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つまり、うなり声の主はお化けでも何でもなかったのです。
彼自身の寝言でした。
彼はこれまで、眠っている自分自身の大きな独り言によって 度々起こされていたらしいのです。
そのことをムブへ指摘しますと 恥ずかしさに顔を赤らめながら「なにぶん悪夢をみていたからな」。
そう早口でつぶやきました。

ガララは気になっていることを尋ねてみました。
「“ 子ども ”って何の話だい?君の家族がどうかしたのかい?」
その言葉を聞いたとたんムブはうつむき、目をうつろにして答えました。
「・・・おで、おでの子たちを もうずっと見つけ出せないでいる。きっとこの山でどうかしたんだ。でも、なぜそれを?」
「眠りながら口走ってたからね。それに君の坊やたちは本当にかわいいと思うよ。」
そう言ってガララは収納棚にある写真立てへそっと視線を向けました。

ムブはワッと声をあげ、写真立てを両腕で大切そうに抱きしめました。
「おでの可愛い子どもたちはこの山で行方がわからなくなっただよ。原っぱのスミッコで遊んでいただけなのに。きっとこの山に住む化けモンに食われたんだ!」
ムブのつぶらな瞳から大粒の涙がこぼれ「悲しみに暮れた妻は病気になっちまっただよ!」
擦れた声でそう叫ぶと、床に突っ伏して泣き崩れました。
「おで すっかり、子どもを食った化けモンの声だとばかり思ってたんだ。しかしアレはおでだった。もしも子供たちがまだどこかで生きているなら早く返して欲しいだ。誰の仕業でもいい、今ならまだ許してやるからさぁ!」


✦ ✦ ✦


鳥のさえずりと共にだんだん空が白けてきました。
“ おい・・・!おい・・・!”
遠くからガララを呼ぶ声が聞こえ、体を揺すられます。
「恐ろしい夜は過ぎ さわやかな朝がきたよ。今日は山へ入るんだろ?」
ガララはかすかに目を開けましたが、またすぐにブランケットの中にもぐり込みました。
皆さまのご存じの通り、昨夜はぐっすり眠れなかったのです。

「おい・・・、これ 持ってけ!」
ムブはガララのくるまっているブランケットをめくりあげると、目を覆うようにしてあてている彼の小さな手を優しくつかみ、袋を一つ握らせました。
ところどころ茶色く汚れた生絹色の麻袋です。
中を覗くと、楕円形の赤い木の実がたんまり入っていました。
この実はきっと ムブと初めて会った時に 彼がしきりと食べていたものです。

「それはグミの実だ、腹が減ったら食うといい。数日は飢えをしのげるはずだ。それと・・・。」
ムブは道具棚をゴソゴソして、赤く丸い形をした何かを引っ張り出してきました。
差し出されたそれは 紐のついた大きなイチゴという、たいへん可愛らしい小物です。
「ガララ、石を集めるだろう?これはヘビイチゴ爆弾だ。探検していると大きな岩を砕きたい時があるだろう。岩だけじゃねぇ、どこへ行ったって必ずや困難は壁のように立ちはだかるものなんだ。そんな時はこれを投げて突破口にしてくれよ。」
「しょうがねぇ、レシピもくれてやる。」と、彼は爆弾の作り方が記されている紙切れと共に、ガララのリュックを勝手に開いて詰め込んでいきました。



ガララは閉じようとする目をこすって、ようやく上体を起こします。
ムブがテーブルに用意しておいてくれた朝食ーーー花粉パンにヘビイチゴジャムを塗り塗り、ホットたんぽぽミルクでそれをグイと流し込むと でかける支度を始めました。

別れの時が迫るまでの間、ムブはガララに何度かこう投げかけました。
「わざわざ出発の時に引き返せだなんて、そんな水を差すようなこたぁ言わねぇよ。だけどよ、この先イバラが生い茂る。やっぱり引き返したほうがいいんでねえか?」
これ以上 誰かが行方知れずになってほしくない…そういった彼の思いをしっかり感じとったガララでしたが、首を横に振りました。
「僕の欲しいモノはいつだって いばらの道の先にあるんだ。例え体が穴だらけになっても、この歩みを止めるわけにはいかないよ。」

「もしも・・・何も見つからなかったら?」
「あるのかないのかすらわからない未踏の地。だからこそ一度、訪れておく必要があるのかもしれない。」
いつも猫背で臆病なガララですが、芯は真っすぐに通っています。
「おまえはその辺にいる変りばえのない普通の猿だ。別にファーストペンギンにならなくったっていいんだぞ。」



心配していたムブでしたが何度か一人でうなずくと、ふいにガララの体を力強く抱きしめました。
そうして、「約束だ。頼むから達者でいてくれよ!」
涙とハナミズで湿ったハンカチを振りなが玄関から見送ってくれました。
「ありがとう!必ずシルクジェムを見つけて帰るからね!」
ガララは大きく手を振り返し、さっそうと山の中へ入っていきました。
さあ、明るい内に目当ての輝石を見つけ出して、リリクたちが待っている家に帰ることにいたしましょう!




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