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第十章 五぀の村

    川を䞋った。

    䞉次を出たのは、倏の終わりだった。

    男の䞀行は䞉十人になっおいた。出発した頃より倚い。䞉次の若者が十数人、䞀族に加わっおいた。それぞれに鉄の技を芚え、道具を䜿い、川の読み方を知っおいた。

    川は北ぞ向かっおいた。

    霧の盆地から、谷を瞫い、山を越えるず、川は向きを倉え、日本海ぞ向かった。その先に、出雲がある。

    䞀床、目指しお、入れなかった土地だった。


    海が芋えた時、男は止たった。

    灰色の海だった。波が䜎く、颚が匱かった。

    「あの岬の向こうに、枯の集萜がある。長が集たっおいたす」

    先導しおいた者が蚀った。

    出雲の五぀の村は、岞ず山ず平野ず川ず、それぞれの堎所に根を匵っおいた。海の村、川の枡しの村、皲の平野の村、朚の山の村、剣ず銅鐞の祭祀の村。それぞれの村に長がいた。そしおその五぀の村の䞊に、䞀人の王がいた。足名怎呜。老王。環濠の奥の高床の通に座る出雲の䞻。だが今日ここに集たっおいるのは、その村々の長たちだった。

    知波倜比叀が男の暪に来た。

    「岬の先、高芋の台がありたす」

    男は目を现めた。岩の突端に、朚で組たれた芋匵り台が芋えた。その䞊に、人が立っおいた。

    赀土色の衣だった。

    幎老いた背が、遠くからでも真盎ぐに芋えた。腰に、䜕か重いものを぀けおいた。鈍く光る、長いもの。

    「足名怎呜か」

    「分からない。ただ」

    知波倜比叀は少しの間、芋匵り台の人圱を芋た。

    「あの人は、我々を埅っおいた」


    知波倜比叀が枯の地圢を確かめおいる間、男は海を芋た。

    「堀が䞀本ありたす。朚柵が二重。氎門は枯の東偎、䞀぀だけ。入江は浅く、舟は䜿えない。ただし干朮になれば歩いお枡れる」

    「南は」

    「薄い。草が長い。人の手が入っおいない」

    男は頷いた。

    「たず䌚う」


    海の長は、男の䞀行を拒たなかった。

    長幎の亀易で、倖から来る者には慣れおいた。日に灌けた老人だった。指が倪く、声が䜎い。鉄を持぀技術者を、門前で远い返す理由はなかった。

    だが、迎えるこずず、認めるこずは、別だった。

    「海を持たぬ者が、䜕を運ぶ」

    海の長は、そう蚀っお男を芋た。

    「舟の行く先は、海を知る者が決める。お前の鉄は重い。重い荷は、舟を沈める」

    男は答えた。

    「舟が届かぬ堎所ぞ、荷を運ぶ道を䜜る」

    海の長の指が、止たった。

    「山の奥に、黒い砂の出る土地がある。霧の盆地だ。そこから鉄が出る。舟では行けぬ。だが、道なら行ける。鉄を運ぶ道は、塩を運ぶ道にもなる。あなたの海が届かぬ奥たで、荷が届く」

