見出し画像

- 7 -

実際に足を踏み入れたコガネ山は意外にも、穏やかな場所のように感じました。
木漏れ日が降り注ぐ森のなか、草むらを踏みしめる度に色とりどりのコガネムシがほうぼうに飛び立ちます。
「まるで綺羅びやかな石のようだ・・・」
ガララは羽ばたくジュエリーにうっとり見惚れていました。
魅せられるままに しばらくは草原を飛んだり跳ねたりし、コガネムシを驚かせたり追い回して遊びました。

しかし、いつまでもそんなことをしていたら目当ての石を探し出す前に日が暮れます。
ガララは勢いよくピョンピョンピョン!
石探知機を片手に、もっと奥へさらに奥へと草木を分け入って進みました。
大きな石の下、小さな湖の畔、怪しい木の茂み、どこかしこ探し回りましたがペンデュラムは全く反応を示しません。
振り子を手にぶら下げながら もう一歩もう一歩と 更に山の奥地へと足を踏み入れました。

しばらく進みますと、眼前にムブの言っていたイバラ地帯が広がっているのが見えてきました。
イバラといえど、それはとてつもなく大きなバラで、いくつもある太い茎はうねり、他のツタと混ざり合いながら網目のようになっています。
そしてその茎には、ネコの牙に似た立派なトゲを身にまとっており、まるで侵入を防ぐ有刺フェンスが張り巡らされているかのようででした。

ガララは絡まり合う茎と茎の隙間に体をねじ込みなんとか入り込もうとしました。
しかし、トゲの先端がチョッキの生地にひっかかり途中から前へ進むことができません。
苦労して引き返し、元いた場所まで戻るとイバラ全体を見わたします。
“これほど茂みが広大だと遠回りして避けようもないし困ったな・・・。”
途方に暮れていましたが はたとヒラメキました。
「そうだ、グラッペを呼ぼう。彼ならひとっ飛びで向こう側まで運んでくれるはずだから。」




「グラッぺ」

鳥たちの住む町フェザータウンに住むペリカンでございやす。
町一番の大食らいで、彼のその大きな口は何から何まで丸呑みしようとする ゲテモノ食いで有名な鳥の男。

頭はずいぶんと弱いらしいですが、くちばしの下皮は非常に強く伸縮性があり、その気になれば口内に成猫100匹くらい収納できるほど。
なんでも、自分の腹を満たしてもらう代わりに 依頼者を背中に乗せて、必要であれば荷物を口に入れて目的地まで飛んで運んでいってくれる、たいへん便利な鳥なんでゲスよ。

それでは ブン、ブーン!



ガララはグラッぺを呼ぶためにペリカンホイッスルを吹き鳴らしました。
ピュルルル! ピュルルル!

しかしどうでしょう、待てども待てども上空にグラッぺの姿はみあたりません。
かわりにザラ紙の翅を持つ蝶ーー伝書チョウがひらひらと青空から舞い降りてガララの鼻先に止まりました。
翅にはこんなメッセージが記されています。

「危険区域にオレは行かない グラッペ」


「虫の知らせ」とはまさにこのこと。
この世界の住人は、伝書チョウというワーカーバグを使ってこのように手紙のやりとりをしています。

残念ながら今回はグラッペとの交渉は決裂したらしく、自分で乗り切るしか方法はなくなってしまいました。
ガララはペンデュラムを大きく振りかぶるポーズをとりました。
このまま力に任せてトゲに当ててしまえば、障害物を壊し前へ進むことができる・・・でもそれをすると薔薇は傷ついて弱ってしまうに違いない。
ガララはペンデュラムをポッケへしまうと、ピョンっと茎に大ジャンプしました。

「アウチッ!」
飛び乗ったら案の定、足の裏に鋭い痛みが走りました。
トゲの刺さった部位をふうふうして、慎重に手足のつかむ場所を選びます。
立派なトゲは 踏む場所さえ間違わなければ、足場にできることがだんだんとわかってきました。
早々にコツをつかんだガララは、まるで遊具で遊ぶかのように悠々とイバラフェンスをよじ登り、ついに向こう側まで渡り終え、「ひゃっほう!」
なんだか楽しくなって、お得意の側転を披露しながら探索を進めます。

イバラ地帯を抜けた先は空気がずっしりと重くなったように感じました。
日の当たりづらい陰気な森が続いており、さきほどまで元気に飛び交っていた虫たちも この辺りでは 鳴りを潜めているようです。
その静けさに心細くなったガララでしたが、石を求めてさらに奥地へと入っていきました。

探索ぶりがあまりにも熱心だったため、奇妙なエリアへやってきたことにすぐには気付くことができませんでした。
しっかりと大地を踏みしめて歩きたいのですが、いかんせん土がぐにゃりとして、ガララのその小さな足を飲み込んでいくのです。
不思議なのはこのぐんにゃり土は次第に砂ばかりになり、それは中央へいくにつれてだんだんと下がっているようでした。
ガララは知らない間に この逆円錐形のくぼみの中を、足をとられながら必死で歩いているのでした。

後ろに何かいる…!ガララは気付かない

「まいったな…身動きがとれないぞ。」
這うようにして上へあがろうとしますが、動くたびに足はサラサラの砂中へ吸い込まれ 歩くことがままなりません。
砂に足元をすくわれ何度もよろけている内についには転んでしまいました。
支えるために地面についた両手すらも、ずんずんと沈んでいくようです。
「どうしよう、全身が引き込まれていくよ!」

さらにおかしなことに まるで大雨が降るかのように空から大量の砂が降り注ぎました。
混乱し動けば動くほど、体はくぼみに吸い込まれ砂の雨はザカザカと落ちてきて 埋もれてしまいそうな勢いです。
そんな不可思議な土砂の流れに抵抗しようと必死にもがいている そんな最中でした。




◀ 第6話   ▶ 第8話


いいなと思ったら応援しよう!