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゚レナ婊人の教え 第䞀話「ふしぎな出逢い」第章第章

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    ぀づく
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    第章 䞻圹

    あれから䜕床そのパン屋を蚪れただろうか  。「゚レナさんに逢いたい――」その䞀心だった。だが、あの日以来圌女を芋かけるこずはなかった。

    「せめお連絡先くらい聎いおおけばよかった  」悔やんでも埌の祭り。くる日もくる日も圌女のこずを思い出す――その床にカフェに立ち寄った。

    どうしおあのタむミングに出逢えたのだろう   理由をあれこれ考えおみた。けど、答えは出ない。うたくは説明できないが、たぶんこういうこずだろう。

    諊めたずきに、鉄の扉は開く――、ず。

    䞀般的には「諊めなければうたくいく」ずか「成功するたで諊めないこず」などずいう。しかしやっおもやっおもたたならないか、むしろ状況は悪化しおいくこずだっおあるからだ。

    䜕もかも諊めたずき、圌女は珟れた。

    これたで僕は職堎を盛り䞊げるこずに䞀所懞呜だった。それなりには評䟡され、堎を明るくするこずにひず圹買っおいた。

    だがあの䞊叞がきおからずいうもの、やるこずなすこずすべおがけなされ、空回りする自分がいた。やっかい者扱いされ、「䜕の圹にも立たない」ずらく印を抌された。「このたたじゃ぀ぶれる  。もうダメだ」ず思った瞬間、圌女ず出逢えたのだ。

    評䟡を手攟したせいか、それたで居堎所ず思っおいた職堎に察しおも違和感が出はじめた。自分だけが浮いおいる、そんな気がしたのだ。

    䞀時は錯芚か、ずも思った。廊䞋ですれ違う女性ずい぀も通りのたわいもない話をできおいたからだ。ただなにかが違う、これたでずは景色が。別の居堎所にも芳えるのだ。

    それはたるで気球に乗せられた気分だ。芋慣れた堎所が次第に遠のいおいく、そんな感芚だった。

    どこからきおいるのだろう  この感芚は。答えはいくら考えおも芋぀からなかった。゚レナさんず出逢っお半幎が過ぎ、蚘憶も薄れかけた頃、ふず、出逢ったずきに話題ずなった山沿いのカフェを思い出し、立ち寄っおみた。

    扉を開けるず聎き芚えのある声がした。奥にはワむン色のベレヌ垜を斜めにかぶった女性がいる。顔が隠れおいたせいか、それが誰なのか、すぐにはわからなかった。

    「たぁ、あなたじゃない」

    「゚レナさんじゃないですか 逢いたかった」

    僕は、その声の䞻が゚レナさんずわかり、久しぶりに逢う恋人に話しかけるように、想いの䞈をぶ぀けた。

    「ヒロさんちょっず埅っお。話を急ぎ過ぎよ」

    「わ、わかっおいたす。で、ですが  。今床、ご自宅に寄らせおくださいっ」

    必死だった。このチャンスを逃すわけにはいかない。断られおも抌しかける勢いで僕は話した。

    「わかったわ、そこたで想っおくれおいるのなら断れないわね。それじゃ䞀぀玄束しおくれないかしら。いたはゆっくりずく぀ろぐこず。いたこの瞬間を味わうこず。いい」

     「え、えぇ。わかりたした」

     想いは通じた。次の日曜日、゚レナ邞にお邪魔するこずにした。

    第章 邞宅 海のほずりにお


    埅ちに埅った日曜日の朝、愛車コルベットをガレヌゞから出すこずにした。幎代もののこの車を動かすのは久し振りだ。ふだん乗るこずがないから、ボディにはほこりがかぶり、タむダ呚りにはドロが付いおいる。そこで朝から掗い流すこずにした。お邪魔するのに汚れたたたでは倱瀌だからだ。


    ゚レナ邞は、矎しい海岞線の芳える、癜い厖の䞊にあるずいう。シワクチャになった手曞きメモを頌りに、僕は車を走らせた。

    山肌に沿ったうねるようなカヌブ。そこは幅が狭く、道路からタむダがはみ出さないかずヒダヒダした。山頂が近くなるに連れ、道幅はさらに狭くなっおいく。そこで少しアクセルを戻し、スピヌドをゆるめた。するず芋枡す限りの矎しい砂浜が珟れ、癜い䞀軒家が芳えおきた。


    あ、あれかな  。人里離れたずころに、こんなにしゃれた家があるなんお――。芆(おお)い茂る森がカモフラヌゞュの圹目をし、目立たないように建っおいた。


    邞宅に近づくず、䞀気に森が開け、原っぱに遭遇した。家を取り囲むように、きれいに砂利が敷き詰められおある。呚りは亜熱垯怍物や果物の朚々が芆い茂り、来客を埅ち構えるように、おいねいに刈り取られおいた。それは取りもなおさず、圌女のセンスの良さを物語っおいた。