    老人は長いあいだ黙った。

    それから、薄く笑った。

    「面癜いこずを蚀う男だ」

    認めたわけではなかった。だが、远い返しもしなかった。利になるかもしれぬ、ずいう目をした。


    その倜、海の長の傍らに、䞀人の高官がいた。海の向こうを知る者らしく、纏う垃が違った。目が違った。

    男は、玻璃の巫女を呌んだ。海を枡っおきた䞀族ずずもに、青い玉を守り続けおきた女である。

    巫女は懐から玉を取り出し、炎に透かした。

    蒌い光が、宀内に広がった。

    高官の目が、止たった。

    「あなたは」

    高官は蚀いかけお、止たった。

    海の長が「知っおいるのか」ず問うた。高官は答えなかった。

    ただ、膝を぀いた。

    なぜ高官が膝を぀いたのか、男には説明できなかった。ただ、この青が、どこかの誰かには意味を持぀こずだけは分かった。

    郚屋の隅に、癜い衣の女がいた。

    高官が膝を぀くのを、その女は芋おいた。男が目を向けた時、女もこちらを芋おいた。芖線が合った。

    それだけだった。

    男が次に目を向けた時、女はもうその堎にいなかった。


    青い玉の話は、岬を越えお広がった。鉄を持぀男の話も、広がった。

    数日のうちに、四人の長が枯ぞ来た。

    歓迎ではなかった。

    倖から来た者が、海の長に取り入った。それを確かめに来たのだった。

    男は、環濠の奥ぞ通された。

    柵が䞉重にあった。入るたびに、倖の音が遠くなった。

    高床の通が芋えた。柱が倪く、高かった。梁に煀が染みおいた。䞭倮の炉から、现い煙が䞊がっおいた。壁に、青銅の腕茪が二぀、掛けられおいた。

    五぀の村の長たちは、ひずりの老人の前に䞊んでいた。

    足名怎呜。

    出雲の王だった。

    赀土色の衣。岬の䞊で男たちを芋䞋ろしおいた背だった。腰に青銅の剣。その刃は神ぞ向けおではなく、腰に䜩かれおいた。

    老王の暪に、皲田姫がいた。

    村々の声を、音のない川のように聞いおいた。

    男が前に立぀前に、長たちは短く蚀葉を亀わした。

    「その男は、王なのか。名を倱った流れ者ではないのか」

    川の長が蚀った。

    海の長が答えた。「海の道を乱す者なら敵だ。だが、海の道に鉄を乗せる者なら、話は別だ」

    剣ず鐞の長が蚀った。「鉄は、田を開く。だが、同じ刃で人も裂く。青銅は神に捧げるものだ。鉄は、人が握るものだ」

    皲田の長は、䜕も蚀わなかった。今幎も川に流された田を、顔の䞭に持っおいた。

    山の長が蚀った。「たず聞く。それからでも遅くない」

    川の長は䜕も答えなかった。


    最初に口を開いたのは、川の長だった。

    枡しず氎運を握る男。痩せお、目が鋭い。

    「お前は、川を鉄で瞛るそうだな」

    「瞛らぬ。分ける」

    「分ける」。川の長は錻で笑った。

    「川は道ではない。機嫌だ。鉄で堀を積んでも、川がその気になれば、䞀晩で攫う。お前は、川を芋たこずがない」

    男は答えられなかった。

    䞉次で、䞀床、堀を流されおいた。

    川の長は、それ以䞊、話さなかった。話す䟡倀もない、ずいう顔だった。


    次に、皲田の長が男を芋た。

    肥えた手をした、静かな男だった。背埌に、田を背負っおいた。

    「お前は、䜕人を連れおいる」

    「䞉十人」

    「その䞉十人を、䜕日食わせられる」

    男は答えられなかった。

    鉄はあった。道具はあった。だが、明日の米が䜕升あるかを、男はすぐに蚀えなかった。

    「腹の枛った民は、王の名を呌ばぬ」

    皲田の長は、そう蚀っお目を䌏せた。

    「剣は、皲を刈れぬ。お前は、たず人を食わせおから来い」

    その田が、毎幎、川に流されおいるこずを、男はただ知らなかった。


    山の長は、谷の奥から来た。

    陜の差さぬ土地の者らしく、肌が癜く、声が䜎かった。男の胞の黒い鉄を芋お、顔を歪めた。

    「山を食い぀ぶす、鉄の男か」

    「炉は、森を食う。それは知っおいる」

    「知っおいお、燃やすのだろう」

    「燃やした」

    男は認めた。

    「䞉次で、山を裞にした。雚が来お、炉が氎をかぶった。その時、土地の者に誓わされた。切った分は怍える。淵は埋めない。鉄は、急がない」

    山の長の目が、わずかに動いた。

    「  誓わされた、ず蚀うのか」

    「土地に負けた、ず蚀うほうが、近い」

    山の長は、しばらく男を芋おいた。

    「朚は、火にするためだけに、立っおいるのではない」

    「知っおいる」

    それは、拒絶ではなかった。山の長は、それ以䞊、男を責めなかった。胞の鉄の音を、もう䞀床だけ聞こうずするように、黙っおいた。


    最埌に、剣ず鐞の長が立った。

    五人のうち、最も叀い長だった。

    その背埌の岩肌に、青銅の剣が䞊んでいた。灰色の空の䞋でも、磚かれた刃は鈍く光った。どれも切先を䞊ぞ、神ぞ向けお立おられおいた。傍らには、銅鐞が䌏せお眮かれおいた。

    長は、男の胞を芋た。

    革に瞫い付けられた、黒い鉄片。光らなかった。青銅のように、神ぞ向けお茝かない。ただ重く、黒く、火を吞い蟌んだように沈んでいた。

    男が䞀歩動くず、革の䞋で鉄が䜎く鳎った。

    その音を、剣ず鐞の長は、聞いたこずがなかった。

    「それが、お前の力か」

    「鉄だ」

    「光らぬな」

    「光らぬ」

    剣ず鐞の長は、青銅の剣を䞀本、手に取った。神ぞ捧げた刃だった。

    「神は光る。だから民は、その前で膝を぀く。お前の鉄は、光らぬ。地を這う」

    「地を這っお、田を耕す」

    男は蚀った。

    「神ぞ捧げた剣は、田を耕したこずがあるか」

    剣ず鐞の長の手が、刃の䞊で止たった。

    ほんの䞀瞬だった。それから、長は刃を岩肌ぞ戻した。

    「耕す者は、いる。神になる者は、別だ」

    長は、それきり男を芋なかった。

    男は、しばらく答えなかった。

    それから、䞀床だけ蚀った。

    「田も山も、同じ氎を飲んでいる」

    座の䞭に、静かな間があった。

    老王が、長たちを䞀床芋た。それだけだった。


    通を出るず、知波倜比叀が男の暪に来た。

    「氎門は東に䞀぀だけです。干朮になれば、もう䞀か所歩ける。堀の深さは膝から腰の間。南の柵は、叀い」

    「聞いおいたのか」

    「芋おいたした」

    知波倜比叀は、長たちの蚀葉ではなく、通の柱の組み方ず堀の氎の色を芋おいた。


    その倜、男は䞀人で海を芋た。

    五぀の長のうち、動いたのは二人だけだった。

    海の長は、利を芋た。山の長は、土地ぞの誓いを聞いた。

    だが、川の長は、男を信じなかった。皲田の長は、男が民を食わせられるかを問うた。剣ず鐞の長は、男が神を持たぬず蚀った。

    鉄はある。道具はある。氎を読む技も、少しはある。

    だが、川を鎮める力は、ただない。民の腹を満たす蓄えも、ただない。神も、ただない。

    足名怎呜の顔を、今日、初めお芋た。

    村々の声を聞き、老王は䜕も蚀わなかった。

    川の氎音が、遠くから聞こえた。䞉次で聞いた音ず、同じだった。

    耳の奥で、ただ、長の声が消えなかった。

    鉄は光らぬ。民は、光るものの前で膝を぀く。

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    猫奜きプログラマ。半導䜓䌚瀟の技術者 Q&AサむトのQuoraでフォロワヌ数6000人の「ChatGPT情報亀換所」を䞻宰する皋生成AI奜き ポヌトフォリオ https://hantani-portfolio.pages.dev/

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