
【谷の巡礼】④インカムじいさん。キャピタルじいさん。前編「それぞれの“ゲイン”の始まり」
むかしむかし、
あるところに、
霧の深い谷がありましたとさ。
その谷には、
ふたりのじいさんが住んでおりました。
ひとりはインカムじいさん。
もうひとりはキャピタルじいさん。
ふたりのじいさんの暮らしは、
決して豊かではありませんでしたが、
畑を耕し、
鶏を育て、
豪勢な飯こそありませんでしたが、
季節の実りを分け合いながら、
静かに暮らしておりました。

~“ゲイン”の種~
ある霧の深い日のこと。
ふたりは、
ひとりの巡礼者が、
道に迷って
倒れているのを見つけたのでした。
ふたりは手を取り合い
巡礼者を介抱し、
温かい麦飯を振る舞って、
元気づけてやりました。
翌朝、
すっかり元気になった巡礼者は、
お礼にと、
懐から二つの包みを取り出して、
こう言いました。
「おふたりのおかげで、
巡礼を続けることができます」
「お礼に、
この種をどちらか一つずつ、
好きな方を選んで受け取ってください」
それは――
『毎日、小さな実が成り続ける普通の木の種』
『実は成らないが、黄金に大きく育つ特別な木の種』
ふたつの不思議な種でした。

インカムじいさんは、
迷わず普通の木の種を選びました。
「毎日少しずつでも食べ物があれば、
それで十分です」
「豪勢な景色は見られずとも、
腹が減らないのが一番ですから」
キャピタルじいさんは、
目を輝かせて特別な木の種を選びました。
「この木を黄金にして、
村で一番の景色を見てみたいんです」
「もっと遠くまで、
見晴らせる気がするんです」
「そうすれば、
この霧の深い谷で
道に迷うような暮らしから、
抜け出せるような気がするんです」
巡礼者は、
その言葉を、
静かに聞いておりました。
そして、
ふたりのじいさんへ、
深く一礼すると、
また霧の深い谷へと、
静かに姿を消したのでした。

~インカムじいさんの庭~
インカムじいさんは、
もらった種を庭に植え、
せっせと水をあげました。
すると、
すぐに芽が出て、
小さな普通の木が育ちました。
そして、
巡礼者の言葉どおり、
毎日、毎日、
ポトリ、ポトリと、
ひとり分に
ちょうど良い実を落としたのです。

インカムじいさんは、
その実を食べると、
その実の種を庭に植えました。
来る日も来る日も、
そうやって、
その実の種を
庭に植え続けたのでした。
~キャピタルじいさんの庭~
キャピタルじいさんも、
もらった種を庭に植え、
せっせと水をあげました。
すると、
すぐに芽が出て、
黄金色の木に育ちました。
「この木は、そのうち、
大変な宝になるに違いない」
キャピタルじいさんは、
来る日も来る日も、
じっと木を眺めては、
木が育つのを待ちました。
ある年、
キャピタルじいさんの庭に植えた木を、
蔵が建つほどの黄金で、
買い取りたいという商人が訪れました。

「今だ!」
キャピタルじいさんは、
大切に育てた木を
根こそぎ掘り起こし、
商人に売り払いました。
そうして、
じいさんの手元には、
見たこともないような黄金が、
転がり込んできたのでした。
キャピタルじいさんは、
その黄金で
立派な家を建て、
村一番の金持ちになりました。
~芽吹いた“ゲイン”~
さて、
季節が幾度も廻り、
ふたりがあの日植えた種の結末が、
少しずつ姿を現し始めた頃のことでした。
インカムじいさんの庭は、
『毎日、小さな実が成り続ける普通の木』で、
いっぱいになりました。
いつしか、
小鳥たちのさえずりが響き、
木漏れ日が揺れる、
小さな森のようになっておりました。
ひとりで食べきれない実は、
村の市場で売りました。
インカムじいさんは、
『不労所得』という
心の平穏を噛み締めながら、
のんびりと、
隠居生活を楽しんだのでした。

一方、
大きな屋敷を建てた
キャピタルじいさんは、
『実は成らないが、黄金に大きく育つ特別な木』を
売り払ってしまったため、
次の収入がありません。
手元の黄金が、
目減りしていく不安に襲われて、
ついには残った黄金で、
『次なる大化けする種』を探しに、
旅に出たのでしたとさ。

――けれど。
ふたりのじいさんが、
本当に手にしたものは、
まだ別にあったのかもしれません。
これは、
それから先の、
“ゲイン”のお話――。
