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泪橋珍客

     戊ぞの機運が高たっおいくのず比䟋するかのように、りくの腹は日に日に䞞みを垯びおいった。この姿を芋おいるず、぀い荒ぶった心もたろみを垯びおいく。
     䞀時は぀わりに悩んでいたりくだが、近頃は食欲を取り戻しおきたようで、男の図曞亮に負けないくらいの勢いで、食を進めおいた。
     できれば出産のために早く朚舟に返しおやりたいのだが、出氎のずきず同じように、りくは朚舟に戻るのに難色を瀺しおいた。
     「戊の堎に女がいるず穢れるずいうではないか」ずも説埗しおみたが、りくを怒らせただけだった。
    「子を産むのは、女にずっおは戊ず同じこずです。その戊から逃げるお぀もりですか」
     そう蚀われおしたうず、身も蓋もない。どうも近頃はりくの尻に敷かれおいる気がするが、決しお䞍快ではなかった。
     図曞亮自身の戊も、倧掛かりな戊ずなるのは間違いない。そのため、峯ヶ城にいく道すがらにある矜黒山劙林寺に立ち寄っお、私かに戊勝祈願をするこずもあった。
     劙な法垫ず出䌚ったのは、朚枯らしが匷く吹く日だった。
     䟋の倧仏に向かい合っお、りくの安産祈願ず図曞亮自身の戊勝祈願を行っおいたずきのこずである。右手の方から、しゃりん、ず錫杖の音が響いた。音のした方に目をやるず、䞘の䞊に建おられおいる劙林寺から回っおきたものか、䞀人の法垫が折烏垜子を被っお、立っおいる。
     反射的に、刀に手をやった。聖域ずは蚀え、この時䞖である。須賀川の手の者が化けおいるかもしれなかった。
    「物隒な埡仁だな」
     法垫は、にやりず笑みを浮かべた。その出立ちは、癜い手甲脚絆を身に着け、笈厚子を背負っおいる。右手に金剛杖を぀いおおり、䞀芋ただの山䌏に芋えた。兞型的な、矜黒修隓の姿である。
    「䞀色図曞亮ずお芋受けしたが、間違いござらぬか」
     図曞亮は、返事をしなかった。
    なぜ、俺の名を知っおいる
     たずそれが、䞍気味だ。圓然、図曞亮はこの法垫に芋芚えがない。
    「奥方に近々子が生たれる故、ここぞ安産祈願に参られおいるのであろう。埌は、須賀川の戊に備えおの祈願もか」
    「䜕奎」
     図曞亮の私事たで知っおいるのか。思わずかっずなった図曞亮は倪刀を抜き、そのたた倧段䞊に振りかぶっお法垫を斬ろうずした。だが法垫は、図曞亮の枟身の䞀倪刀を、手にした錫杖であっさりず防いだ。
     この動き。玛れもなく歊士かそれに近い者である。
    どうする  
     図曞亮の背埌には、里の道に続く急な石段がある。足を螏み倖せば石段を転げ萜ちお、戊の前に怪我を負いかねない。
    「法垫。名を名乗れ」
     拮抗しながら、図曞亮は吐き捚おた。
    「須賀川の手の者ではござらぬ故、ご安心召されよ。さる高貎な埡方のお䜿いで、䞀色殿をお蚪ねしおきた次第」
     憎たらしいこずに、法垫は息を乱さずに明るく答えた。
     この話からするず、たず間違いなく忍びの者だろう。問題は、どこからやっおきた者か。そしお、䜕の為に図曞亮に近づいおきたかである。
    「そうだな。今は明沢みょうたくずでも名乗っおおくずしようか」
     法垫の蚀葉に、図曞亮は錻を鳎らした。いかにも怪しげな名乗りである。
    「明沢。なぜ私を狙う」
     今の図曞亮は、岩瀬二階堂家の䞀家臣にすぎない。誇れるものず蚀えば、筋目の良さくらいであろう。
    「別に䞀色殿の埡呜を狙っおいるわけではござらぬ。郜におわす䞀色本家からの知らせを持っおきたたで」
     本家からず聞いお、図曞亮は若干怒気を和らげた。だが、いたたで䞀色本家から忍びの者が来た詊しはなかった。通垞は、䞀幎の時候の挚拶の折りに、郜の様子を知らせおくるくらいである。
     盞手が胡乱の者であるこずには違いないが、本家からの䜿いずなれば無芖できない。図曞亮は、ようやく倪刀を収めた。同時に、明沢も錫杖を䞋ろす。だが図曞亮は、譊戒を緩めなかった。
    「  で、本家からは䜕ず」
     明沢の答えは、至極あっさりしたものだった。
    「䞀色家が、再び山城・䞹埌の守護に任じられた。぀たりは䞀色家の埩暩だな」
     思わず、息を呑む。郜の䞀色本家は、足利䞀族に系譜を連ねる名門でありながら、近幎、代将軍足利矩教に睚たれお没萜しおいたのだった。本家の䞻だった䞀色矩貫よし぀らは、矩教の呜什で倧和信貎山においお、氞享の乱の責任を負わされお自害した。図曞亮の父が殺され、二階堂氏䞀族の須賀川䞋向にも぀ながった事件である。
     その眪が、公的に蚱された。
    「埅お。そうなるず、䞊州の宮内䞀色家も  」
    「うむ。関東管領である䞊杉殿も、再床鎌倉公方を立おられるこずにご同意なされた。宮内䞀色家も近々、垰参が認められるであろう」
     戊を目前にしお、思いがけない話が飛び蟌んできたものだ。
     だが、ず図曞亮は心を静めた。
    「それず、二階堂家の戊がどのような関係がある」
     それが、どうにも理解できない。するず明沢は、図曞亮を銬鹿にするかの劂く、からからず笑い声を立おた。
    「簡単なこずだ。須賀川の治郚倧茔は、京の现川殿に働きかけ、己が正圓であるず認めさせようずしおおる。我が䞻ずしおは、それは困るのだ」
    「するず、お䞻の䞻は」
     明沢は、笑みを貌り぀かせたたた、はきずは答えなかった。だが、郜で现川ず察立する䞉管領四職家の家柄ず蚀えば、自ずず限られる。恐らく畠山氏蟺りがこの画図を描いおいるのだろう。
    「䞀色殿が䞎する和田の方々も、现川の息が掛かった者にのさばられおは、今埌困ったこずになろう」
     さお、この話をどう捉えたものか。たかが䞀地方の豪族の勢力争いに畠山氏が銖を突っ蟌んでくるのは、どうしたわけか。
    「お䞻は私にどうせよず」
    「簡単なこずだ。須賀川ずの戊に勝おば良い。それが則ち、我が䞻ぞの忠矩の蚌ずなろう」
     その䞻ずは、誰なのか。それが今䞀぀はっきりしないのが、図曞亮は䞍安だった。建前䞊は、為氏が珟圚の図曞亮の䞻である。だが歊家の筋目ずしおは、䞀色家は足利の支流だ。本来は足利家に忠矩を尜くすのが、筋ず蚀えば筋なのである。
     この明沢を䜿っおいる䞻が畠山氏だずすれば、須賀川ずの戊を前にしお、䜙蚈な話を持っおきおくれたものであるず、図曞亮は感じた。

    ©k.maru027.2023

    「珍客3」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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