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毒親からは物理でさようなら「マッスル白雪姫」🍎

原作:グリム兄弟『白雪姫』
翻訳参照:
菊池寛訳「白雪姫」

※本作では原作の設定を改変・翻案しています。

むかしむかし、あるお城に、白雪姫という女の子が住んでいました。

白雪姫の母親である女王は、毎朝、魔法の鏡に向かって問いかけました。

「鏡よ鏡、この国で美しいのは誰?」

鏡は答えました。

「体重がもっとも軽くスリムなのは女王さまです。
この国でいちばん、自分の体を健やかに育てているのは白雪姫です」

「健やかだということは私より美しいということなの?」

女王は自分が美しいかどうかを、鏡に尋ね、誰かと比べ、勝っていると教えられなければ自分では決められません。

けれど白雪姫は違いました。食べるべきときには食べ、眠るべきときには眠り、筋トレしたり走ったり、毎日よく体を動かしました。

重量は伸びなかったけれどフォームはよかった。
昨日できなかったことが、今日は少しできた。

その喜びを知っていました。
若く、健やかに育ち、自分の人生を自分で選ぼうとする白雪姫の姿は、女王にとってもう一つの鏡であり、白雪姫を見るたび、女王は、自分が生きることのできなかった人生を見せつけられているような気持ちになりました。

鏡に映る自分の姿より、娘の存在そのものを恐ろしく感じた、女王は猟師を呼び、命じてナイフで白雪姫を殺すよう命じました。

けれど白雪姫は、猟師がやって来るより先に、深い森の中へ逃げていました。

女王の手が物理的に届かない場所に、白雪姫は小さな家を建て、隣に小さなジムを作り一人で暮らしていました。

城を離れても、女王の声は頭の中に残っていました。

お前には価値がない。
私より幸せになるな。
目立ってはいけない。

女王がいない森の中でも、その声は白雪姫を追いかけてきました。

けれど白雪姫は、バーベルを担ぎました。

ベルトを限界まで締め上げ、ラックからバーベルを外します。

ずしりと乗る重圧。ゆっくり腰を落とし、自分の力で立ち上がりました。

頭の中に女王の声が響くことはありましたが、脳内のノイズを打ち消すのは、自分にのしかかる物理的な重みでした。

猟師は、家の窓を覗いて白雪姫の姿を見つけました。
白雪姫は鏡の前にいました。

スクワットで膝が内側へ入っていないか。しゃがみは十分に深いか。それでいて、バットウィンクは起きていないか。白雪姫は、自分のフォームを確かめていました。

猟師は、ナイフを抜くことができませんでした。

城へ戻った猟師は、女王に言いたいことはたくさんありましたが1つだけ尋ねました。

「ところで女王さまは、娘を殺すと幸せになるのですか?」

くだらない質問。女王には怒りが込み上げてきましたが答えられませんでした。

「やかましい!」

女王は猟師を追い出し、自ら老婆の姿に変わり、一つの赤い毒リンゴを持って森へ向かうと白雪姫の家を見つけました。

「あらあら。こんなみすぼらしい森で、一人きりで暮らしているなんて、かわいそうに」

戸を開けた白雪姫に老婆は毒リンゴを差し出しました。

「これを一口食べれば、もっと美しく痩せられますよ」

白雪姫は老婆の目をじっと見ると言いました。

「また、お母様なのですね」

女王の顔から笑みが消えました。

「私は、痩せたいとは思っていません。体重の軽さに、自分の価値を決めてもらうつもりもありません。干渉しないでくださいと前も言いました。もういいですか」

「お前は私の娘なのだよ。その命も、もとは私が与えたものではないか。娘が母親を置いて、自分だけ幸せになろうというのか」

白雪姫は、しばらく黙って母親を見つめました。
女王は手の中の毒リンゴを震わせながら叫びました。

「私はこんなに乾いた人生を耐えてきたのに!なぜお前は、私を置き去りにして咲こうとするの」

白雪姫は、リンゴを手に取るとメキメキと潰しました。
手搾りアップルジュースを指の間から滴らせながら、

「喉が渇いているのなら召し上がりますか?」

女王の顔から完全に血の気が引きました。
白雪姫は微笑みを浮かべたまま、圧倒的な握力で、目の前の毒リンゴを飲料へと変えていたのです。
もし、あの手の中にあるのが自分の首だったら——。
女王の背筋に、冷たいものが走りました。
白雪姫は手の中に残ったリンゴの残骸を、呆然と立ち尽くす老婆の手のひらにそっと返し、家のドアを閉めました。

女王は、

「ふん、いつまでも反抗期なのね」

と言い捨て、膝の震えを抑えながら城へ帰りました。

自分が森の家の前から追い返されただけでなく、白雪姫の人生のドアからも出ていかされたことには、まだ気づいていませんでした。

ある朝、白雪姫は夕食のための貴重なたんぱく質を調達しようと、弓矢を持って森の奥へ入りました。

木漏れ日の差す広場で、一人の若者と出会いました。
隣国の王子でした。
彼もまた自らの肉体を維持するための良質な栄養素を探し求めておりました。
お互いを一瞥すると同志だと理解しました。
衣服の上からでも隠せないアウトライン、ぶれのない骨盤の立ち方

「ー不躾ながら、あなたの鍛錬の旅についてお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」

王子が尋ねました。

白雪姫は少し考えてから、うなずきました。

二人は共に歩みを進め、孤独に鍛錬を積む時もあれば、ときどき同じ景色を見ました。

豪華なお城では、女王が今日も魔法の鏡に尋ねていました。

「鏡よ鏡、この国でいちばん美しいのは誰?」

(おわり)


前作のマッスル人魚姫が「自分で選んだ人生を全うする物語」なら、マッスル白雪姫は「変わらない相手を人生のドアから閉め出し、自分の人生を取り戻す物語」になりました。

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