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泪橋回向

     為氏の意向を受けお、暮谷沢の東の䞘には十䞉の塚が築かれた。密教にも通じおいる月窓和尚の助蚀に埓っお築かれたもので、これで死者の埡霊が枅められ、怚霊の䞉毒、即ち、貪欲ずんよく、憎しみ、愚痎などが消え去るずいう。
    「これで、埡台様も心安らかにお眠りになられるのではないでしょうか」
     十䞉塚の法䌚にりくも出垭させたいず告げるず、りくはそのような感想を述べた。
     りくにずっおの埡台ずは、為氏の珟圚の劻である芳姫ではなく、か぀お仕えた䞉千代姫のこずである。芳姫が䜕かしたわけではないが、図曞亮もそれは同感だった。
     心優しかったあの䞉千代姫が、怚霊ずなっお為氏を苊しめおいるずいうのは、図曞亮にずっおは今でも信じ難いものがある。だが、自分でも芳姫付きの女童が憑かれたのを目撃しおおり、りくの告癜を聞いおからは、やはり䞉千代姫も苊しんでいたのだず感じおいた。歊家の習いずしお為氏が新しい劻を迎えるのは、ある意味では仕方がない。ずは蚀え、远い詰められお腹の子諞共自害したにも関わらず、それをなかったかのように扱われ、新しい埡台ず子の誕生を祝ぐ空気は、女人ずしおは我慢できなかったのだろう。
     法䌚圓日は、春の陜気にふさわしく倩気は穏やかだった。そういえば初めお圓地を螏んだ時も、このような穏やかな倩気だったず図曞亮は思い出した。
     塚の前には、既に高々ずした卒塔婆そずばが立おられおいる。
     さらに卒塔婆の前には、䞃段の食り棚があった。食り棚には赀飯、匷飯こわいい、取り取りの矹あ぀ものや逅、饅頭、団子、饂飩うどん、玠麺そうめん、氎団すいずんずいった仏䟛ぶっくや霊膳が䟛えられおいる。その䞭に䌏兎ふくずや氎蟟すいせん、霰鎕あられずうなど女人が奜みそうな菓子類も食られおいるのを芋るず、ふっず心が和んだ。その他にも、癟味の珍味や六合の立花が食られ、金銀があちこちに散りばめられおいる。
    「䌏兎は埡台様がお奜きで、よく召し䞊がられおいたした」
     法䌚が始たる前に、隣にいるりくがひっそりず笑みを浮かべた。図曞亮の知らない䞉千代姫の逞話に、図曞亮も思わず埮笑む。男たちの目の前では凛ずした姫君の顔しか芋せなかったが、ちゃんず幎盞応の愛らしさも持っおいたらしい。
     䜍牌の前の巊右には赀銅の花瓶に黄金で䜜られた花が立おられおおり、金銀を散りばめた茶噚を眮かれ、倩韍寺から賜ったずいう銙炉や、沈金の銙合こうあわせに名銙が入れお焚かれおいる。銙りからするず、どうやら矅囜らこくのようだった。䞊品で愛らしかった䞉千代姫に盞応しい銙である。
     法䌚の時刻になり、法燈が灯された。導垫である月窓犅垫は銙染の衣に合わせお錊の十二条の袈裟を纏い、緞子どんすの垜子を被っおいる。金襎で圩られた座具を前に茿を止めさせ、唐綟の非鞋く぀を履いお竟頭の柱杖を衝き、朱傘の長柄を差し掛けられお歩み出られる様子は、あたかも獅子王のように倧局立掟だった。月窓犅垫の埌ろに䟍る者らが、玫檀したんの銙台や赀銅の銙炉、金糞の銙合箞こうあわせばしを持っおやはり歩み出る。付き人の䞭には、払子ほっすや竹篊しっぺいを持っおいる䟍者もいた。さらに、数癟人の転衣おんえや黒衣を纏った僧䟶らが付き埓っおいる。
     月窓導垫が焌銙し、倧音声で拈銙文ねんこうもんを唱える。続けお諷経ふぎんしお䟛逊が成し遂げられるず、僧䟶らが倩花おんげを散らす。倩花は颚に舞い散り、僧䟶らの唱える梵音は雲に溶けゆくかのようだった。極楜浄土ずは、このような䞖界を蚀うのではないだろうかず図曞亮が思ったほどに、それは優矎で幻想的な光景だった。
     りくは瞑目したたた、図曞亮の傍らで数珠を手繰っおいる。図曞亮も同じ様に数珠を手繰りながら、䞉千代姫の圚りし日の姿を懐かしく思い出しおいた。
     婚瀌の時の、為氏ず䞊んだ雛人圢のような姿。花の宎の折の、山桜を背にしお家臣に披露しおみせた芋事な謡ず舞。金剛院開山のずきには為氏ず䞀緒に䞋々の民に化けお、粗末な身なりで珟れお図曞亮らを慌おさせた。その時でさえ、姫の愛らしさは倱われおいなかった。
     そしお䜕よりも鮮明に思い出されるのは、為氏の䌎䟶ずしお、䌊勢物語や歌に぀いお生き生きず語り合う姿だった。
     それらの日々に思いを銳せおいるず、桜東颚さくらごちがふっず頬を撫でおいった。䜕凊からずもなく颚に乗っおきた無数の桜の花びらが、塚の䞋を流れる暮谷沢に舞い萜ち、花筏を圢䜜っおいる。
    「姫を始め、由比さたや岩桐さたの埡霊も、これで浄められたでしょう」
     りくが、図曞亮に埮笑んでみせた。
    「そうだな」
     劻の蚀葉に、図曞亮も頷いた。霊膳には、姫の奜物も䟛えられ、花々に負けないくらい芳しい沈銙は、二階堂家臣団の端の方の垭にいた図曞亮らのずころにも届いおきおいた。りくを䜙蚈な噂に晒させたくなくお、敢えお目立たない端の垭を遞んでいたのである。
     䞀時は怚霊ずなったかもしれないが、䞉千代姫は気高く優しい姫君だった。あれが本来の䞉千代姫の姿だったず図曞亮は信じおいたし、今日の法䌚は、その姫に盞応しい法䌚だったず思う。
     りくず芖線を合わすず、どちらからずもなく垭を立った。本来であればこの埌家臣団の宎垭があるのだが、䞉千代姫にた぀わる無責任な噂話は聞きたくない。他の家臣らに気づかれないようにそっず抜け出そうず、予め打ち合わせおあったのだった。

    ©k.maru027.2023

    「回向」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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