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【連載 #1】習字って、文字をきれいにするだけじゃない。【第1章】

    この記事は、

    マガジン『子どもに必要なことは、すべて習字が教えてくれた』です。全8回、連載完結しております。

    ※この連載はnote創作大賞2026にエントリーしています。プロローグから最終章まで、全8回を公開中です。

    最初から読む方はこちら↓からどうぞ。

    習字の真の効果、その1つ目のお話です。

    「失敗してもいいからね」が、子どもを変えた

    頭の中にイメージしてみてください。

    床の上に、幅10センチのテープが数メートル、一直線に貼ってあります(これはネットのどこかで読んだことのある、例え話です)。

    「このテープの上を歩いてみて」と言えば、子どもは軽々と歩きます。よろけることもなく、笑いながら渡りきります。

    では、同じ10センチ幅の鉄板を、地上3メートルの高さに渡したとしたらどうでしょう。

    足がすくんで、一歩も踏み出せなくなります。

    幅はまったく同じです。変わったのは「高さ」だけ。つまり「失敗したときのこと」へ意識が向いてしまっただけです。

    わが子には上手になってほしい。せっかく習字を習わせているんだから、きれいな字を書いてほしい。その気持ちは、親としてごく自然なことです。

    私は2児の父でもありますから、横からいろいろ口を出したくなる親御さんの気持ちは痛いほどわかります。

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    でも20年間、教室でたくさんの親子を見てきて、はっきりわかったことがあります。

    「上手に書きなさい」「ちゃんとやりなさい」という言葉は、ほぼ確実に逆効果になります。

    この言葉をかけられた瞬間、さっきまで伸び伸びと筆を動かしていた子どもの手が、ピタッと止まります。筆を紙に置くことをためらうようになります。字はどんどん小さくなり、まるで金縛りにあったように動かなくなってしまう。

    プレッシャーを感じた子どもは萎縮します。そして萎縮すると、かえって間違いが増えます。うまく書こうとすればするほど、手が動かなくなっていく。

    さらに厄介なのが、

    「ああもう!」
    「なにやってるの!」

    という外野の声。これが日常になると、子どもが何かやるたびに、まず親の顔色をうかがうようになる。

    自分ひとりでやってみようかな、というワクワクした挑戦が、

    「怒られないかな…?」という不安に変わってしまう。

    習字だけの話ではありません。勉強でも、スポーツでも。

    では私はお稽古でどう言うか。

    「失敗してもいいからねー。」

    まずこれだけ言います。上手に書けとも、頑張れとも言いません。最初に「失敗の許可」を出すんです。

    それだけで、子どもの肩からふっと何かが抜けていくのがわかります。

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    Aちゃんが教室に来たのは、小学2年生の春のことでした。

    初日からどこか緊張した様子で、返事は小さく、筆を持つ手も固い。「うまく書けなかったらどうしよう」という気持ちが、小さな背中からにじみ出ていました。

    私はまず、はじめから習字の話をしませんでした。天気のこと、好きな食べ物のこと、学校のこと。他愛もないおしゃべりをしながら、少しずつ緊張をほぐしていく。

    そして書き始める前に、一言だけ言いました。

    「失敗してもいいからねー。習字はね、ただ文字を書いてるだけ。失敗しても死ぬわけじゃないし。お絵かきと一緒だよ。」

    Aちゃんは少し笑いました。

    はじめは自信なさげに小さく文字を書いていたAちゃん。失敗した作品をクシャクシャと丸めて捨てていたAちゃん。

    それがだんだんと、文字が大きくなっていきました。失敗した作品を捨てずにそのまま見せてくれるようになりました。自分から話しかけてくれるようになりました。仲のいい友達を教室に連れてきてくれたりもしました。

    Aちゃんの実力は少しずつ、ですが確かに身についていきました。

    習字が上手くなったから自信がついたのか。自信がついたから上手くなったのか。

    おそらくその両方で、どちらが先かはわかりません。

    しかし、ほんの小さな成功体験がAちゃんを成長させてきたのです。

    これはAちゃんの“才能”なのでしょうか?じつは習字って、才能がそんなにいらないんです。

    運動神経も、音感も、地頭も関係ない。習字は練習した分だけ、誰でも上手くなります。上手くなったことが自分でわかります。

    だから続く。続くから、いつの間にか集中力がつく。粘り強さがつく。コツコツ積み重ねる習慣がつく。うまくいかなくてもまたやってみようと思える気持ちが育つ。

    ほんの少しの成功体験が、波のように広がっていく。

    学習塾が悪いとは思いません。年齢が上がればもちろん大切になってくる。

    ただ、小学1年生にいちばん必要なのは、そっち方面ではないのかなと私は思っています。

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    知識を詰め込むことだけが勉強ではありません。

    正解か不正解かではなく、昨日より上手くなったという実感。

    怒られないように動くのではなく、自分がやりたいからやるという気持ち。

    そういうものが子どもの自己肯定感を高め、自分の力で立つことのできる人間を育てていく。

    「やればできる」と自信をつけた自分を育てる場所が、この習字教室であってほしいと思っています。

    次は第2章「筆を持つ前に、まず『座る』。それだけでも子どもは変わりはじめる」

    姿勢が子どもの集中力とモチベーションを変える話をします。

    ↓どうぞご覧ください。


     
     
    書家・東海林龍文|しょうじ書道教室 主宰/1980年創業&2代目・秋田市3教場|累積700人以上を指導|習字は「和製モンテッソーリ」、文字をきれいにするだけじゃない|秋田県美術展 特賞受賞|NHK秋田取材|手本年間2000枚|二児の父

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