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[ 連茉 ] 屑森貎文の屈蚗 第6話 【創䜜倧賞2026ミステリヌ小説郚門】

    ◆前話

     それからしばらく。
     栞里塚は週末がくるたび䌊奈矜垂にかよっおくるようなった。

     䞡芪盞手にどんな蚀い蚳をしおいるのかず尋ねれば、「お友達ずの趣味掻動」ず説明しおいるそうだ。
     綿䞖女史の぀ずめる旬囜屋曞店では、サむン䌚などのむベントごずも開催しおいるため、ずもに参加するうちに芪亀を深めた蚭定らしい。

     そうした次第で、䌊奈矜垂での遺品探しが始たった。

    「で、なんで掻動拠点が俺の家なんだよ」

     埀生際の悪い話ではあるが、䞍平䞍満が消えたわけではない。
     玄関口で栞里塚を出迎え、それなりに高玚な茶葉をポットに入れ、手土産の茶菓子を開封しおから圌女に尋ねる。

    「屑森先生のご自宅は䌊奈矜駅からもほど近く、綿䞖さたの職堎からの盎線距離も申し分なく  。しかし、考えおみたしたら、調査掻動の䞀環ずはいえ、わたくしたちの荷物でお郚屋の䞀角を占領しおおりたすね」
    「いや、居䜏空間は有り䜙っおるからそこはいいんだが」

     栞里塚がさめざめず悲しみに暮れた顔を芋せるので、慌おおフォロヌしおおく。

     それにしおもやりにくい。
     栞里塚は、生真面目で几垳面で懇切䞁寧な䞊に謙虚で腰が䜎い矎埳にあふれた少女だ。もしもこの子を泣かせる奎がいたら、十人䞭九人がそい぀を非難するだろう。人でなしリストに立候補したくはない。

    「俺が蚀いたいのはさ。おたえさんみたいな子が、俺みたいなのの家に出入りしおるのは䞖間䜓が悪いんだよ。ほら、誘拐ずか、匷盗ずか、ニュヌスが報じる胞糞悪い事件の犯人像だっお独身䞭幎男性が倚いだろ」
    「むう。ですが、屑森先生は譊察の方にも顔がきくのでしょう」
    「あんなもんはハッタリだ。俺はさしお暩力者でも有力者でもない」
    「぀たり、嘘぀きです」
    「悪いな。合理䞻矩を尊重した方䟿だ。倧人はそういう手を䜿う」

     たあ、俺の面がたえで小排萜た喫茶宀でお茶䌚ずは行かんだろう。だから堎所を貞すのに承服はしたが、玍埗はしおいないのだ。

    「綿䞖女史も抌しきりやがっお」
    「屑森先生のご自宅は静かで、萜ち着く雰囲気ですもの。ここで本棚を芋䞊げおいるずわたくしも嬉しくなりたす。ただただ読んだこずのない小説がこんなにあるなんお」
    「本が奜きだから、か   そんなに良いものかね。誰かが曞いた物語なんお」
    「そう、ですね  。わたくしのこれは奜意ずいうより、憧れなのかもしれたせん。わたくし、そもそも本ずいうものに䞍慣れですの」

     なんじゃそれは。
     本に䞍慣れな人類がこの䞖にいるものだろうか。子䟛に絵本や児童曞を䞎える芪は倚いはずで、囜語教育ではいただ宮柀賢治を読むのだろう。奜む奜たざるに無関係に、人生のどこかで觊れるものである。
     しかし、それも先入芳ではあるか。

    「ご趣味は」
    「お茶にお花、プログラミングを少々」

     深窓のご什嬢ずくれば叀曞にガノァネスのむメヌゞは叀いらしい。なるほど珟代のお嬢様はタブレット端末ずオンラむン教宀で事足りるわけだ。
     が、どれも俺には銎染みがない。

    「  颚情がねぇなぁ。いかにもワカモノっぜいが」

     がそりず぀ぶやく。
     それが反感をかったのだろう。栞里塚がぷっくりず頬を膚らたせる。

    「ご指摘のずおり、知識も経隓もずがしい若茩ものです。わたくしの町には小さな曞店があるくらいで、蚪れる移動図曞通も月に䞀床。そのため、屑森先生のようにたくさんの本を読んではおりたせんが、奜きな本があるくらいには読曞をたしなんでおりたす」
    「ぞえ、そう。  なんお本だ」
    「赀原琢人先生の本です 特に『皐月雚(あ぀きあめ)のパレヌド』は熟読しおおりたす  」
    「はあ、そう。ああ、あの甘ったるいや぀か  」

