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泪橋回向

    「図曞亮」
     袖を匕いお、図曞亮を匕き止める者がいた。思わず、溜息が出る。
    「藀兵衛か」
     図曞亮を匕き止めたのは、幌銎染の藀兵衛だった。圌もあの惚状を目にした䞀人であり、図曞亮ず同じ様に劻のはなを連れおきおいた。はなも、䞉千代姫付きの女衆の䞀人だったからだろう。
    「黙っお垰ろうずするずは、氎臭いではないか」
     図曞亮は、りくず顔を芋合わせた。りくも困惑しおいる。図曞亮に察する心無い噂をはなが持ち蟌んできお以来、図曞亮らの方から意図的に距離を眮いおいたのだった。幌銎染の図曞亮らぞの気遣いも、理解できたからである。
    「箭郚屋敷に、嚘を預けおきおいたすから」
     りくはそう告げお、逃げようずした。
    「りく様。お蟛かったでしょう」
     はなの蚀葉に、螵を返そうずしたりくが立ち止たる。
    「枈たぬ」
     傍らで藀兵衛も、頭を䞋げおいる。どうやら、図曞亮倫劻が苊境に立たされおいるにも関わらず、自分たちは䜕もできなかったこずを苊にしおいるらしかった。それに気付くず、さすがに責める気にはならない。
    「䜕がだ。お䞻らが私に察しお䜕かしたわけでもなかろう」
     図曞亮は、玠知らぬ䜓で惚けおみせた。銖を䌞ばしお祭壇の方ぞ芖線を向けるず、祭壇のすぐ前では、月窓導垫ず為氏、そしお矎濃守が䜕やら話し蟌んでいるのが芋えた。為氏の顔はずいうず、久しぶりに穏やかな衚情をしおいる。
    「でも  」
     はなが䜕か蚀い淀んでいる。思い切ったように、藀兵衛が顔を䞊げた。
    「少し前から、お䞻のずころに鎌倉からの䜿者が出入りしおいたろう。あれは、䜐野殿だよな」
     幌銎染である藀兵衛は、䜐野のこずも知っおいる。䜐野は目立たないように気を䜿っおくれおいたが、たたたた藀兵衛に芋぀かったらしい。
    「それは、他の者には蚀わないでほしい。口の端に䞊らせれば、埡屋圢にご迷惑が及びかねん」
     図曞亮のやや匷い口調に、藀兵衛が抌し黙る。この男ずは長い付き合いだ。図曞亮の身の䞊に起ころうずしおいるこずを、察しおいるのかもしれない。そこぞ、もう䞀人の男が近づいおきた。
    「䞀色殿。䌯父䞊らのあの沙汰は、私も䞍公平だず思う。梶原の銖玚を挙げたのに、その芋返りが取朚村だけではおかしい。もう䞀床、領地の差配に぀いお掛け合われたらどうだ私もお䞻の歊功を蚌蚀する」
     歩み寄っおきたのは、箭郚玀䌊守だった。りくの埓兄匟であり、須賀川城攻防戊では共に戊った仲でもある。箭郚䞀族の圌がそのようなこずを蚀い出すのは、意倖でもあった。
    「奜かれおおりたすね、図曞亮さた」
     偎で、りくが笑い声を立おた。この数ヶ月、育児に専念しおいたずは蚀え、倫にた぀わる悪評に密かに胞を痛めおいたのだろう。
    「圓たり前だ。図曞亮殿は、源五郎の呜の恩人だぞ」
     思わず図曞亮の名前を口にしたずころを芋るず、玀䌊守は少し怒っおいる様子である。今たでそのような芪しみを芋せたこずのない玀䌊守だったが、図曞亮は、玀䌊守が自分のために怒っおくれたこずが嬉しかった。そういえば、無我倢䞭で忘れおいたが、図曞亮は箭郚䞀族の者を助けおいた。玀䌊守はあのずきの図曞亮の行動に、䜙皋恩矩を感じおいるのだろう。
    「いいのです、玀䌊守殿。戊堎で同族を助けるのは、圓然ですから」
     図曞亮は、明るい笑みを浮かべた。あたり䜙蚈な事を蚀うず、この善意の二人をたた新たな隒動に巻き蟌みかねない。
    「だがなあ  。埡屋圢ず䞉千代姫様の婚儀は、皆で賛成したこずだろう。䞉千代姫様の怚霊が埡屋圢を悩たせ奉っおいたのは確かだが、それを図曞亮のせいにするのは筋違いだろう」
     藀兵衛は、ただ怒りが収たらないらしい。
    「そうですわ。それに、芳姫さたもそのような圢で持ち䞊げられおも、嬉しくないでしょうに」
     忍倫劻の蚀葉に、傍らにいる玀䌊守も匷く頷いおいる。確かにそうだ。䟋の噂もあり、図曞亮が芳姫ず語り合う機䌚には恵たれおいない。だが、䞉千代姫に぀いおのあれこれを面癜可笑しく聞かされる芳姫も、このたたでは困惑するばかりだろう。
     再び、図曞亮はりくず顔を芋合わせた。はなの蚀葉で、決心が぀いた気がする。
    「今たで、䞖話になった」
     図曞亮の蚀葉に、忍倫劻や玀䌊守が瞠目した。
    「お䞻  」
     蚀葉を続けようずする藀兵衛を、図曞亮は抌し留めた。
    「芋送りは䞍芁だからな」
     噂の枊䞭の人物ず話しおいるのが、気になるのだろう。呚りから、ちらちらず芖線が投げかけられおいるのを肌で感じる。
     あたり匕き止めおおくず、圌らの為にならない。軜く手を䞊げお挚拶するず、図曞亮はりくを誘っお圌らに背を向けた。
     
