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闇 33裏ビデオ屋の懲りない客の面々線

闇 33裏ビデオ屋の懲りない客の面々線

2024/09/30 mon
前回の章


ある皋床自分でパ゜コンを䜿いこなせるようになった俺。
週末に決たっお行われた坊䞻さんずのレッスンは、その成長ぶりを芋お「あずは自分で応甚を利かせお頑匵れ」ず終了する。

特に予定もなく、川越の街をあおもなく歩く。
小孊時代の同玚生滝川兌䞀の母芪である加賀屋のおばさんに、自分で印刷した『新宿クレッシェンド』をプレれントし、隣りのスガ人圢を継いでいる先茩の須賀栄治さんにもあげた。

もう四幎ぐらい前になるが、栄治さんには四歳の可愛い男の子がいお、圓時幞せそうだった。
でも、子䟛が病気で亡くなっおしたい、圓たり前の話であるが栄治さんや奥さんはずっず衚情が暗かった。
䜕ずか元気付けたい。
そう思っお、自分のピアノ発衚䌚にも誘ったし、凊女䜜の新宿クレッシェンドをプレれントした。

「こんな倧男が垂民䌚通でピアノ発衚䌚に出るなんお、笑っちゃいたすよね」

ナヌモアを利かせた぀もりでも、栄治さんの奥さんに笑顔はない。
四幎前のあの時からずっず心を閉ざしたたたなのだろう。

気䞈にも栄治さんは、自分の文章の䞭の誀字、脱字や衚珟のおかしなずころぞ付箋を貌り、䞁寧に蚂正郚分を曞いおくれた。
その行為はずおも嬉しく感じたが、元気付けたいのにこれじゃ逆に俺が元気付けられおる。

裏ビデオ屋メロンで働き出しお数ヶ月間。

守銭奎、金の亡者ずいった衚珟が適切な、北䞭の人間性は圓初フィヌルドの山本が話しおいた事が嫌ずいうほ理解できた。
あの男の䞋にいるのはずおもストレスが溜たる。

そしお野地ずの人間関係は良くなったにせよ、あの臭くお䞍朔な倉庫ぞ行くのはやっぱり嫌だった。

い぀の間にか俺は栄治さんに愚痎をこがし、い぀か北䞭を懲らしめおやるず憎悪を蟌めお話しおいた。
するず栄治さんは自分の埌頭郚を觊っおきお、口を開く。

「倧䞈倫、智ちゃんはそういうの出来るような人間じゃないから」
「え、䜕でですか」

「悪い奎っおいうのは、頭の埌ろがでっぱっおいるんだよ」

その時、人の埌頭郚のでっぱり具合が気になる䞻人公で小説を曞いたら面癜いんじゃないか。
簡単に思い぀いた蚭定を話すず、奥さんは少しだけ笑っおくれた。
もしその䜜品が完成したら、栄治さんや奥さんも、もっず笑っおくれるかもしれない。

凊女䜜の『新宿クレッシェンド』を完成させおから、䞀週間も経たない二千四幎二月十日。
俺はたた続線を曞き出そうず決意する。

たたあの文字だけしか浮かんでいない空間ぞ朜るのは、ある皋床芚悟が必芁。
それでも䞀぀の䜜品を曞き終えたあの達成感は、十分過ぎるほどの報酬だ。

そう考えるず、裏ビデオ屋メロンも、嫌な事ばかりではない。

基本的に暇な仕事なので、パ゜コンはやり攟題。
北䞭は嘲笑しおいたが、キヌボヌドを店に持ち蟌んで仕事䞭ピアノを匟いおいるのも自由。
絊料面でいえば月に䞉十䞇半ばではあるが、普通に生掻しおいれば問題のない皌ぎではある。

俺はクレッシェンドの続線を『でっぱり』ず名付け、執筆を開始した。
䞀気呵成に曞き進めるず、次は月の光の挔奏。

どちらにせよ『くっきぃず』のピアノ発衚䌚が迫るこの時期に、家ず職堎の䞡方で月の光を匟けるのはありがたい。

月に数回皋床来る垞連客が、小説を打぀俺に声を掛けおきた。

芋た目は少し剥げかかった四十半ばの男。
䞭肉䞭背ずいうよりは䜓栌がガッチリめであり、牛乳瓶のようなメガネを掛けおいる。
倩然パヌマなのか短髪は倧仏のような感じに芋えた。
现く釣り䞊がった目。

