
キャリアとは、自分が地元に刻んできた轍。経営から逆算するAI時代のキャリア教育⑤
5回の連載最終回を書くにあたって、
あらためて「キャリア」という言葉を考えてみました。
1.キャリアの語源は「轍」
キャリアの語源は、ラテン語の「轍(わだち)」。車輪が通った跡、つまり、自分が歩いてきた道そのものです。そして10代の轍の多くは、生まれ育った地元の土地に刻まれます。
キャリアを考える上で、自分が地元に刻んできた「轍」の影響は、大きいものであるべきだし、自分のアイデンティティの形成要素になっていいものです。
ただし、いまの小中学生にとって、「轍」と認識できるほど、地元に凹凸のあるエピソードや想いはあるのでしょうか。
これこそが、ぼくの大きな問題意識のひとつ、学校におけるキャリア教育、地域学習の再設計が必要だと思う動機の一つです。
いま、学校で行っている地域学習は、過去のことや祭りなどの行事優先になりがちです。
校長をはじめ、教職員は県職員で定期的に異動してくるだけだから、地元出身者はほぼいなく、地域の人との交流も限定的。
そこで教育委員会や地域とネットワークを持つサポーターが入ってくれているのですが、多くの地域ではサポーターの方々が定年後の高齢者だったり、協力してくれる地域の人も平日に動ける——つまり引退後の人たちになりがちです。
そんな誰のせいでもない、構造的な課題だからこそ、ぼくらはもっと真剣に解決策を考え、全力で取り組むべきなんじゃないかなと思っています。それこそが、シビックプライドの芽になるのだと思います。
2.「自分が誰かわからない」問題
この先、みんなでAIを使うと、何が起きるのか?
出てくる答えは似てくるはず。
そうなったとき、
「自分じゃなくてもいい」
「自分が誰だかわからない」
と思っても不思議ではありません。
仕事はAIがやってくれて、楽に成果が出せるとしても、そもそもの仕事のやりがいやアイデンティティーを見失ってしまったら、本末転倒でしょう。
そのときに
「AIの答えはそうかもしれないけど、自分的にはこうしたい!」
と熱く語れるだけのアイデンティティを確立できるか?
どうすればアイデンティティーが確立できそうか?
これからのキャリア教育で、個人的に思う最重要課題です。
出身地や、育った場所、地元での経験は、その人だけのものです。
ただ、「地元を語れ」と言われても、何を語ればいいのかわからない人も多いはずです。その問いに、自分の言葉で答えてくれた高校生がいました。
3.高校生が語った「地元への恩返し」
ぼくらが2年前に立ち上げ、毎週一緒に活動している高鍋高校のまちづくりチーム「NABEGO」。
アルバイトが禁止されている県立高校の生徒たちが、月に一度、高鍋駅で「月市」というマルシェを開いたり、地元企業と共同で商品を企画したりしています。
まちづくりショート動画の発信は初回13万回も再生されたり。
NABEGOの助成をしていただいている三菱みらい育成財団の方々が視察にいらっしゃったとき、高校生のプレゼンの中に「地元への恩返し」というキーワードがありました。とても印象的だったので、一部を紹介します。

私にとっての「NABEGO」は挑戦と学びと新しい居場所です。
「挑戦」
今までにない経験、地元企業との共同企画や、月市では学校で物を売ることができないので、はじめての体験ができています。なによりも、私は高鍋町出身で、町への恩返しができるという面でも新しい挑戦になってます。
「学び」
普段接することのない人との関わり、地域について考えるイベントははじめてなので、新しい学びになってます。
「新しい居場所」
クラスでの自分の立場、居場所に悩んでた、なにか新しいことをやってみたいと思っていた時に、NABEGOを先生から紹介され、あたたかく迎え入れてもらって、教室以外にも新しい居場所を見つけられたのはすごく自分にとってプラスになっています。
失敗をおそれずに自分の意見を言える環境があるので、自分にとっても新しい居場所になってるなと思います。
こう感じて欲しい、とぼんやり思いながらやってきたことを、当事者の高校生が、自分の言葉で語りきったことに、ぼく自身、とても感動しました。
