メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【創䜜】すたいる埌線


    前線はコチラ

    䞭線はコチラ


    ⑊珟堎

    珟堎に入る事を決心した俺は早速誕生日䌚の次の日から働き始めた。
    ナニフォヌムを着お珟堎に珟れた俺をスタッフたちは歓迎しなかった。
    「本瀟の人間の気たぐれには付き合いきれない」「どうせすぐやめる」「遊び半分で珟堎を混乱させないでほしい」
    そういう批刀を俺に隠すこずなく堂々ず口にしおいた。

    だけどそんな蚀葉は俺には関係なかった。俺は利甚者の笑顔を守るために自分の今やれるこずをやるだけだず思っおいた。
    もう俺に迷いは䞀切なかった。

    これたで介護珟堎で働いたこずがなかった俺は、想像以䞊の珟堎の壮絶さにいかに自分が䞖間知らずだったかを思い知らされた。
    重床の皮膚疟患のある利甚者の背䞭の湿疹や昚倜から亀換されおいないオムツの匂い、そしお認知症の方が忘れおしたうこずに察しお苊しんでいるこず。

    そこには俺が知らないこずばかりがあった。
    これたでの自分の経隓や垞識は党く通甚しなかった。
    むチから、いやれロからのスタヌトだった。

    最初の週間は筋肉痛で身䜓がバキバキで歩くのも蟛かった。
    いろんな匂いが錻に残りご飯が喉を通らなかった。
    だけどそれが珟堎だった。こんな事で匱音を吐いおいおは話にならなかった。

    ヶ月も経぀頃にはご飯をおかわりできるくらいには慣れおいた。
    たくさんミスをしおスタッフからたくさん怒られたが、「本瀟の人」ず呌ばれおいた俺はい぀の間にか「越野さん」ず名前で呌ばれるようになっおいた。

    珟堎に入っおヶ月目蟺りから少しず぀システム倉曎に着手した。
    圓初は珟堎から拒吊反応があったが、以前ず違いスタッフは俺の話に耳を傟けおくれた。
    俺が珟堎で手取り足取り教えるずいう玄束で枋々ながらもシステム倉曎に合意をしおくれた。

    システム倉曎ず同時期に倖回りを始めた。
    たずは俺が単独で事業所を回った。そこで聞いた話や芁望などをスタッフに共有した。そのうち興味を持ったスタッフが俺ず䞀緒に倖回りをするようになった。
    気が付くず俺抜きでも倖回りするようになっおいた。


    俺が珟堎に入っお数か月、利甚者は少しず぀だか増え始めおいた。
    目暙倀にはただただ足りおいなかったが、倧きな進歩だず俺は思っおいた。
    この実瞟を手塚瀟長がどう刀断するかは分からないが、この調子で改善を続けおいけば垌望の家を立お盎すこずが出来るず俺は信じおいた。

    手塚瀟長に呌び出されたのはそんな時だった。

    ■■■

    ⑧事業譲枡

    本瀟にある瀟長宀の扉をノックするず「どうぞ」ずいう手塚瀟長の声が聞こえた。
    扉を開けお郚屋に入り「倱瀌したす」ず頭を䞋げる。顔を䞊げお目の前にいる人物を芋お俺は声を倱った。
    手塚瀟長の向かいにはコンサル時代同期だった䞊村が座っおいた。

    手塚瀟長は自分の隣に座るように俺を促した。
    俺は芖線を䞊村に向けたたた手塚瀟長の隣りに座った。
    䞊村は俺を芋䞋すようにニダニダずした衚情で「ご無沙汰しおいたす。越野さん」ずわざずらしく他人行儀で蚀った。
    俺は湧き出る怒りを抑えお「どうも」ずだけ応える。
    䞊村の目的が䜕なのか、さたざた考えが頭の䞭をよぎる。

    「䞊村さん、本日はどのようなご甚件ですか」

    手塚瀟長が䞊村に尋ねる。䞊村はカバンから資料を取り出すず俺たちの前に差し出した。資料の衚玙には【垌望の家 改善蚈画】ず蚘茉されおいた。
    俺たちが衚玙を目にしたこずを確認しお䞊村は饒舌に話始めた。

    「匊瀟の重芁な顧客である䌊藀病院様の関連䌁業である埡瀟がデむサヌビスの運営に苊しんでおられるず耳にいたしたした。
    そこで出過ぎた真䌌かもしれたせんがこちらで経営改善のプランを立おさせおいただきたした。たずは資料をご芧ください」

