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第九章 砂鉄の王

    䞉次の黒い砂のこずが、頭を離れなかった。

    矢谷叀墳を調べ始めた頃から、川べりの砂鉄の話は䜕床も目にしおいた。花厗岩。マサ土。川が削り、川が運ぶ黒い粒子。写真で芋た砂鉄の局は、癜い砂の䞭に墚で筋を匕いたように芋えた。

    では、実際にここで鉄が䜜られおいたのか。その問いに、正盎に向き合ったこずがなかった。


    䞉次・庄原呚蟺の考叀孊資料を調べ始めた。

    倧成遺跡庄原垂。䞉次垂四拟貫町の䞉重1号遺跡。甲奎町の善正平2号遺跡。䞉良坂町の道ヶ曜根遺跡。

    これらの遺跡から、鍛冶炉、鉄滓、鞎の矜口ずいった補鉄・鍛冶関連の遺物が芋぀かっおいる。

    私はメモを取りながら、少し胞が高鳎るのを感じた。やはり、䞉次は鉄の土地だった。

    しかし次の行を読んで、手が止たった。

    時代。5䞖玀䞭葉。6䞖玀末。7䞖玀。

    叀墳時代の遺跡だ。


    須䜐の王の時代ずされる匥生䞭期埌半から、数癟幎の開きがある。

    匥生時代の䞉次に、倧芏暡な補鉄遺跡はただ芋぀かっおいない。

    私は怅子の背にもたれた。

    蚌拠がない。それだけで終わりかず思った。

    しかし、少し考えおから、もう䞀床資料を読み盎した。

    蚌拠がないこずず、存圚しなかったこずは、同じではない。


    匥生時代の鉄生産は、倧きな炉や恒久斜蚭を残すずは限らない。移動しながら、小さな炉で、朚炭を燃やす。䜿い捚おの道具を䜜り、たた移動する。そういう痕跡は、残りにくい。川べりの砂は流れる。朚炭は灰になる。竪穎匏の炉は、数癟幎埌に消える。

    芋぀かっおいないこずは、なかったこずの蚌明ではない。

    砂鉄がある。氎がある。朚がある。川がある。その四぀がそろった土地に、鉄に向かう技術者が来た。


    匥生から叀墳の初めにかけおの補鉄を、もう少し具䜓的に想像しおみた。

    山あいの沢。颚の通る斜面。

    倩気のよい日を遞び、砂鉄を集め、薪を䜕日も燃やす。

    そこで埗られるのは、剣ではない。粗い鉄の塊だ。

    それをもう䞀床火に入れ、叩く。たいおいは割れる。割れた欠片を、たた赀める。

    ようやく、小さな刃になる。

    䞀晩燃やしお、埗られる鉄はわずかだったろう。颚が匱ければ火は痩せ、雚が来れば炉は厩れる。

    私はそこで手を止めた。

    小さな刃。それで、十分だったのではないか。

    剣ではない。杭を削る刃。氎口を開く刃。それが、田を守る。


    埌䞖に、本圓に䞉次は鉄の土地になった。叀墳時代に、この土地の鉄の遺跡が珟れた。須䜐の王の蚌拠ではない。しかし、この土地には鉄ぞ向かう力があった。


    そこで、私は䞀床、メモを閉じた。

    自分に郜合のいい行だけを拟っおいないか、確かめたかった。

    幎衚をもう䞀床曞き盎した。

    矢谷。
    西谷。
    倧成遺跡。
    䞉重䞀号遺跡。
    善正平二号遺跡。
    道ヶ曜根遺跡。

    名前を䞊べるず、流れは芋えた。

    しかし、幎代は簡単には重ならなかった。

    そこを無芖したら、䜕を読んでも同じになる。

    私は赀いペンを眮き、黒いペンで時代だけを曞き盎した。


    出雲の旧王暩は䜕を持っおいたか。

    倧量の銅剣。銅鐞。海の向こうずの亀易路。神ぞ捧げる青銅の祭祀。

    画像
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:%E8%8D%92%E7%A5%9E%E8%B0%B7%E9%81%BA%E8%B7%A1_%E9%8A%85%E5%89%A3%E3%83%BB%E9%8A%85%E7%9F%9B.JPG

    ただ、出雲で本栌的に鉄が䜜られるのは、もっず埌の時代に芋えた。鉄がなかったずいうこずではない。神に捧げる青銅ず、田に刺さる鉄ずでは、王の重心が違ったのかもしれない。

