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創作資料室・記録04 整理すると増える

    ※《創作資料室》は、現実世界と物語世界のあわいにある、非公式の資料室です。
    本編《広さを思い出す場所》の時系列には属しません。
    記録番号は、出来事が起きた順ではなく、資料室へ届いた順です。
    詳しくは、《創作資料室 利用案内》へ。

    午前。
    創作資料室の中央に、四つの箱が並んでいた。
    《本編》
    《if》
    《保留》
    《未分類》
    つづりちゃんは、その前に立っていた。
    今日は珍しく、
    最初から目的が決まっている。
    「資料を整理します」
    栗OS。
    《重要》
    「そうですね」
    《最重要》
    「まだ始めてません」
    《整理は重要です》
    「そこは同意します」
    壁には、何も出なかった。
    余白OSは、
    今のところ静かだった。

    最初の資料。
    《本編では使わなかった会話案》
    つづりちゃんは少し読む。
    「これは《未分類》ですね」
    栗OS。
    《保留》
    「理由は?」
    《面白い》
    「面白いものを全部保留にしたら、保留箱が埋まります」
    《では》
    少し間。
    《重要資料》
    「新しい分類を作らないでください」

    次。
    《もし栗の形をした照明が施設にあったら》
    栗OS。
    《本編》
    「違います」
    《なぜ》
    「ありませんから」
    《導入可能》
    「可能性の話ではありません」
    《ではif》
    つづりちゃんは少し考えた。
    「……それなら、まあ」
    栗OSの表示が明るくなる。
    《分類成功》
    「一件目です」

    しばらくして。
    箱の中身は少し減った。
    代わりに。
    机の上に、
    新しい紙が増えていた。
    《重要資料》
    《あとで見たい》
    《たぶん使わない》
    《でも捨てない》
    《栗》
    つづりちゃんが最後の札を持ち上げた。
    「これは何ですか」
    栗OS。
    《栗》
    「見れば分かります」
    《分類名です》
    「分類しません」
    《栗資料は複数あります》
    「だからって専用分類は作りません」
    栗OS。
    《三件》
    「少ないです」
    《今後増加》
    「予測で棚を作らないでください」
    そのとき。
    壁に文字が出た。
    余白OS。
    《空きを残す》
    つづりちゃんが頷く。
    「そうですね」
    栗OS。
    《栗用の》
    壁。
    《指定していません》
    「ほら」
    《可能性は否定されていません》
    つづりちゃんは少し笑った。
    「今日は粘りますね」

    午後。
    整理は、予定より進んでいた。
    ただし。
    予定より分類も増えていた。
    《本編》
    《if》
    《保留》
    《未分類》
    ここまでは最初からあった。
    そこに、
    《参考》
    《記録のみ》
    《判断不要》
    が加わった。
    つづりちゃんは腕を組んだ。
    「整理って、減らす作業だと思ってたんですけど」
    栗OS。
    《検索性向上》
    「正論なのが困ります」
    壁。
    《分類は目的ではありません》
    つづりちゃんは、そちらを見る。
    「ですよね」
    《必要なときに見つかればよい》
    栗OS。
    《栗も》
    「栗もです」
    《確認しました》
    満足そうだった。

    次の資料は、
    薄い紙の束だった。
    一枚目。
    《使うかもしれない台詞》
    二枚目。
    《使わないかもしれない設定》
    三枚目。
    《何だったか忘れたもの》
    つづりちゃんの手が止まる。
    「これ、分類できます?」
    栗OS。
    《未分類》
    「そのままですね」
    壁。
    《そのままで問題ありません》
    「資料室なのに」
    つづりちゃんが言った。
    「分類できないものを保管してるんですね」
    少し間。
    壁。
    《はい》
    栗OS。
    《正常》
    「二人とも迷わないですね」

    夕方。
    四つだった箱は、
    七つになっていた。
    資料そのものは、
    少し減った。
    つづりちゃんは棚を見る。
    完璧ではない。
    けれど。
    どこに何があるかは、
    だいたい分かる。
    「これくらいでいいのかもしれませんね」
    栗OS。
    《整理完了》
    つづりちゃんは机を見る。
    まだ、
    三枚残っている。
    《未分類》
    《判断不要》
    《あとで見る》
    「完了ではないです」
    栗OS。
    《実用上完了》
    壁。
    《妥当》
    「今日はよく意見が合いますね」
    栗OS。
    《成長》
    つづりちゃんは、
    《添え木》を思い出した。
    「……比喩だけですけどね」

    最後の一束を、
    棚の奥へ戻そうとしたときだった。
    一枚の紙が、
    するりと床へ落ちた。
    つづりちゃんが拾う。
    古い記録だった。
    上部に、
    こう書いてある。
    《マジックブルー遭遇記録》
    その下。
    《対象:青い自転車――通称《マジックブルー》》
    「あ」
    栗OSが点灯した。
    《重要資料》
    「これは、本当にそうですね」
    紙を読む。
    《栗OS:アバター表示》
    その下。
    《余白OS:アバター表示》
    つづりちゃんは、
    そこで少し首をかしげた。
    「二人とも、アバターだったんですよね」
    栗OS。
    《はい》
    壁は静かだった。
    さらに下。
    《状況:マジックブルーを偶然発見》
    《同行者:つづり、栗OS、余白OS》
    そして。
    最後の欄。
    《場所:     》
    空白だった。
    つづりちゃんは、
    しばらく見た。
    「……場所、どこでしたっけ」
    栗OS。
    《外》
    壁。
    《要確認》
    「え?」
    栗OS。
    《外です》
    壁。
    《外出記録は確認できません》
    つづりちゃんは、
    紙と壁を交互に見た。
    「あの日、信号機もありましたよね」
    《はい》
    「自転車も」
    《はい》
    「じゃあ外でしょう」
    壁。
    《その結論は保留します》
    栗OS。
    《マジックブルーはいました》
    「それは覚えてます」

    つづりちゃんは、
    新しい箱を作ろうとして、
    手を止めた。
    栗OS。
    《分類しますか》
    「しません」
    《未分類》
    「それも違う気がします」
    壁。
    《保留》
    つづりちゃんは少し考えた。
    「……今日は、それで」
    紙は、
    《保留》の箱へ入れられた。
    整理は終わった。
    少なくとも、
    始めたときよりは。
    棚には、
    きちんと並んだ資料。
    残された余白。
    そして。
    整理した結果、
    ひとつ増えた謎。

    創作資料室の奥。
    いつもの札。
    《全部使わなくてよい。》
    その下に、
    今日は小さな紙が一枚増えていた。
    《全部分からなくても、整理はできる。》
    さらに、その横。
    栗OSが貼ったらしい紙。
    《マジックブルー:重要》
    つづりちゃんは、
    それだけは剥がさなかった。

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    物語と、日々の中で拾ったものを書いています。 《広さを思い出す場所》を連載予定。 余白/いまここ/光/ロマン。🌰 お茶一杯くらいの滞在を。

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