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[ 連茉 ] 屑森貎文の屈蚗 第5話 【創䜜倧賞2026ミステリヌ小説郚門】

    ◆前話

     郚屋のなかの空気が急転盎䞋で冷え蟌んだ。
     栞里塚も綿䞖女史も青い顔をしおいる。

    「なにいきなり蚀い出すんですか そんなこず、譊察が信じるはずないでしょ」
     食っおかかっおくるのは、たたも綿䞖女史だ。

    「  たぶん、信じるぜ。さっき蚀ったろ、ここが貞し家だっお。地䞻は叀い名家の埡什息でね、たあ、地方の暩力者だな。俺はそのひずに気に入られおる。おかげで日がな䞀日のんべんたらりず過ごしおもバチがあたらず、こうしお悠々自適の生掻が送れおるんだ」

     譊察沙汰だろうず、聡明なご近所さんがたは知らぬ存ぜぬを貫いおくれるだろう。
     そう、口添えしおおく。挑発するような物蚀いを遞んだせいだろう、綿䞖女史がわなわなず肩を震わせお、こちらを睚んでくる。

    「  芋損ないたした。屑森先生は垞連さんだし、䜜家さんだし、こんな倧きな家に䜏んでるし、良識ある人だず思っおたのに」
    「勝手にしおくれ。誰かに倢芋おもらえるほど、出来た人間じぇねぇんだ。俺はカりンセラヌでも埡甚聞きでも、曞店員でも叞曞でもない。䞀介の぀たらん䜜家もどきだ」

     ピシャリず蚀い攟぀。ず、沈黙が降りおくる。
     喋りすぎたのだろう。日垞的にヒトず接しおいれば、こんなふうに埌悔するこずもないのだろうか。

     こういうずき、心から思う。
     他人ず関わるなんお、面倒事ばかりでやっおいられない。
     ひずりでいれば厄介事に捕たらず、瀟䌚から目を背ければ孀独は深たる。その代わりに、他者から向けられる感情を扱わなくおいい。
     少女の揺れる瞳の奥に兆すのが、孀独ず䞍安だず、芋抜けなければ気楜だった。
     この䞖に生きるものの䞭で、ヒトほど情報量が倚い生き物はいないのだ。
     さりげない仕草。状況に即しお倉化する声色。そしお口ほどにものを蚀う瞳。そのすべおが感情に裏打ちされおいる。

     だから、芋たくない。ひずは誰しも機械ほどには冷たくはない。日々、本人の意識以䞊におのれの心を無防備に晒しおいる。
     取り繕うすべを知らない子䟛であれば、殊曎にだ。

     それをひず぀も読み解けないほど、愚鈍で蒙昧ならよかった。
     自分の、考えすぎる気質が、誰かの感情を拟うほどに遞択を迷わせる。俺はどうするべきか。俺は、どうあるべきなのか。

     自分にできるこずは、ごく限られおいるっおのに。

    「栞里塚。あんたが䜕か事情を抱えおいお、それを話したずころで、俺はきっず圹には立おない。それだけは先に断っおおく。幞い、ここには俺より遥かに垞識の備わった曞店員がいる。䜕か解決が欲しいなら、そっちを頌りにすればいい」

     綿䞖女史がはっずしお顔色を倉える。

    「ど、どういうこずですか 私こそ、然るべき機関に連絡するくらいしか、できたせんけど」
    「脅しをかけたのはやりすぎだったよ。  悪かった。この子が䌊奈矜たで来お向かったのは、よりにもよっお旬國屋の店頭だぞ。本絡みか、知識で解決できるこずだろ、たぶんな」

     謝眪をするず、少女がポシェットを握りしめおいたこぶしを解いた。緊匵しおいたのだろう。
     そのたた蟛抱匷く埅぀ず、栞里塚は俯いたたた話し始めた。

    「  䌊奈矜は倧きな街ですね」

     どこか哀愁さえ感じられるような、儚い口調だった。

    「䌊奈矜駅のたわりを歩きたした。曞店も映画通もデパヌトも、目貫通りにたくさん䞊んでおりたすね。きっず街の人々は、退屈に溺れたり、孀独に喘いだりするこずもないのでしょう。ここでなら、どんな出䌚いだっお起こりそうです」

     話しはじめおからの少女は、䞍思議ず凛ずしおいる。
     顔を䞊げお正面を芋据える姿からは、気䞈な振る舞いが板に぀いおいるようにさえ思えた。
     やがお栞里塚の県差しに決意が宿る。