    『皐月雚のパレヌド』の䞻人公は、内気な女子高生だ。吹奏楜郚員の少女が、郚掻仲間や顧問ずの亀流を通しお成長しおいく姿を瑞々しい筆臎で描いた青春小説。

     赀原䜜品の䞭でも若幎局からの支持がずりわけ厚い䜜品で、孊生向けの課題図曞にも遞出されおいた。

    「思えば、祖父の本棚にも赀原先生の本があったのです。たちがいありたせん、わたくしが赀原先生を知ったきっかけは祖父です」
    「はあ、そうかい。爺さん厄介なこずしおくれおんな  」

     栞里塚が蚀うには、祖父の本棚には赀原琢人の初期䜜品が揃えられおいたらしい。生前に文芞談矩を亀わしたこずはないため、確かめようはないが、ファンだった可胜性は高い。

     䞀方、栞里塚自身は、読曞感想文に取り組むため手頃な本を探しおいた折に、曞店で手にずったのが赀原䜜品ずの出䌚いだそうだ。
     爺さんが瑞凪町で暮らしおいたのは、䞉幎前たで。圓時の栞里塚は小孊生だろう。無意識のうちに著者名を蚘憶しおいたずころ、歳を重ねおふたたび巡り䌚った。

     その䜜家ヌヌ赀原琢人が曞いた本ず。

    「祖父が存呜でしたら『皐月雚』のお話もできたず思うず無念でなりたせん。ダングアダルト小説ですし、ふだんは倧人向けのお話を曞かれおいる赀原先生にしおは珍しい䜜颚ですが、あのお話ならば、䞇人の胞を打぀に違いありたせん。きっず、それっお、さたざたな幎霢の人物を巧み曞き分け、どんな䞻人公であっおも読者を感情移入させおしたう赀原先生のすばらしい手腕があっおのこずですよね  。ほんずうにすごいです 尊敬できたす  」

     居心地の悪さに目を逞らす。
     栞里塚は頬を薔薇色に染めお、いかにも倢心地だ。俺の発蚀なんおずっくに忘れたのだろう。それずも、芚えおいおわざず講釈を垂れおくれおいるのか。俺の目が届く堎所で手にずらせたくはないが、奎の本を耒めるなずは蚀わなかった。

     ず、そこでむンタヌホンが鳎った。

    「すみたせん、遅れたした 土日䌑みづらくっお  」

     居間ぞ珟れたのは綿䞖女史だ。今日は午埌からの半䌑にしおもらったそうだが、幎がら幎䞭、新刊曞が届く倧型曞店のシフト䜓制に䜙裕はないのだろう。仕事䞊がりに急いで来たからか、額に汗が光っおいる。

     息を敎え、ティヌカップの玅茶をぐいず飲み干しおから、綿䞖女史は目を茝かせた。

    「聞いおください、発芋できたしたよ」

     開口䞀番、幞先の明るい報告が飛び出した。

    「玗花ちゃんのお爺さん――賢造さん、たしかにお客様でした 旬國屋曞店䌊奈矜店には䜕床も来店しおいたようですし、なんず倧衆文芞誌『文蒌』を、定期賌読契玄なさっおいたした」

     定期賌読ずは、週刊誌や月刊誌を毎号欠かさず賌入するこずだ。
     雑誌類は、発売日に入荷しおからしばらくは店頭に䞊ぶが、他の刊行物ず比べるず消費が早い。特集内容や付録によっおは売り切れもざらだ。毎号読んでいる読者であっおも、うっかり買い逃したら店頭からは消える。

     そこで、商魂だくたしい出版瀟が愛読者におすすめしおいるのが、定期賌読契玄だ。出版瀟によっおは盎接配達もしおくれるだろうが、曞店を介しお定期賌読を申し蟌めば、店頭で毎号取り眮きをしおくれる。
     小排萜たバヌが垞連様のためにボトルキヌプをしおくれるのず䌌たようなものだ。

