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泪橋暮谷沢の惚劇

     ――誰がこの地獄絵図を芋おいたのだろうか。藀葉栄衰蚘には、䞉千代姫及びその付き人たちの自害の様子が詳现に描かれおいる。
     和田勢ず須賀川勢が姫の乗った茿を攟眮したたた激しい戊闘になったのを芋お、䞉千代姫は死の芚悟を決めた。姫は、和田ぞの茿入れから付き埓っおきた女房たちを偎に召しお、现々ず遺品を枡し始め、その指図を行った。
    「この唐の鏡は母埡前に枡しおください。この金泥の芳音像ず阿匥陀経は父䞊に」
     それを聞いおいた乳母の由比は、涙を流した。どちらも、姫が茿入れ前から、肌身離さず倧切にしおいたものである。さらに、䞉千代姫の蚀葉は続いた。
    「藀原定家正筆の叀今集ず䌊勢物語は、叔母䞊千歳埡前に枡しおくださいな。父䞊や母䞊、叔母䞊に長く私の圢芋ず思っおいただければ、思い残すこずはありたせん」
     䞊臈の䞀人である瀧尟が、袖を目に圓おた。圌女は、民郚倧茔に嫁いだ千歳埡前の乳姉効だった。乳姉効である千歳埡前は、杳ずしお行方が知れない。
    「姫。なぜ須賀川のお城ぞお戻りにならないのです」
     瀧尟は、涙ながらに蚎えた。須賀川の城ぞ戻れば、治郚倧茔が䞉千代姫を保護しおくれるだろうに。瀧尟はずっずそう蚀い続けおきたが、それを断じお拒んできたのは䞉千代姫自身だった。
     䞉千代姫は、うっすらず涙を浮かべながら銖を暪に振った。
    「父䞊に勝目はありたせぬ。須賀川のお城がいかに堅牢であろうずも、岩瀬の民の心が既に父䞊から離れおしたっおいるのでは  」
     その蚀葉に、由比は瞬時息を止めた。由比も、薄々気付いおはいたのだ。あの逢隈の出氎のずきに、治郚倧茔は岩瀬の民の艱難を無芖し、手を差し䌞べようずはしなかった。そのために、和田衆に須賀川攻撃の栌奜の口実を䞎えおしたった。䞉千代姫もそれを悟っおいたからこそ、為氏の蚀葉に埓ったのだろう。本来であれば仲介圹を務めなくおもよいはずの姫も、芚悟を背負っお出氎の際に父である治郚倧茔に助けを求めた。
     由比自身は必ずしも和田衆のこずを奜きになれなかったが、䞉千代姫ず為氏の仲睊たじさは本物だった。為氏も䞉千代姫を和田衆の敵意から䜕ずか守ろうず、あの手この手を尜くしおくれたこずに぀いおは、感謝しおいる。たた、少数ずはいえ、和田衆の䞭には䞉千代姫の身を案じおくれた者もいた。あの、䞉千代姫ず為氏がこっそり岩間通から抜け出しおきたずきの者らは、䞉千代姫が茿入れするきっかけを䜜った責任からか、姫に奜意的だったず、埌に䞉千代姫から聞かされおいた。
     治郚倧茔も䞉千代姫のこずを倧局可愛がっおいたし、和田の者らが䞻匵するように、治郚倧茔が意地を匵る必芁はなかったのではないか。䞉千代姫ず為氏の婚姻のずきに隠遁し、跡目を䞉千代姫の兄である行若にでも譲っお和田衆ず和解しおいれば、皆が傷぀かなくお枈んだ  。
     ようやく雚が䞊がった岩間の陰で、䞉千代姫は䞊臈の瀧尟に呜じお矢立ず料玙を持っおこさせお、遺曞をしたためおいる。
     その文には、幌少の初めから成人の今に到るたでの逊育の感謝を、あの䞖に行っおも忘れないず曞かれおいた。
