
#創作大賞2026 #エンタメ原作部門 納豆チャンピオンへの道 第19章|How To Make Natto-Champion|義祖母からの最高の贈物とテレビ局との直談判
運命の放送日の三日前、11月13日の朝に
♪~♫~
出勤前に家の電話が鳴った。
妻の実家からだったので、妻が電話に出た。
「もしもし」
「お母さんだよ。
あのね…婆ちゃんが今朝亡くなった」
「え?入院中のあや婆ちゃんが?…」
「夕べ体調が急変して…」
3月から入院していた87歳の義祖母の訃報を突然受けた。
「2月に亡くなったお爺ちゃんを追いかけちゃったんだね。
葬式の日程はもう決まったの?」
「通夜は15日、告別式は16日の予定だよ」
「16日ってTVチャンピオンの放送日だよね?」
妻は電話口でソワソワし始めた。
「あぁ!そうだったね!」
妻の実家は福島県いわき市。
本来福島はテレ東のキー局がないので、放送日は未定だったけど、妻の実家があるいわき市の小名浜地区は福島県内では数少ないテレ東が受信できるエリアだった。
「葬式が終わったら家族みんなで観れる!」
不謹慎かもしれないけれど、お婆ちゃんを亡くした悲しみの中に、パッと一筋の希望の光が差し込んだような気がした。
家族みんなの顔に、少しだけ笑顔が戻る予感がした。
そして僕は15日から3日間の忌引きを貰い、家族5人で岩手県盛岡市から福島県いわき市へ5時間かけて車で向かった。
実家近所の斎場で通夜と告別式が粛々が営まれ、葬儀のあと、妻の実家に親戚やご近所さんが勢ぞろいして、TVチャンピオンを観戦した。
「うわ!パパがここにいるのに、テレビに映ってる!」
と子供たちは大はしゃぎ。
「すご~い!おじさんカッコいい!!」
と姪っ子や近所の子供たちから熱い声援を受けた。
「やだー!私鬼嫁みたいな顔してる!!」
と、妻は冒頭のプロフィール映像で、長男をオンブしながら、買い物に同行する姿を見て、笑いながら怒っていた。
「これは悲しいお葬式にしないようにと、
お婆ちゃんからの最高の贈物なのかもね」
と義母は目を細めた。
「岩手にいたら、こんなに大勢で喜びを共有できなかった…
お婆ちゃん、ありがとう!」
身内の不幸とは言え「怪我の功名」のような奇跡を起こした義祖母に感謝した。
優勝が決まった瞬間、告別式が終わったばかりの家とは思えないほどの拍手と笑いに包まれた。
そして僕のケイタイに茨城の両親や親戚・友人から次々とお祝いの電話が掛かってきた。
最後の電話は日付をまたいだ0時過ぎ。
最後の相手は第1ラウンドに応援に来た「ポチ」こと下田さんだった。
彼は納豆開発委員会発足前の子育てチャットからの友人だった。
「やっと電話繋がったよ!
がんも、おめでとう!」
「ポチの応援のおかげで運気が上がったよ」
「ところで、納豆開発委員会の掲示板見たか?
凄いことになってるぞ」
当時は自宅のデスクトップのPCしか持たず、リアルタイムで掲示板を見ることができなかった。
「メンバーからのお祝いのメッセージかな?」
「それだけじゃないぞ!
番組始まった途端、視聴者からの応援メッセージが100件以上も来てる」
「マジか!返信するのも大変そうだ!」
直近の納豆開発委員会には一日せいぜい20人位のアクセスで、掲示板への書き込みは週に1~2件くらいだった。
番組の影響力をまざまざと知らされた夜となった。
そして翌日、いわきの妻の実家を出発し、盛岡へ帰宅した。
その週末は掲示板に書き込まれた200件近くのメッセージに一つ一つ丁寧に返事を書いて、納豆王の余韻に浸った。
しかし翌週の月曜日に出勤しても、岩手では放送前だったので、上司からも取引先からも納豆王の話は何一つ出なかった。
そこでプロフィール撮影に協力してくれたジャパン建材の山田さんにいち早く連絡するために、僕は岩手でTVチャンピオンが放送されていたIBCに放送予定日を確認した。
「スミマセン。先週テレビ東京で放送されたTVチャンピオンの納豆王選手権はいつごろ放送予定ですか?」
すると、電話口に出た番組編成部の担当者は
「だいたい3週間後ですが、どの回を放送するか未定です」
「日程が分かり次第、連絡もえますか?」
「なぜですか?」
担当者は怪訝そうな声で聞いてきた。
一視聴者のあまりにも身勝手で厚かましいお願いに、僕自身も戸惑いはあったが、ここで身分を明かさなければ、話は前に進まない。
ごくりと唾を飲み込んでからオドオドしながらも実情を話した。
「じ、実は納豆王選手権に出場して、ぼ、僕がチャンピオンになったんです」
「ホ、ホントですか?!」
と、担当者は裏返った声で叫んだ。
プロフィール撮影の際にはIBCのカメラマンが一緒だったけど、番組編成部にはその話は伝わっていなかったようだった。
「ちなみに岩手では通常60分の短縮版が放送されてますが、90分の完全版の放送は可能ですか?」
この際だから無理を承知でダメ元で直談判してみた。
「じょ、上司に確認して、ご、ご連絡します」
と、担当者は慌てた感じで電話を切った。
しかし、なかなか返事が来ないので、半分諦めかけていた翌週の月曜日。
僕のケータイにIBCから電話がきた。
緊張しながら電話に出ると、相手はなんと番組編成部長から直々だった。
「蒲生さんですか?TVチャンピオンの件、岩手からチャンピオンが誕生したんです。喜んで完全版で放送させてもらいますよ」
「本当ですか……!ありがとうございます」
「ちなみに放送予定は12月9日の土曜13:00からになります」
「わかりました」
ケータイを握る手に思わず力がこもった。
しかし、編成部長の言葉はそれだけで終わらなかった。
「ちなみに、蒲生さんは盛岡にお住まいですよね。
できれば前日の8日、告知を兼ねてIBCラジオの朝の番組に出演してもらえませんか?」
「え? ラ、ラジオですか……?」
予想だにしない大きな展開に、今度は僕の声が裏返った。
「ええ、アナウンサーの質問に答えていただくだけで大丈夫です。
納豆王になったことは言ってもいいですが、
詳細はネタバレにならない程度でお願いしますね」
「それって……収録ですか?」
「いや、8時のニュースの後の10分程度を、生放送で」
――生放送。
しかも「ネタバレしない程度にコントロールしろ」だって!?
収録ならいくらでもやり直しが効くが、仕事前に一発勝負の生放送でそんな器用な芸当が僕にできるだろうか。
一気に脇汗が吹き出してくるのを感じた。
「……わかりました、やらせてください」
「ありがとうございます! スタジオの場所は盛岡市志家町……」
「あ、僕の会社の事務所、IBCさんと同じ志家町なんです。
場所はバッチリわかります」
「ええっ!? そうなんですか!」
今度は編成部長の声が裏返った。
運命の歯車が、ものすごいスピードで回り始めた。
こうして、岩手でのテレビ放送を前に、僕はIBCラジオの生放送に出演することが決まってしまった。
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