    ペヌロッパ颚朚造階建お。癜朚でできたこの家は、建っお幎は過ぎおいるだろうか。倖壁は塗装を塗り盎し、きれいに補修されおいた。そのせいだろうか、建おられた時よりも颚栌を挂わせおいる印象だ。僕は屋根付きガレヌゞに眮かれたフィアットの隣に車を停め、扉のベルを抌した。癜朚の枠が矎しい。

    「カン・コヌン」

    たるで倖囜の邞宅のような呌び鈎だ。

    「いらっしゃい。お埅ちしおいたわ。どうぞお入りになっお」
    毛がフサフサで着心地よさそうなブラりンのガりンを着お、圌女は出迎えおくれた。

    僕の人生の、これからを巊右する話が聎けるかもしれない。
    胞の高鳎りを抌さえ぀぀、静かに䞭ぞ入っおいった。

    第章 初めおの団らん


    屋敷内は薄暗かった。ペヌロッパの家は日本の぀くりずは違い、それほど明るくはない。それがかえっお、いたの僕には心地よく感じられた。

    長い廊䞋を抜けるず、キッチン・ダむニングの郚屋に出くわした。朚圫りの人圢、陶噚でできた調味料入りのビン、長さが自圚に倉えられるテヌブル、毛先が短めのじゅうたん、癜く塗られた牛革の゜ファ  。ふだん芋るこずのない調床品が次々ず目に飛び蟌んできた。

    「おかけになっお。そこでゆっくりしおいおね」

    圌女は僕に゜ファに座るよううながし、ランチの仕床をしはじめた。

    窓の倖には海が芳えた。それはどこたでも青く、広かった。波しぶきが䞀列に䞊び、塩のかたたりのようだった。遠くの氎平線には、うっすらず虹も芳えた。


    なんお矎しい景色だろう  。こんな堎所が日本にあったなんお――たるで高画質のパノラマ映画を芳させられおいる感じだ。しばしの間、僕は窓から目を離すこずができなかった。しばらくするず奥の郚屋から、スリッパの音が近づいおきた。

    その音の䞻は女の子だった。こんな話聎いおいなかったぞ。䞀人暮らしず思っおいたのに  。想いを巡らせおいるず、その子はテヌブルの前で立ち止たった。


    透き通るような肌、マリンブルヌの瞳――。少し長めの髪はこげ茶に近いブラりンで、埌ろできれいに束ねおある。この子も倖囜の血が混じっおいるのか――僕は勝手な想像ばかりした。

    「カレン、この人がこの間出逢ったヒロさんよ。あいさ぀をなさい」
    「はじめたしお。カレンです」

    圌女ずは、ひず蚀ふた蚀しかかわさなかった。゚レナさんに䌌お、芋た目通りのその矎しい声に、僕は聎き惚れおいた。

    続けお゚レナさんが説明しおくれた。

    圌女ぱレナさんの孫に圓たる。物心が付く歳の頃、䞡芪の元を離れ、゚レナさんに預けられたそうだ。その埌䞡芪は離婚――。それぞれオヌストリアで別の家庭を持った。

    別れおから䞀床も䞡芪ず逢ったこずはなく、顔も芚えおいないずいう。無邪気さの䞭に時折り芋せるさびしげな顔、それが少し気になった。

    「カレンの母芪が私の嚘なの。向こう芋ずな私の嚘はね、カレンを眮いお垰っおはこなかった。もしかするず私のし぀けが厳し過ぎたのかもしれない――そう思っおいたでも埌悔しおいるの」

    ゚レナさんは、なにか遠くを芋るようなたなざしで僕に語った。

    第章 ひずずき

    「パスタは、お奜きかしら」

    カレンの声で我に返った。ちょうど圌女の過去に思いを巡らせおいたずころだったので、そのあたりの明るく、さわやかな声にハッずした。

    カレンの䜜るパスタは、ねじった圢でひず口サむズ。朚をくりぬいたボりルに色ずりどりの野菜ず共に盛っおある。

     「えっ、えぇ  そうですねぇ」

    なにもかもがはじめおで、ただその堎になじめない僕は、なんずも愛想のない返事をした。するずこちらの気持ちを察しおくれたのか、゚レナさんが続けおくれた。

    「これはね、カレン特補のサラダパスタ――。私たちは、南フランスやスペむン、むタリヌなど地䞭海呚蟺の囜々を旅するの。そこで知り合った人の家にお邪魔したり、お気に入りレストランを蚪ねるの。

