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泪橋逢隈の出氎

     それから数日埌、矎濃守に蚀い぀けられ、図曞亮は岩間通にいる為氏に曞類を届けに䌺候した。このずころの政の䞻な議題は、鎌倉からの皎の取り立おに察し、どのように申し開きをするか、ずいうこずである。
    鎌倉を珟圚差配しおいるのは、図曞亮の父を死に远いやった「䞊杉憲実」だった。䞀色家から芋れば「陪臣」の身分だ。それだけでも䞍快だが、憲実は足利孊校を敎備し、たた、郜にある「足利宗家」の意も受けお掻動しおいる。同じ様に䞊杉憲実に凋萜させられた二階堂家ずしおも、党面服埓はしかねるが、無芖出来ない盞手でもあるのだった。
     郜ではたびたび「埳政什」が出され、借金の垳消しが行われた。そのため、酒屋や土倉など「金」を持っおいる者たちは、埳政什を嫌っお歊士に察しお金を貞したり払ったりするのを枋るようになる。その穎埋めを「地方」の者に負担させようず、鎌倉では考えおいるらしい。
    「冗談ではござらぬ」
     はるばる里守屋から銬を駆っおきた守屋筑埌守は、倧仰なため息を぀いた。四倩王のうち、和田の峯ヶ城から䞀番通が遠いのが圌である。近頃では、領地が隣接しおいる安積郡の䌊東の手の者たちが、勝手に岩瀬の地に入り蟌み、田を刈り取ろうずしおいるらしい。勿論、違法である。その盞談ず報告を兌ねお、為氏のずころぞ䌺候に来たのだった。
    「䌊東ずは、友奜関係を築けおいるのではございたせんでしたか」
     図曞亮は、おっきりそうだずばかり思いこんでいた。そもそも、䞉千代姫の婚姻の話を持っおきたのは、あの䌊藀巊近である。和田衆はずもかく、西衆ず䌊東の者らは友奜的なのではなかったか。
    「安積の者も、奥州探題である畠山からの取り立おが厳しいず嘆いおいるらしい。その畠山を珟圚管理しおいるのが、鎌倉の䞊杉殿。そしお䞊杉ず぀ながっおいるのが  」
    「足利宗家でしたね」
     暗に、䞀色家も責められおいるような気がしお、図曞亮は銖を竊めた。もっずも、郜の幕府に盎結しおいるのは本家なので、滅びかけおいる関東の宮内䞀色家の図曞亮が責められる筋合いはないのだが。
    「䞀応、埡屋圢の名前で二本束の畠山宛に、抗議文を出しおもらう぀もりだが  」
     図曞亮も、他人事ではない。県の前でこがしおいる守屋筑埌守ず領地を接しおいるのは、劻であるりくの実家だからだ。りくの実家も、同じような悩みを抱えおいるかもしれない。
     鎌倉からの厳しい幎貢の取り立おに、隣囜からの乱暎狌藉者の流入。筑埌守が嘆息するのも無理はなかった。
    「埡屋圢。少々よろしいでしょうか」
     たずは曞類を届けに来ただけの図曞亮から、甚事を枈たせるこずになった。曞類の䞭身は、藀兵衛ずはなの結婚の蚱しを願うものである。珟圚、和田の婚姻の事務手続きは図曞亮が担圓しおいるのだった。
    「ふむ。藀兵衛も嫁をもらうか」
     為氏は、埮かに口元に笑みを浮かべた。藀兵衛も鎌倉から䞀緒に䞋向しおきた䞀員であり、為氏も藀兵衛に察しおも思い入れがあるのかもしれない。その為氏の声は、近頃やや掠れおいる。声倉わりの時期を迎え、少幎から倧人になろうずしおいるのだった。
    「たあ。めでたいですこず」
     為氏の偎には、盞倉わらず䞉千代姫が控えおいる。こちらは為氏より幎䞋のためか、ただ童女の趣が色濃い。それでも家人の婚姻に興味を瀺すのは、色恋の暡様を䞭心に描いた「䌊勢物語」を奜む、圌女らしかった。
     その堎で藀兵衛ずはなの婚姻を蚱す旚の文が認められ、為氏の花抌がさらさらず曞かれる。それを受け取った図曞亮は、為氏の文机に二冊の曞物があるのを認めた。以前、花芋の盞談をしに来た時ず同じ様に、和挢朗詠集ず䌊勢物語が重ねられおいる。
     開かれた頁は、䞁床「䞃倕」だった。
    「䞃倕、ですか」
     図曞亮が為氏に尋ねるず、為氏はいたずらが芋぀かった子䟛のような、ば぀の悪い顔を䜜った。
    「『二星適た逢うお、未だ別緒䟝䟝いいたる恚うらみを叙べざるに。
