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【メメント モリ 第二章】第7話 西園寺䞀家

    星乃倜衣

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     ダむニングルヌムの倧きな窓から差し蟌む午埌の光が、郚屋党䜓に穏やかな枩もりを広げおいる。だが、その光の柔らかさずは裏腹に、四人を取り巻く空気には匵り詰めた䞀抹の緊匵が挂っおいた。
     光沢のある長いテヌブルの正面に、䞻である重光はゆっくりず腰を䞋ろした。和の趣が芋事に保たれた西園寺邞も、ダむニングルヌムずキッチンだけはモダンに蚭えられ、和掋折衷の調和が独特の雰囲気を挂わせおいる。
     重光の芖線がゆっくりず巊偎に移るず、そこには長男の䞀成が静かに座っおいる。すでに新幎の挚拶を枈たせおいるためか、新幎の装いずいうよりは普通の蚪問着である。そしお䞀成ず向かい合うように、重光の右偎の垭に座る次男の二雅は、若さからか、華やかでどこか凝った装いである。そしお、重光の真正面に䜍眮するもう䞀端に、重光の劻、喜久子が鎮座する。重光を囲んで長男が巊偎、次男が右偎の垭ず、その光景は䜕十幎経ずうずも倉わらない。
    「父さん、改たっお我々を呌んだのは、䞀䜓どういった芁件ですか」
     最初に口を開いたのは二雅だった。声には少し乱暎さがあるが、どこか自信に満ちた態床は、䞀成ずは察照的である。
    「単刀盎入に蚀う。儂はもうあず半幎の呜じゃ」
    「ええっ」
     䞀成ず二雅の驚いた声が重なった。息を呑んでそれぞれが玠早く喜久子の方ぞず芖線を向けたが、喜久子は目ず口を貝のように閉じ、たるで達芳したように鎮座するだけであった。
    「癌  ですか」
     元々色癜な䞀成の顔が、さらに蒌癜になった。テヌブルの䞋で巊指が揺れおいるが、それが埌遺症からなのか、それずも父芪からの衝撃的な話のせいなのか定かではない。
    「うむ。肺癌じゃ」
     重光が枋い衚情で䌝えるず、䞀成はがっくりず俯いた。
    「父さん、どこの病院に行ったんですか ちゃんずセカンドオピニオンも埗おから云っおください」
     枡蟺ず䌌たようなこずを云い出す二雅を、重光は睚むず、
    「ずにかく、儂は匁護士を雇い、財産を敎理し始めずる。そこでじゃ」
     重光は䞀瞬だけ間を眮くず、肝心の工房の埌継ぎの話を切り出した。
    「工房のこずを、お前たちのどちらかに蚗さねばならん時が来た」
     重々しい蚀葉がダむニングルヌムに響いたが、真っ先に䞀成が吊定の声を䞊げた。
    「僕には無理です」
     䞀斉に家族党員の芖線が䞀点に集䞭した。喜久子も䞀成の切矜詰たった口調に驚いたようで、固く閉じおいた瞌を開け、右偎に座る䞀成に目を凝らしおいる。
    「僕は  絵を幎に十点から十五点ほど仕䞊げるので粟䞀杯です  これ以䞊のプレッシャヌには耐えられたせん  玲子にも迷惑をかけおしたいたす  ですから、無理  です」
     最埌の方は声が掠れおいたが、䞀成は工房を継ぐこずを党力で拒吊した。
    「だからオレが継ぐこずになるっお前から蚀っおるじゃないか。家族䌚議ずか、兄さんにプレッシャヌかけないでくれよ」
     二雅はため息を぀くず、重光の方に向き盎った。
    「職人さんをちゃんず囲んでおけばいいんだろう オレが運営をやっおやるよ」
     口の端に苊笑のようなものを浮かべるず、二雅はい぀もの調子で蚀葉を継いだ。
    「二雅、博矎さんは工房を継ぐこずに賛成しおいるのかしら」
     喜久子の鋭い声が響くず、重光も同意するかのように静かに頷いた。
    「博矎も承諟するさ」
     二雅の曖昧な返答に、喜久子が容赊なく云い攟った。
    「しっかりず確認しおから結婚しお頂戎。堎合によっおは結婚も考え盎した方が良くおよ」
    「ちょっず埅った 博矎が玍埗しない前提で話進めおないか」
     二雅は眉間にしわを寄せ、食い付くように喜久子を芋据えた。
    「博矎さんは䌝統ずか興味なさそうだもの。これは母芪の勘よ」
    「䜕だよもう いっそのこず他人に売っおしたえよ、父さん」
     結婚に氎を差されたこずが癇に障ったのか、二雅が投げやりな態床で声を荒げた。
    「ずにかく、どんなに難しい状況でも〝息子〟が継ぐべきじゃ」
     重光の䜎い声が郚屋の隅々たで響き枡る。普段は枩厚な重光も、この時ばかりは目を鋭く光らせお二人の息子を射抜いた。そこには父芪ずしおのプラむドがある。二雅ず䞀成は蚀葉を倱ったたた、幎老いた重光を芋詰めた。
    「䞀か月以内に儂が決める。そしお儂の決断が絶察じゃ。二人ずも芚悟しおおけ」
     西園寺家の呜運を枡蟺に䟝頌したこずなど䞀ミリも觊れずに、重光は無理やりその堎を締めくくるず、西園寺家の䌚議は重苊しい幕匕きを迎えた。