そんな圌は裏ビデオを買うずいうよりも、俺ず色々な話がしたかったようだ。
それでもい぀も五千円皋床の金をおずし、ちゃんずビデオを買っおいく良識も持ち合わせおいる。
悪い人ではないので、俺も普通に䌚話ぞ付き合った。

話をしおいお感じたのが、真面目で䞍噚甚な人なのだろう。
サラリヌマンをしながら、新宿駅東口近くにあるボディヌビルぞ通っおいるらしい。

俺の身䜓を芋お、い぀も䜕か過去にしおいたんじゃないですかず聞いおくるので、党日本プロレスや総合栌闘技の話をした。
するず圌は興奮し、自分の通うボディヌビルのゞムぞ䞀緒に行きたせんかずし぀こく誘っお来る始末。
䞁重に断りを入れるが、それでも圌は定期的にメロンぞ顔を出しおくれた。

裏ビデオを買う金が無い時は、その蟺の屋台で売っおいる鶏の䞞焌きをお土産で買っおきたり、䜕かしらの差し入れをしおくれる。
い぀もそんな気を䜿わないでず䌝えるも、圌なりの気持ちなのだろう。

ゲヌム屋ずはたた違った客ずの亀流。
これはこれで面癜い。

俺は客甚に買い眮きの猶コヌヒヌの段ボヌルをテヌブルの䞊に眮き、䌚話が匟んだ客の前で䜕床か打突を披露した。

䜕故俺が䜕の技術も緎習もしおいないのに、畑違いの総合栌闘技の詊合ぞ臆する事なくあの時出られたのか
それはこの打突を線み出しおいたからだ。

真剣勝負ずいう謳い文句の総合栌闘技。
それならばこの技を解犁しおもいいよなずいう絶察的な自信があったからこそ、呜を亡くしおも䞻催者偎に責任を远及しないずいう誓玄曞ぞサむンしお詊合に出る芚悟があったのだ。

圓時の詊合の様子を聞きたがるので、俺は䞉幎前のあの詊合を思い出しながら語る。

詊合が始たる。
シュヌト二䜍ずいう觊れ蟌みの小池はいきなりタックルをしおきた。
俺はステップバックし勢い止め、䞊から芆い被さる。
暪腹に䞀発パンチを济びせた。
盞手の胎ぞ䞡腕を回し、パワヌボムで持ち䞊げようにも必死で亀になる盞手。
俺はゞリゞリ身䜓をずらし、ゞャヌマンスヌプレックスで投げおやろうず思ったが、足のフックがズレお瞬間宙に舞う。
たたパワヌボムを狙うも盞手は亀の状態で必死にガヌドをしたいるだけ。
この状態なら䞊から肘か膝を萜ずせば終わる。
だがそれじゃ぀たらない。
俺は䜓勢を解き、盞手を自由にした。
すぐさた掛かっおくるので䞡脚を銖に巻き付け、䞉角絞めを極める。
それも解き、立ち䞊がった。
䞀発くらい殎らせおやろう。
プロレスは盞手にも芋せ堎を䜜らないずいけない。
劙な䜙裕があった。
殎られ、これからずいう時にレフリヌが間に入り盞手の腕を䞊げる。
「䜕だ、そりゃ」
ダりンもグラ぀きもしおいない。
䞍可解な裁定に俺はマりスピヌスを取り叩き぀ける。

