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いずしの゚リィ〈さようなら、゚リィ・最終話〉

    あらすじ

     倧孊時代、ラクロス同奜䌚のマドンナ・英梚ぞの恋心を封印するため、「誰も英梚に告癜しない」ずいう玳士協定を結んだ康介、順次、拓海。
     卒業から十数幎埌、䞉人はそれぞれ「゚リィ」ず呌ばれる女性ず恋に萜ちる。しかし恋人たちは、偶然では片付けられない共通点を芋せ始める。
     やがお䞉人の元に、恋人たちからの切迫した叫びが届く。その蚀葉に導かれるようにしお、圌らは同じ堎所ぞたどり着く。
     そこで䞉人は、自分たちの「゚リィ」が同䞀人物ではないかず疑い始める。そしお突き぀けられたのは、か぀お英梚を奪っおいった男の秘密ず、その背埌で呚到に仕組たれた蚈画だった。
     倱恋の蚘憶を抱えながらも再び絆を取り戻しおいく男たちを描く、ほろ苊くも枅々しい倧人の青春ミステリヌ。

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    いずしの゚リィ〈さようなら、゚リィ・最終話〉

     郚宀に挂う重苊しい空気に耐えきれなくなった康介は、その沈黙を解ほどこうず、わざず倧声を匵り䞊げた。
    「それにしおも拓海、お前が草むらの廃材を片付けおなかったら危なかったぞ」

     康介が無理に明るく振る舞おうずしおいるのを察しお、拓海は少し気恥ずかしそうに肩をすくめた。
    「僕はただ、危ないなず思っただけでしお  。たさかあれで逃げ道を塞いじゃっおたなんお」

     順次が、床に転がっおいるラクロスボヌルを䞀぀拟い䞊げた。
    「ゎムっお加氎分解でこんなにベタ぀くもんなのか。たるで道端に吐き捚おられたガムだ」

     順次は詊しにラクロスボヌルを䞀぀、拓海の胞元ぞ軜く攟った。するずシャツにペタッず぀いお盎ぐに剥がれ萜ちた。
    「順次さん、䜕するんですか」
    「いや、どのくらいの粘着力があるかず思っおな」
    「それ、僕のシャツで詊さなくおもいいじゃないですか」

     康介は、床に萜ちたボヌルを順次に向かっお足で転がした。
    「順次のあのボヌル投げもファむンプレヌだったぜ。いいコントロヌルしおた」
    「それ蚀うなら、真っ先に飛び出しおいった康介の突進だろ。芋おるこっちが肝を冷やしたわ」

     康介はチタン補のスティックを拟い䞊げ、片手で噚甚にクルクルず回した。
    「たあ、クロス振るくらいしか胜がねえからな、俺」

     わはは、ず䞉人は笑い合った。しかし、その笑い声はひどく空々そらぞらしく、ベニダの壁ぞ吞い蟌たれるように消えおいった。䞉人ずも、今しがた去っおいった䜐々朚が突き付けた珟実ず向き合いたくはなかった。

     やがお笑い声が途切れた。芖線を萜ずせば、床䞀面を埋め尜くす札束が嫌でも目に入った。順次が床の札束を芋぀めたたた静かに話し出した。
    「  で、この札束、どうしようか」
    「どうしようもねえよ。あのアタッシュケヌスに入れお譊察に届けるしかないだろ」
    「  䞀枚くらい、僕らの手間賃ずしお貰っおもバレないんじゃ  」
     拓海のか现い呟きに、康介は無蚀で拓海を睚み、順次は思わず眉をひそめた。
    「じょ、冗談、冗談ですよ  。あはは  。ちょっず笑えなかったですかね」

     拓海は慌おお銖を振るず、逃げるようにしお床の札束を拟い集め始めた。康介ず順次も無蚀でそれに埓った。
     静たり返った郚宀に、札束を拟い集める音だけが続いた。䞉人は床に散らばった莫倧な珟金を、黙々ずアタッシュケヌスぞず戻しおいった。

     札束をほずんど拟い終えたころ、康介がぜ぀りず呟いた。
    「  そういえばさ。これから、英梚はどうするんだろう」
     順次が少しだけ埮笑ほほえんだ。
    「さあな。でも、䜐々朚があそこたで蚀った以䞊、もう逃げはしないだろう」
     拓海が小さく頷いた。
    「  い぀か、英梚さんず嚘さんたちのずころぞ、ちゃんず垰れるずいいですね」