     カレンは噚甚だから、出された料理を芋お、䜜った人にちょこっず尋ねるだけで、同じ料理を再珟しおしたうのよ」

    「それは、すごい」

    思わず唞った。ふだん料理には興味を瀺さない僕でも、およそ人が真䌌できないこずをするのなら話は別だ。

    気づくず、い぀しか時は流れおいた。慣れないこずが続き、僕はどこかそわそわした。

    「゚レナさん、なんだか萜ち着きたせん。ご厚意はありがたいのですが  。なにもせずにいおいいのですか」

    「いいのよ。ゆっくりしおお。今日はあなたをもおなす日なんだから。

    慣れおないおもおなしが続くずうれしい反面自分にはふさわしくないっお思うわよね。䞀流ホテルに泊たるずきなんかは特にそう。おもおなしが心地良過ぎお、逆に違和感があるのね」

    慣れおいないのだから萜ち着かなくおむむ――そう思うず気が楜になった。

    山盛りのサラダ、オリヌブの実が沢山入ったパスタ、もぎたおの果物、荒塩をたぶしたパン。その䞀぀ひず぀が味わい深かった。゚レナさんの食卓では、これがい぀もの光景なのだろう。

    「なんでもお金をかければいいっおわけじゃないわ。和気あいあいずするひずずき、それがずっおも倧事なの」

    ゚レナさんに導かれるように、いたはこのひずずきを楜しむこずにした。

    第章 知られざる過去さざなみの砂浜にお

    食事がひず段萜するず、゚レナさんはテヌブル䞊の皿を重ねはじめた。

    「少し倖の空気を吞っおいらっしゃい。ここの朮颚はずおも心地いいわ」
    圌女にうながされ、カレンず僕は倖に出た。

    人が通るこずはめったにないのだろう――山道には草が芆い茂っおいた。呚りの朚々が日差しをさえぎり、あたり䞀面暗かった。僕はカレンの手を匕き足元をたしかめながら山道を䞋りおいった。䞋りおいくに぀れ、ザザヌッ、ザザヌッず抌しおは匕く波の音が、次第に倧きくなっおいった。

    分ほど歩いただろうか、気が぀くず砂浜に立っおいた。そこにカレンず二人䞊んで腰を䞋ろした。膝䞊センチの癜いズボンの䞋からは、スラリず矎しい脚が䌞びおいた。僕はドキッずし、目のやり堎に困った。

    圌女は履いおいたサンダルを脱ぎ捚お、砂浜に玠足をうずめた。

    「さびしいずきは、ここにくるの。波の音を聎いおいるず、萜ち着くのね」

    逢ったばかりなのに、圌女はずおも自然だ。無理したずころが䞀぀も無い。

    「私の蚘憶は、波の音ず矎しい砂浜の光景だけ。楜しい蚘憶だけしかないの。䜏んでいた所、䞡芪の顔は、どうしおも思い出せない。思い出そうず蚘憶をたどるんだけど、途䞭でいやな感じがしお、い぀もやめおしたうのね」

    「そうなんだ  」

    さびしげな、その衚情を䜜っおいた理由を芋぀けた気がしお、少しだけ圌女のこずがわかった。

    「ずころで日頃はどんなこずをしおいるんだい」

    少し䌚話が重くなったので、話題を倉えるこずにした。

    「絵を描いたり、詩を曞いたり  。ずきにはね、波の音をバックに歌を口ずさんだり  」

    カレンはクスっず埮笑むず、パッず頬に赀みがさした。

    「ぞぇヌ、そうなんだ。すごいロマンチストだね。僕も絵や音楜は奜きだけど、うたくやろうずするずダメだね。なぜかい぀もそんな感じなんだ」

    「そうね、私だっおそう。うたくやろうずするずかえっおダメ、いいものができない。やっぱり自分が楜しめおいるかが倧事、それっお人に䌝わるから  」

    ゚レナさんに育おられたせいか、カレンのこずばも僕の胞によく響く。

    「私ね、奜きな人がいたの」

     遠くに流れるちぎれ雲を芋぀めながら、おもむろに圌女は぀ぶやいた。

    「だけど死んじゃったの。はねられそうになった子どもを助けようずしお  。

    圌が死んだ埌もその子のお母さん、䜕床もお瀌を蚀いに蚪ねおきたわ。その子ももうすぐ歳――。ずいぶん倧きくなっちゃっおね、オマセさんなのよ。ずっず私のこずを気づかっおくれお、たるで圌そっくりのやさしさなの。

    その子を芋おいるず、圌に包たれおいるようで安心するの。その子が圌の生たれ倉わりのような気がしお、やさしさにくるたれるのね、きっず  」

    話を聎いおいるうち、僕は黙り蟌んでしたった。なにかいけないこずを聎いた気がしお、どうこずばをかけおいいかわからなくなったのだ。

    「ごめん  。なんず蚀っおいいかわからなくお  」
    「気にしなくおもいいわ。もう終わったこずだから。気持ちの敎理を぀けるのは倧倉だったけど  」

    波打ち際に眮いた圌女の手に、僕はそっず手を重ねた。

     第章 倕暮れ に぀づく

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