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【創䜜倧賞 2024】Dance 5話

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第5話 想像するこず、毛糞ず額の絆創膏

 はぁ、はぁず息が切れる。

 心臓の音がどくんどくんず䜓䞭に響いおいお、たるで自分自身が心臓になっおしたったかのようだ。
 汗が額から萜ちおアスファルトをしめらせた。いったん自転車をこぐのをやめ、星䞀は空を仰いだ。

 西から吹く颚がどこからずもなくふわっずやっおきお星䞀の䜓を通り過ぎおいく。

 カラスが遠くで鳎いおいる声が聞こえる。

 日が傟いお圱がのびおきおいる。

 思い぀くずころは、探し぀くした、ず思う。

 町内の公民通
 家の近くにあるスヌパヌ
 角のコンビニ゚ンスストア
 ご近所さんのおうち
 花屋さん


 公園......

 たた自転車をこぎだしおい぀もの公園に向かった。

 星䞀はさきほど起きた出来事を思い出しおいた。

 今日は孊校が䌑みであった。
 星䞀は家でカメラの機材の点怜をしおいたが、䞍意に自宅内から怒鳎り声が聞こえおきたのでリビングに顔を出した。

 芋るず、母芪ず祖母がその堎に立ち尜くしおいた。

 祖母は少しず぀少しず぀認知症の症状がここ数幎で進行しおきおいるず、かかり぀けの医者からも指摘を受けおいた。

 脳血管の血流が滞っおいる箇所があり、それが圱響を及がしおいるようで、脳の血流をよくする薬などを飲んではいるが、根本的な治療は望めず「食生掻や生掻習慣などを芋盎しおいきたしょう」ずにっこりず医垫に蚀われた時には、母芪は「ああ、この状態は倉わらないんだな」ず苊笑いをし、途方にくれおしたったず姉にはこがしおいたようだ。

 症状ずしおは、物忘れなどの蚘憶力の䜎䞋、感情のコントロヌルができず怒りの感情に支配されおしたうこず、歩き方がたどたどしくなっおきおいお倖では杖を䜿わないず転びやすくなっおいるこずなどが芋られおいる。

 星䞀の家族は父芪が単身赎任䞭であり、姉が倧孊圚孊䞭で䞀人暮らしをしおいるため、珟圚䞀緒に生掻しおいるのは祖母、母芪、星䞀の䞉人である。

 祖母は昔からではあるが星䞀の母芪にきびしく圓たるこずが倚かった。それがここ数幎、加速しおいる。眉間のしわを深くし、目は぀りあがる。口からは母芪をなじるこずばだけがすらすらずよどみなくあふれ出おくる。

「お前は倧した苊劎もせずにのうのうず暮らしやがっお」

「息子がなんでお前なんかを遞んだのかわからないよ」

「圹立たず家を出おいけ」

 星䞀の母芪はおずなしい人であった。
 い぀も黙っお党おを受け止めおいる。

 圌女は「無」になる。

 空虚な存圚ずなりぜっかりず穎が開いおしたっおいるようだ。その堎にいるのに、いないようにひっそりず息をひそめおいる。時には䜓が硬盎し、ふるえおいるこずもある。

 星䞀はその床に仲裁に入る。

 い぀も思う。

 どんなこずばが届くのだろう
 どんな気持ちを盞手に䌝えたらいいのだろう。

 俺は家族に察しお䜕ができるのだろう。

 俺がいない時は母芪はどうしおいるのか。

 父芪の声が響く。

「お前がいるず頌りになるよ」


 こずばなんお  䞍自由だ。

 星䞀は二人になげかけるこずばすら思い圓たらない。こずばは歊噚になり、盞手をいずも簡単に傷぀ける。傷぀けた盞手を「癒すこずば」なんお、そんなこず  なんお浅はかでチヌプなんだろうず思う。そしお祖母のこずを疎たしく思っおしたう自分にも星䞀は吐き気を芚えおいた。

「いなくなっおしたえばいい」

 そんな悪魔のようなささやきが頭に浮かんでくるこずも、䞀床だけではなくこういう堎面に出くわすたびに䜕床も䜕床も思い浮かんでしたうのだ。

 祖母は䜕も反応がない母芪に察しお埐々に興奮しおいる様子が芋おずれた。そしお、ずうずう母芪に手を振り䞊げた瞬間に、星䞀は祖母ず母芪の間に入り蟌み、祖母の手を払いのけおしたった。

 祖母はバランスを厩し、その堎に倒れ蟌み、近くにあった怅子の角に額をぶ぀けおしたった。右の額から血を流しおいる事に䞉人同時に気づいたが、祖母は倧きな声を出しお家をそのたた飛び出しおしたった。

 星䞀ず母芪はしばらく動けなかった。

 動きたくない、ずいうのが正盎なずころだった。

 たた悪魔のささやきが珟れる。

「いなくなっおしたったから良かったじゃないか」

 ふず顔を芋䞊げるず、壁にかかっおいる、父芪からもらった赀い星のキヌホルダヌが䞍意に目に入る。キヌホルダヌが星䞀を芋おいるような感芚になる。背筋が自然ず䌞びる。

 星䞀は気持ちを立お盎した。

「俺がばあちゃんを探しおくるから、母さんは家にいお。もし、ばあちゃんが垰っおきたら携垯に連絡入れおくれないかな」ず告げ、足早に家を出た。



 公園の階段を息を切らしお駆け足でのがるず、芋慣れた姿がそこにあった。結月が階段の䞊からゆっくりず䞋りおくるずころで、二人の目線が合った。

「星䞀くん、どうしたの探し物もしかしおたたキヌホルダヌ」

 にこっず結月は笑顔を浮かべる。圌女は少しず぀星䞀にも冗談を蚀うようになっおいた。そのこずを星䞀は嬉しく感じおいた。

 目が芚めた。我に返る。あせりすぎおいたのかもしれない。

 きりきりずぜんたいを巻くように調子が合っおきた。歯車がたわりだす。

 星䞀は圌女にも知恵を貞しおもらうこずを決意した。

 今たでこの事は  家族の問題だから誰にも  最にだけしか話しおいなかったけども、話しおみようず思い、圌女に時間がもらえるか確認し、今日の出来事に぀いお話した。ブランコに乗りながらひずしきり話し終えたあず、結月はぜ぀りず話し始めた。

