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水彩詩集!拝啓文芸部~雨の日の傘/壊れ掛けたスマホの理由

    土砂降りの雨が、アスファルトを激しく叩いていた。

    駅前の小さなカフェの軒下で、陸(リク)と二人、雨宿りをしていた。ビニール傘に落ちる雨粒が、鼓膜を痛いほど揺らす。隣に立つ彼の横顔は、いつも以上に影が深かった。

    「……ねえ、さっき撮った写真送るね」

    私がスマートフォンの送信ボタンを押すと、隣に立つ陸のポケットから、小さく聞き慣れた通知音が響いた。

    取り出された彼のスマホの画面は、相変わらず蜘蛛の巣のようにバキバキに割れていた。角はテープで補強され、側面の塗装も剥げ落ちている。

    前から気になっていた。付き合って長いのに、どれだけアルバイトを頑張っても、彼はこのボロボロのスマホを持ち続けている。理由を聞いても、いつも「使えるから」「物持ちがいいだけ」と笑って流されていた。

    「ねえ、陸。本当に買い替えないの? タッチパネルも反応しづらそうだし……」

    雨脚が強まった中で私が尋ねると、陸は画面を見つめたまま、急に言葉を詰まらせた。

    差した傘の柄を握りしめる彼の指先が、白くなっている。雨は街の音をすべてかき消していく。その重苦しい雨音が彼の心の堤防を壊したようだった。

    「……買い替えられないんだよ」

    ポツリと、陸の口から絞り出すような声が漏れた。

    「本当はさ……ずっと隠してたんだけど、俺の家、すごく貧しかったんだ。親は借金まみれで、電気もよく止まってた。高校の時、周りがみんな親にスマホを買って貰ってる中、俺だけ持ってなくてさ。友達の輪に入れなくて、惨めでたまらなかった」

    陸は濡れた地面を見つめたまま、言葉を続けた。

    「このスマホ、高校の終わりに自分でバイトして、初めて自分の力で買ったものなんだ。……これを持った時、やっと人並みになれた気がした。だから画面が割れても、古くなっても、これを手放すとあの頃の『何も持っていなかった惨めな自分』に戻っちゃう気がして……捨てられなかったんだ」

    彼の声が、雨の音に混じって震えていた。

    「執着してる自分がダサくて、君に呆れられるのが怖かった。綺麗でおしゃれな君に相応(ふさわ)しい男になりたくて無理して格好つけてたけど……本当の俺は、昔の傷を引きずったままの貧乏くさい奴なんだよ」

    溢れ出したのは、ずっと一人で抱え込んでいた過去のトラウマだった。

    自分をよく見せようと背伸びしながらも、過去の恐怖から逃げられずにいた陸。その背中を見たとき、胸が締め付けられるように痛んだ。

    ボロボロのスマホは、彼が必死に生き抜いて来た証だったのだ。私は自分の傘を閉じ、陸の差す小さなビニール傘の中に飛び込んだ。

    「陸」

    驚いて顔を上げた彼の両手を、私は自分の手で強く包み込んだ。割れた画面を握っていたその手は、凍えるように冷たかった。

    「ダサくなんてないよ。むしろ、一人でそこまで頑張って来た陸を尊敬するよ。……でもね、もうそんなに過去を怖がらなくていいんだよ」

    彼の目から、ぽろりと涙が零れ落ちた。

    「私の前では、無理して強いフリをしなくていいの。どんな過去があっても、今の陸が私の特別な人なんだから」

    陸は深く息を吐き、私を強く抱きしめ返した。

    頭上で傘を叩く雨音は相変わらず激しかったけれど、二人が肩を寄せ合うその狭い空間だけは、世界で一番温かかった。

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    僕は散歩と読書と執筆が好きで、釣りをしながら、ビートルズのI wellをukuleleを弾いていましたが、最近の熊騒動で釣りも出来なくなりnoteを知りました。長年、本に囲まれた生活をして来ましたので、本と読書と創作のお話をしたいと思います。

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