    「これほど広い街で、こうしおお話しする機䌚を埗られたのも、䜕かのご瞁でしょう。  屑森先生、綿䞖さた。これから、事情をお話しいたしたす。その䞊でおふたりのご刀断をお聞かせ願えたすか」

     䞁重すぎるほど䞁寧な申し出だった。
     緊匵感を壊さないように神劙に頷く。

     綿䞖女史をうかがうず、圌女もこくりず銖肯した。
     それから少女が話した事情をたずめるず、以䞋のずおりになる。

     栞里塚玗花が䌊奈矜の町に蚪れたのには理由がある。圌女にずっお䌊奈矜の地は、母方の祖父に瞁ある土地らしい。しかし母ず祖父のあいだには確執があった。祖父はすでに鬌籍に入ったが、今なおずしお、栞里塚の家では祖父絡みの話題は犁じられおいる。
     祖父のために䌊奈矜を蚪れるなど、もっおのほか。
     犁を砎ったず、䞡芪には知られたくない。

    「孊校が䌑校日なのは本圓です。屑森先生の蚀うずおり、ホテルに泊たっおもおりたす。芪には  お友達の家に泊たるず説明したした」
    「それでおたえさん、明日も䌊奈矜にずどたる぀もりだったず」

     毅然ずしたたた、少女は続ける。

    「リミットは決めおありたした。明日の朝、始発で䌊奈矜を出れば、䞀時間目のホヌムルヌムには間に合いたすから」

     瑞凪町にある栞里塚の家は、もずは二䞖垯䜏宅で、早くに劻を亡くした祖父は瑞凪ぞず越し、栞里塚䞀家ずずもに暮らしおいた。しかし䞉幎前、老化にずもない抱えおいた病気が悪化し、䌊奈矜にある総合病院ぞ入院するこずになった。

     栞里塚の家は倧芏暡な蟲業で生蚈を立おる名家であり、祖父の医療費を惜しむこずはなかった。おかげでご老䜓は延呜した。
     䞀幎前に老衰するたで病床にありながらも、家族ず顔を合わせたずきは嚁勢よく振るたっおいたそうだ。

     遺産の配分や死埌の䟛逊に぀いおたで、生前のうちに事现かく決め、揉め事が残らないように綺麗さっぱり埌始末を枈たせおしたったらしい。
     なんずたあ、朔い爺さんだず思う。
     だが、栞里塚の家の者はそれを快く思わなかった。爺さんが盞談盞手ずしお遞んだのは、家族ではなく、付き合いのある寺や専門業者たちだったのだ。身の始末に奔走するするようになった祖父から、䞀家は距離をおくようになった。

     嚘の䌊奈矜行きを犁じた背景には、祖父ぞの圓お぀けもあったのかもしれない。

    「母や父がある時期から、祖父のいる䌊奈矜ぞ近づかなくなったこずは、気づいおおりたした。その胞䞭たでは想像が及びたせんが  わたくしには倧切な家族であり、優しい祖父です。それは亡くなっおも倉わりたせん」

     栞里塚の話が䞀段萜ずころで、尋ねおおく。

    「その話が今回の䌊奈矜行きの背景か」
    「ええ。そしおこの話には続きがありたす。わたくしが䌊奈矜ぞおずずれたのは、祖父が家に残した本棚の䞭身を探すためです」
    「どういう了芋だ。爺さんは、あず腐れなく埀生なさったんだろ」
    「本は  祖父が唯䞀、栞里塚の家に残した遺品だったのです。生前の祖父は、霊魂を信じおもおりたした。この䞖に未緎を残さないように、私物のほずんどは凊分しおいたようです。それでも、本だけは最埌たで残っおいたした」

     ですが  ず、栞里塚は蚀葉を切った。

    「母ず父の刀断で、栞里塚の家にある遺品も凊分にいたりたした。もう、䞀冊も残っおおりたせん。祖父の遺曞にも家には残さないようにず蚘されおいたようです。故人の意思であれば、それはたっずうされるべき、なのですが  」

     祖父の遺品であれば、盞続暩は少女の芪にある。暩利䞊はなにひず぀問題もない。だが、心情ずしお玍埗しがたいのだろう。
     少女にずっお、ずりわけ心を寄せおきた家族のはずだ。

    「譲り受けたかったのか。その、家にあった本をさ」
    「そう  ですね。そのずおりなのだず思いたす。きっず、わがたたを蚀い損ねたした。母にも、そしお祖父にも」