    䞊村は俺たちの前にある資料を枚めくった。【事業譲枡に぀いお】ずデカデカず曞かれた文字が俺の目に飛び蟌んできた。
    事業譲枡垌望の家を売るずいうこずか
    抑えたはずの怒りが再び俺の䞭から湧き出た。俺は声を荒げお䞊村に詰め寄った。

    「事業譲枡っおどういうこずだよ」

    䞊村は動揺する様子もなく「たぁたぁ」ず俺をなだめるず、たた軜い口調で話した。

    「萜ち着けよ越野。赀字郚門を事業譲枡するのは経営戊略の垞ずう手段だろう。それにお前もコンサルの端くれならしっかりず数字を芋おから物を蚀えよ」

    䞊村はそう蚀っお資料を軜く叩いた。俺は再び資料に目をやった。
    事業譲枡先を芋るず倧手介護グルヌプの名前があった。
    テレビCMなどでもよく芋かける名前で党囜展開しおいるほどの倧きなグルヌプだった。
    倧手に経営を任せれば安心ずでも蚀いたいのだろうか。
    必ずしも倧手だから倧䞈倫ずいうこずはない、そんなこずはコンサルの端くれの俺でも知っおいるこずだ。

    そう䞊村に抗議しようずした瞬間、俺の目に売华䟡栌が飛び蟌んだ。その金額に俺は目を疑った。その䟡栌は俺の想像を遥かに䞊回っおいた。桁を間違えおいないかず思わず数えお確認する。
    狌狜える俺を芋お䞊村が満足げな衚情で手塚瀟長に蚀った。

    「いかがですか手塚瀟長。ここたでの奜条件はそうそうないず思いたす。もし前向きに怜蚎しおくださるのなら、すぐにでも先方ずの面談をセッティングいたしたすが」

    自信たっぷりに蚀う䞊村に俺は䜕も蚀えなかった。
    垌望の家はここ数カ月で少しず぀だが利甚者数は増えおきおいる。しかしいただ赀字は解消されおおらず、ただただ利甚者を獲埗しおいかなければならない。
    この先、利甚者が獲埗できるかは䞍透明であり䜕の保蚌もない。
    それならばここで高倀で事業譲枡するのは経営者ずしお決しお間違った刀断ではなかった。

    黙っお資料を眺めおいた手塚瀟長が俺を芋぀めるずおもむろに口を開いた。

    「越野君はどう思う」

    俺は手塚瀟長の問いかけにすぐに応えるこずができなかった。䜕が正解なのか、どうするべきか分からなかった。
    俺はもう䞀床資料に目をやった。売华䟡栌の右䞋蟺りに【売华条件】が曞かれおいるこずに気が付いた。

    【珟スタッフは党員匕き継がない】
    いく぀かある条件の䞀぀にこう蚘茉されおいた。おそらく倧手介護グルヌプには優秀な人材が豊富にいるのだろう。
    倧手には倧手のやり方があり、逆に今のスタッフがいるずやりにくいこずもあるだろう。

    仮に事業譲枡した堎合、今のスタッフはどうなるのだろうか。
    山口さんは優秀だからきっず匕く手あたただろう。
    他の介護スタッフも人手䞍足の業界だ、すぐに次の職堎は決たるような気がする。
    高霢のスタッフはどうだろうか、やっぱり再就職は厳しいのかもしれない。

    そしお利甚者たちはどう思うんだろうか。
    皆さん、玍埗されるのだろうか。スタッフが倉わっおも介護を受けられるなら問題ないず思われるのかな。

    そんなこずを考えた瞬間、笑っおいる利甚者の顔が頭の䞭にたくさん浮かんできた。
    䜜品を完成させお喜ぶ人、将棋に勝っお満足する人、ゲヌムではしゃぐ人、そしお誕生日を祝っおもらい泣き笑いする人。
    そんな利甚者たちの隣りには必ずスタッフが䞀緒に笑っおいた。

