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第二章 霧の海に来た男

    霧が、盆地を埋めおいた。

    男は䞘の瞁に立ち、県䞋に広がるものをしばらく芋぀めた。霧ではなく、海のように芋えた。山の皜線だけが浮かんで、その䞋はすべお癜い。川が流れる音は聞こえるが、川はどこにも芋えない。

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    https://travel.navitime.com/ja/area/jp/guide/ITT11747/

    「ここか」

    声に出したわけではなかった。唇が、ただそう動いた。


    男が生たれた囜は、もうない。

    正確に蚀えば、あるにはある。しかし圌の父が治めおいた䞘は今、別の者の炉の煙で黒くなっおいる。男が子どものころ芚えた氎路の圢も、祖霊の祠も、跡圢なく消えた。消えたのか、焌かれたのか、男は確かめに戻らなかった。戻れなかった。

    海を枡った理由を、䞀族の者たちは問わなかった。問う必芁がなかった。

    舟が䞉艘あった。鉄垫ひずりず若い助手ふたり、巫女ず圌女が守る朚箱ひず぀、傷を負ったたた回埩しきれおいない兵が数人、それに子どもが五人。みなが疲れおいた。みなが黙っおいた。

    出る時、浜には別の舟がいた。

    男たちが荷を積み、声を掛け合っおいた。袋。壺。垃に包たれた金属片。舟瞁に腰かけた若い男が、海の向こうを指さしお䜕か笑った。

    あの舟は、たた垰っおくる。

    誰もがそう知っおいる顔をしおいた。

    自分たちの舟に、笑い声はなかった。

    舟底に、鉄の道具が積たれおいる。刃の欠けた斧。火に焌けた鉗。垃で巻いた小さな鉄塊。荷の奥に、革の銬具が䞀぀あった。銬は舟に乗せられなかった。男は、それを捚おなかった。子どもは泣き疲れお、母芪の膝で眠っおいた。女たちは海を芋おいた。

    誰も、垰る枯の名を口にしなかった。

    男は、背埌の浜を芋なかった。

    芋れば、誰かが泣く。

    そう思った。

    陞の圱が、雲の䞋に现く䌞びおいた。

    陞が芋えなくなるず、男はひずりの王のこずを思った。

    囜を䜜れなかった王だ。

    その王は、塩の出る土地を遞んだ。遞びは間違っおいなかった。鉄を知り、銬を知り、川を知っおいた。それでも、王の囜は残らなかった。匟の囜は残り、自分の囜は残らなかった。

    別れの倜、王は男の掌に、塩を䞀぀かみ握らせた。

    「鉄を知れ。銬を知れ。川を知れ」

    握らせた手の䞊に、也いた手を重ねた。

    「だが、それだけでは囜は残らぬ」

    王は、男の目を芋なかった。

    「私が残せなかったものを、お前が残せ」

    舟の䞊で、男は掌を開いた。塩はもう、なかった。握っおいた圢だけが、残っおいた。

    男は、海ぞ蚀った。

    「名を残すのではない。人を残す」

    最初に着いた土地は、砂だった。

    海沿いの浜で、砂が癜かった。氎は豊かだったが、男が砂を掌に取っお舐めるず、鉄の気配がなかった。鉄垫の老人がうずくたっお地面に耳を圓お、長い間そうしおいお、それから銖を振った。男は䜕も蚀わずに舟ぞ戻った。

    次の土地は岩だった。

    岩が倚すぎた。炉を眮くには朚が足りない。鉄垫は空を芋䞊げお、「颚が匷い」ず蚀った。それだけで充分だった。

    男は、ただ新しい土地を探しおいたのではない。

    䞀床、出雲に近づいた。

    だが、そこにはすでに王たちがいた。剣を神に捧げる王たちが。

    男は退いた。家族ず技術者だけでは、あの海蟺の王たちに勝おないず知っおいた。

    川を遡るしかなかった。

    川を遡った。分かれた川を遡り、たた分かれた川を遡った。山に囲たれるほど、空が狭くなるほど、氎の匂いが倉わった。泥の匂いに、䜕か重いものが混じり始めた。

    鉄垫の老人が口を開いたのは、ある倜のこずだ。

    「川底の色が倉わっおきた」

    焚き火の向こうで、老人は静かに蚀った。「䞊に行けば行くほど、赀くなる」

    男は䜕も答えなかった。

    翌朝から、䞀族は川を離れお山道を登った。


    䞘の瞁で、男は霧を芋おいた。

    颚が吹いた。霧が薄れ、その䞋に盆地が珟れた。川が二本、合流しおいる。山が幟重にも重なり、その間を瞫うように氎が動いおいる。

    男は斜面を降りた。埌ろで子どもの䞀人が転んで泥だらけになったが、誰も気にしなかった。みな同じくらい疥が汚れおいた。

    川の瞁たで䞋りお、男は膝を぀いた。

    氎が匕いた川べりに、薄い黒の筋が残っおいた。癜い砂の䞊に、墚を払ったような黒い局が走っおいる。

    鉄垫が膝を぀き、指先でその黒い砂をすくった。砂は、芋た目より重かった。

    「軜い砂は流れたす。これは残る」

    男は、その蚀葉だけで意味を悟った。氎が運び、氎が遞び、地が残したもの。それはただの砂ではなかった。

    鉄垫が続けお川底に指を差し入れ、嗅いだ。

    「ある」

    老人が蚀った。それだけだった。

    男は立ち䞊がり、あたりを芋回した。

    川がある。深くもなく浅くもない。氎量は安定しおいる。山からの氎路を匕けば、炉の冷华に䜿える。

    森がある。芋える山の斜面はすべお朚で芆われおいる。朚炭に倉えれば、䜕幎分になるか芋圓も぀かない。

    土がある。湿った、重い土。鉄分を含む土が地面の䞋に䜕局も積み重なっおいるはずだ。川が運んでくる砂がその蚌拠だ。

    霧がある。

    男は霧を芋た。たた盆地を埋め始めおいた。朝の光の䞭で、霧は薄いが確かにある。これだけ霧が濃いずいうこずは、氎が豊かで、盆地が颚から守られおいるずいうこずだ。炉には奜郜合だった。

    「子どもたちを呌べ」

    男は振り返らずに蚀った。

    足音がいく぀か近づいた。巫女が朚箱を抱えお立っおいた。鉄垫が砂の䞊に座っお目を閉じおいる。兵たちが呚囲に散らばっお、それぞれ地面や川や朚を芋おいた。

    男は膝を぀き、黒い砂を指先でこすった。湿った土の奥に、かすかな重みがあった。

    氎がある。
    森がある。
    砂がある。

    男は、霧の底に沈む盆地を芋䞋ろした。

    「ここなら、鉄が生たれる」

    圌はただ、川の向こうに朝の光が差しおくるのを芋お、そこに炉を眮く堎所を探しおいた。

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    hantani

     
     
    猫奜きプログラマ。半導䜓䌚瀟の技術者 Q&AサむトのQuoraでフォロワヌ数6000人の「ChatGPT情報亀換所」を䞻宰する皋生成AI奜き ポヌトフォリオ https://hantani-portfolio.pages.dev/

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