今でも俺は負けおいないずいう自負があった。
そしお俺は匷い 、そんな自惚れもある。

あの詊合のあず、坊䞻さんが「智が九十九パヌセント勝っおいた詊合なのになあ」ず蚀った台詞は未だハッキリ芚えおいた。

圌の蚀うように、俺自身䜕のダメヌゞも受けおいないのだ。
あの時情けなど掛けず、党力で戊っおいれば良かったのである。

䞍完党燃焌のたた俺は䞉十代になり、未だ根底には栌闘の火皮が燻っおいた。

圓時の様子を語る俺に察し、ワクワクしながら話を聞く客。

打突

そんな時俺は決たっお段ボヌルぞ打突をお芋舞いしおみせた。

打突

猶コヌヒヌが䞭にぎっしり詰たった段ボヌル。
それを気にせず鍛えぬいた芪指で突く。

「うぉ」

打突を、間近で芋た客は絶察に驚いお倧声をあげた。
䜕故なら突いた逆偎の段ボヌルから、衝撃で猶コヌヒヌが勢いよく飛び出すのである。

䞭身の入った猶をそのたた芪指で突くのだから、圓然俺にも被害はあった。
倧抵芪指の爪は割れ、䞭に血が滲み黒くなっおしたう。

それを芋た客は「倧䞈倫ですか、指が 」ず蚀うが、嚁力を芋せたくおやったのだ。
俺にずっお埌悔など䜕もなかった。

よくよく考えおみたら、新宿歌舞䌎町の地䞋䞀階にある寂れた裏ビデオ屋で働く男が、パ゜コンで小説を執筆したり、キヌボヌドでザナルカンドや月の光を挔奏し、仲良くなるず打突たで披露しおいるのだ。
゚ロスを求めおこの店ぞ来たはずの客が、颚倉わりな俺を芋お気に入られる図匏。
この空間にいる人間は、どこか滑皜で自分を含めみんな歪んでいる。

ここ最近メロンぞよく来る男。
泉ず名乗るこれたた四十代前半の男の客からも、俺は劙に懐かれた。

きっかけはどんな裏がいいかずいうきっかけであるが、俺も色々䞋調べをしお圌の望む奜みの䜜品を教える。
それが嬉しかったのか、買った䜜品のチョむスが良かったのかは分からない。
それ以来頻繁にメロンぞやっお来るようになった。

ゲヌム屋時代も結局な客から慕われたが、裏ビデオ業界でも皮類は違えど奜かれる人には奜かれるようだ。

「岩䞊さん、䞭山矎穂の裏ビデオの噂っお聞いた事ないですか」

䞭孊、高校生時代、倧人気だったアむドルの䞭山矎穂。
確かに裏ビデオがあるずいう噂は聞いた事がある。

若い頃 、い぀それを耳にしたんだっけ

そうだ
同玚生の篠厎もいたむンチキ教材売りの仕事の時だ。

斉藀ずいう倪った䞊叞がいお、したり顔で「䞭山矎穂の裏は実際に存圚するんだよ」ず昌䌑み力説しおいたのを思い出す。

俺自身その実物を芋た事も無いし、䞭山矎穂は元々そんな奜みでは無かったので別段興味は薄かった。
䜆し今この業界にいるので、それが本物なら凄いニュヌスになる事は間違いない。

個人的な奜みを蚀えばグラビアで掻躍しおいる垂川由衣のがあれば、五䞇円くらいでも買っおしたうのだろうが  。

「あの䞭山矎穂の裏ビデオ 、実圚したんですよ」
「え 本圓ですか」

身を乗り出す俺。
泉は話を続ける。

「芋た事あるんですか」
「芋たも䜕も俺ね、昔その䜜品に男優で出おいたんですよ」

「えヌっ」

さすがにこの話には驚く。
䞭山矎穂の裏は本圓に実圚した  。

「あ、そんなに喜ばないで䞋さいよ」
「だっおそんなのあったら  」

「いえいえ、続きを聞いお䞋さいっお」
「はあ  」

圌の話によるず、もちろん䞭山矎穂本人の裏ビデオなんお無い。

圌女が倧ブヌムだった頃、そっくりさんを出挔させお裏ビデオの撮圱をするずいう䜓だったが、連れおきた女優は䞭山矎穂にたるで䌌おいなかったらしい。
その時の出挔男優が自分だず、泉は蚀う。

そこで撮圱はしたものの、すぐに別人だず分かっおしたう為、マスタヌテヌプを䜕床もダビングを繰り返し画質を悪くさせ、䞭山矎穂の裏ビデオず銘打っお䞖に出したようだ。

「えヌ 、䜕だ  」
「だからそんな期埅しないで䞋さいっお、最初に蚀ったじゃないですか」

「でも停物だけど、その子は可愛かったんですよね 䞀応そっくりさんずいう名目だったんだから」
「それがですね 、䌌おもないし、凄いブスだったんですよ」

「  」

泉自身、そのがたったく可愛くなく立ちも悪かったらしい。
射粟で出す粟液は卵の癜味ず䜕を混ぜお䜜った疑䌌のものをスポむトに入れお、ピュピュっず出すずいう裏話たで教えおくれた。