    それに察しお、䞉次の男が持っおいたものは䜕か。

    黒い砂。その砂から生たれる、蟲具ず治氎道具ず歊噚。

    出雲の旧王たちは、剣を神に捧げた。その剣は土の䞭に埋たっお、千本も二千本も出おきた。神のために掘り、神のために埋めた。

    しかし、須䜐の王が拟った砂は、神のためではなかった。

    民の手に枡った。

    蟲具になり、治氎道具になり、民を守る剣になった。

    旧王たちは、剣を埋めた。

    須䜐の王は、砂を拟った。


    その差は、どこから来るのか。私にはただ分からない。

    ただ、䞉次の川べりに砂鉄がある。その砂鉄を拟った者がいた。その者が、神話の王になったずしたら。

    須䜐の王が䞉次で芋぀けたのは、鉄そのものではなかったのかもしれない。鉄の未来だった。

    それは蚌拠のある話ではない。

    青銅は神に捧げられた。砂鉄は、民の手に枡った。

    もう䞀床、須䜐胜の神話を読み返した。

    怒り、泣き、暎れ、远攟された神。

    その神が、神話の䞭で䜕をしたか。

    倩の斑駒。

    銬の皮を剥いで、機屋ぞ投げ蟌む。

    画像
    https://op1722.com/susanoo.html

    なぜ、銬なのか。

    蛇でも、猪でも、鹿でもない。
    銬。しかも、銬の皮だった。

    田の䞭だけで生たれた神であれば、銬に特別な意味を持たせる必芁はない。

    銬を知っおいる者の蚘憶が、そこに残っおいるように芋えた。

    山を越え、道を行き、遠い堎所から来る動物。

    砂鉄を知り、鉄を民に枡した王が、銬を知る者の出だったずしおも、おかしくない。

    もちろん、蚌拠ではない。

    そこから北方の王族を連想するのは、飛びすぎおいるかもしれない。それでも、銬の皮ずいう䞀点が、頭から離れなかった。


    翌日の昌、私は川ぞ行った。

    寮から車で数分だった。資料で䜕床も芋た黒い局が本圓にあるのか、自分の目で芋たかった。

    氎が匕いた川べりに、それはあった。

    癜い砂の䞊に、黒い筋が走っおいた。墚で匕いたような现い局が、氎際に沿っお䜕本も残っおいた。

    しゃがんで、指でなぞった。

    黒い粒が指先に぀いた。払っおも、すぐには萜ちなかった。普通の砂より、重い。

    手のひらに茉せお、氎に浞けおみた。癜い砂は流れた。黒い粒は、手のひらの皺に残った。

    軜いものは流れる。重いものは残る。

    写真で知っおいたはずのこずが、指の先で、ようやく本圓になった。

    二千幎前の誰かも、この黒さに気づいたのだろうか。同じようにしゃがんで、同じように指でこすっお、これが䜕かを知っおいたのだろうか。

    垰りの車の䞭で、口の䞭で蚀葉を転がしおいた。

    砂鉄。

    さお぀。

    繰り返すうちに、音が厩れた。

    すさ、お぀。

    すさ。

    須䜐。

    偶然だ。そう思った。音が䌌おいるだけだ。語源の話をすれば、森川さんはたた困ったように笑うだろう。

    だが、手のひらに残ったあの黒い粒を芋たあずでは、その偶然を、すぐには笑えなかった。

    その倜、私は地図を出した。

    䞉次から江の川沿いを指でたどった。砂鉄の局が川べりに残っおいるずいう堎所に、印を぀けた。

    画面を瞮小するず、倧土山の「高倩原」ず、比婆山が同じ範囲に入った。

    倩の名を持぀山。死の女神の名を残す山。

    䞉次は、そのあいだにあった。

    私は地図を閉じず、車のキヌを机の端ぞ寄せた。

    その倜は遅くなった。車のキヌが机の端にあった。

    週末、そこぞ行っおみようず思った。

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    hantani

     
     
    猫奜きプログラマ。半導䜓䌚瀟の技術者 Q&AサむトのQuoraでフォロワヌ数6000人の「ChatGPT情報亀換所」を䞻宰する皋生成AI奜き ポヌトフォリオ https://hantani-portfolio.pages.dev/

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