
キッザニアの先に、未来の職業体験をつくる全体構想力|経営から逆算するAI時代のキャリア教育③
公立中学校でキャリア教育が取り入れられて20年以上たちますが、一番わかりやすい取り組みは職場体験ではないでしょうか。
ぼく自身、都農中学校で職場体験の企画や運営を担当、協力いただく町内の事業所を開拓し3日間の体験プログラムを生徒たちと一緒につくってました。
経営・人事の現場を経験してきた者として、職場体験の本当の目的とは
「こんな仕事があるんだ」と知ること以上に、
「どんな仕事でも楽しみ方ややりがいを見つけられる」
であってほしいと思っています。
でも地方の現場では、そもそも事業所が少なく、忙しいため、ただ作業を振って終わりがち。
中学生の振り返りを見ても「挨拶が大事」「仕事って大変」とマナーや厳しさに関する感想が多いのが実情。
体験を通じて、子どもに何を感じてほしいのか
——せっかくの機会を最大限活かせるよう、学校と事業所間でもっと擦り合わせていく必要があります。
職場体験を通して、何を伝えるか?
ぼく自身が立ち上げに携わったキッザニア東京から参考にできることを紹介させてください。
1.寄せ集めではなく、全体の世界観をつくる
キッザニアの創業者、ハビエル・ロペスさんの全体構想力には、いまでも尊敬の念しかありません。
ぼくが一番、気に入っているポイントは、
フィクションなんだけどノンフィクションをフィクションにする
という設計です。
本当の街にある本物の仕事、商品、制服、品質、看板。
これが肝なのです。
ぼくが前職UDS株式会社でキッザニア東京を設計していた際、メキシコのキッザニア本部からいただいた仕様は、
照明は夕暮れ時に設定する。床の仕上げは石畳調
子どもの施設ではなかなかない仕上げです。
さらに、
新築なのにあえてエイジング加工をして、少し昔からある街並みを再現
また、各パビリオンのスーパーバイザー(キッザニアのスタッフ呼称)は
「○○ちゃんいらっしゃい」
ではなく
「○○さん、一緒に仕事しませんか」
と同じ目線で誘われます。
キッゾという疑似通貨には三井住友銀行のロゴが入っていて、
働いた分だけお金がもらえてキッザニアの百貨店で買い物ができます。
スポンサーにサインの掲示を2箇所に制限するのも合理的だと共感しました。キッザニアという世界観の中にスポンサーのショールーム的な広告表示が過度にあると世界観が壊れる。だから制限するのです。
これ全て、子どもが大人になれる世界観、全体構想が明確にあるので、空間設計からサインデザイン、接客、消費まで至る所に落とし込まれています。
寄せ集めただけの展示会・体験イベントとの違いは、
明確な世界観があるかどうか。
ビジネスの実態が何もない段階でこの世界観を全体構想していたということに、圧倒されました。間違いなくこの構想力が数十億の事業の心臓部です。
2.ワクワクする世界観営業でスポンサー獲得
キッザニアの仕事で一番大変だったのは、スポンサーの獲得でした。
最初は広告代理店が中心になってスポンサー誘致を進めていましたが、「チラシは置けない、キャラクターものは出せない、サインの掲示は2箇所まで」という縛りを入れる必要もあり、ほぼ99%断られていました。
どういう切り口でアポをとるか、どう口説こうかと試行錯誤するなか、まず意識したのがセールスキットの活用です。
キッザニアのセールスキットは世界観を伝えるためのボックスがつくられています。ボックスを開けると机いっぱいに広がる館内全体マップ、疑似通貨キッゾの現物など、見ているだけでワクワクするグッズで溢れていました。
CSRやブランディングの小難しい話をしながら、持参するものがめちゃくちゃ楽しげで、スポンサー企業も思わず笑顔になる。
このバランスが絶妙でした。
全体構想と世界観があったから、数億円ものスポンサー料営業ができました。
「なぜこの場が必要で、なぜここにこどもが来るとワクワクするのか」
という大きな絵を具体的に描いていたから、高難易度の交渉で相手の心を動かすことができました。
3.リアルこそ最大のエンターテインメント
キッザニアを体験したお子さんの親御さんから手紙をもらったことを今でも鮮明に覚えてます。