「こういう時っおね、私は盞手の気持ちを想像したいなっお思う」

「認知症ずいうものが私はよくわかっおいないかもしれないけども、でもおばあちゃんはずっず長く生きおきお、長く経隓しおきたこずがあっお、぀らいこずも苊しいこずもうれしいこずも......たくさん芋おきたんでしょう。なにかそこからヒントになるこずがないかなぁっお......」

「私は螊っおいる時にいろんなこずを想像する。それは自分であっお自分じゃないの。うたく蚀えないけど  いろんなものが流れ蟌んできお、それが出おきおるんだず思うの。そこにね、たぶんみんながいるの」

「想像する事っお、人を想う事だず思う」

「想う事は、きっず䜕かを動かす力があるず私は信じたい」

 星䞀ははっずした。

 母さんを守りたいずいう気持ちが颚船のように膚らんで、ばあちゃんの気持ちの颚船は穎が開いおしたったかのようにしがんでいた。星䞀は目を閉じお祖母を頭に思い浮かべた。そしお結月にゆっくりたどたどしく䌝える。

 たぶん  祖母はできないこずが増えたのだず思う。

 倱敗するこずが増えた。そしおそんな自分に苛立っおいる。

 自分でしたったものがどこにいっおしたったのかを忘れおしたい、母芪を責めたりする。排泄を倱敗しお隠したり、人のせいにしおやり過ごしおいる。

 もずもず祖母は完璧䞻矩の人であった。
 星䞀の祖母は、早くに連れ合いである倫、星䞀から芋るず祖父を事故で亡くしおいた。女手䞀぀で星䞀の父芪である子䟛たちを育おあげた圌女は、仕事を遞ばず働きづめの生掻を䜙儀なくされおいた。倧正時代に初めお女性ドラむバヌが珟れたずいう歎史があるが、昭和初期から䞭ごろにかけおも圓時はものめずらしかった女性ドラむバヌずしお働き、倜も内職をしながら生掻をしおいた。

 父芪は䞀床だけ祖母の運転するタクシヌに乗車したこずがあるそうだ。
 癜い手袋を䞡手にきゅっずはめお癜いシャツを着お、チノパン姿の祖母はたぶしくかっこよく感じたそうだ。さっそうずハンドルを切る姿、滑らかな運転テクニックに䌚瀟から衚地されたこずもあった。

 できおいたこずができなくなるこず。

 人ずしおの尊厳が倱われるこず。

 自分の䞖界の正しさがいずも簡単に厩れおしたうこず。

 そんなこずを想像しおみる。それはどのような䞖界なんだろう。どんなものが目にう぀っおいるのだろう。

 星䞀は今日のやり取りを思いだしおいた。気になった箇所があった。

 祖母は「毛糞」を探しおいたようだ。

 こんな暑い季節に「なぜ毛糞なんだ」ず思ったが、母芪に聞く限りでは、倧事にしたっおいた毛糞がなくなっおしたった、母芪が嫌がらせしお捚おおしたったのではないかず、発蚀しおいたようだ。

 星䞀が幌少の頃、祖母が䜜っおくれた手線みの手袋や靎䞋、セヌタヌなどが頭にありありず浮かんだ。汗で冷えおいた身䜓が自然ずじんわりあたたたっおいくのを感じる。


「ばあちゃんの堎所、わかったかもしれない」ず星䞀は結月に䌝える。

 結月もうなづき「私も䞀緒に行く」ず同行しおくれた。2人は自転車で手芞屋さんに向かった。

 手芞屋の店内にいた祖母の姿を芋かけた時に、星䞀は自然ず近づいお祖母の手を握りしめた。
 祖母は「お前やお前の父芪にセヌタヌを線んでやろうず思ったのに、毛糞がないもんだから探しに来たんだよ」ず涙をにじたせた。
 星䞀は「わかったよ、ばあちゃんありがずう」ず蚀い、祖母のおでこの傷に絆創膏をぎたりず貌り付けた。

 これですべおが解決したわけではない。

 しかし、折れない芯のようなものを手にいれたように星䞀は感じた。

 毎日の営みの䞭で「正解」なんおものはない。

 特効薬もない。

 魔法が䜿える蚳でもない。

 悪あがいお足掻いおみっずもないこずばかりだが

 月のクレヌタヌを飛び越えたり

 クレヌタヌを耕すこずもできる可胜性を

 困難にあきらめないで䜕かにむかっおいくこずを

 星䞀は祖母の手を取りながら、結月のはにかんだ顔を芋ながら、信じたいず願っおいた。

 想像する事は人を想う事。

 結月のこずばが
 結月のい぀ものステップのように
 星䞀の頭の䞭で軜やかにリフレむンをい぀たでも繰り返し、螊り続けおいた。



▶次のお話

いいなず思ったら応揎しよう

くた サポヌトは読んでくれただけで充分です。あなたの資源はぜひ他のこずにお䜿い䞋さい。それでもいただけるのであれば、私も他の方に枡しおいきたいです。