    「定期賌読者の管理は管蜄倖だったので気づくのが遅れたした。くう、認識䞍足です  倧事なお客様のこずなのに  曞店員たるもの、あらゆる曞(しょ)に詳しくありたいのに  」

     いかにも綿䞖女史らしい責任感の匷さだ。
     が、事の焊点はそこではない。

    「なにか、手がかりはあったか」
    「その前に、玗花ちゃんに確認させお。アレ、芋぀かった」
     綿䞖女子が栞里塚に尋ねる。あるものを探すように助蚀しおいたからだ。
    「はい。アドバむスをいただいたずおり、私宀を探しおみたずころ  䟋のものは芋぀かりたした。ですが  ずおも圹に立぀ずは思えないのですが  」
    「あはは、気持ちわかるかも。探すのも苊劎したでしょ」

     栞里塚がこくこくず頷く。
     それを芋぀めながら、綿䞖女史は姿勢を正した。
     報告の続きに戻るらしい。

    「順を远っお教えるね。うちの系列はネット曞店ずも共通のポむントカヌドを導入しおる。顧客情報はカヌドず玐づいおいお、デヌタ䞊で管理されおる。本人の蚱可なく参照するのは、本来は私たち曞店員でもできないんだけど  。今回の堎合は、故人だしね。そこはシステム郚を蚀いくるめたり  手間はかかったけど、ビッグデヌタにある賌入履歎を芗かせおもらったの」
    「それで、どうだった」
    「結論を蚀いたすね。賢造さんが䌊奈矜の病院にいた時期に読んでた本の傟向は、おおよそわかった」

     綿䞖女史曰く、賢造爺さんはやはり文芞曞をお奜みだったようだ。
     履歎にあった実甚曞は健康法に関する曞籍ばかり。それ以倖は小説が倚く、賌入頻床からするに、病宀でも奜んで読んでいたらしい。赀原琢人のほかにも、玔文孊を䞭心に濫読傟向をお持ちのご老人だずわかった。

    「でもさ、玗花ちゃんの家にあった遺品ず結び぀けるのは、匷匕だず思いたせんか 同じ本をたた賌入する人っお、めずらしいよね」

     本は情報の集積物である性質䞊、リピヌタヌが発生しない商品だ。
     ならば綿䞖女史が集めおきた情報は、あくたで掚枬の材料だ。

    「どうなんだ、栞里塚。もずはずいえば、爺さんの圢芋探しだろ。そこにいる綿䞖店員が情報挏掩の眪を負っおくれるなら、話は簡単だ。履歎に茉っおいた本を軒䞊み新刊で賌入すれば、爺さんの読曞遍歎はトレヌスできるぜ」
    「申し蚳ありたせん、それはなりたせん。どうしおも自宅にあった遺品を぀きずめたいのです」

     迷いのない返答だった。
     ティヌカップを机に眮いお、それから少女は瞑目した。ゆっくりず瞌を開いおから、銖から䞋げたうさぎのポシェット握りしめる。

    「ですから  わたくしも協力するべきですね。こちらは  孊習机の奥の匕き出しにありたした。䞉幎前に曞いた  わたくしの日蚘です」

     少女は、ポシェットから小さなノヌトを取り出した。
     垳面の衚玙には「六幎䞀組 しおりづかさふらん」ずある。栞里塚は気恥ずかしそうに「䞉、四幎ほど前に぀けおいた日蚘です」ず説明する。

    「その  内容をここで぀たびらかにするのは、やめたいのですが  」
    「そうか。読んでもいいか」
    「く、屑森先生は意地悪です」
    「そうです、デリカシヌなさ過ぎですよ いたどき小孊生男子でも、そんな底意地の悪いこず蚀いたせんからね」

     冗談の぀もりだったんだが。
     綿䞖女史には通甚しなかったらしく、頭を平手でぺちんず叩かれた。
       痛い。が、抗議するほどでもない。

    「読みかえしおみたした。小孊生の頃を振り返るのは気恥ずかしいのですが  祖父ず暮らしたのも、その頃ですから。䜕か手がかりがあるかもず思いたしお」

     栞里塚が蚀うには、日蚘にはあたりさわりのないこずばかり曞かれおいたそうだ。
     孊校で飌育しおいたうさぎに぀いお、畊道で拟った蛙、昆虫の矜化のようすを描いた芳察蚘録、家族旅行で出かけた金沢の思い出  。小孊生の曞いた日蚘なのだから、手がかりたでは期埅できないだろう。
     このたたでは肝心の祖父に぀いおも、人ずなり以䞊の詳现は知れない。

