
解き(土)の章∞第97話|”緑”里緒の靴

函館の
ガソリンスタンド
女性店員さん
粋な計らい。
巡礼は、巡霊へ至り。
御霊も、清められた。
――はず、だったのに。
不穏な雲行きに
覆われる。
峯に崩れて
影が覗く。
帰りの道中にて
立ち寄った
ハンバーガーのお店
「函館ラッキーピエロ」。
遅めの昼食を兼ねての
立ち寄りだった。
妻は
意気揚々と店内や
出てきた食事を記念撮影。


ところが、で、ある。
食べようにも、
食べれない。
食事が、喉を、通らない。
胸のムカつきを覚える。
食欲が、ない、との事。
幾多の治療でも
機能的に食べれない
のど飴が舐めれない
……等々はあった。
が。
食欲そのものが削がれる
里緒の姿は
はじめてだ。
何とも言えない、
空気の歪み。
~
~
一部だけを食し、
残りは
持ち帰りとした。
ラッキーピエロの
ハンバーガー。
どこか、
寂し気な
ハンバーガー。
後部座席に
静かに、佇む。
それでも。
気を取り直して――
夕方頃、
ラッキーピエロ、発。
しばし
湾岸沿いの
国道5号を進む。
再び、
渡島の海を望む。
夕方に
なりかけていたのもあり、
来た時(往路)とは
これまた違う見え方だ。
景色に
別な味がのる。
八雲の絶景の海岸線
我らは、ひたすら走る。
美しい。
美しい。
橋を渡り
丘を越え。
続く
続く
渡島の海たち。
風景が佳いと
会話もはずむ。
たわいのない会話で
それなりに盛り上がる。
「海、
青いね」
「白いね」
「うん」
「うん」
「ちょっと
スピード」
「スピード?」
「車の
出し過ぎ
気を付けてね」
「はー
はい、はい。
うん、
気をつけましょう」
やがて
夕日が目に差し
沁みてきた。
陽が暮れ、はじめた。


八雲。
長万部。
再び通過。
ここで
渡島と別れ。
ここから
高速。
しばし走ると、
胆振と後志へと触れる
黒松内へ。
長い長い山間部を越え
室蘭へと至る。
苫小牧
千歳
そして、
夜八時。
我らの”里”へと帰還する。
今日は
入院前夜。
朝から
入院する。
準備も兼ね、
コンビニへ。
駐車場に
車、停める。
ここで
また、
空気の歪み。
~
~
足を引きずる、里緒。
びっこひく、右足。
右の臀部と腰が、
痛むと
訴える妻。
長旅のせいだろうか。
そのようにも思った。
でも、
でも。
何か、違う
匂いがした。
~
~
なんだか――
10年前。
初めて出逢った日。
この日の
彼女と
どこか、重なった。
(※緒 ∞ 回想)
🔗 命の刻みを告らせる出逢い・前編 / 後編
あの日は
豪雪。
しばらくして、
外は晴れたが、
次の予定が入っていたため、
送ってあげれなかった。
「大丈夫ですか?」
僕が聞くと、
「全然大丈夫ですよ」
彼女は力強く、
明るく返した。
そして――
彼女は、
大雪の中を凛と、
帰って行った。
その、
後ろ姿。
明るさを感じる
一方、
どこか
暗さも感じた。
なぜだか
ここで
思い出す。

三ヶ月。
十か所。
総延長1400キロ。
海を割り、
峠を越え、
山の上に立ち。
長いようで
短いようで。
でも、
まもなく
巡礼の旅路も
終わる。
ここで
ふと。
彼女の
足元をみた。
共に歩き続けた
”緑色の靴”。
なぜだか
目に
付いた。
我らの
黙示録は
どこへ
逝く――

明日、
17日。
――
2025年
令和7年
9月17日。
――
光を信じて、
妻は、
再び入院する。

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