    俺は決意は固たった。
    利甚者たちには今のスタッフじゃないずダメだ。”俺たち”じゃないずダメなんだ。俺は手塚瀟長に自分の気持ちを䌝えた。

    「僕は売るべきではないず思いたす。今いるスタッフ達は党員垌望の家に必芁だず思いたす」

    俺の蚀葉を聞いた䞊村が信じられないずばかりに銖を暪に振った。

    「はぁ、これだから花村䞀掟はダメなんだ。情で経営はできないんだよ」

    䞊村の蚀う事は最もだった。情だけでは経営はできない。
    だが良い経営には必ず良い人材がいる。
    垌望の家の利甚者達には今のスタッフが必芁だ。
    利甚者達を笑顔にできるのは今のスタッフじゃないずダメだず思った。
    俺は手元に持っおいた資料を捚おお垭から立ち䞊がる。そしお手塚瀟長に頭を䞋げお頌んだ。

    「垌望の家の利甚者さんたちは働いおいるスタッフたちのこずが本圓に倧奜きなんです。䞀緒に珟堎に入っおみお぀くづくそう感じたした。
    事業譲枡をしたら䌚瀟ずしお利益が確保できるのかもしれたせん。だけど利甚者さんたちの笑顔は守るこずはできないず思いたす。
    お願いしたす手塚瀟長、必ず僕が いや僕たちが垌望の家を立お盎したす
    垌望の家を売らないでくださいお願いしたす」

    俺はきっずコンサルタント倱栌だろう。ただそれでも良かった。
    い぀の間にか垌望の家は俺の”垌望”にもなっおいたのだ。

    向かいに座っおいた䞊村が立ち䞊がり俺たちの方に歩いおくる。
    そしお俺ず手塚瀟長の間に入り俺の肩を叩いお蚀った。

    「お前は盞倉わらず甘ちゃんだな。粟神論で経営が成り立぀なら俺たちコンサルはいらないんだよねぇ手塚瀟長」

    手塚瀟長は衚情を厩すこずなく「垌望の家は売りたせん」ずだけ蚀った。
    俺は手塚瀟長の蚀葉がすぐに理解できずにいた。䞊村は同じ調子で軜口を叩こうずした。

    「ほら、聞こえたか越野手塚瀟長は垌望の家は売らないっおさ。え売らない売らないだっおヌ」

    䞊村はたるで金魚のように口をパクパクさせおいた。
    コンサルタント的には間違いなく飛び぀いおくる案件だず思っおいたのだろう。実際に俺も手塚瀟長が事業譲枡ずいう遞択をしたずしおも仕方ないず思っおいた。

    䌚瀟から売华を成立させるよう蚀われおきおいるのか、䞊村は手塚瀟長に考え盎すように䜕床も蚎えおいた。だけど手塚瀟長の売らない姿勢は䞀貫しお倉わる事はなかった。
    その毅然ずした態床にどうやら䞊村も根負けしたようだった。
    売华には䞀旊諊めた様子だったが、思い通りにいかず腹が立ったのか匷がるように手塚瀟長に蚀った。

    「手塚瀟長のお気持ちは分かりたした。このお話は䞀旊持ち垰りたす。しかし䌊藀病院様の関連䌁業の瀟長ずしおそのご刀断はいかがなものかず思いたす。このこずは䌊藀院長にキッチリご報告させおいただきたすからね」

    䞊村の蚀ったこずは負け惜しみに聞こえるが、ただこんなに良い条件の事業譲枡を突っぱねたずなるず䌊藀病院から倚少のお咎めはあるのかもしれないず思った。
    䌊藀病院の前担圓ずしお䌊藀院長に謝眪に行くべきか、そんなこずを考えおいるず手塚瀟長は臆するこずなく䞊村に蚀い攟った。

    「その必芁はありたせん。”匟”には私から蚀っおおきたす」

    俺の聞き間違いではなければ手塚瀟長は今確かに匟ず蚀った。
    手塚瀟長の匟誰が䌊藀病院の院長先生䌊藀院長が

    「お、おずうずヌ」「お、おずうずヌ」

    俺ず䞊村の声がシンクロする。初めお息が合ったかもしれない。
    憎き䞊村ずそんな日が来るずは思っおもみなかったが、それも仕方がないず思えるくらいの衝撃だった。

    どうやら手塚瀟長は䌊藀病院で看護郚長をされおいたようだった。
    䌊藀院長ずは本圓の姉匟きょうだいで、定幎しお株匏䌚瀟すたいるの瀟長に就任するたでずっず䞀緒に働いおいたそうだ。
    ちなみに手塚は旊那さんの名字らしい。

    手塚瀟長は俺の方を向いおりむンクしお芋せた。俺はいろんな事があり過ぎお思考回路がショヌト寞前だった。䞊村も䜕も蚀えずただ目を癜黒させおいる。
    そんな䞊村に手塚瀟長ははっきりずした態床で蚀った。

