
女医、豆を摘む
社食の食器返却口で盆を下げている時かち会った後輩の森くん、その彼が、おでこの左に大きめのバンドエイドを貼っていた。
「 どないしはりましたん? 」
「 おできできてもうて、切りましてん 」
実際には関西弁で喋ったりはしていない。
聞いてみたら、でこに出来た粉瘤を前日に切開除去したのだと言う。
粉瘤。粉瘤というのは皮膚の下に出来る脂肪、油の塊の事である。米粒くらいから始まり、大切に育てると枝豆くらいになる場合もあって、バリエーションもJOYFULL、キュートなできものだ。
スーパーの油コーナーに行くと、ごま油、米油などと一緒に粉瘤油という油が並んでいるかというと、並んでないので探さないで欲しい。
この粉瘤、私も過去3度体に現れた。放置していても痛くも痒くもないのだが、箇所によってはポツリ目障りであったりもしたので、3つとも取ってもらった。体質的に出来やすい身体なのだろう。
ふんりゅうと言っても強盗を働いたりはしない。おできである。たまたま近いところに2箇所出来たからと言って、医学的にそれをふんりゅうペアと呼ぶかと言うと、そんな話は聞いた事がない。
ひとつ目は20代の時、胸だった。次が40代の時、確か臍の上10cmくらいのところだったと思う。傷跡もまったくない。綺麗な体である。
ボディソープはもっぱらDoveを愛用している。
あなたにも見て欲しい。なんのこっちゃ
そして3つ目が一昨年、首の後ろ、後ろ髪襟足の
少し下辺りだった。
オペも3度目となると私も慣れっ子である。所要時間10分前後くらいだろうか、一応患部の脇に麻酔も打つ、れっきとした手術なのであるが、緊張や不安はもうまったくない。
そして何よりも、その時執刀して下さった先生の腕というか対応というのか、それがとても見事であったと私は思っている。
女医さんであった。
患部をアルコールで消毒、
「それでは麻酔のお注射打ちますねぇ 」から始まると、普段運動はしてるのか、ストレス解消の何か趣味はあるのか、犬を飼っている話を私がしたら、私の家にも2匹いるのだ云々と、色々な話題に話が及び、そんな雑談に気を取られながらあれよあれよという間に、
「はい、お疲れ様でしたぁ 」と、最後の縫合まで終えてしまっていたのである。オペ終了。
皮膚表面の簡単な処置であっても日進月歩進化は遂げてるのだろう、にしてもいかにも手際は鮮やかだった。
加え、そんな私の感心感嘆に拍車を掛けたのが、その先生がとても素敵であったという事だ。
清潔で、これはドクターだから当然か、そして、なんというか柔和でお品があった。
あれは形式なのだろう、銀色の皿に取り出されてヘタリとしているその白っぽい小豆大の物体を見せられながら、「この子を取りましたぁ。割としっかり固めでしたよぅ」などと言っていたような気がする。この人に我が身のこんな汚物を取り出されたのかと思うと、奇妙な昂ぶりの芽がポコリと発芽した。
アホだった。愚か者だった。その事を近藤真彦にメールしたかったがアドレスを知らなかった。
午後の仕事を始めるまでの残り時間、一服しながらそんな事を思い出していた。
森くんの粉瘤を取り除いたのはどんな先生だったのだろうと、どうでもいい事を考える。事前に知っていれば紹介してあげたのに。
いや待て、おでこか。私は首の後ろであったが、額となるとそのお顔をお近づけになるのか。
紹介しなくて良かった、と開いてて良かったみたいに心でつぶやく。
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