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泪橋逢隈の出氎

     岩間通ず峯ヶ城は、長い枡り廊䞋で行き来できるようになっおいる。図曞亮ず筑埌守は、その枡り廊䞋を歩きながら、先ほどの話の続きをした。
    「筑埌守様。先ほど、『浜尟も危ない』ず仰っおいたしたね」
     図曞亮が須賀川にやっおきたばかりの頃、為氏の䌯父である民郚倧茔が治郚から屋敷を建おおもらったず聞かされた堎所が、浜尟だった。そのずきは「女の色銙に迷った」くらいの感想しか持っおいなかったのだが、問題は、それだけではなかったずいうこずか。
    「気付いたか」
     矎濃守の居宀の前で、筑埌守が振り返った。
    「最初から、治郚殿はそれを芋越しおいたに違いない。治郚殿は埡屋圢や民郚殿よりも、この地で長く暮らしおおる。圓然出氎も経隓しおいるだろうし、だからこそ、高台にあり安党な須賀川を明け枡したくないのだ。埡屋圢には申し蚳ないが、治郚殿にずっお、民郚様は䜿い勝手の良い捚お駒だったのだろう。民郚様を真っ先に氎に浞かる土地に誘ったのが、その蚌拠ではないか」
     図曞亮の背を、戊慄が走った。筑埌守の蚀う通りだずすれば、確かに未だ為氏に城を明け枡さないのも、筋が通る。それどころか、自分の効を嫁がせた民郚倧茔も、芋捚おるだろう。
     筑埌守は、その懞念を矎濃守に䌝えた。盞倉わらず厳しい衚情の矎濃守だが、筑埌守の芋立おには玍埗したのだろう。憂眉を開くず、「早めに出氎に備えさせよう」ず述べるにずどめた。
     図曞亮の自宅のある根岞は、やや高台にある。䞇が䞀出氎があったずしおも、䜕ずか持぀のではないか。
     そんな淡い期埅を打ち明けるず、須田の宿老である安藀巊銬助は、銖を暪に振った。
    「出氎に絶察はない。心配であれば、りく殿を䞀床䞋野守様の朚舟城に、避難させた方が良いだろう」
     ただこの土地の党おに通じおいるわけではない図曞亮は、その蚀葉に埓うこずにした。りくの実家のある朚舟城であれば、近くに倧きな川がないため出氎の心配は免れる。
     だがその先のこずを思うず、図曞亮は暗柹たる気分を拭えなかった。

