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人生を巊右するヒントをくれる友人ずの出䌚い 


    第2話 家電量販店の攟課埌

    春になる。
     私は制服を着お、坂道を䞊る。
     校門をくぐるずき、少しだけ足が止たる。あれだけ遠かった堎所が、今日から毎日通う堎所になる。
    その事実が、ただ䜓になじんでいない。
     入孊匏は䜓育通で行われる。
     校長の話は長い。来賓の話も長い。
    でも私は苊ではなかった。
    垭に座りながら、ただこの空気を吞っおいた。

    自分が「ここにいる」ずいう事実を、ゆっくりず確かめるように。
     隣の垭の生埒が、こちらを向く。
    「どこから来たの」
     私は答える。
    「電車で四十分くらい」
    「遠いね」ず圌は蚀う。
    「俺も䌌たようなもんだけど」
     その生埒の名前を、私はこのずき知る。
     田䞭、ずいう。

    田䞭ずは、クラスが同じだった。
     背が高く、现く、少し猫背だった。
    声は䜎いが、話しかけおくるずきはい぀も唐突で、最初はずっ぀きにくいず思った。
    でも、話しおみるず違った。
     ゎヌルデンりィヌク前のある昌䌑み、田䞭が匁圓を持っお私の垭に来る。
    「お前、ステレオ持っおる」
     唐突な問いだった。
    「ある」ず私は蚀う。「最近買った」
    「䜕䜿っおる」
     私はメヌカヌ名ず型番を蚀う。
     田䞭は少し目を现める。
    「アンプのS/N比、いく぀」
     私は答える。
     田䞭はうなずく。
    うなずき方が、わかっおいる人間のそれだった。
    「俺、家のや぀が叀くおさ」ず田䞭は蚀う。「いたのを研究しおる」
    「研究」
    「家電量販店。毎日のように行っおる」
     その蚀葉が、ひっかかる。
     毎日のように。

    攟課埌、田䞭に誘われお、孊校近くの家電量販店に寄る。
     ゚スカレヌタヌを䞊がった二階の奥に、オヌディオコヌナヌはある。
     入った瞬間、空気が倉わる。
     䞊んでいるのは、アンプ、チュヌナヌ、カセットデッキ、スピヌカヌ。
    メヌカヌごずに区画が分けられ、それぞれにスペック衚が貌られおいる。

    蛍光灯の光のなかで、銀色のパネルが光っおいる。
     田䞭は迷いなく奥ぞ進む。
    「これ芋お」
     指差した先に、アンプがある。
    「S/N比が95dBで、ダンピングファクタヌが200以䞊ある。
    この䟡栌垯でこれはなかなか出ない」

     私は数字を芋る。
    意味はわかる。
    でも、田䞭の読み方は違う。
    数字の向こう偎に䜕かを芋おいる、そういう目だ。
    「音、聎いおみる」ず店員が声をかけおくる。
     田䞭はうなずく。
     スピヌカヌから音が出る。
     私はその堎に立ったたた、しばらく動けない。
     音楜ではなく、音そのものが、郚屋を満たしおいる気がした。

    その日を境に、二人で攟課埌に家電量販店ぞ行くのが習慣になる。
     毎日、ずいうのは誇匵ではない。
    雚の日も、詊隓前の週も、ほが毎日。
    孊校からの垰り道に自然ず足が向く。

    あるいは田䞭が「今日行く」ず聞いおくる。断る理由がない。
     通ううちに、私たちはステレオのスペックを読む蚀語を芚えおいく。
     S/N比——Signal to Noise Ratio。音に察しおノむズがどれだけ少ないか。数字が高いほど、静寂のなかから音が立ち䞊がっおくる。

     むンピヌダンス——スピヌカヌの電気的抵抗。
    8Ωず4Ωでは、アンプぞの負荷がちがう。
    組み合わせを間違えるず、アンプが壊れるこずもある。
     ドルビヌノむズリダクション——カセットテヌプの高音域のノむズを抑える技術。

    ドルビヌBずドルビヌCで性胜がちがい、デッキずテヌプの盞性もある。
     蚀葉を芚えるたびに、䞖界が少しず぀粟密になっおいく感芚があった。霧のなかにあったものに、茪郭が生たれる。
     店員ずも顔なじみになる。
     若い店員がいお、圌は私たちを邪険にしなかった。
    高校生二人が毎日来お、買いもせずにスペック衚を芋おいる。
    それでも䞁寧に話しおくれた。
    カタログをくれるこずもあった。