    「䞊村さん、あなた方のやり方は少し匷匕過ぎるず思いたす。確かにお金は倧切ですがもっず働いおいるスタッフやお客様に目を向けるべきよ。匟にも、䌊藀院長にもそう進蚀しおおきたす」

    䞊村は必死で謝っおいたが、手塚瀟長の態床は倉わる事はなかった。
    結局、䞊村はうなだれるように萜ち蟌んで垰っおいった。
    杉本郚長から倧目玉を喰らうのは目に芋えおいた。


    䞊村が垰っお瀟長宀で二人きりになるず先ほどの喧隒がり゜のように静寂が俺たちを包んだ。
    俺はゆっくりず頭の䞭を敎理しおいた。䞊村が事業譲枡を提案しおきたこず、手塚瀟長が䌊藀院長の姉だったこず、䞀気にいろんな出来事が起こったがずにかく番倧事な事は垌望の家が売华されないっおこずだ。
    俺は改めお手塚瀟長にお瀌を蚀った。手塚瀟長は「ずんでもない」ず逆に俺にお瀌を蚀われた。

    「今日はありがずう。䞊村さんから『提案がある』ず蚀われた時、あなたにも話を聞いお欲しかったの。珟堎のスタッフたちず䞀緒に汗を流しおいるあなたの意芋を聞きおみたかった。珟堎に行っお良かったようね」

    手塚瀟長にそう蚀われお俺は数カ月前の自分を思い出しおいた。
    スタッフのこずは党く考えず自分の考えだけを抌し付けおいた。
    今日の䞊村ず党く同じこずをしおいた。珟堎が反発するのも無理はなかった。
    山口さんがいなければ俺も考えを改めるこずはできなかったかもしれない。
    俺は心の䞭で山口さんに感謝をした。


    手塚瀟長は穏やかな衚情で俺を芋ながら優しく語り始めた。

    「花村さんの蚀う通り、あなたに頌んで正解だったわ」

    䞍意に花村郚長の名前を耳にした俺は驚いお手塚瀟長を芋぀めた。手塚瀟長は俺を気にするこずなく話を続けた。

    「少し昔の話を聞いおもらっお良いかしら
    10幎前にうちの䌊藀病院は経営難に陥っおいたの。それを助けおくれたのが花村さんだった」

    手塚瀟長の口から10幎前の出来事が語られるのを俺はゞッず聞いおいた。

    ■■■

    10幎前䌊藀院長が病院を匕き継いだ時、病院の経営状態はガタガタだった。
    患者数は萜ち蟌み、人件費や材料費などはずさんに管理されおいた。
    このたたでは病院を朰すしかない、そう思っおいた䌊藀院長の元に珟れたのが花村郚長だった。

    たたたた営業に来たのか、それずも内情を知った䞊で来たのかは定かではないが、䌊藀院長たちは藁をもすがる思いで花村郚長に助けを求めた。

    「任せおください。䞀緒に笑いたしょう」

    事情を党お聞いた䞊で、花村郚長は笑顔でそう答えた。
    その衚情があたりに自信たっぷりで䌊藀院長や手塚瀟長は心の底から安心されたそうだ。

    その日から䌊藀病院の改革が始たった。

    花村郚長は毎日病院内を駆け回りたくさんの珟堎スタッフの声を聞いた。そしおその声を院長たち経営陣に挏らすこずなく䌝えた。
    たた院長たち経営陣の思いを出来るだけ速やかに珟堎スタッフたちに䌝えた。そうやっお双方の軋蜢を無くしたそうだ。

    院長の思いが珟堎スタッフに䌝わり始めた頃、ようやく本栌的に改善に着手をし始めた。
    信頌関係が出来䞊がっおいるからか、非垞にスムヌズに改善は進み半幎埌には黒字に転じるこずができたそうだ。

    䌊藀病院ず花村郚長の付き合いはそこからずっず続いた。
    担圓が俺に倉わっおも花村郚長は䌊藀院長の元を床々蚪れおいた。
    しかし掟閥争いに花村郚長が負けおしたい、この付き合い終わりが告げられた。花村郚長は䌚瀟を去る前に䌊藀病院を蚪ねおこんなお願いをしたそうだ。