学校の評価軸はおそらくぼくの時代から変わらず固定的だと思います。成績、部活、クラスでの立ち位置。
その軸の中で、うまくいく子もいれば、うまくいかない子もいます。「居場所がない」と感じる子は、決して少なくありません。
NABEGOには、教室とは違う評価軸がありました。
地元企業と組んで商品を企画する。
マルシェで物を売る。
動画で発信する。
そこでは、成績や部活の実績は関係ありません。
そして、もう一つ大事なことがあります。
「失敗をおそれずに自分の意見を言える環境」
だったということです。
地域という場では、年齢も立場も違う大人たちと一緒に活動する中で、フラットに意見を言うことが当たり前になっていくし、自分の意見もよければどんどん採用され実現されていく。それが、「新しい居場所」になりました。
新しい居場所の選択肢になりうる——そう思って始めた活動の背中を、大いに押してもらった言葉でした。
4.主体的に「轍」を刻んでいく
進路指導は、多くの場合「将来、何になりたいか」「どの高校に行きたいか」を聞くところから始まると思います。
でも、その前に必要なことがあるとぼくは思っています。
「自分は、地元でどんな轍を刻んできたか」を振り返ることです。
地元企業と組んで商品を企画した経験。マルシェで自分の意見を言って、誰かに採用された経験。そういう経験の一つひとつが、すでに轍として刻まれています。「自分は何が得意で、何にワクワクするのか」——その輪郭は、未来にではなく、すでに刻まれた轍の中にあります。
「轍」を振り返らないまま「将来何になりたいか」と聞かれても、薄っぺらいことしか答えられません。そして、これから先のAI時代に、その薄っぺらさが「自分が誰だかわからない」という問題を助長していくことを懸念しています。
地元企業、地元の大人、地元のイベント。自分なりの「轍」の素材は、すでにあるはずです。進路を選ぶ前に、自分の「轍」を知る、なければ創る。キャリア教育が本来やるべきことだと思います。
ぼく自身、限られた地域ですが、小学生から中学生、高校生にかけて、総合的な学習の時間や地域クラブでの学習や活動をお手伝いしていますが、1万人の過疎地にも面白い人はたくさんいるし、体験もできます。産官学が連携して「総合的な学習の時間」など、地域学習カリキュラムの再設計をすれば、いまよりは「轍」の凹凸を増やせるはずです。
そして、一番目指したいのは、地域の歴史や現有資源を使って、未来、魅力的な地域になっていくためには何が必要で、自分にできることはなんなのか——この思考と実践の習慣を、地域の大人として一緒に並走していくことです。
連載を通して伝えたかったこと
①ワクワク仮説
「いいこと思いついた!」を起点に。AIへの指示の質はここで決まる。
②全体構想力
わからなくても全体像を先に描く。AIを使う側に立つ力。
③実行の初速
「やりたい」が生まれた瞬間に動く。初速は人から人へ伝染する。
④地元に刻んできた轍
地元との関わりが、もう一つの居場所と、自分のキャリアの軸になる。
最後に、この連載と同じテーマで先日、「高鍋西都市法人会総会」で講演した内容を紹介してくれた記事から抜粋させてください。これは、この連載で書いてきたことと、まったく同じ話です。プロの記者さんの方が、ぼくより説明が上手なので、そのままお借りします。
AIの時代に、人が磨くべきは
『心が動く体験』を自ら構想し仮説を立て、それをすぐ実行する初速。
仕事をつまらないものと思わず、自ら楽しみ方を見つける「面白がり力」を大切にしてほしい

ワクワクする仮説を持ち(②)、全体を描き(③)、すぐ動き(④)、地元に轍を刻むこと(⑤)。AI時代に必要なのは、特別な才能ではありません。それは、1万人の町でも、19,000人の町でも、今日から始められることです。
5回にわたる連載、お読みいただきありがとうございました。
この連載について
①長らく変わらないキャリア教育を、経営から問い直す
②「いいこと思いついた!」が地域を動かす、ワクワク仮説
③キッザニアの先に、未来の職業体験をつくる全体構想力
④アウェイな越境体験で試される、実行の初速
⑤キャリアとは、自分が地元に刻んできた轍——本記事