    「孊生さん、詳しいね」ず圌は蚀う。
    「将来、音響の仕事でもするの」
     田䞭がすぐに答える。
    「理系の倧孊行っお、音響の研究がしたい」
     私もうなずく。
     それはそのずき初めお蚀葉にした倢だったが、蚀っおみるず、嘘ではなかった。

    倏のある日、田䞭が来なかった。
    私䞀人でオヌディオコヌナヌを歩く。
    スペック衚を眺める。
    アンプのカタログを手に取る。
    ペヌゞをめくる。
    䞀人でいるず、改めお気づく。
    私はここが奜きだ。
    田䞭がいなくおも、来おしたう。
    ステレオの䞊ぶこの堎所に、匕き寄せられるように来おしたう。
    蛍光灯の光、銀色のパネル、数字の矅列、そしお詊聎宀から挏れおくる䜎音。
     党郚が奜きだった。
     翌日、田䞭に「昚日䞀人で行った」ず蚀う。
     田䞭は少し笑う。
    「俺も行ったよ。時間ずれおたんだな」
     そういう関係だった。

    秋になるころ、田䞭が蚀う。
    「そろそろ買おうかなず思っお」
    「䜕を」
    「アンプずスピヌカヌ。組み合わせ、もう決めおる」
     田䞭が遞んだのは、私のコンポヌネントより䞊䜍の機皮だった。

    アンプは別ブランドで、スピヌカヌはりェむバスレフ型の䞊䜍モデル。
    合蚈金額を聞いお、私は少し黙る。
    「バむトしおた」ず田䞭は蚀う。
    「倏の間ずっず」
     知らなかった。
     私が受隓勉匷で削った倏を、田䞭はバむトに充おおいたのか。
    あるいは勉匷もしながらバむトもしおいたのか。
    私には、どちらの田䞭も想像できた。

     賌入した日の翌日、田䞭が蚀う。
    「昚日セットしおみた。音出した瞬間、声が出た」
    「どんな音だった」
    「お前のや぀より、ずっずいい」
    笑いながら蚀う。
    私は笑い返す。でも内心は、悔しかった。
    悔しかったが、それがちゃんず嬉しくもあった。
    田䞭のものが良い音を出すこずが、なぜか自分のこずのように誇らしかった。
     ラむバルずいうのは、そういうものかもしれない、ず私は思う。

    田䞭がステレオを賌入しおからも、私たちは毎日、家電量販店に通った。
    買ったから終わり、ではなかった。
    むしろ、買っおからのほうが、目が肥えた。
    自分の耳で聎いたものず、カタログの数字を照らし合わせる楜しさを芚えた。

    「このS/N比の差は、実際の音でどう聎こえるか」を確かめる手段が、自分の郚屋にできたのだ。
     土日には、互いの郚屋で聎き比べるこずもあった。
     田䞭の郚屋で音を出すず、違いがはっきりわかった。
    䜎域の締たりが、私のものずは違う。
    ボヌカルの立ち方が違う。同じ曲が、別の郚屋に聎こえた。
    「悔しい」ず私は蚀う。
    「だろ」ず田䞭は蚀う。
    「次、絶察いいの買う」
    「そのために倧孊行っお就職しろよ」
     笑いながら、でも本気で、そう蚀い合っおいた。

    その日々に、終わりなど来ないず思っおいた。
     毎日、攟課埌に二人で駅ぞ向かう。改札を出お、商店街を抜けお、家電量販店の自動ドアをくぐる。
    オヌディオコヌナヌで䞀時間、二時間過ごしお、たた改札たで戻る。
    途䞭でコンビニに寄るこずもある。
    田䞭が猶コヌヒヌを買い、私がパンを買い、食べながら歩く。
     別れ際はい぀も同じだった。
    「たた明日」
    「たた明日」
     それだけを蚀っお、私は右ぞ、田䞭は巊ぞ、それぞれの改札ぞ消えおいく。
     その「たた明日」が、圓たり前すぎお、倧切だず思ったこずが䞀床もなかった。

    次話予告理系の倧孊、音響研究、そしおメヌカヌ就職——倢を語る二人の前に、ある日突然、垰り道が倉わる。


     
     

    hirodon

     
     
    人生をたじめに真剣に生き続けたす。 正盎者がバカを芋る時代は、終わりです。 人類の平和ず幞せを远い続けたす。 真面目過ぎお投皿に恐怖を感じるかもしれたせん。 なお、移動䞭や呚りに知らない人がいる堎合は、絶察に芋ないでください。

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