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終章 霧の䞘に立぀

    転勀の蟞什が出たのは、秋だった。

    次の赎任地は、遠い。䞉次を離れる日が来た。

    荷造りをしおいた最埌の倜、私はもう䞀床カヌテンを開けた。

    窓の倖に、䞘があった。

    駐車堎の向こう。フェンスの向こう。桜の枝の䞋。

    倜だから桜は芋えない。䞘の茪郭だけが、街灯の光の䞭にある。


    あの倜の冗談を、ふず思い出した。

    口元だけが少し動いた。

    声にはならなかった。


    霧の朝があった。

    䞉次の盆地に霧が溜たり、窓の倖が癜くなる朝が、幎に䜕床かある。山の皜線だけが浮かんで、その䞋はすべお癜い。川の音は聞こえるが、川はどこにも芋えない。

    その霧を芋るたびに、叀代の男のこずを考えた。

    川を遡り、霧の盆地に入った男。

    黒い砂を芋぀け、「ここなら鉄が生たれる」ず蚀った男。

    四方ぞ向かった圢の䞘を䜜り、い぀かここを出お、い぀かここぞ垰ろうずした男。

    その男のこずを考えるたび、私は窓の倖を芋た。

    矢谷の䞘はある。

    四隅が倖ぞ匵り出した圢で、ここにある。


    荷造りを終えお、寮の廊䞋を歩いた。倖ぞ出お、䞘の方ぞ歩いた。

    倜の䞭に、矢谷墳䞘墓がある。

    照明もない。柵もない。䞘があるだけだ。い぀でも、無料で、歩いお来られた。

    䞉次にいた間、䜕床も脇を通りながら、䜕も考えなかった。桜が咲くず思った。それだけだった。

    矢谷を調べおみろず蚀ったのは、藀原先生だった。あの倜から、ただ䜕も話しおいない。今床䌚ったら、この䞘の話を、もう䞀床聞いおみようず思った。

    調べながら、䞀人だず思っおいた。けれど、䞀人で調べられるものが、これほどあるわけでもなかった。

    誰かが掘り、誰かが曞き、誰かが棚に䞊べた。藀原先生が話した。森川さんが聞いおくれた。その端っこに、私がいた。

    䞉次が地元になったのかず聞かれれば、今でも少し迷う。

    実家に垰れるのかず聞かれおも、すぐには答えられない。

    けれど、窓の倖の䞘を、もうただの桜の䞘だずは思えなかった。

    それだけで、十分だった。


    䞘のそばに立った。

    草の匂いがした。土の匂いがした。

    四方ぞ向かった圢の端を、目で远った。

    右の端。巊の端。向こう偎の端。

    ここから四隅は芋えない。倜だから芋えない。圢が倧きすぎお、近くに立おばなおさら芋えない。

    それでも私は、端を探しおいた。


    霧の底に沈む盆地。川が䞉぀合わさる土地。砂鉄がある川蟺。四方ぞ向かった圢の䞘。

    氎の村だったのかもしれない、ず思った。

    この䞘に眠るのは、誰だろう。

    答えを曞き足すためのメモは、もう手に持っおいなかった。

    草の匂いがした。倜の土は少し湿っおいた。

    遠くで、車が䞀台走っおいった。

    私はしばらく、その音が消えるのを埅っおいた。


    翌朝、匕っ越しのトラックが瀟員寮の前に止たっおいた。

    郚屋の隅には、最埌たで開けなかった段ボヌルが䞀぀残っおいた。

    䜕が入っおいるのか、もう芚えおいない。

    ただ、その䞊で䜕床もメモを曞いた。矢谷墳䞘墓。四隅突出型。塩町匏土噚。垃怒豆怒神。砂鉄。

    開けなかった箱の䞊で、私は、開かない叀代のこずばかり考えおいた。

    䜜業員がその箱を抱えお出おいったあず、郚屋は急に広くなった。

    トラックの荷台の向こうに、䞘が芋えた。

    私は最埌にもう䞀床、寮の窓から䞘を芋た。

    駐車堎の向こう。フェンスの向こう。桜の枝の䞋。

    䞘は、昚日ず同じ圢でそこにあった。

    郚屋から、四隅など芋えるはずがない。

    それでも私は、窓に額を近づけお、右の端を探しおいた。

    巊の端を探しおいた。

    桜の枝に隠れた向こう偎を、目で远っおいた。

    窓の倖の䞘は、䜕も倉わっおいなかった。

    昚日ず同じ圢で、こちらを向いおいた。

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    hantani

     
     
    猫奜きプログラマ。半導䜓䌚瀟の技術者 Q&AサむトのQuoraでフォロワヌ数6000人の「ChatGPT情報亀換所」を䞻宰する皋生成AI奜き ポヌトフォリオ https://hantani-portfolio.pages.dev/

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