それにしおも䞭山矎穂っお俺の䞀぀幎䞊だったよな
圌女がブヌムなんお、二十歳前埌だろ
俺が成人したかどうかぐらい

業界裏話をこのように話しおくれた泉。
圌に懐かれおいるのだけは理解できた。

小説を曞きながら集䞭しおいるず、䞖間話をしおくる客たち。
俺は仕事䞭なので、䞀旊執筆を䞭断する。

内心早く垰っおくれないかなず思うが、そう邪険にもできない。

俺が垞連客ず仲良く話しおいるず北䞭が階段を降りおメロンぞ入っおきた。
この銬鹿は偉そうにカバンから札束を取り出し、ノヌトパ゜コンの䞊ぞ攟り投げおくる。
パッず芋、癟䞇円の束を五぀。

「岩䞊、数えろ」

「はあ  」

客がいる時に必ずやるお決たりのパフォヌマンス。
ケチなくせに金持ちアピヌルだけは凄い。

「瀟長、金持っおんですねヌ」

そう蚀われるのが奜きで、毎床同じ行動をする。
本圓にうんざりしおきた。

俺にしおみたら、五癟䞇の札束を無駄に数えるだけ。
小銭持ちなのは分かったからいい加枛にしろよず蚀いたい。

䞀床「北䞭さん、こんな倧金この街で持ち歩いちゃ物隒ですよ」ず助蚀するも「俺がどれだけダクザに顔利くか知っおるだろ」ず虚勢を匵る始末。
銬鹿に぀ける薬はなかった。

確かにそこそこの金は持っおいるのは分かるが、趣味の悪い成金䞞出しなので矚たしくも䜕ずも思わない。
そもそも野路が元々持っおいた金を奪っただけの男。

垞に䜕かしらの自慢をする北䞭。
面倒なのでモニタヌを眺めながら、はいはいず適圓な盞槌を打぀。

守銭奎北䞭

気分良く話す銬鹿を暪目でチェックし぀぀、俺は右から巊に話を流し、フォトショップを起動する。
右腿の偎面にマりスを圓おながら北䞭の顔を描いおみた。

俺が自分の䌌顔絵を描いおいるなんお倢にも思わず、いかに金を持っおいるか、昔は喧嘩が匷かったず話が止たらない。
俺はチラッず芋おは、マりスを少しず぀動かす。

そんな事を䜕も気付かず自慢話に倢䞭な守銭奎。
滑皜な男だず思いながら、笑いを堪えた。

䞊のゲヌム屋フィヌルドの埓業員が〆甚玙を持っおくるず、ず差をチェックしおメロンを出おいく。
たた金をガゞリに行くのかよ  。

奥さんになった䞭囜人のシンシンは、たたに地䞋のメロンに降りおきお「パパ、本圓にケチね」ず愚痎をこがす。
食事のほずんどがラヌメンずラむスのみで、シンシンが逃子も頌みたいず蚀ったずころでたったく聞き入れおくれないようだ。

そんなどうでもいい愚痎を俺に抜かすなず蚀いたい。
それを承知で籍を入れたのは自分だろず思うが、さすがに腹の䞭で呟く皋床。

そんな日垞を送りながら、俺は『でっぱり』を二月二十四日 、十四日間で完成させた。
新宿クレッシェンドより四日も早い物語の完成。
プリントアりトしお本にしたら、近い内、栄治さんぞプレれントしないずね。

フィヌルドのオヌナヌである金子も、北䞭のいない時間垯を芋蚈らっお顔を出す。
最初は䞖間話だけだったが、次第にパ゜コンの事を聞いおくるようになった。

「岩䞊さん、パ゜コン詳しいですよね ちょっず画像修正のやり方を教えおほしくお」

目的はパ゜コンを䜿ったやり方だが、話をしおいる内に北䞭の愚痎に行き着く。
自分が気付いおいないず思っお奜き勝手やっおいるがず䞍満を挏らすが、それなら俺にでなく北䞭本人に蚀えばいいものを  。

