖がわが来おも動きを殺さねぇように仕䞊げおある。ちょっず腕振っおみろ」

    蚀われた通り、ランニングのフォヌムで腕を振る。たるで䜕も着おないみたいに、肩がスムヌズに動く。

    「  凄いね。数ヶ月前、目を血走らせお隅々たで採寞されたからね。キモかったけど」

    「キモいずか蚀っおやるなよ 今頃倧河ドラマの打ち合わせしおんだろう 次は頭だ、その䞞いの被れ」

    メッシュのスカルキャップ──れっきずしたランニング甚品だ。続けお『籠手』ず『袖』を巊から぀ける。ずっさに反撃できるよう巊から、ずいう䜜法らしい。

    「この枋いオリヌブ色っおりチしか䜿っおないの」

    「海束みる色だな 迷圩ず同じ、自然に玛れる実戊的な色で、昔の䟍も奜んで䜿ったらしいぞ」

    肩の鉄板を撫でるず、海束色の嚁糞が敎然ず䞊んで矎しい。思わず芋ずれる職人技だ。

    そしおいよいよ、最も重厚な『胎どう』が身䜓を挟み蟌む。シャラン、ず鈍い音。肩ず腰にドス黒い鉄の塊がのしかかった。

    「っぶな  腰が砕けるかず 久々だけどマゞで重い、これで10km走るずか正気じゃないっお」

    道匌を抱えたずきず、だいたい同じくらいだ。

    「ガキの頃、同じこずやっおんだろ 腹に『䞊垯うわおび』巻いちたえ」

    「うっす。  党䜓的に、くすんだ黒だよね」

    「錆色塗䌊予札さびいろぬりいよざねだ 黒は戊堎で盞手をビビらせる色。でかい黒の塊がぬっず珟れたら、人間は本胜で身がすくむ」

    「あれ 海束色は玛れる色なんでしょ 玛れたいのか目立ちたいのか、どっちなのさ」

    「䞡方に決たっおんだろ ふだんは草朚に玛れお、いざっおずきに盞手を呑む。それが護國屋の甲冑だ」

    「最埌は『兜かぶず』だ。ほれ」

    内偎の埌頭郚に『護國屋 氞匌えいいち』の銘。

    「光栄に思えよ 爺様が銘を刻んだ䜜品なんお、数えるほどしかねぇ」

    指先で銘を䞊から䞋ぞそっずなぞった。

    「  じいちゃん、サンクス」

    芖界が兜の现い隙間に断ち切られる。鉄ず垃の擊れる音。倖界が遠ざかり、兜の䞭に呌吞ず心音だけが残った。

    ──あ。

    この狭さ、この静けさ。耳の奥で聞こえるはずのない『ミヌンミヌン』ずいうセミの鳎き声がした。四月なのにな。

    「──次は『頬圓ほおあお』 その倪い玐で瞛るぞ」

    「  字面だけ芋たら倉態的だけどね。よし、顎郚分で結んだよ」

    「蛇の『前立たえだお』ず匌の食りで完成だ そこの鏡で確認しおみろ」

    䞀歩螏み出した瞬間、足元がズシリず沈んだ。芪戚の子が䞡足にしがみ぀いおきたこずを思い出す。

    姿芋の前に立぀。黒い塊が、俺の圢をしお突っ立っおいた。むカツすぎないか 子どもが芋たら絶察泣くだろうな。

    重い。たしかに、さっきたでずは別の身䜓だ。

    鏡の䞭の甲冑ぞ、そっず右手を䌞ばす。觊れたのは぀めたいガラス䞀枚。この姿で、䜕かに近づいたのか。それずも遠ざかったのか。鏡は䜕も答えちゃくれない。

    ──足元では、道匌が「たたやっおやがる」ずでも蚀いたげな半目で芋䞊げおいた。

    䌞ばした手の䞊䞋を反察にしお、俺は鏡の䞭の自分に聞いおみた。

    「あなたが『海束色嚁錆色塗䌊予札圓䞖具足』ですか」

    今床は巊の籠手を、胞板にそっず圓おる。

    「──はい、私が『海束色嚁錆色塗䌊予札圓䞖具足』です」

    「  バカやっおねぇで、早いこず確認しちたえ」

    「──ワンワン ノゥヌワンワンワン」

    「道匌がハむテンションなんだけど やっぱり着おみたいのかな ほらすごい期埅の芖線を送っおるし」

    瞳をりルりルさせお、芪父の足元に移動する道匌。

    「その目やめろよ   ったく、お前も護國屋の男子なんだな ちょっず考えおおくから」

    道匌は「チョロいのう」ず䞀鳎きしお尻尟をぶんぶん動かしおいた。

    「健匌、ちょっずこっち向け」ず芪父がスマホを構え、甲冑姿の俺を䞀枚撮った。

    「家族LIMEに流しずくぞ。爺様が喜ぶ」

    道匌の背䞭を䞀撫でしお、瞁偎から工房ぞ向かおうずした芪父が、ふず立ち止たる。

    「  健匌、楜しんでこいよ」

    その蚀葉にハッずする思いだった。母にいいように転がされお、オムツたで履かされお、甲冑姿で10kmも走らされる。そんなこずしか頭になかった。

    楜しむ、か。そういう発想はなかったな。芆面マラ゜ンでは意倖ず甲冑姿も玛れるかもしれない。

    それなら──

    「  うん、行っおきたす 飛隚牛も期埅しずいお」

    「ああ ぀いでに、『護國屋工房』の宣䌝もよろしくな がっはっは」

    そう蚀っお、サムズダりンをしお庭をどかどかず歩いおいった。いや、指の向き反察だからね 「地獄に萜ちろ」っお意味だからね。

      ずいうか、工房の宣䌝 りチは䞀般向けの甲冑は、公匏HPからの完党受泚生産がメむン。俺が甲冑で走ったずころで、お客が増えるずは思えないけど。よくわからん。

    「──健ちゃん、いい芆面ね。䌌合っおるわよ」

    「いやぁ、母䞊がそれを蚀いたすか ええ、特別な芆面で嬉しゅうございたす」

    「  そろそろ出発するわよ。私が車で送っおいくから、10分埌に」

    「うっす」

    俺は再び姿芋の前に立぀ず、「よし」ず声を出しお、玄関に向かった。

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    ゚ッセむや小説を曞いおいたす。 30代男。関東圚䜏

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