     ふわりず梅雚時の鈎蘭が咲くように、栞里塚は笑う。

    「読もうずしたずころで、十党には理解がかなわないかもしれたせん。ただ、もし蚱されるのであれば、埅っおいおほしかったのです。わたくしが、その本を読めるようになるたで。䞭孊を卒業すれば読める挢字も増えるでしょう。たすたすよく孊び、そのさきも歩みをずめずに倧人になりたす。そのずき  祖父ず語らうこずはできずずも、祖父が生きた時間を思うよすがが、近くにあっおほしいのです」

     そしお少女はせめお同じ本を手に入れようずした。手元におけば、故人が残した遺品そのものでなくずも拠り所にはなる。

    「ですが、もう䞀幎以䞊は前のこずですので、どんな本が家の本棚にあったか、蚘憶があいたいになっおいお。䌊奈矜に祖父を存じ䞊げおいる方がいれば、ず思い、入院しおいた病院などには足を運んでみたのですが  収穫はなく  」
    「最終的に旬國屋曞店に行き着いた、ず」

     生前の爺さんが、倖出時に䜕床も来店しおいた店らしい。病宀に残された玙袋もそれを蚌明しおいた。

    「屑森先生、綿䞖さた。どうかお知恵をお貞しいただけたせんか。  わたくしには、頌れる方が必芁なのです」

     腕の震えも、瞳の迷いも、告癜のあずには消えおいた。
     堎の空気はすっかり少女のものだ。
     ひずたずは様子芋に培しお綿䞖女史の刀断をあおぐ。曞店員の芚悟はずうに決たっおいたようで、力匷く倪錓刀を抌しおくれる。

    「うん、協力させおよ。こういうの、腕が鳎るよね。曞店員ずしおはさ。屑森先生はどうしたす」
    「俺はたいしお圹に立たねぇよ。捜玢隊に加わるのは遠慮しずく」
    「それはないでしょう。ひょっずしたら私以䞊にゞャンル問わず本に詳しくありたせん この本棚をみるかぎり濫読趣味のようですし」
    「はいっ 屑森先生も協力しおくださるなら、癟人力です さきほどの掚察もおみごずでしたから」
    「  蚀ったろ。半分は譲られたもんだ。  俺は信頌に足るような人間じゃない」

     期埅に背を向けお、窓蟺の怅子に背を預ける。ひずりがけの゜ファだ。サむズを倧きくしおもらった特泚品で、俺の背䞈でもゆったりず座れる。
     足を投げだしながら、無愛想なたた窓の倖を芋おいた。するず硝子に鏡像がう぀りこんで、芖界の隅にひっそりず珟れる。
     栞里塚が背埌に立っおいた。

    「いいえ。屑森先生は、本を愛するかただずお芋受けしたした」

     なにを根拠にそんなこずを。
     ただ、本の巣に虫のごずく棲み着いおいるだけだ。

     事実を滔々(ずうずう)ず列挙しお、たぶしいほどの憧れを撥ねのけおしたうのは簡単だった。しかし俺は畢竟、非情にはなりきれず、かずいっお偶像にも培しきれない䞭途半端な䜜家だった。

     そうしおのらくらず結論を先送りにしおいるあいだにも、䜜家の業ずいう病原菌が脳髄を蝕んでいく。

     癟䞇人が集たる郜垂で、誰かず䜕かが重なる瞬間ずいうのは、䜜り話めいおくる。仮に自分が登堎人物だったずしお、こういう堎面で断るのは、職業倫理に反するのではないか。

    「  わかった。ただな、協力する代わりにこっちの芁求は飲めよ」
    「なんでしょう」

     ため息をひず぀萜ずしおおく。
     ここは地続きの珟実で、物語のなかではない。ハッピヌ゚ンドなどはなく、自分が救䞖䞻でもないこずくらい、倧人は誰でも知っおいるのだ。

    「きょうのずころはこっちで請け負うから、あんたは可及的速やかに家に垰れ。未成幎者行方䞍明事件なんお厄介ごず、心底お断りに決たっおるだろ」

    ぀づく

    ◆次話

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    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

     
     
    Honami Haruno / 䜜家・シナリオラむタヌ。キャラクタヌ文芞・䞀般女性向けゲヌムシナリオを曞きたす。既刊『吉祥寺う぀わ凊 挆芞家・棗芜枅乃の事件手垖』発売䞭。

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