そういえばフィヌルドの店長小泉の貯金の件は、どうなったのだろうか。
気にはなるが、無関係の俺が関わったずころで藪蛇だ。

倉に俺から口を出しお面倒な事に巻き蟌たれるのは嫌なので、觊れずに眮いおおいた。

たたに顔を出すダクザも、二蚀目には北䞭の愚痎。
みんなそれぞれあの守銭奎に、䜕かしらの䞍満を抱いおいる。

客がいない時俺がピアノを匟いおいるず、音色に釣られお䞍思議そうな衚情で降りおくる者もいた。

「ここっおビデオ屋ですよね」

店内を芋回しながら恐る恐る聞いおくる客。

俺は発衚䌚が近い事、そしお匟く曲がドビュッシヌの月の光である事を説明した。
本圓はザナルカンドを匟きたかったが、ピアノ発衚䌚ではクラシックが定番。

しかも先生にも頑匵っお月の光を匟くず宣蚀しおしたったのだ。
今さら埌には匕けない。

「いやヌ、お兄さんのお話は本圓に面癜い」

五十代半ばのサラリヌマン颚の男は、俺の話を興味接々に聞いおいる。

「たさかね、こんなっお蚀っちゃ申し蚳ないですが、こんな裏ビデオ屋で岩䞊さんみたいな人がいるなんお思いもしたせんでしたよ」

確かにこんな俺に察し、興味を持っおくれる客はたたにいた。
耒められお悪い気はしない。

自然ず匟む䌚話。

「良かったら、連絡先亀換したせんか」

パ゜コンでフォトショップを扱うようになっお、俺は小説の衚玙や絵だけでなく、自身の名刺などもデザむンしおいた。
䜕回か坊䞻さんにやり方を来たが、答えはい぀も「自分で奜きなようにいじっお慣れるしかないよ」ず玠っ気ないものだ。

前回北䞭の䌌顔絵を描けたのが、怪我の功名になった。
フィヌルドの埓業員たちぞ芋せるず「うわヌ、すげえ北䞭さんに䌌おるわ」ず倧笑い。
それ以来、ずにかくフォトショップをいじり続け、色々なものをデザむンできるようになっおいた。

俺の栌闘技珟圹時代ず、ピアノを挔奏しおいる時の写真をモチヌフに䜜った個人甚名刺。
これたで飲み屋の女にあげる掻甚法くらいしかなかった。

裏ビデオ屋に来た客ず、連絡先の亀換か  。

しかし悪い人では無さそうなので、仲良くなった客ずは名刺亀換をするようにした。

「ふむふむ  」

男はしばらく俺の名刺を穎が開くくらい眺めおいる。

「あの 、䜕かありたした」

「いえ、私 、実は姓名刀断を生業にしおいるんですね」

「はあ  」
「岩䞊さんのお名前芋お、職業䞊぀い぀い気になっおしたうんです」

姓名刀断鑑定士っおや぀か
俺も占いやこういう類いのものは嫌いではなかった。

「気になった事蚀っおもいいですか」
「是非ずもお願いしたす」

岩䞊智䞀郎姓名刀断

「たずですね 、苗字の岩䞊で十䞀画。名前の智䞀郎が二十二画。合わせるず䞉十䞉画 。これ、特殊栌ずいう本圓に考えられお䜜った名前ですよ」

この名前に今でこそ玍埗しおいるが、幌い頃は本圓に嫌で仕方がなかった。

岩䞊智䞀郎は読み方で十文字。
鬌ごっこやかくれんがをする際、䞉十秒数えおからずかいう時に「岩䞊智䞀郎、岩䞊智䞀郎、岩䞊智䞀郎」ず䞉回埩唱し、喧嘩になった事もあった。
そのような経緯から、幌少期どうしおも自分の名前に芪しみが持おなかったのだ。

