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#10 みつぴー星人と「知識」

    はじめての方 ▶ みつぴー星人|もくじ

    みつぴー星人は、4歳になるまでしゃべれなかった。

    3歳で幼稚園に入れたが、入園式の時、周りの園児がギャーギャー騒ぐ中、 彼は一言も発さずに絵本を見ていた。
    「言葉が遅いな」と心配して病院へ行くと、単に耳クソで耳の穴が完全に塞がっていただけだった。ごっそり取ってもらった。こんなのありえるの?というごっつい毛玉のような耳クソが彼の聴覚を奪っていた。

    耳の穴がさわやかになったある日、
    みつぴー星人はテレビのニュースを見て突然、

    「あー、そう。」

    とつぶやいた。
    “……今の理解して言ったよな?”
    テレビを見つめる彼の頭のアンテナがピンと立っていた。

    5歳になると、みつぴー星人は勝手にカップ麺を作って食っていた。
    私は“あ、5歳って教えなくてもカップ麺作れるんだ”と思った。
    が、もっと衝撃を受けたのは、 幼稚園児にして私のパソコンのパスワードを盗み覚え、 勝手にドラクエのPCゲームで遊んでいたことだ。 見ていると彼は幼児向けアルファベット教材を見ながら、 自力でキーボードを叩いてログインしていたのである。 “今どきの幼稚園児はパスワード破るんだ、時代かな”と思った。

    そんな彼が小学校2年生になったある日、
    私は将棋でみつぴー星人にわざと負けてやった。 子ども相手に毎度本気を出すのも大人げないし、 たまには勝たせてやろうと思ったのだ。
    ところが、みつぴー星人は勝ちを譲った私を見つめ、こう言った。

    「負けたのは、パパの意志が弱いからだ。」

    おおーい、なにそれ。それ小2の語彙ではない。 そもそも“意志の強さ”という抽象概念を、この状況に当てはめる?

    私は思った。
    “こいつ、人生一度目じゃないな。”

    その日から私はゲームで手を抜くのをやめた。 すると負けるたび彼は、みつ汁(よだれ)を飛ばしながら泣きじゃくった。 頭のアンテナが折れていた。

    「パパは大人げないんだよ!」

    “こいつ、ぜってー 人生一度目じゃない。”

    宇宙人にも前世がある、矢追純一さんに報告したい。




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    次回作もお楽しみに。

    ▶おかわり|#11 みつぴー星人と「新しい生物」:下田の海辺で発見される

    ■大谷川一聡の作品
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    作家/構造デザイナー 物事や制度の構造を見抜き、物語の核を作る。 「言葉より行動」「幸せは至るもの」が座右の銘。 地域神話『戦場ヶ原神戦譚』の文化遺産化に挑んでいる。