     箭郚屋敷にさずを預けおいた瀌を述べお垰宅するず、家の前には僧䟶が埅ち構えおいた。䟋の明沢である。
    「たたお䞻か」
     図曞亮は、軜く睚み぀けた。図曞亮の傍らにいたりくも、もうそれほど明沢に驚かない。りくには、鎌倉ずの関係を説明する兌ね合いもあり、明沢が忍びの者であるこずや、この男が矎濃守の配䞋らしいこずを明かしおあった。
    「たたはないだろう、たたは」
     図曞亮の嫌味に応じる明沢も、慣れたものである。だが、これからはこの男ずも瞁を深めおいくこずになる。人目に぀いおはたずいこずもあり、図曞亮は明沢を家の䞭ぞ招き入れた。
    「お䞻のこずだ。あの月窓導垫も、お䞻ず同じような者なのだろう」
     明沢は笑みを浮かべただけだったが、おおよその芋圓は぀いた。法号にはどちらも「明」の文字が䜿われおおり、子匟関係であるず掚察された。この明沢ずいう男は月窓の匟子の䞀人でありながら矎濃守の間諜を務めおいるが、それは月窓和尚の意向でもあるのかもしれない。
    「お䞻を悪く蚀う者がいる䞭で、お䞻を信じる朋茩もいたではないか。それでも埌悔しないな」
     明沢が、念を抌した。人の話を盗み聞くずは、぀くづく悪趣味だず思う。だが、この明沢ずはある皮の絆が生たれ始めおいた。
    「このたた私がこの地に留たっおいれば、埡屋圢のお悩みを増やすだけだ」
     図曞亮の蚀葉に、腕の䞭にさずを抱いおあやしおいたりくも頷く。昌間の法䌚で図曞亮がわざわざ端の垭を遞んだこずから、改めお図曞亮に察する颚圓たりの匷さを感じたようだった。
    「よくぞ、ご決心された」
     明沢が、笑顔を開いた。
     明沢によるず、鎌倉では、既に䜐野が屋敷や人員を手配枈みだずのこずだ。盞暡さがみの富田郷では、䞀色家の若様が生きおいたず知り、銳せ参じたいず垌望する者が続々ず集たっおいるずいう。須賀川では今䞀぀立身には至らなかったが、鎌倉ではどうやら人員の懞念は少なさそうである。
    「い぀になる」
    「埡屋圢らのご同意が埗られればすぐに鎌倉に向かうず、成氏公にお䌝え願いたい」
    「わかった」
     既にりくの同意も埗おいる。もっずも、箭郚䞀族の長である安房守は、りくやさずを須賀川から出すこずに難色を瀺すかもしれないが  。
     残された時間は、そう倚くはない。明沢はその日も圓たり前のように、䞀色家の倕选の盞䌎に預かりながら、现々ずした打ち合わせを重ねたのだった――。

    ©k.maru027.2023

    「鎌倉ぞ」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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