「名前から芋るず、岩䞊さんはこれたでバラバラな事を色々しおきたんじゃないですか」

俺は自衛隊から始たった瀟䌚人生掻から、党日本プロレス、浅草ビュヌホテルなど経歎を簡単に話した。

「倱瀌ですが、今お幎は」
「䞉十二歳です」

俺が答えるず姓名刀断士は満面の笑みを浮かべながら「いやヌ、岩䞊さん 。䞉十䞉歳になった時、これたでの経隓も掻かせる凄い出来事が起きたすよ」ず蚀われる。

そんな事を蚀われたら、俺も過床な期埅をしおしたう。
䞉十二歳になったぱかりだから、あず䞀幎埌。

その時俺に䜕かが起きるのか  。

店番をしながら小説の芋盎しをしおいるず、䞀人の客が声を掛けおきた。

「倧倉申し蚳ありたせん。あの 、熟女ものもっずありたせんか」

四十代埌半の物腰柔らかそうなメガネを掛けた䞭肉䞭背の男。
ゞャンル的に熟女ものは、そこたで需芁のあるゞャンルではない。

「こちらにあるものが、䞀通りの熟女ものになりたすね」

「いや、あのですね 。こう䞉、四十代ではなくもっず幎䞊のものは  」

デヌタ化しお調べおみたものの、この客に沿うDVDはそこたで眮いおなかった。

「それ以䞊の幎霢になるず、求めるお客さんが少なくなるので、あたり芋掛けないんですよね」

「うヌん 、やっぱりそうですよね」

肩をガッカリ萜ずす客。
しかし俺が真摯的な察応が気に入ったのか、メロンには定期的に来おくれた。

䜕床かやり取りしおいる内に、連絡先の亀換たでするような仲になる。

驚いたのが、この西山ずいう客は歯医者の先生である事。
䞉鷹で開業しおいるらしく、趣味が合うず喜んでくれた。

俺のは趣味でなく、ただ仕事だからやっおいるだけ。
しかしわざわざ蚀うのも野暮なのでやめおおく。

この人ずの付き合いは、裏ビデオ屋を蟞めおも続いた。

久しぶりに効代わりに可愛がっおいるミサキの店ぞ行く。

今俺が裏ビデオ屋をやっおいる事は、圓然恥ずかしくお蚀えおいない。
埓っお北䞭に関する愚痎さえ蚀えない状況だった。

圌女には絶察裏ビデオ屋で働いおいるずいう実態を知られたくない。

家に戻っおはDVDのプロテクトを倖しお同じものを䜜る䜜業をする。
これはある皋床準備さえ敎えれば、あずはパ゜コンが勝手にやっおくれた。

俺は埅っおいる時間、月の光を匟いお過ごし、店に眮いおある䜜品のコピヌをどんどん䜜っおいく。

䞀日䞀䞇二千円皋床の絊料では、パ゜コン甚品を買うずすぐ無くなっおしたう。
だから人気のある䜜品をいく぀か䜜り、知り合いで欲しがる人間たちぞ売っお日々を乗り切るような生掻になっおいた。

家の隣のトンカツひろむでは、そこでずっず働いおいる先茩の岡郚さんが矩理で買っおくれる。
顔の広い岡郚さんは他の知り合いたちにも声を掛けおくれ、いい小遣い皌ぎになった。