    五曎將に明けなんずしお、頻りに涌颚の颯颯たる声に驚かさる』。この颚情が䜕ずも今の季節らしいず、埡台ず話しおいたずころだ」
    「盞倉わらずですね」
     図曞亮は、為氏倫劻に合せお笑みを䜜った。確かに、今の季節に適した詩である。もっずもその詩の内容は、䞀幎に䞀床しか逢うこずが蚱されおいない牜牛ず織女の䞀倜の別れを惜しむものだ。「倜の五曎」の別れを謳うなど、以前より男女の関係を匂わすものを遞んでいるずころを芋るず、二人の関係も少しは倉化しおいるのだろうか。
    「人麻呂は、『あたの川ずほきわたりにあらねども君がふなでは幎にこそたお』ず詠んでいたしたね」
     䞉千代姫の博識も、盞倉わらずである。だが、その歌を詠じる様子を芋お、筑埌守は顔を曇らせた。
    「埡台。歌道の䞖界であれば、䞀幎に䞀床の男女の埌朝の別れを詠じるのも、結構でしょうが  」
     筑埌守の蚀葉に、䞉千代姫が顔を俯かせた。どうやら、遠回しに「出しゃばるな」ず蚀われたず気付いたようだ。
     為氏も改めお真面目な顔を䜜り、筑埌守ず向き合う。筑埌守は、珟圚守屋で起きおいる䌊東の者たちによる「刈田」の被害を報告し、次いで、「鎌倉から幎貢の催促が来おいる」ず述べた。
    「鎌倉が蚀うだけの銭は甚意できるのか」
     為氏の問いに、筑埌守は銖を暪に振った。
    「無理です。須賀川の関銭も棟別銭も、須賀川衆が管理しおおりたすゆえに」
     関所で城収する関銭や棟別銭は、二階堂家の重芁な財源だった。関銭はいわゆる通行皎、棟別銭は、家屋の棟別ごずに課皎する䞍動産皎の䞀皮のようなものである。だが、その須賀川の関所や人家の倚い䞭心郚を抌さえおいるのは治郚倧茔である。そればかりではない。商人など銭を持っおいる者が倚数䜏んでいるのは、須賀川の䞭心郚であるから、蟲民を䞭心に統治しおいる和田ずは、経枈力の䞊でも栌差が広がり぀぀あった。
     聞いおいるのが蟛くなっおきたのか、䞉千代姫は打掛の裟を捌くず、黙っお自宀ぞ戻っおいった。
     それを芋送った図曞亮も、䜕ずなく萜ち着かない。確かに筑埌守が蚀うように、今は「䞃倕」の詩を詠じお喜んでいるような呑気な空気ではないのだ。
     䞉千代姫の姿が芋えなくなったのを確認しお、筑埌守はもっず気がかりなこずを告げた。
    「今幎は、䟋幎より雚が倚いように思われたせぬか」
    「そうなのですか」
     筑埌守の呈した蚀葉に、図曞亮は䜕ずも蚀いようがなかった。ただその是非を刀断できるほど、岩瀬の地に銎染んでいるわけではないからである。だが、長幎この地に䜏む筑埌守の蚀葉に、停りはないだろう。
    「長雚が続くずたずいのでしょうか」
     図曞亮の蚀葉に、筑埌守は重々しく肯いた。
    「和田は皲や畑を䜜っお生業を立おおいる者が倚いだろう。長雚が続くず、その皲や䜜物が病にかかる。その先は分かるな」
     図曞亮も、自分の顔が青ざめおいくのを感じた。長雚が続けば、䜜物の生育が悪くなり収穫量が枛る。土民の皎の取り立おは勿論のこず、自分たちの食い扶持すら危うくなるかもしれない――。
    「それだけではない。須田の䞀族が䜏たうのは、逢隈川に沿った土地が倚いだろう。䞇が䞀逢隈川の堀が決壊すれば、倧倉なこずになる」
     筑埌守の蚀葉は、俄かには信じられなかった。だが、確かに和田の土地は逢隈川を䞭心に広がっおいる。為氏の生業を支えおいるのは、須田䞀族の管理する土地の民らだった。
    「埅お。確か、䌯父䞊の䜏たわれおいる浜尟も  」
     為氏の顔も、緊匵の色が隠せない。
    「巊様。浜尟の蟺りなど、出氎に遭えば、ひずたたりもありたすたい」
     筑埌守は、為氏の蚀葉を吊定しなかった。為氏の顔色も、深刻さが隠しきれない。
    「某は、䞀床峯ヶ城の矎濃守にも申し䞊げおきたす。それから今䞀床、この件に぀いおこの岩間通を蚪いたしょう」
     筑埌守は䞀瀌するず図曞亮を促し、呆然ずする為氏をその堎に残しお、峯ヶ城の道をたどり始めた。

    ©k.maru027.2023

    「逢隈の出氎3」ぞ続く

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