モスバーガーのパビリオンを体験した子どもは自分で作ったモスバーガーを食べて帰りました。その帰り道、本物のモスバーガーがあって、どうしても寄りたいと泣いて聞かなかったとのこと。親は「さっき食べたでしょ」としぶしぶ連れて行ったら、食べた瞬間に満面の笑みになったそうです。自分がキッザニアでつくったものが本当の店で出てくるものと同じだ!ってことが確認できて、より嬉しさが増したんでしょうねと。
「自分がキッザニアで作ったのと同じ味がする!」
リアルにこだわったから、子どもの体験がリアルになった。
朝日新聞のパビリオンで新聞記者を体験した子が、本当に朝日新聞の記者になったという実例もあります。
家と学校の往復だけでは認知できる仕事は限られている。本物の体験は、その子の人生に影響を与えます。
子どもたちを見ていて一番感じるのは、いろんな人と出会ったり、いろんなことを体験できることで本人も知らなかった選択肢にめぐりあえることの大切さです。
全然興味がなかった職業が意外と面白かったり、
「仕事ってやりようによっては全部楽しいのかも」と感じる瞬間。
それがキャリア教育の本質だと思っています。
4.いまの職場体験に足りないもの
キッザニアから学べたことは3つ
①各論じゃなくて全体構想をつくる
②ワクワクする世界観
③限りなくリアルに近づける
キッザニアを経験したからこそ、いまの公立中学校の職場体験で、少しでも上記の3要素を反映させたいなと思ってます。
地元の事業所に3日間行く。
受け入れ側も忙しいから作業を振って終わる。
「挨拶が大事だとわかりました」という感想文を書いて終わり。
職場体験で、まず取り組みたいのが「仕事の楽しさ」を伝えることです。
「体験させる」ことが目的になっていて、「この体験で子どもに何を感じてほしいのか」という全体構想がないように感じます。
そして、仕事を楽しんでいる大人が職場体験の現場にいるかどうか、それが一番大事なのではないでしょうか。
中学生が職場体験に行くことで、受け入れ側の事業所は仕事の楽しさを伝えるため、あらためて自分の仕事の楽しみ方を再発見する。
そんな気づきのサイクルが習慣化していけば、子どもにとっても大人にとっても毎年の職場体験が意味のある楽しみなことになるのではないでしょうか。
5.AI時代の職業体験に変わらず必要なこと
職場体験に全体構想力が必要というのは、体験を設計する大人側だけでなく、体験する中学生たち自身に身につけてほしいことでもあります。
それよりもたまたま割り当てられた職場のことを、事前から綿密にリサーチして、その業種や職種のこれからのAI代替可能性を想像したり、いろいろな角度から仕事を考えてみる。
体験当日は、事前にイメージしたことを検証しながら、自分なりにどんなことを提案したり実践すればその職場、仕事に貢献できるのか、職場の人に教えてもらいながら、対話しながら、最後は提案してみる。
そして、一番大切なのは接する大人たちに、この仕事のどこに楽しみを見出しているか、もっとやりたいことはなにか、など「楽しみ方のコツ」を引き出してくる。
こんな前提で取り組めば、3日間、受け身でやらなきゃいけなかった職場体験が、リアルな全体構想力を身につけるまたとない機会にすることができると思ってます。
AI時代、中学生が社会にでる10年後にどんな仕事が残ってて、新しく生まれる仕事はどういうものなのか?
大人にもわからないことで悶々とするよりも、環境がどう変わろうが、変わらない「仕事のやりがい」「仕事の楽しみ方」をリアルな体験から見つけ出すことが、AI時代のキャリア教育の出発点になります。
わからなくても全体像を先に描く。
描いてから、動きながら学ぶ。これが全体構想力の本質です。
周りにいる大人の責任は重大です。
あなたは、仕事が楽しいと子どもに言えますか?
いつでも「仕事は楽しい!」と子どもに言える自分でありたいと思います。
次回は、HOSTEL ALAの開業とスタディツアーの話から、実行の初速を掘り下げます。修学旅行を越境体験に変えるために必要なことを書きます。
この連載について
①長らく変わらないキャリア教育を、経営から問い直す
②「いいこと思いついた!」が地域を動かす、ワクワク仮説
③キッザニアの先に、未来の職業体験をつくる全体構想力——本記事
④修学旅行を越境体験に変える、実行の初速
⑤キャリアとは、自分が地元に刻んできた轍