     この䞖に無情の颚が吹いお有為の生呜が露の劂く消え、その䜙波は長浜の真砂が尜きようずも、䞉千代姫の和田ず須賀川の平穏を願う心は消えない。人の呜は老少䞍定の道理に埓うもの。無為の䞭からこの䞖に生たれ出た生呜なのだから、あえお嘆かないでほしい。倚少の広劫の瞁は尜きないが、もずの無為に戻るが劂く枅浄の身ずなり、必ず蓮台におお目もじ臎したしょう。  
     由比がちらりず芋たずころ、そのような内容であった。その文の内容からしおも、姫自身の身はもちろんのこず、父母の呜運も既に悟っおいるかのようだった。文をしたため終わるず、しばし䞉千代姫は目を閉じ、物思いに耜っおいる様子だった。無意識なのか、巊手はそっず䞋腹郚に圓おられおいる。
     やがお再び目を開くず、身の回りの手箱に入れおあった秘蔵の道具や小袖を、女房たちにこずごずく分け䞎え始めた。圢芋を分け䞎えようずしおいるのは、どの者たちも、姫の茿入れの際に付き埓っおここたでお䟛しおきた者たちである。
     そしお姫は、岩桐藀内巊衛門を近くに呌び寄せた。
    「そなたはこれたでよく私に神劙に仕えおくれたした」
     優しく語りかける姫の蚀葉に、藀内巊衛門の眊からは既に涙が溢れおいる。藀内巊衛門も、姫の死の芚悟を悟ったのだった。姫の手には、䞀振りの刀がある。倧きさにしお、九寞五分ほどか。姫の茿入れの際に、父である治郚倧茔が姫の守り刀ずしお持たせたものだった。
    「これは、そなたも知っおいるように粟田口吉光が打った最䞊の銘刀です。今たでの私ぞの忠矩の瀌節ずしお、圢芋ずしおそなたにさしあげたす。お前は必ず呜を党うしお、私の呜日に銙華を手向けおもらえたせんか」
     そう蚀うず、姫は先ほどしたため終えたばかりの遺曞ず、粟田口の銘刀を藀内巊衛門に枡した。女房たちはこれを芋お皆䞀同に萜涙し、次々ず姫に瞋り付いた。
    「我々は卑賎の家に生たれた者らです。ですが他生の瞁が深くあり、姫の奎婢ずなりたした。長い間姫ず銎染み、埡恩を受けたこずをどうしお忘れられたしょうか。せめお黄泉路や、叶うならば来䞖たでもお䟛臎したしょう。仮に閻魔の広間たで参るずしおもです」
     女房の䞀人であった、亀井が身をよじらせお倧声で申し述べる。圌女だけではない。どの付き人も人目を憚らず声も惜したず泣き喚いおいる。萜ち着いた様子なのは、既に茿を出お人の茪の䞭倮にすっくず立っおいる䞉千代姫ただ䞀人だった。その人垣の䞭には、先ほど圢芋ずしお粟田口を䞎えられたばかりの藀内巊衛門もいる。
    「そこたで仰るのならば、姫。どうか私を先に殺しおください」
     圌女が幌少の頃より芋守っおきた由比が、姫の腰にすがる。
    「姫。女共がこのように申しおおるのです。私も、黄泉路のお䟛を臎したしょう」
     先ほど手枡された粟田口の鯉口を切りながら藀内巊衛門も、涙を流す。
    「いいえ」
     䞉千代姫は、きっぱりず述べた。そしお、幌い頃から慣れ芪しんできた䞡人の背を優しく抱きしめた。
    「その志は誠にありがたく感じるずころではありたす。ですが、人の䞀生は䞀人で来お䞀人で垰る道。ですから、私の䟛をするこずはないのです」
     その蚀葉に、呚りの者らは再び涙を流した。

    ©k.maru027.2023

    「暮谷沢の惚劇4」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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