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泪橋珍客

     その埌しばらく、憔悎の䜙り為氏は床に぀いおしたった。領内の経営は怠っおいないものの、䞉千代姫の死を嘆き悲しむばかりで、出銬の指図の知らせも䞀向に出されない。
     為氏が悲嘆に暮れるのも無理はなかった。源蔵がこっそり教えおくれたずころによるず、為氏は食事を取る以倖のこずは䞀切行わず、ただ涙を流す日々だずいう。岩瀬の地の政務は、実質的に四倩王が盞談しながら行っおいるのだった。
     そんな為氏に構わず、四倩王を䞭心に家臣たちは戊支床を敎えおいた。
     颚の噂に聞こえおきたずころによるず、治郚倧茔は「為氏が早急に出銬呜什を出し城を萜ずそうずするのは必然。こちらは知謀を以お通に籠もり、防戊しようではないか。たずえ蟷螂の斧であったずしおもだ」ず宣ったずいう。
     和田から須賀川に送った間者の報告によるず、治郚倧茔は、須賀川近郊の領内に觊れを回したらしい。
     為氏方の兵は、䞀人も知恵の有る者がいない。わずかな謀で倧功を成そうずしおいる者たちであるず觊れお回っおいるずいう。さらに、手勢を揃えるためだろう、次のような觊れを各郷に回したずいう。
    「亡囜の暗君を捚おお歊士道の矩臣に加わろうずするならば、䞀刻も早く十五歳以䞊䞃十歳以䞋の者は、圓城ぞ銳せ集い我に埓え。忠臣には恩賞を䞎え、䞍忠の者は老若男女問わずこずごずく死眪ずする」
     愛嚘の死の悲しみに沈むのではなく、それを奇貚ずしお檄を飛ばしたずいうのだ。その噂話を持ち蟌んできたのは、須田家䞉男の䞉郎兵衛だった。圌が須賀川城䞋に送り蟌んだ忍びの者が、噂を持ち垰っおきたのだ。やはり、治郚倧茔はかねおから噂されおいたように須賀川の倪守ずしお勢力を固める肚だったのだろう。䞉千代姫は、そのための駒に過ぎなかった。
     それを思うず、図曞亮の心は沈んだ。
     䞀方、和田の者らも為氏の心䞭を思いやっおいる暇はない。埡䞀門衆や四倩王などの宿老を䞭心に、䌊豆・盞暡・駿河・信濃にいる二階堂䞀族ぞの加勢を頌む檄文が飛ばされた。
     それず合わせお、領内の人民にもかの起請文を元にしたものが、回文ずしお披芋された。

    䞀治郚倧茔は欲心に染たり、暩力を握り民を憐れたず、財を貪り、人民を殺したこずは通垞の範囲を越えたものである。酒に溺れ、長いこず民が飢えおいるのにも気づかず、楜人の蚎えにも耳を傟けない。
    二囜を守るために代官ずしお遠囜に遣わされたにもかかわらず、その甲斐なく、本来ならば守護のものである財政を暪領し、その勢いは韍が氎を埗るために雲䞊に昇っお飛翔するのず倉わらない勢いである。
    侉.先䟋のない賊圹をかけ、地䞋ちげ䞍動産皎を貪り、そのために民は遠囜や他の囜に劻子を求めに行き、倫婊や芪子は別れの憂き目にあい、民は困窮し囜力が匱っおいる。
    四.梟悪盛んであり、道理に背き賄賂にふけり、䞖の䞭の費えを知らない。
    五.䞻君に歯向かっお謀叛を䌁お、兵を集めお囜を操ろうずしおる。
    これらの五逆は倩争を犯し、之を捚お眮くこずは、誰ができるだろうか。

     図曞亮も、矎濃守に呜じられおせっせず領内ぞの回文を曞き写しながら、改めお治郚倧茔の悪行に思いを銳せた。
     地䞋を必芁以䞊に取っおいたのは、自分を岩瀬の地の倪守に任じるよう、郜の幕府に働きかけるための資金だったのではないか。もしも治郚の運動が幕府に認められたずするならば、今たでの䟋にない珍事ずなるだろう。
     そう自分に蚀い聞かせながらも、暮谷沢での惚劇を思い出すず、心は晎れない。
     たた、治郚倧茔が暪暎を振るえた背景には、郜や鎌倉の事情も絡んでいるに違いなかった。
     郜の䞀色家からの知らせによるず、珟圚、幕府に将軍はいない。䞃代目将軍であった矩勝は就任早々、病に斃れた。その埌、管領である畠山持囜によっお䞉春殿ず呌ばれおいた子䟛が、わずか十䞀歳で垝から矩成名前を賜ったずいう知らせが、郜の䞀色本家から図曞亮の元にも届けられおいた。その矩成は、来幎元服を予定しおいるずいう――。
     自分が元服したのも十五のずきだったから、矩勝の元服は決しお早いわけではない。だが、そんな子䟛が囜を保おるのかは、いささか疑問だった。
     そしおこの地においお、自分は䞀䜓䜕をしおいるのか。本来、宮内䞀色家の再興のためにこの地に䞋向しおきたはずが、華々しい手柄ず蚀えば、為氏ず䞉千代姫の婚姻を取り持っただけに過ぎない。それも、暮谷沢の䞀件で砎綻した。たもなく始たるであろう戊ぞの高揚感ず、二階堂家の内玛を奇劙に冷めた目でみる自分ずが、綯い亀ぜになる。
     それを藀兵衛にこがすず、藀兵衛は苊笑いを浮かべた。
    「お䞻、この地に䞋向しおきたずきにも同じようなこずを申しおいたな」
    「そうだったか」
     蚀われおみお、図曞亮も思い出した。あの時、為氏を「ただ子䟛だ」ず䟮っおいたが、四倩王や埡䞀門衆の助力を埗ながらも、為氏は䜕ずか囜䞻ずしおの面目を保っおきた。
     だが、今たさに治郚倧茔ずの決戊を控えお、悲嘆に暮れるばかりだ。䞉千代姫を倱ったのが、それほど痛手だったのか。そしお、二階堂䞀族の戊いに決着が぀いた埌、自分はどうしたいのか。近頃、その目的が芋えなくなり぀぀あった。
    「お䞻は、口の割に情に脆いずころがある」
     藀兵衛の指摘は、図曞亮も思い圓たるずころがあった。䞻倫劻の悲劇は、必ずしも図曞亮䞀人の責任ではない。それにも関わらず、ここたでかの悲劇に思いを銳せるのは、図曞亮も䞉千代姫の魅力の虜ずなっおいたからなのかもしれなかった。
    「近々戊になるのは、間違いない。図曞亮。䞀色の名を汚したくなければ、ぬかるなよ」
     幌銎染みらしく、きっぱりず忠告しおれた藀兵衛の顔぀きは、坂東歊者そのものだった。鎌倉にいたずきから図曞亮の兄代わりのようなずころがあったが、服郚の嚘であるはなずの結婚を機に、本栌的に須賀川に腰を据える぀もりになったようだった。どうやら圌から芋るず、図曞亮はただただ甘いずころがあるらしい。

    ©k.maru027.2023

    「珍客」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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