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垰り道の衝突音 

    3話。
    十䞀月の終わり。
     その日の攟課埌も、私たちはい぀ものように家電量販店にいた。
     新しいカセットデッキが入荷しおいた。
    ドルビヌCに察応した䞊䜍機皮で、田䞭はスペック衚の前に長いこず立っおいた。
    私はその隣で、同じ数字を眺めおいた。
    ワり・フラッタヌが0.03%以䞋。
    呚波数特性が20Hz〜20kHz。
    数字を読みながら、耳のなかで音を想像する。
    もうそれができるようになっおいた。
    「これ、欲しいな」ず田䞭が蚀う。
    「たた買うの」
    「欲しいんだから仕方ない」
     田䞭は笑う。
    私も笑う。
    店員の若い兄ちゃんが「たた来たね」ずいう顔でこちらを芋おいる。
    䞀時間ほどいお、店を出る。
    倖は暗かった。十䞀月の日暮れは早い。
    商店街のアヌケヌドを抜けるず、冷たい空気が頬に圓たった。吐く息が癜い。
    「寒くなったな」ず私は蚀う。
    「もう冬だろ」ず田䞭は蚀う。
     駅たでの道を、二人で歩く。

    改札の前で、田䞭ず別れる。
     い぀ものこずだ。
    「たた明日」
    「たた明日」
    田䞭は巊の改札ぞ消える。私は右ぞ向かう。
    ホヌムで電車を埅぀。四分埌に来る。
    スマヌトフォンなどないから、ただ立っお埅぀。
    向かいのホヌムに電車が滑り蟌んでくる。
    違う路線だ。
    そのドアが開き、人が降り、人が乗り、閉たる。
     私の電車が来る。
     乗る。座る。
     窓の倖が流れおいく。

    最寄り駅を降りお、私は歩き始める。
     友人ず家電量販店によらなければ通らない道だ。
     自宅たで、十分ほどの道のり。
    い぀も通る道だ。
    目を぀ぶっおも歩けるくらい、知っおいる道だ。
     商店街を抜ける。
    肉屋のおじさんが店じたいをしおいる。
    豆腐屋の前を通る。
    もう暖簟が䞋がっおいる。
    角のたばこ屋の明かりだけが、ただ灯っおいる。
    信号が芋える。
    い぀も枡る亀差点だ。
    信号は青だ。
    私は歩みを止めずに、暪断歩道ぞ螏み出す。

    音が、先だった。
    䜎く、重く、鋭い音。
    タむダが路面を匕っ掻く音。
    それず同時に、䜕かが自分に圓たる感芚。
    「感芚」ずいうのも正確ではない。
    衝撃、ずいうより、突然の空癜だった。
    自分の䜓が、地面から離れおいる。
    空が芋える。倜空だ。星はない。ただ暗い。
    その暗さの端に、街灯の光がある。
    光がゆっくりず回転しおいる、ず思ったが、回転しおいるのは自分の䜓だったのかもしれない。
    次の瞬間、アスファルトが来る。
    背䞭から萜ちる。
    音が、する。
    その音が自分の䜓から出おいるずは、最初わからなかった。

    時間が、溶ける。
    どのくらい経ったのか、わからない。
    顔の暪に、アスファルトがある。
    粒の粗い、灰色の地面。
    その䞊に、自分の手がある。
    手は動かない。
    動かそうずしおいるのかどうかも、わからない。
    遠くで声がする。
    叫んでいる人がいる。䜕を叫んでいるのか、聞き取れない。
    誰かが走っおくる足音がする。
    空から、光が降りおくる。
    懐䞭電灯か、車のラむトか。
    その光が眩しくお、私は目を閉じようずする。
    目が、閉じられない。
    「いおヌヌヌヌヌヌヌ痛い」
    開いおいるのか閉じおいるのか、もうわからなくなる。

    次に蚘憶があるのは、倩井だ。
    癜い、倩井。
    蛍光灯が光っおいる。
    揺れおいる。いや、揺れおいるのは倩井ではなく、自分が乗っおいるものだ。
    ストレッチャヌか、䜕かか。
    車茪の音がする。
    廊䞋を運ばれおいる。
    顔の暪に、人の手がある。
    癜い手袋をした手が、䜕かをしおいる。
    声が聞こえる。
    数字ず蚀葉が混じった声。
    意味を拟おうずするが、拟えない。
    たた、暗くなる。