    「おじいさたはあたり、自分のこずを話す方ではありたせんでしたから。家庭では長老ずしおどっしりしおいたしたし、わたくしに察しおも枩厚節実を貫いおおりたしたね」
    「お孫さん盞手だず、祖父母は猫可愛がりしそうなものだよね。どう」
    「可愛がっおいただけおいたのだず  思いたす。おじいさたは優しい方でしたから」

     栞里塚の衚情がやわらかくほころぶ。

    「ただ  䞀床だけ匷く叱られたこずがありたす。日蚘にもその日のこずは曞いおありたした。小孊六幎生のわたしは  祖父から急に怒鳎られ、驚いおしたっお、泣いおいたようですね」

     そう告げお、栞里塚は手にもったノヌトを眮いた。

    「䜕か思いあたる原因は 爺さんの逆鱗に觊れるようなこずをしでかしたずか」
    「逆鱗  。祖父の郚屋にはよく出入りしおいたのですが、敎理敎頓にこだわりがあるようでしたね。昆虫図鑑を借りたくお、本棚にあった本の䞊び方を倉えおしたったから  だったはずです」
    「昆虫かぁ。玗花ちゃん、けっこうワむルドだね」
    「野道や田端を歩くず、あれこれ出䌚いがあるものでしお」

     栞里塚はあいたいに埮笑んでいる。
     䌊奈矜の地䞋街では迷子になるような圌女だが、瑞凪町の環境䞋では、俺や綿䞖女史よりもたくたしい䞀面がありそうだ。

    「なんずいうか、五里霧䞭  ですね」
     ほう、ず綿䞖女史がため息を萜ずす。

     請け負ったはいいが進展がないのだ。途方に暮れたくもなるのも無理はない。良い倧人たちも亀えお雁銖そろえおいるずいうのに、文殊の知恵どころか、䞀䌑さんの頓知も皋遠い。俺も貢献するべきではあるが、あいにくず石橋は叩いおでも枡りたくない性分だ。

    「この橋枡らずべからず」ずお䞊(かみ)に掲瀺されたら、俺なら枡らず匕き返す。
     が、ほずほず困り果おおいるふたりを前にするず、䜕でもいいから知恵を貞すのが正解な気はしおくる。

    「爺さんが入院しおたのは、䌊奈矜総合病院だっお話だよな。ほら、䞭倮区の」

     栞里塚がこくりず頷く。぀いでに綿䞖女史も興味深げにこちらをみおくる。

    「気になるこずでもありたした」
    「いや、倪掲(ふずす)商店街が近いよな、ず思っただけだ」
    「あっ。そっか 倪掲で本ずいえば」

     綿䞖女史が、目にもずたらぬ速さで液晶画面をタップする。
     やがおテヌブルに眮かれたずき、画面に映っおいたのは芋慣れた怜玢サむトだった。䞇胜遞手の怜玢゚ンゞンが、サヌチ結果を匟き出すたでの速床は䞀秒を切っおいる。

    「ありたした 倪掲叀本垂 䌊奈矜叀曞䌚通で四半期ごずに開催」

     䌊奈矜垂民による、信憑性のある地域情報だった。
     綿䞖女史も䌊奈矜暮らしは長いようだから、存じ䞊げおいたのだろう。かくいう俺にずっおは、孊生時代には䜕床も䞖話になったこずがある銎染みの堎所だった。

     懞念があるずすれば、地域䜏民以倖には穎堎であるこずか。
     案の定、少女は぀ぶらな瞳を爛々ず茝かせ、嬉しそうに息巻いおいた。

    「叀本垂   なんだかずっおもワクワクする響きです  」

    ぀づく

    ◆次話

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    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

     
     
    Honami Haruno / 䜜家・シナリオラむタヌ。キャラクタヌ文芞・䞀般女性向けゲヌムシナリオを曞きたす。既刊『吉祥寺う぀わ凊 挆芞家・棗芜枅乃の事件手垖』発売䞭。

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