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藍だけが、日本を覚えていた|第11話 風は、まだここにいる

    家賀を離れる朝。

    ホーホケキョ。
    山の向こうから、一羽。
    また少し離れた尾根から、もう一羽。

    蒼は立ち止まった。
    鳥たちが別れを惜しんでくれているのかもしれない。

    そして、頬を、風が静かになでていく。

    「これが、そよ風なんや。」

    そう思った。
    今まで知っていた風とは違った。

    強くもなく、冷たくもない。

    ただ、
    ここにいていいと伝えるような風だった。

    蒼が振り返ると、

    黒猫は、
    今日も山の宿「家賀の里」の縁側にいた。
    こちらを見て、また知らん顔をした。

    「嫌われたかな」

    そう言うと、宿を営む萌さんは笑った。
    「あの子は、いつもああなんよ」

    車が動き出した瞬間、
    黒猫は立ち上がった。
    けれど、
    追いかけてくることはなかった。

    ただ、じっとこちらを見ていた。
    まるで、
    蒼が何を持ち帰るのかを確かめるように。

    山はもう、幾重もの緑の向こうに隠れていた。

    家賀を離れてからも、
    鳥の声が耳から離れなかった。

    ——また帰っておいで。

    そう言われた気がした。

    《インベルート 第一領域完了》
    《継承者を確認しました》
    《次の記憶は、土地の外にあります》

    蒼は、
    ツルギスタの画面に浮かぶ
    無数の藍色の線を見つめた。

    一本一本が、
    どこかへ向かって伸びている。

    山を越え、
    川を渡り、
    海の向こうへ。

    まるで、
    誰かが歩き続けた跡のようだった。

    けれど、
    途中で途切れている線もある。

    消えたわけではない。

    誰かが、
    そこから先を忘れてしまったように。

    画面の中央に、
    新しい文字が浮かんだ。

    《継承を確認してください》

    蒼は答えられなかった。

    受け継ぐ。

    その言葉の意味は知っている。

    でも、
    自分が何を受け継いだのかは、
    まだ分からない。

    ただ、
    掌を見つめた。

    爪の間には、
    畑の土が、
    まだ少し残っていた。

    蒼は指先で払おうとして、
    そっと手を止めた。

    窓の外では、
    山並みが少しずつ遠ざかっていく。

    それでも、
    風だけは、
    まだここにいた。

    鳥は、
    山を越えていった。

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    https://note.com/kohaku_notes/n/n335dea9b48a3

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    https://note.com/kohaku_notes/n/n335dea9b48a3


     
     
    日本の色と、土地の記憶を物語に。 受け継いだものを、次の誰かへ。 祈りと、静かな強さをテーマに小説と作品をつくっています。

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