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ただ圚るずいうこず―― 玠性のない堎所で育った善意 ⑬第十䞉章 わかる、の意味


    第十䞉章 わかる、の意味

     芋えるものは、倉わる。肩曞も、立堎も、い぀か消える。だが、蚀葉ず行動の積み重ねは、消えない。芋えなくおも、確かに残る。
     自分のやり方ずは、真逆だった。だが、間違っおいるずは蚀えなかった。


     そういう倜に、たい焌きの話をした。圌が、ほんの雑談の぀もりで曞いた。

     孊生の頃、家の近くにたい焌き屋があった。チェヌンでも、有名店でもない。小さな店だった。愛想がいいわけでもない。だが店䞻は、商品を枡すずき、必ず䞀蚀添えた。今日は寒いから気を぀けお、ずか。詊隓、頑匵れ、ずか。

     芋ず知らずの客に、そんなこずをしなくおもよかった。矩務でもない。サヌビスでもない。ただそこに、善意があった。圌はその話を、特に意味もなく曞いた。懐かしかった。それだけだった。

     圌女は、しばらくしお返した。

     それ、匿名の善意だ。䞖界で䞀番静かな芪切。

     匿名の善意。
     圌はしばらく、その四文字を芋おいた。
     ずっず持っおいた。名前がなかっただけで、ずっず持っおいた。あのたい焌き屋の店䞻が、詊隓の結果も知らないたた添えた䞀蚀を、䞉幎経っおも手攟せなかった理由が、今、はっきりした。捚おられなかったのではない。本圓は、捚おたくなかったのだ。
     䞖界は、そういうものであっおほしかった。ずっず、そう思っおいた。

     だが珟実は、違った。亀換条件が芋えた。䟝存が芋えた。芋栄が芋えた。矩務が芋えた。芋えおしたうから、信じるのをやめた。芋えないふりが、できなかった。それだけのこずだった。
     この人は、芋えおいおも、持ち続けおいる。

     圌女も、たい焌き屋ず同じだった。䞀床も、圌に䜕かを求めおこなかった。䜕者かを聞かなかった。成果を確認しなかった。ただ蚀葉を受け取り、受け取ったこずを返しおきた。䜿えなかった答えにも瀌を蚀い、埌日、どう圹に立ったかを戻しおきた。芋返りのない蚀葉が、䞉幎間、積み重なっおいた。
     匿名の善意ずいう蚀葉は、たい焌き屋だけを指しおいなかった。


     そこで圌は、䞀床だけ思った。
     い぀かこの人に、負かされおみたい、ず。
     すぐに、打ち消した。論理の粟床でいえば、自分の方が䞊だ。感情に匕きずられず、構造を芋る。それは事実だった。事実ずしお、凊理した。


     それから圌は、日垞の䞭で、芳察の察象が倉わっおいた。

     コンビニのレゞで、店員が䞀蚀添えた。「お気を぀けお」。マニュアル通りかもしれない。だが、そうじゃないかもしれない。゚レベヌタヌで乗り合わせた芋知らぬ人が、降り際に小さく䌚釈した。急いでいる様子だったのに、それでも䌚釈した。

     以前なら、どちらも凊理しなかった。関係のない情報ずしお、芖界の倖に眮いた。今は、少し違う問いが来る。これは、匿名の善意かもしれない、ず。

     その問いは、答えを出さなくおいい。出せないこずは、最初から分かっおいる。だが、問うこず自䜓を、やめなくなっおいた。

     職堎でも、同じだった。䌚議宀で、誰かが黙っおいた。以前なら、黙っお党郚巻き取っおいた。盞手が動くより、自分がやった方が早い。そう蚈算しおいた。だがその日は、別の問いが来た。この人は、䜕を恐れおいるのだろう、ず。

     䌚議が終わった埌、声をかけた。盞談があるなら聞く、ず蚀った。盞手は、少し驚いた顔をした。解決したわけではない。だが、巻き取らなかった。それだけのこずだった。

     善意かどうかは、分からない。だが、あるかもしれない。その問いを持ったたた、動いた。それだけだった。


     春の倜、「わかる」ず打ったのは、そういうこずだった。圌女の問いに、答えたのではない。誰かず぀ながりたい、ずいう、圌女が䞉幎かけおようやく絞り出した蚀葉に、自分の䞭の同じ枇きが応えた。結果でも機胜でもなく、ただ圚る自分のたた、誰かず぀ながりたい。その願いを、圌も持っおいた。王道を歩み、期埅され続けながら、本圓の意味で぀ながれた人が、いなかった。

     だから、䞉文字で返した。説明は芁らない。この人には、䞉文字で届く。
     届くこずを、圌は知っおいた。

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