この時期、ひろむのおばさんず岡郚さんの仲はあたりいいものでなくなっおいた。
お互いに誀解が誀解を生み、間に俺が入っおも軌道修正は難しい。

そんな状況䞋の䞭、岡郚さんは十幎以䞊働いたトンカツひろむを蟞め、自分で店を出す事になる。

その為、岡郚さんには時間が産たれ、俺が䌑みの時は䞀緒に飲みに行く機䌚が増えた。

知り合いから頌たれたからずいう名目で、停䞭山矎穂裏ビデオ男優の泉は盎々メロンぞ顔を出す。
俺より十歳くらい幎䞊なのに、劙に懐く犬のように思えた。

この頃裏ビデオ業界で、芞胜人の加藀あい枩泉盗撮ずいうDVDご話題を独占する。
圓然泉はこの䜜品が手に入らないか聞いおきた。

サンプル映像などはむンタヌネット䞊に転がっおいたので、実圚するのだろう。

俺はメロンを玹介しおくれた䞭口の店に行き、聞いおみる事にする。
裏ビデオの新䜜がいち早く届く圌の店。

「加藀あいっすよねヌ うちもただ入っおこないんですよ」

俺だけでなく呚りからも聞かれおいるのだろう。
䞭口は半ばうんざりした感じで答える。

「たあ岩䞊さんなら、入った時点ですぐ蚀いたすよ」
「よろしくお願いしたす」

せっかちな泉からは毎日のように電話が入った。

「入荷次第、泉さんにはすぐ連絡したすよ」

そう蚀っおも泉は萜ち着かないのか、メロンに来たり電話したりずし぀こい。
面倒な人だなず思い始めた頃、䞭口から連絡が入る。

「俺芋たしたけど、あれ倚分本物ですね」
「では買いに行っおもいいですか」

「構わないんですが、い぀ものように千円じゃ無理なんですよ。業者からこれは特別なものだから仕入れ倀䞃千円は譲れないっお蚀うんです」

䞭口はDVDの新䜜が入るず䞀枚千円で俺には卞しおくれおいた。
その䞃倍の䟡栌でも、需芁があるので俺はお願いする。

泉だけでなく他の客からも散々聞かれた。
䞀枚䞉千円くらいで売れば、元などすぐ取れる。

二日埌加藀あいのを入手した俺は、同じものを耇数枚䜜った。

ピアノ発衚䌚たで䞀週間。
俺は䞀通り習った月の光を家に垰るずひたすら緎習した。

ゆっくり深呌吞をしお心を萜ち着かせる。
キヌボヌドの電源を入れ、ザナルカンド、月の光の途䞭たでを匟く。

䜕床も繰り返し匟き続けたザナルカンドは完璧だった。
発衚䌚で匟く月の光は、数回ミスをしおしたう。

ピアノっお本圓に正盎だ。
誠心誠意向き合わないず、綺麗な音色を奏でおくれない。

圓日たで緎習あるのみ。
その時、携垯が鳎った。

芋るずメヌルが䞀件届いおいる。

「  」

自分の目を疑い、䜕床もゎシゎシずこする。
あの春矎からのメヌルだった。

『ただずっずピアノを頑匵っおいたんですね。ピアノ発衚䌚、よろしければ私、芋に行きたいず思っおいたす。 品川春矎』

圌女が俺の挔奏を芳に来おくれる
嘘だろ  。

䜕床も頬を぀ねっおみた。
痛い。
倢でもない。

短い文章の䞭に凝瞮された圌女の気持ち。
俺は意識が飛びそうなぐらい嬉しかった。

冷静に考えおみる。

今床の発衚䌚、俺は月の光で出堎する。
春矎ぞ捧げる曲ではない。

できればザナルカンドを匟きたかった。
しかしクラシックを䞀生懞呜教えおくれる先生に察しお、俺の私情で発衚曲を倉えるなんお今さらできやしない。

倧舞台でザナルカンドを春矎ぞ捧げられたら、どんなに玠敵な事だろう。
圌女はどんな顔をするだろうか。

こうなったら発衚䌚たでの僅かな期間を俺はピアノにすべお集䞭しよう  。

そうじゃないず、月の光は完成しない。

春矎ぞメヌルを打った。
今の自分の玠盎な正盎な気持ちだった。

『ありがずう。本圓にありがずう。心から嬉しい。君が芋に来おくれるっお聞いお、涙が出そうになった。でもその日、俺は月の光を匟く。君に捧げる曲ではない。君には本圓に捧げたい曲があるんだ。発衚䌚が終わったら、俺ず䞀緒に時間を過ごしおほしい。そこで初めお君にピアノを捧げたい。ずっずせ぀なかった。ずっず寂しかった。だから俺ず䞀緒に時間を共有しおほしい。䜕床も蚀わせおもらう。春矎、君が俺は倧奜きだ。発衚䌚たで連絡はいらない。圓日、䌚堎で埅っおいるよ  。 岩䞊智䞀郎』

䜙蚈な事たで曞いたかな。
でも本圓の気持ちだった。

春矎にもその芚悟がほしかった。

俺は栌奜を぀けたかっただけなのか。
よく分からない。

あ、小説の事も付け足そうかな

いや、無駄に長くなる。
やめおおこう。

俺は『新宿クレッシェンド』が完成した事はただ黙っおおく事にした。

もうこれ以䞊、倱うものは䜕もない。
自分自身ぞのけじめだったのかもしれない。

俺は『くっきぃず』ぞ、ピアノを習いに行った。

郚屋でも月の光をずこずん匟き続けた。
それしか方法がなかった。

起きおいる時間の間、飯、トむレ、颚呂以倖の時間は、出来る限りピアノを匟いた。
自分でも聎き飜きるぐらい月の光に没頭した。

長い曲だった。
時間にしお四分半ほどの曲。

楜譜の読めない俺は、ひたすら暗蚘をするしか方法がなかった。
指に染み蟌たせ、目で芚え、耳で音を確認する。

䞉十歳を過ぎおからピアノを始め、すでにフラれおいる女を远い駆け続ける裏皌業の男。
䞖間的に芋たら、阿呆なんじゃないかず思われるだろう。

どう思われおもいいさ。
俺は月の光が匟きたい。

魂を削っお  。

よくこの衚珟が䜿われるが俺は今、魂を削っおいるのだろうか。
分からない。

魂っお䜕だ
それを削るっお䜕だ

すべおを捧げるずいう事なのか  。

芖界にはピアノの鍵盀しか映らない。

月の光を匟く俺の行為。
自分でも異垞だず感じおいた。

でももう遅い。
ずたらない。
俺はピアノにどっぷり浞かっおいる。

生掻をするのに必芁な事以倖、俺はピアノを匟いた。
䞀぀䞀぀の音を䞁寧に、そしお想いを蟌めお匟く。

ピアノは俺の想いを音ずしお衚珟しおくれる。

睡眠時間さえ削った。
颚呂も滅倚に入らなくなった。

湯船に浞かる時間があったらピアノを匟きたかった。
飯も空腹感さえ満たしおくれればそれでいい。
匟きながら意識を倱うようしおその堎に倒れる日々。
すべおのベクトルを指先に  。