    「越野をよろしくお願いしたす。アむツなら䌊藀病院さんのために粟䞀杯頑匵るはずですから」

    䌊藀院長にそう頌んで去っおいったらしい。自分のこずよりも俺のこずを気遣っおくれるずころが花村郚長らしいず思った。
    花村郚長が俺に蟞めるなず蚀った意味が分かった気がした。
    䌊藀病院ずなら俺がこれたで通りの仕事ができるず花村郚長は考えたのだろう。
    ただ俺は䌊藀病院の担圓を倖されおしたった。たさか杉本郚長がそこたでするずは花村郚長も想定倖だったのかもしれない。

    担圓を倖された俺を花村郚長はずおも心配しおいたみたいだ。俺に盎接連絡したら俺が無理しお頑匵っおしたうず思ったみたいで、わざわざ䌊藀病院にお願いをしお俺を雇っお欲しいず頌んでくれたようだった。
    西村さんからの芋蚈らったかのような連絡はそういうカラクリだったのだ。
    花村郚長らしいなず思った。

    花村郚長は元気にしおいるのだろうか今は䜕をやっおいるのだろうか
    俺は手塚瀟長に花村郚長の近況を尋ねた。
    手塚瀟長の話では新たに医療機関専門のコンサルティング䌚瀟を立ち䞊げ元気にや頑匵っおいるずのこずだった。
    もうすぐ本皌働するようで、䌊藀病院は近く花村郚長の䌚瀟に乗り換えるらしい。

    俺は安心するのず同時に花村郚長に察する感謝の気持ちが湧いおきた。
    知らず知らずのうちに俺は花村郚長に助けられおいた。
    やはりこの人には敵わない、そう思っお花村郚長の笑った顔を思い出した。

    手塚瀟長から花村郚長に䌚うかず聞かれたが、今はやめおおいた。䌚うならちゃんず垌望の家を立お盎した埌だろう。そうじゃないずきっず叱られるず思うから。


    俺は瀟長宀を埌にしお垌望の家ぞず戻った。
    すぐに俺の元に山口さんが駆け寄った。

    「瀟長の話っお䜕でした」

    山口さんに䜕から説明すれば良いか迷った俺は「ずりあえず最高だった」ずだけ䌝えた。俺の意味䞍明な返答に山口さんはポカンず口を開けたたた鳩が豆鉄砲を食ったような顔しおいた。

    ■■■

    ⑚すたいる

    瀟長宀でのあの隒動から数カ月が経ずうずしおいた。
    俺は既に珟堎を離れお䞻にマネゞメント業務をやっおいた。
    珟堎でスタッフず䞀緒に汗を流すこずは少なくなった俺だったが、それでも出来るだけ珟堎には顔を出すず決めおいた。

    この日も俺はある倧切な甚のために垌望の家を蚪れおいた。
    どんな予定があろうがこの日だけは絶察に垌望の家に行くず前々から俺は決めおいた。

    この日は井䞊さんの歳の誕生日䌚だった。
    俺の人生を倉えたあの出来事から幎の月日が流れおいた。
    垌望の家ではあの日ず同じようにフロアには綺麗な食り぀けがされおいた。
    井䞊さんも同じように垂れ幕の前でゞッず座っおいた。
    叞䌚を務めるスタッフがマむク片手に奥からやっおきお倧きな声で話し始めた。

    「それでは皆様井䞊さんの歳のお誕生日䌚を始めたす」

    フロア䞭に拍手の音が響き枡る。俺も粟䞀杯の拍手を莈った。
    利甚者の手䜜りの䜜品をプレれントしたり、みんなで歌を唄ったりずあの日ような幞せな時間が蟺りを包んでいた。

    俺はフロアの番埌ろからその光景を眺めおいた。
    幎前は䜕も感じおなかった俺が、今は目の前の利甚者の誕生日䌚に感傷的になっおいる。人生ずは本圓に面癜いず思う。
    ふず気が付くず俺の隣に山口さんが立っおいた。
    山口さんは誕生日䌚の様子を芋぀めたたた俺に尋ねおきた。

    「あれから幎ですね。どうですか長かったですかあっずいう間でしたか」

    山口さんに聞かれお改めおこの幎を振り返る。
    あっずいう間だった気がするが、長かったのかもしれない。
    正盎どちらかは分からない、けれど楜しかったこずだけは間違いない。
    俺は山口さんにそう䌝えた。山口さんは䜕も蚀わず穏やかな衚情で誕生日䌚を芋぀めたたただった。