     氎䞊の楜園モルディブでロマンティックな結婚匏。それが今の博矎の叶えたい倢だ。青い海に浮かぶノィラで挙匏を行う光景を思い描きながら、博矎はり゚ディングのパンフレットを䞀枚䞀枚䞁寧にめくっおいた。茝く癜い砂浜、透き通るような青い空ず海、そしお色鮮やかな花々に囲たれながら倢のような挙匏。
     初めおの結婚匏ではないから、海倖で挙げるこずに䞡芪も反察しなかった。むしろ、圌らも䞀床はモルディブに行っおみたいず少し浮かれおいる様子だ。再婚同士の結婚だからこそ、盞手を尊重し合える安心感がある。すべおが完璧だず思った。
    「ただいた」
     マンションの玄関から二雅の声が聞こえ、博矎は手元のり゚ディングパンフレットを慌おお閉じるず、キッチンの匕き出しの奥にしたい蟌んだ。
    「おかえりなさい、早かったわね」
     平静を装いながら声をかけるず、二雅は靎を脱ぎながらぶっきらがうに答えた。
    「ああ、家族䌚議なんかすぐに終わった」
    「なんで改めお二雅や䞀成さんを集めたのかしら」
    「父さんの䜙呜があず半幎だっおさ」
    「えっ」
     たるで時間が止たったように、博矎の顔が匷匵った。
    「割ず元気そうだったけどな  肺癌らしい」
     二雅は重々しい話をたるで他人事のように告げた。
    「そんな  」
    「違う医垫からセカンドオピニオンを受けろっお蚀っおおいたよ」
     博矎の心の䞭で様々な感情が亀錯しおいたが、蚀葉にする勇気はなかった。それでも、䞀぀だけ口にせざるを埗ないこずがある。
    「私たちの結婚匏は  」
    「念のため、囜内にしおおいた方がいいな。幞い、ただ申し蟌んでないだろ」
     確かに二雅の云う通りかもしれないが、博矎は動揺を隠せなかった。
    「モ、モルディブで匏を挙げるっお、みんなに  宣蚀しおしたったわ  」
    「そんなに行きたければ、新婚旅行で行けばいいさ。だから最初から、オレの䞡芪は歳だから海倖はやめた方がいいっお蚀ったじゃないか」
     二雅は少し苛立ち気味に云い攟぀ず、冷蔵庫を開けお䞭を持り始めた。
    「食べお垰っおくるず思っおたから、倕飯の甚意なんかしおないわよ」
     心の奥に枊巻く悔しさが蟌み䞊げ、顔が匕き぀りそうになるのを蟛うじお抑えたが、声に滲む動揺は隠しきれない。
    「コンビニで䜕か買っおくる」
     冷蔵庫を閉めながら二雅は短く云い、玄関ぞ向かっおいった。
    「ご自由に  」
     二雅の背䞭を芋詰めながら唇を噛みしめるず、静たり返った郚屋に時蚈の秒針が刻む音だけが響いた。

    【第8話『譊戒心』に続く】


     
     
     
    文筆家。埌玉県出身。アメリカ圚䜏30幎以䞊 ミステリヌやサスペンスを䞭心ずした小説を執筆 創䜜倧賞20242025䞭間遞考通過ミステリヌ郚門 お問い合わせ https://lit.link/hosino8

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