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濱口竜介『偶然と想像』偶然の先の想像を選び取ること

    KnightsofOdessa

    2021年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。同じ年に二つの作品を別々の映画祭のコンペに送り込んだ人物がこれまで何人いたか知らないが、取り敢えずその両方で主要賞を受賞した人物は限りなく少ないか初めてな気がする。ちなみに、同じ映画祭のコンペに作品を二つ送った監督は1968年カンヌ映画祭のヤンチョー・ミクローシュのみである(多分)。今年のベルリンにはもう一つ『Forest: I See You Everywhere』という短編集が選出されていて、少ないスタッフで短期間撮影というコロナ時代の映画製作体系を垣間見た気がした。

    ①魔法(よりもっと不確か)

    つーさん基ぐみちゃん以外の二人が激烈にヤバい三角関係という『寝ても覚めても』っぽさに感動。続く二話三話と比べると他の観客も引いてる感じがして面白かった。中島歩みたいな素で棒読み感のある人は、ハマグチメソッドとの相性が良いし、実際にこういう人を集めてる気もする。ホン・サンス全然観たことないので偉そうなことは言えないが、雑なズームを挟んだ二回戦という演出がなんかの能力者のエフェクトみたいで笑ってしまった。

    ②扉は開けたままで

    一話冒頭の"なんかそれもうエロくない?"はこっちに是非とも使いたい。扉を開けたままで官能的なシーンを棒読みで朗読していく状況もエロいが、渋い白髪の渋川清彦も十二分にエロい。駆け引きだと思っていたものが駆け引きではなくなる瞬間が好き。雑なズームはここでも登場するが、本作品でのズームの意味は数多の選択肢から正史を選び取る行為だと思っているので、この物悲しい自爆が正史なんだろう。奈緒の名刺の名字が瀬川になってると思ったが、流石にそれはキモすぎか。

    ③もう一度

    冒頭のSF設定いるんか?"旦那さん"という単語を言わずパートナーとか夫さんと呼ぶ丁寧さが良い。本人たちが否定しても、観客には占部房子と河井青葉が誰を演じているかなんて分からないので、互いの中に求めていた人物を見出しながら、本人同士として関係性を形成していくという展開がアツすぎる。主要登場人物は四人だが、それを二人で演じ分けながら、目の前にいる人物と不在の人物の間で交差していた矢印が互いに向かっていくのが本当に素晴らしい。これを正史に選び取ってくれてありがとう。

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    ・作品データ

    原題:偶然と想像
    上映時間:121分
    監督:濱口竜介
    製作:2021年(日本)

    ・評価:80点

    ・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品

    ★コンペティション部門選出作品
    1. ラドゥ・ジュデ『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』コロナ、歴史、男女、教育
    3. アロンソ・ルイスパラシオス『コップ・ムービー』メキシコシティの警察官についての物語
    6. フリーガウフ・ベネデク『Forest: I See You Everywhere』明けない夜、変えられない出来事
    7. マリア・シュラーダー『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』ガール・ミーツ・アンドロイドボーイ
    8. ホン・サンス『Introduction』ヨンホとジュウォンのある瞬間
    9. ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ『メモリー・ボックス』レバノンと母娘を結ぶタイムカプセル
    10. マリア・シュペト『Mr. Bachmann and His Class』ぼくたちのバッハマン先生
    11. ナジ・デーネシュ『Natural Light』ハンガリー、衝突なき行軍のもたらす静かな暴力性
    12. ダニエル・ブリュール『Next Door』ベルリン、バーで出会ったメフィストフェレス
    13. セリーヌ・シアマ『Petite Maman』一つの家二つの時間、小さなお母さんと私
    14. アレクサンドレ・コベリゼ『見上げた空に何が見える?』ジョージア、目を開けて観る夢とエニェディ的奇跡
    15. 濱口竜介『偶然と想像』偶然の先の想像を選び取ること

    ★エンカウンターズ部門選出作品
    1. Samaher Alqadi『As I Want』エジプト、"Cairo 678"の裏側
    2. Andreas Fontana『Azor』レネ・キーズはどこへ消えた?
    4. ユリアン・ラードルマイヤー『Bloodsuckers』もし資本主義者が本当に吸血鬼だったら
    6. Silvan & Ramon Zürcher『The Girl and the Spider』深い断絶と視線の連なり
    7. Jacqueline Lentzou『Moon, 66 Questions』ギリシャ、女教皇と力と世界
    8. ファーン・シルヴァ『ロック・ボトム・ライザー』ハワイ、天文台を巡るエッセイ
    9. ダーシャ・ネクラソワ『The Scary of Sixty-First』ラストナイト・イン・ニューヨーク
    10. ドゥニ・コテ『Social Hygiene』三密を避けた屋外舞台劇
    11. Lê Bảo『Taste』原始的で無機質なユートピアの創造
    12. アリス・ディオップ『We』私たちの記録、私たちの記憶

     
     
     
    東欧/旧ユーゴ/カフカス/中央アジア映画研究家。好きな女優は必ず寡作。筋金入りの非線形天邪鬼。2026年はブルガリアを中心的に。2020年代はカンヌ映画祭のコンペ作品をコンプするぞ! 依頼等はknightsofodessa0715 at gmail まで!