    目が芚めるず、母がいる。
    母の顔が、目の前にある。
    泣いおいる。
    声を殺しお泣いおいる。
    口を芆った手が、震えおいる。
    私は声を出そうずする。
    出ない。
    喉に䜕かが入っおいる。
    管のようなものが、喉の奥にある。
    呌吞が、自分でしおいるのか機械がしおいるのか、わからない。
    倩井の蛍光灯が、癜く光っおいる。
    どのくらい眠っおいたのかもわからない。
    私はそれを芋ながら、がんやりず思う。
    あの信号は、青だった。
    青だったはずだ。
    青だったのに、なぜ、ここにいるのか。

    医垫から説明を受けたのは、䜕日か埌だった。
    右の肋骚が䞉本折れおいた。
    肺が䞀郚぀ぶれおいた。
    頭を匷く打っおいたが、頭蓋内の出血はなかった。
    足は、骚折しおいた。
    手術が必芁だった。手術は、した。
    「呜が危なかった」ず医垫は蚀った。
    その蚀葉を聞いたずき、私は䜕も感じなかった。
    感じられなかった、ずいうほうが正確かもしれない。
    䜓のあちこちが痛くお、管が入っおいお、それどころではなかった。
    「危なかった」ずいう過去圢の話を、私はどこか他人事ずしお聞いおいた。
    危なかったのは、もう終わっおいる。
    今、ここにいる。
    それだけが、事実だった。

    ある朝、病宀のドアが開く。
    田䞭だった。
    制服のたた来おいた。
    孊校垰りか、あるいは孊校を早退しおきたのか。
    い぀もより顔が硬かった。
    埌から聞いた話だが、ほかのクラスメむトもお芋舞いに来おくれたが母が断ったそうだ。
    しかし、母は田䞭だけは、病宀に通しおくれた。
    でも、ドアを開けお私の顔を芋た瞬間、その顔から䜕かが抜けおいった。
    緊匵か、それずも䜕か別のものか。
    田䞭は私の暪のパむプ怅子に座る。
    䜕か蚀おうずしお、蚀わない。
    たた䜕か蚀おうずしお、たた蚀わない。
    しばらく、沈黙が続く。
    「事故の日」ず田䞭が蚀う。
    「お前ず別れおから、うちに垰ったら芪に蚀われたんだ。
    お前が事故にあったっお」
    私はうなずく。
    「そのあず、䜕時間か、芚えおない」
    私はたたうなずく。
    「死ぬかず思った」
    田䞭が蚀っおいるのは、私の話だ。
    でも田䞭自身の話のようにも聞こえた。
    「死ななかった」ず私は蚀う。
    声がかすれた。
    喉がただ痛い。
    「そうだな」ず田䞭は蚀う。
    たた、沈黙が続く。
    窓の倖で、颚が朚を揺らしおいる。
    枯れかけた葉が、いく぀か舞っおいる。
    「ステレオのカタログ、持っおきた」
     田䞭がカバンからカタログを出す。
    「暇だろうず思っお」
    私は笑おうずする。うたく笑えなかったが、笑った。
    田䞭も笑った。
    それで十分だった。

    田䞭が垰ったあず、私は倩井を芋る。
    あの亀差点の信号は、青だった。
    私は間違っおいない。間違っおいないのに、こうなった。
    䞖界は、正しいこずをした人間を守らない。
    そのこずを、私は十六歳の病宀で、初めお知った。
    そしお同時に、もうひず぀のこずを知った。
    䞖界は、正しいこずをしなかった人間をも、たたに生かす。
    自分がそのどちらなのか、このずきの私にはただわからなかった。
    ただ、ここにいる。ただ、生きおいる。
    癜い倩井の䞋に、ただ、いる。

    半幎埌、私は退院する。
    杖を぀いお玄関を出る。
    久しぶりの倖の空気は、思ったより冷たかった。
    もう春になっおいるのに、颚が冷たかった。
    空が、広かった。
    病院の倩井しか芋おいなかった半幎間のあず、空はこんなに広いのかず、そのずき初めお思った。
    私の隣に、母がいる。母は䜕も蚀わない。
    私も䜕も蚀わない。
    ただ、倖を歩く。
    それだけのこずが、もう十分だった。

    次話予告半幎の空癜が飲み蟌んだのは、勉匷だけではなかった。取り戻せ


     
     

    hirodon

     
     
    人生をたじめに真剣に生き続けたす。 正盎者がバカを芋る時代は、終わりです。 人類の平和ず幞せを远い続けたす。 真面目過ぎお投皿に恐怖を感じるかもしれたせん。 なお、移動䞭や呚りに知らない人がいる堎合は、絶察に芋ないでください。

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