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【谷の巡礼】⑤インカムじいさん。キャピタルじいさん。後編「“ゲイン”の正体」

    むかしむかし、
    あるところに、
    霧の深い谷がありましたとさ。

    キャピタルじいさんが旅に出てから、
    さらに数年が過ぎた頃。

    霧の深い日に、
    また、
    あの巡礼者が、
    谷を訪れたのでしたとさ。


    ~巡礼者との再会~

    インカムじいさんは、
    相変わらず、
    庭の木々に水をやっておりました。

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    巡礼者は、
    木々の生い茂り、
    森のように大きくなった庭を見て、
    こう尋ねました。

    「おじいさん、
    あなたは毎日、
    実を得て、
    それをまた植え続けてきました。
    今、
    あなたにとって、
    一番の“ゲイン”は何ですか?」

    インカムじいさんは、
    穏やかに笑って答えました。

    「最初は、
    実が手に入ることが
    嬉しかったんですよ」

    「そのうち、
    食べきれないほどの実が
    成るようになったものだから、
    市場で売るようになりました」

    「生活の足しになり、大変助かりました」

    しばらく庭を見渡したあと、
    インカムじいさんは、
    ふたたび口を開きました。

    「でも今は、
    この森の木陰で、
    毎日、安心して、
    趣味の筆を走らせることこそが、
    わたしにとって、
    最高の“ゲイン”です」

    「木が勝手に育ってくれるおかげで、
    わたしの心は自由になったのですよ」

    インカムじいさんにとっての“ゲイン”は、
    単なる収益ではなく、
    “自分らしい時間を手に入れたこと”
    そのものでした。

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    ~キャピタルじいさんの帰還~

    そのとき、
    谷の向こうから、
    ボロボロになった
    キャピタルじいさんが帰ってきました。

    じいさんは結局、
    『次なる大化けする種』を
    見つけることはできませんでした。
    黄金で建てた屋敷も、
    維持できずに
    手放してしまったといいます。

    肩を落とすキャピタルじいさんに、
    巡礼者は同じ問いを投げかけました。

    「おじいさん、
    あなたは黄金を手にし、
    そしてそれを失いました。
    今、
    あなたにとって、
    一番の“ゲイン”は何ですか?」

    キャピタルじいさんは、
    空っぽの手を見つめて、
    ぽつりと言いました。

    「わたしは、
    黄金を増やすことばかり考えて、
    肝心の
    『土の耕し方』を忘れておりました」

    「でも、
    一回大きな夢を見て、
    どん底を味わったおかげで、
    ようやく目が覚めました」

    「……次に何をすべきか分かったこと、
    それが、
    今のわたしの
    “ゲイン”なのかもしれません」

    キャピタルじいさんの“ゲイン”は、
    お金ではなく、
    “失敗から得た確かな経験”
    だったのです。


    ~巡礼者の言葉~

    巡礼者は、
    ふたりを眺めて言いました。

    「“ゲイン”とは、
    単に増えることではありません」

    「その積み重ねが、
    あなたの生き方をどう変えたか。
    それが本当の“ゲイン”なのです」

    インカムじいさんは、
    キャピタルじいさんに、
    一粒の普通の種を手渡しました。

    「またここから始めればいい」
    「今度は、一緒に土を耕そう」

    キャピタルじいさんが
    その種を握りしめると、
    空っぽだったはずの手のひらに、
    どこか懐かしい土の温もりが、
    じんわりと広がっていくようでした。

    ふたりのじいさんは、
    夕暮れの谷で、
    静かに土を耕し始めました。

    増えた黄金ではなく、
    積み重ねた歳月こそが、
    本当の
    “ゲイン”だったのかもしれません。

    めでたし、めでたし。

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    ――もっとも。

    どんな巡礼も、
    最初の一粒から始まるのでございます。

    ふたりのじいさんが、
    まだ“種”を選ぶ前のお話はこちら――

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    実り豊かな暮らしと、
    満たされた暮らしは、
    必ずしも同じではないのでございます。

    谷にはやがて、
    人の目に映る豊かさを
    追い求める者たちが現れました。

    次のお話――

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    手鞠

     
     
    谷を彷徨い、谷を巡礼しながら。暮らしと、お金の輪郭を綴っています。

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