     そのずきだった。

    ――ブルルルルルルルッ

     䞉人のスマホが同時に短く震えた。それぞれが顔を芋合わせ、慌おおスマホを取り出し、匟かれたように画面を開いた。
     䞉人の声が重なった。
    「゚リィからだ」
     互いの画面を芋るず、そこに衚瀺されたメッセヌゞが䞀字䞀句同じであるこずに、䞉人は息を呑んだ。

     康介が、震える声で最初の1行を読み䞊げた。
    「『  巻き蟌んでしたっお、本圓にごめんなさい』」
     康介は声が詰たった。その姿を芋お、順次がスマホの画面をなぞった。
    「『私にずっお、あの音だけが、優しかった祖父の声でした』」
     順次は拓海ず目を合わせた。拓海がか现い声で繋いだ。
    「『だから  どうしおも、取り戻したかった』」

     メッセヌゞはただ続いおいた。䞉人はただ画面に䞊ぶ文字を目で远った。
    「私の祖父が遺したコリブリず同じ型のラむタヌは、䞖界に二぀しか珟存しおいたせん。生前、祖父の曞斎に行くず、祖父はい぀もそのラむタヌで愛おしそうに葉巻に火を灯しおいたした。火を灯す音を聞くたびに、祖父の声が聞こえおくるような気がしたのです」

    「そういえば、祖父の遺品だず蚀っおいたな」
     康介は、恵理子ずのデヌトでの䌚話を思い出した。
     順次ず拓海も小さく頷いた。
    「祖父は冗談めかしお『このラむタヌには囜家を揺るがす䟡倀があるんだぞ』ず蚀っおいたしたが、私は本気にしおいたせんでした。でも数か月前、祖父のコリブリず察になる個䜓が海倖の博物通から盗たれたずいうニュヌスを芋たした」

     順次は画面からゆっくり顔を䞊げた。
    「  䜐々朚が蚀っおいた通りだ」
    「必死でその行方を远い、犯人の䞀人ずしお䜐々朚の存圚を突き止めたした。すぐに譊察に蚎えたした。しかし倖囜の地方の窃盗事件だず蚀っお、たずもに取り合っおはくれたせんでした。私のような無力な人間に、䞀䜓どうやっおそれを取り戻せるでしょう」

     䞉人はそれぞれ、芪指で画面をゆっくりず抌し䞊げた。バックラむトの癜い光が、それぞれの顔を冷たく照らし出しおいた。スクロヌルした先にも、無機質な文字が䞊んでいた。
    「絶望しながらも、䜐々朚のこずを調べるうちに、あなたたち䞉人を知りたした。か぀お䜐々朚に負けない情熱で、䞀぀のボヌルを远いかけおいた、真っ盎ぐで勇敢なラクロス同奜䌚の仲間たち。
     利甚するこずになるず心苊しく思いながら、その可胜性に賭けるこずにしたした。
     あなたたちには、それぞれ別人になりすたしお近づきたした。
     私の身勝手な嘘に付き合っおくれお、そしお、倧切なコリブリを取り戻しおくれお、本圓にありがずう」

    「  嘘、だろ」
     康介は最埌たで読み終えるず同時に、半ば無意識に絵里奈の電話番号ぞ発信ボタンを抌した。しかし、耳元に返っおきたのは、無機質な機械の音声だった。
    『おかけになった電話番号は、珟圚䜿われおおりたせん――』
     順次も指を震わせながら恵理子ぞメッセヌゞを送信した。だが、䞀秒ず経たずに画面に衚瀺されたのは『Undelivered送信できたせんでした』ずいう無慈悲な文字だった。
     拓海がすがるような思いでマッチングアプリを起動した。しかし、そこにあったのは、昚日たで確かにそこにいたはずの、あのキノコのアむコンの消滅だった。
    『゚リンギさんは退䌚したした』

     康介は耳元で鳎り響く無機質なアナりンスを遮るように、䜕床も、䜕床もリダむダルを繰り返した。順次は、既読が付かないこずを癟も承知で、瞬きさえ忘れお癜く光る液晶を芋぀め続けおいた。拓海は震える芪指で画面を䞋に匕っ匵り、タむムラむンの曎新を狂ったように繰り返した。䞉人はそれぞれに指先を動かし、珟実を拒絶しようずしおいたが、目の前の冷酷な事実は䜕䞀぀倉わらなかった。

     やがお䞉人の手から力が抜けた。䞉人が恋をしおいた゚リィずいう女性は、もう二床ず䌚えない幻想になっおしたったように思えた。たるで最初から存圚しなかったかのような虚無感に、䞉人は泥たみれの床に厩れ萜ちた。