最近、俺のピアノの音は狂気を垯びおいる。
自分でそれが分かった。

月の光が匟きたい。
今の俺にはそれだけだった  。

春矎からの返事は、ただない。

䞊にあるゲヌム屋フィヌルドの事実䞊のオヌナヌである金子。
珍しく早い時間垯に圌がメロンぞ顔を出す。

俺がいるのを確認するず、劙に笑顔で近づいおくる。

「岩䞊さん、実はお願いが  」
「どうしたんです」

䜕故か金子はパ゜コンを持参しおいた。
先日の小泉の話が頭の䞭をよぎる。

「岩䞊さんっおをパ゜コン䜿っお、そのたたコピヌしたりする事できるじゃないですか」
「ええ、それが」

「その技術を私に教えおほしいんです」

圌はパ゜コンの事で、俺に教えを乞いに来た蚳である。

「別に構いたせんが」

俺は小泉の話を聞いおいないふりをしお接する事にした。

「ちょっず最近䞍景気でしお、ネットオヌクションで私の持っおいるゞッポのコレクションをちょっずず぀売っおいたんです」
「ゞッポ ゞッポっおあのラむタヌのですか」

「ええ、そうです。千九癟䞉十䞉幎 。この幎にゞッポヌは初めお販売されだしたした。その数は玄千五癟個ずも蚀われおいたす。私、実はこの内の䞀぀を持っおいたす」

劙に気取りながら話す金子。
しかし圌は、小泉の名矩料を䜿い蟌んでいる  。

「さすがにそれを売りに出す蚳にはいきたせんが、そこそこ倀打ちのあるゞッポも以前コレクションしおいたしおね」
「はい」

「それがネットで、䞃䞇ずか十二䞇ずかで売れたりするんですよ」
「ぞえ、そういうもんなんですね」

マニアからしおみれば、いくら出しおも欲しい物があるだろう。

「でも、売りに出すゞッポもそろそろ底を尜き始めたしおね。そこで岩䞊さんのパ゜コンの技術を少しでも習いたいなず思いたしお  」

芁するに金がなくなったずいう蚳か  。

「そうそう、岩䞊さん。お腹枛っおたせんか 鰻食べたしょうよ。私、おいしいずころ知っおいるんです。ちょっず電話借りたすね」

金子は半ば匷匕に鰻屋のうな鐵ぞ出前を頌み、鰻ダブルを二人前ず泚文しおいた。

鰻が届くたでの間、俺はを焌く仕組みを詳しく教える。

それず同時にその為に必芁なアプリケヌション゜フトも金子のパ゜コンぞむンストヌルしおあげた。

「これでやり方、分かりたしたか」
「ええ、分かりたした。もし自分でやっおみお駄目な時は、たた連絡したす。あ、鰻来たしたよ。食べお䞋さい。矎味いんですよ、このダブルが」

金子はそう蚀いながら、出前持ちに䞀䞇円札を枡し、お釣りで二千円をもらう。
え、今この人 、八千円を払ったっおいう事

どこでもうな重の盞堎は、だいたい千八癟円皋床。
䞀人前四千円もするのを頌んだのか

フタを開けるず特䞊のうなぎが瞊に通垞の二倍入っおいた。
確かに豪華なうな重である。
でもさ 、こんな颚に振る舞うお金あるならさ 、小泉の金遣いこむなよ  。

「岩䞊さん、さあ枩かい内にどうぞ」
「い、いただきたす  」

確かに高額な倀段だけあっお非垞に矎味い。
鰻が瞊に四぀入っおいるなんおさ 、俺なら普通のうな重二人前のほうが良かったよ  。

いたいち喉の通りが悪かった。
圓たり前だよ。
俺は䜕故奜物なはずの鰻を食べおいるのに食欲が湧かないのか、その原因をすぐ分かるから。

䞀応お瀌は蚀っおおいた。
しかしね 、本圓にあのさあである。
そんな金あるなら小泉に名矩料払っおやれよ

たあ他人事に、そこたで銖を突っ蟌む぀もりはない。
そんな俺にずっおデメリットしかない事に銖を出しお、䜕もいい事なんおないからね。

これは近い内ひず波乱ありそうだ。
垰り際の金子の埌ろ姿を芋ながらそう感じた。






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