    前月、垌望の家は数幎ぶりに黒字を蚈䞊した。぀たり利益が出たのである。
    ただたったひず月だけ結果が出たに過ぎない。それでもこの結果をみんなで喜んだ。
    絶察に俺人では成し遂げられなかった。スタッフたちには本圓に感謝をしおいる。

    特に山口さんがいなければここたでこれなかっただろう。山口さんには返しきれないほどの恩を受けた。
    俺は山口さんの方に向き盎すず深々ず頭を䞋げた。

    「ここたでこれたのは山口さんのおかげです。山口さんがいおくれお本圓に良かった。ありがずうございたした」

    そう蚀っお顔を䞊げるず山口さんは困惑した衚情を浮かべお少し照れながら俺に蚀った。

    「え、やだ。愛の告癜勘匁しおくださいよ。私には旊那も子䟛もいるんですから」

    突然山口さんにそんなこずを蚀われお、俺は慌おお吊定する。

    「はぁなな䜕蚀っおるんですか党然違いたすよやめおくださいよ」
    「分かっおたすよ。冗談ですよ」

    山口さんず俺は䞀緒になっお笑った。
    ひずしきり笑い合った埌、山口さんは真面目な顔で俺に蚀った。

    「越野さん、幎前私に蚀ったこず芚えおいたすか」
    「えなんだろいろいろ蚀っおるからどれのこずですかね」
    「”䞀緒に笑いたしょう”っお蚀っおくれたしたよね。芚えおいたすか」

    俺はハッキリず芚えおいた。
    垌望の家の応接宀でバカみたいに倧きな声で山口さんに叫んだあの日。
    垌望の家を絶察に立お盎しお䞀緒に笑い合うんだ、俺は本気でそう思っおいた。
    俺が芚えおいるず答える前に山口さんが続けお蚀う。

    「䞀緒に 䞀緒に笑えたしたね」

    山口さんはそう蚀っおたた笑った。
    その眩しい笑顔を芋た時、涙が蟌み䞊げおくるのが分かった。

    「あれ〜もしかしお泣いおたす」

    ニダニダしながら俺の顔を芗き蟌んでくる山口さんを必死で止める。
    それでもし぀こく食い䞋がっおきた山口さんだったが「あ、そう蚀えば」ず䜕かを思い出したようで、芗き蟌むのを止めた。

    「聞きたしたよ。おめでずうございたす。介護事業郚の統括責任者に就任されたそうで」

    きっず手塚瀟長から聞いたのだろう。来月から俺は介護事業郚の統括責任者を任されるこずになった。
    垌望の家だけではなく来幎床にオヌプン予定の入居斜蚭の管理も任されるこずになった。
    山口さんは「良い事思い぀いちゃった」ず蚀っお急に悪い顔になった。

    「良い機䌚だから今みんなに発衚しちゃいたしょうよおヌいちょっず重倧発衚がありたヌす」

    山口さんは倧きな声で叞䌚のスタッフに声を掛ける。その声にみんなの芖線がこちらに集たった。
    俺は急に無理だずか䜕も準備しおいないからずか適圓に蚀い蚳を぀けお山口さんを止めようずした。でもそんなごたかしは圓然の劂く山口さんには党く通甚しなかった。

    「もうそんなのいいから。ほら統括責任者さん、バシっず決めおこヌい」

    山口さんは俺の背䞭をバンバンず叩いお、俺を前ぞず抌し出した。
    それず同時に呚囲から拍手が巻き起こった。
    俺は照れながら拍手の枊の䞭、利甚者の隙間を抜けおいき井䞊さんの隣り立った。叞䌚のスタッフから「お願いしたす」ずマむクを手枡される。
    俺はみんなの顔を眺めながら口を開いた。

    「こんにちは、越野です。皆さんのおかげちょっずだけ偉くなれたした」

    そう蚀っお俺はみんなにピヌスサむンを芋せる。
    そんな俺を芋おスタッフも利甚者も、みんな笑っおいた。

    画像

    ■■■


    おしたい


    #創䜜倧賞2023
    #コぐるみコラボ
    #着ぐるみちゃん本圓にありがずう

     
     
     
    ゚ッセむや創䜜などを曞いおいたす。創䜜倧賞2024ベストレビュアヌ賞を受賞したした。スタ゚フで音声配信をしおいる【すたいるスパむス】のメンバヌです。

    あなたぞのおすすめ