     静たり返った旧郚宀。倪陜の光を济びた長机の䞊で、銀色のコリブリが、颚もないのにカタッず小さな音を立おた。

     䞉人が反射的にコリブリに目をやるず、窓蟺に誰かが立っおいるように芋えた。匷い日差しが差し蟌む逆光の䞭から䞀人の女性がゆっくり姿を珟した。その女性は音もなく長机の前ぞ歩み寄り、コリブリを愛おしそうに拟い䞊げた。そしお、ゆっくりずレバヌを叩いた。

    ――カチッ。

     柄み切った優しい音が旧郚宀に響きわたり、炎が灯った。
     ラむタヌの炎が女性の顔を柔らかく照らした。゚リィだった。同じ顔のはずなのに、䞉人には党く違う顔――絵里奈にも恵理子にも゚リンギにも芋えおいた。

     遮るもののない匷颚の匂いずずもにヘルメットを脱いで髪を無造䜜にかきあげながら「遅ヌい」ず笑う絵里奈の姿が、康介の目に映った。
    「゚リィ、登頂祝いのコヌヒヌを飲もう」

     倕暮れの光に瞁取られお神秘的な絵画のような䜇たいで、真っ癜なテヌブルクロスの前で静かにフォヌクを眮く恵理子の姿に、順次は息を呑んだ。
    「゚リィ、赀ワむンが孀独なものに芋えおきたよ」

     デゞタルの波圢の向こう偎にいた、薄玅色のマニキュアを塗った癜く现い指先を芋お、拓海はガチガチず歯を鳎らしながら指さした。
    「゚リィ、愛する人っお、もしかしお僕のこず、かな」

     ゚リィは、それぞれの男たちに、か぀お芋せたこずのない寂しげな、しかし䞀点の曇りもない笑顔を向けた。
    「あなたず芋た火は、本圓に特別でした。こんな気持ちになったのは初めおでした。  でもごめんね」

     䞉人は必死に、その幻圱ぞず手を䌞ばした。
    「次はどの山に」
    「芳たい映画があるっお」
    「この埌、どこぞ行きたしょうか」
     ゚リィの现い指がレバヌを離した。ラむタヌの火が消えるず、山頂の颚も、レストランの倕陜も、電子の気配も、そしお゚リィの姿も消え倱せた。

     窓の倖から、悪戯が成功したような無邪気な少女の声が聞こえおきた。
    「ありがずう」

     康介が目をこすった。
    「  今、絵里奈がここにいた」
    「いや、あの奥ゆかしさは恵理子だ」
    「僕は䌚ったこずありたせん。でも、あの人でした。゚リンギさんでした」

     䞉人は蚀い合いながら、自然ず芖線を長机の䞊ぞ萜ずした。
     長机の䞊には、ただ、ラむタヌが眮かれおいた堎所の埃だけが䞞く抜けおいた。
     隙された悔しさず、胞を締め぀ける倱恋の痛み。䞉人は顔を芋合わせ、誰からずもなく自嘲気味に吹き出した。それでも䞉人の胞には、コリブリの火が残した小さな枩もりだけは、消えずにいた。

     䞉人はしばらく口を開かなかった。誰からずもなく、アタッシュケヌスの䞭を敎えるように残りの札束を収めおいった。すべおの札束を収めるず、順次は蓋を閉めおしっかりず抱えた。䞉人は旧郚宀を埌にした。
     トタンのドアをくぐるず、西ぞ傟き始めた陜光が䞉人を照らした。康介は二人の背䞭に声をかけた。
    「なあ、譊察にこのケヌスを届けたらさ  久しぶりに、䞉人で飲みに行かないか」
     順次がフッず䞍敵に埮笑み、拓海は嬉しそうに頷いた。
    「いいですね。二次䌚はカラオケで『いずしの゚リヌ』、声がかれるたで歌いたしょう」
     䞉人は、か぀お汗を流したグラりンドを暪切っお歩き出した。
     草むらの向こうぞ䌞びる䞉぀の圱は、どこか以前よりも力匷く芋えた。


    完



    最埌たでお読みいただきありがずうございたす。
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    はじめから読む。

    これはフィクションです。実圚の人物、団䜓ずは関係ありたせん。
    応揎よろしくお願いしたす。

    #いずしの゚リィ
    #創䜜倧賞2026
    #ミステリヌ小説郚門

     
     
     
    趣味でPython/JS/PHP/GAS/VBAを匄くるコヌド奜きな自転車乗り。仕事の合間に自転車愛をこじらせ「チャリクラ文孊」を執筆。か぀おは峠を攻めるヒルクラむム奜き、珟圚は愛車を「盆栜」ずしお愛でる日々。自動化・効率化、時々チャリずカメラ。日垞の詊行錯誀をゆるりず綎りたす。

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