
【読書・展示紹介】思索の深さから生まれる光 - 村上春樹 / 谷川俊太郎 / チュルリョーニス展

「考えすぎる」ことからしか生まれない美しさもある。純粋な白い光の輝きがある。
考えずにはいられないことは時に苦しさも生むけれど、
その輝きを信じていたいときに触れたい、
本や展示についてまとめてみました。
村上春樹『スプートニクの恋人』
- とんでもなく広い思索の宇宙

22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。――そんなとても奇妙な、この世のものとは思えないラブ・ストーリー!!
作品紹介より
読み終わった瞬間に「おぉぉぉ」と拍手してしまった。
正直、何が自分にそうさせたのか、何がこれほどまでの感慨を作ったのかは自分でもよくわからない。
読んでいる間は「哲学だな…」とか心を打った言葉の数々とかだけが胸に残る。
だが読み終わってみると、とんでもない長い思索ととんでもなく広く深い世界(宇宙?)の中を旅したような気持ちになる。
縦の時間の糸と横の思索の糸が色とりどりで(でもほとんどは岩とか夜の空とか銀色とか鈍色とかそういう色合い)絡まり合って織られた布みたいな。
この作家以上にこの世界観をここまでの完成度で構築出来る人はいない。とんでもなく純粋で美しい作品だった。
谷川俊太郎『谷川俊太郎詩選集 1』
- 素朴さと宇宙をつなぐもの

現代日本を代表する詩人のベスト作品集。
軽やかで深い、美しい言葉の贈りもの…。半世紀を超える詩業からの名詩選。第一巻は、第一詩集『二十億光年の孤独』(1954)から『空に小鳥がいなくなった日』(1974)までより精選。(解説・野中 柊)
作品紹介より
谷川俊太郎氏は、私たちにはみえていないものがみえていたんだろうなと思わずにはいられない。
世界のベールを一つめくった向こう側にある、あえて言うなら「宇宙」とでも呼べるような世界のものを。
私たちが生活の中で感じる素朴な感覚を
そういった「宇宙」のことと結びつけて語る、あるいは行き来することにおいて本当に優れた感覚を持ってらっしゃる作家だと思うし、
時代を超え愛される日本を代表する詩人の作品の凄みに、読むたびに感嘆する。
「チュルリョーニス展 -内なる星図-」
- ファンタジー、そして生きること

<画家M.K.チュルリョーニスについて>
絵画と音楽というふたつの領域で類まれな才能を示し、35歳の若さで亡くなるまでのわずか6年ほどの画業で、300点以上もの作品を手がけました。世紀末のアール・ヌーヴォーや象徴主義、ジャポニスムといった国際的な芸術動向に呼応しつつも、作曲家ならではの感性と、当時ロシア帝国の支配下にあったリトアニア固有のアイデンティティに根差した作品群は、唯一無二の個性を放っています。
チュルリョーニス展 HP
展覧会紹介 | 画家紹介より
チュルリョーニス、こんな作家がいたとは知らなかった。
音楽と美術という異なる領域を融合させたことでモダン・アートの歴史に名を残しながら、
リトアニア独立のために人生を捧げた芸術家でもあり。
リトアニアという国や民族史への愛と、そのやわらかさや鋭さ、美しさを作品に見事なまでに昇華させている。
線や紋様と絵具の陰影の美しい作風は、「やさしさ」「哀しさ」そして祖国への愛とその文化の香りを感じさせるに十分すぎて、
「ファンタジー」とも呼べる領域をここまで美しく描きあげた作家がいたのかと感動した
(240字)

国立西洋美術館で開かれている一人の作家の回顧展はなんでこんなに良いのだろう、と思う。
一人の作家の人生や思いをその作品と一緒に追えるということの贅沢を毎回感じる。
ほんとうに良い作品は、何度見ても何時間見てもまだ新しい発見がある。
見るたびにその作品が自分にうったえかけてくるものは変わるし、今まで自分が気づかなかったその作品の優れた部分に気づく。
美術館という場でそういった作品の素晴らしさに一対一で向き合う機会があるというのはほんとうに美しいことだと思う。

今回のチュルリョーニスも、芸術とリトアニア独立運動のために自らの人生を捧げ、
日の目を見る瞬間を目前にして過労で亡くなったというストーリーが胸を打った。
作品から溢れるように伝わってくる、作家の繊細な感性や自らの愛するものへの情熱。
そして、それらが結実したかのように飾られる最後の絵画作品を見たときに目頭の奥が熱くなるのを感じた。


思索の深さが生む白い光が好き
日々、色々なことを考えている。
仕事のこと人間関係のこと、私という人間の生き方、クリエイティビティのことや
人文と芸術、社会のことまで、
寝るとき以外に頭が休まっている時間はないかもしれない。
もちろん考えるのは疲れることでもあるけれど、それ以上に私はその力を信じている。
「考えること」を極めた先に、何かが生まれることを信じている。
今日こちらで紹介した3つの作品/展示は、
私自身のそんな信念を支えてくれるような輝きを持つものたちだ。

村上春樹氏の『スプートニクの恋人』は、作家の頭の中にある膨大な思索の宇宙と、
その色とりどりの糸の織り物が生み出す、きわめて透明に近い輝きを見せてくれる。
谷川俊太郎氏の『谷川俊太郎詩選集1』は、そのみずみずしい感性の輝きと、
幾重にも考え抜かれて選び抜かれた言葉の重なりが生む美しさを見せてくれる。
「チュルリョーニス展 -内なる星図-」では、
民族愛と芸術へのひたむきな献身によって生まれた作家の、いっそかなしさを感じさせるほどのやさしく繊細で、
けれどまっすぐな光を持つ作品群を見ることができる。
いずれも、感じ/考え抜かれたものだけが持つ、
彩りが重なった部分ゆえに純粋で真っ白な光を放つような雰囲気を持つものたちだ。
さながら、光の三原色をすべて混ぜると白い光に変わるように。
こういった作品を見ると、私は「考えること」そしてそれが生み出す光の可能性を信じていようと思うことができる。
考えること、「考えずにはいられないこと」に苦しさを感じる日があったとしても、
それがいつか純粋な美しい光を生み出すと信じて。

…といった感じで、noteではアート/文化/言葉/生活/たまに仕事などの様々なトピックを、
「アートと人文と暮らしの交差点」をテーマに
自由気ままに書いていこうと思っている。
過去記事はこんな感じ↓↓
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それでは、今日が良き日となりますように。
春は。/Haru - wa.

<参考文献>
村上春樹, 2021『スプートニクの恋人』講談社
講談社HP, 村上春樹『スプートニクの恋人』作品紹介ページ
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000202189
谷川俊太郎, 2005『谷川俊太郎詩選集1』集英社
集英社HP, 谷川俊太郎, 2005『谷川俊太郎詩選集1』作品紹介ページ
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents_amp.html?isbn=978-4-08-747831-0&mode=1
国立西洋美術館「チュルリョーニス展 -内なる星図-」
国立西洋美術館 「チュルリョーニス展 -内なる星図-」公式HP
https://2026ciurlionis.nmwa.go.jp/