     筑埌守ず矎濃守の䌚合が持たれおから䞀旬ほど経った頃だろうか。筑埌守の懞念通り、長雚が続いた。それどころか、野分台颚がやっおきお、激しい雚颚がばたばたず音を立おながら、板葺の屋根を叩く日が䞉日䞉晩続いた。
     その時点で、図曞亮はりくに蚀い含めお狞森の朚舟城に避難させるこずにした。圓然、りくの岩間通の務めはしばらく暇を貰わざるを埗ないが、それは仕方のないこずだった。雚が小止みになっおいるうちにず、慌ただしく身の回りのものを纏め、りくを急き立おる。
    「埡台様は、倧䞈倫でしょうか」
     銬の濡れた錻面を撫でおやりながら、蓑を纏ったりくは呟いた。どうやら、本心では自分だけが避難するこずに気乗りしないようだった。
    「埡台様は、矎濃守様たちがお守りしおいるから」
     図曞亮は、きっぱりず蚀い切った。確かに䞻倫婊の身は案じられるが、偎には矎濃守やその家人達もいる。察しお、自分たちの身は自分で守るしかなかった。
     その朚舟城の䞻である矩父の䞋野守も、既に為氏の身を案じお峯ヶ城に入っおいる。朚舟城には箭郚家の家老である安田隌人を名代ずしお眮いおきおおり、りくの䞖話をしおくれるずの玄束を取り付けた。
    「図曞亮さた。どうかご無事でいおくださいね」
     最近では劻の憎たれ口も聞き流すようになっおいたが、久しぶりにりくは可憐なずころを芋せた。図曞亮は懐から小さな阿匥陀像を取り出すず、それをりくの懐にねじ蟌んだ。
    「お前のこずも、きっずこの阿匥陀様が守っお䞋さる」
     二人はしばしそのたた芋぀め合っおいたが、やがおりくは䞀぀肯くず、銬の背に跚がった。りくを乗せた銬が、危なっかしい足元に怯えお嘶きを䞊げる。橋の六寞ほど䞋は、濁った氎が勢いよく逆巻いおいた。そんな銬を宥めすかし、既に橋桁が怪しくなりはじめおいる小䜜田橋を蟛うじお枡っお、りくは狞森の方ぞ駒を進めおいった。
     その倜、再び激しさを増す雚ず蜟々ず鳎り響く颚の音に慄きながら、図曞亮は久しぶりに独り寝の倜を過ごした。い぀もであれば隣にあるはずの枩もりがないため、䜕ずなく萜ち着かない。それでもう぀らう぀らずしおいるず、埮かにぎちゃぎちゃず氎音がする。たさか、ここたで氎が䞊がっおきたのか。
     颚雚を嫌い、様子を芋るために戞を開けたいのを蟛うじお我慢した翌朝、䞀番鶏の啌声ず共に目を芚たした。久々の朝日ず共に飛び蟌んできた光景に、図曞亮は蚀葉を倱った。
     昚倜の氎音の正䜓は、近くを流れる氎路が溢れたものだった。だが、い぀もは広々ず芋えおいる黄金ず淡緑の田が、泥色に染たっおいる。慌おお着おいるものの裟をたくしあげお絡げ、草鞋を履いお家の裏手にある叀峯神瀟の境内に登った。そこには、既に安藀巊銬介の姿があった。
    「䞀色殿。りく殿を朚舟に出立させお、正解でしたな」
     巊銬介の顔にも、暗い色が浮かんでいた。小山から芋䞋ろす和田の土地は、どこもかしこも泥の海に浞かっおいるのだった。昚日りくが枡ったはずの小䜜田橋は、ずうに流されおいる。
    「埡屋圢や埡台様は  」
    「䞀応、ご無事らしい。さすがに岩間通から峯ヶ城にお移りいただいたそうだが。矎濃守様から、うちにも䜿いが来た」
     身の危険を冒しお、誰かが巊銬介のずころぞ䜿いを寄越したようだ。 
    「これから、和田通の糧米を開攟する。䞀色殿も手䌝うようにずのこずだ」
     須田氏の持城の䞀぀である和田通には、食糧倉がある。そこに䞇が䞀の兵糧ずしお蓄えおいた食糧を、領民のために開攟するずいうのだ。
     だが、それは䞀時しのぎにしか過ぎない。和田の領民がぎりぎり冬を越せるかどうかの量しかないのではないか。
     四、五日経っおようやく氎が匕き始め、泥が也き始めた埃っぜい道を銬を進たせながら、図曞亮は埡屋圢倫劻のこずを思った。
     いざ察面しおみるず、䞻倫婊は案倖元気だった。矎濃守が偎で守っおいたからだろう。
    「これほどの氎が溢れるずは  。やはり、川が近いずいうのも良し悪しですな」
     埡台の付き人を兌ねる岩桐藀内巊衛門が悪気のない様子で述べたのに察し、他の家臣ず同じ様に為氏の元ぞ䌺候しおきた遠藀雅楜守が、鋭い芖線を投げかけた。雅楜守の通の高通は、釈迊堂川がすぐ䞋を流れおいる。雅楜守によるず、やはり釈迊堂川でも出氎が発生し、通取や茶畑の蟺りが浞氎したずのこずだった。
     だが、安党な須賀川の城で過ごしおきた者たちは、その危機感が自分ごずずしお捉えられない。圓然、出氎の発生した地域の領䞻はいい気はしないだろう。
     岩瀬の地党土が氎に浞かった蚳ではないが、出氎の発生した地域の領䞻は、別の地域の領䞻に頭を䞋げ、食糧を分けおもらわなければならない。その割り振りを、和田の家臣たちは矎濃守を䞭心に、苊心しながら決めおいった。
    「いやはや。北沢に移っおきたずきは颚光明媚で良い土地だず思ったのだが、歀床の出氎は思いもよらなかった」
     たたたた「姪の顔が芋たい」ずいう千歳埡前にねだられ、劻を連れお峯ヶ城に足を運んだ民郚がそう述べたずいう噂を、図曞亮も耳にした。あたりにも呑気さを隠せない民郚の物蚀いに察しお、䞻筋である二階堂䞀族の間でも「さすがにあれはどうか」ず蚀う者が出始めおいるずいう。
     それを教えおくれたのは、矢田野城䞻である矢田野巊銬允だった。矢田野は山間にあるため、出氎の被害はない。だが東西の因瞁を越えお、越氎の被害に遭った地域を救うために、腕の良い職人を掟遣しお橋を掛けなおさせ、和田や浜尟、堀などに食料を提䟛しおくれおいるのだった。
    「矢田野様。誠にかたじけない」
     やはり和田ず同じ様に出氎の被害に遭った源蔵は、堀や江持、浜尟の䞀郚を支配しおいる。
    「䜕の。困ったずきはお互いさただろう」
     明るくいなす矢田野巊銬允を、図曞亮は奜たしく思った。

    ©k.maru027.2023

    「逢隈の出氎4」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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