メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

獅子の仔 Ⅰ 012 ハヌりッド Ⅲ


    ハヌりッド Ⅲ

     玅倢

    玅色に染たった空、血のように赀い月、荒涌ずした赀茶色の倧地のうえで、もう数週間も圷埚っおいた。
    枇きが激しく、腰の革袋の氎筒を探るが、䞭には葡萄酒の䞀滎すら残っおいない。
    暑さのためか、呚囲で陜炎が地面に圱を滲たせ、足元には力尜きた愛銬が干からびお死んでいた。
    私はもう数週間も远われおいた。足の軍長靎はすり枛り、䞊半身はくたびれた麻の肌着䞀枚になっおいた。歯を食いしばっお歩く。疲劎で鉛のように重たくなった足を無理やり匕き䞊げおは前に出し、匕き䞊げおは前に出した。この䜜業を延々ず続けおいた。

    予感はあった。垞に远われおいた。驚きはなく、぀いにこの日が来たかのような諊めがあった。気力を振り絞り、心を蝕むその諊めを振り払おうずする。だが、疲劎が、錆のように䜓の節々に鉛のように溜たっおくる。

    血で赀く濡れ、赀銅色をした、人型の金属の塊が぀いにはっきりず、芋るこずができる距離にたで迫っおきおいた。
    あれはずっず私を远いかけおきた。
    䜕日も、䜕週間もかけお、
    少しず぀、少しず぀、距離を詰めお来おいた。
    ずっず远われおいた。
    距離を詰めお来おいたのは知っおいた。

    だが、どんなに螏ん匵っおも、
    愛銬が぀ぶれるほど走らせおも、
    その距離は決しお開くこずはなく、
    少しず぀、少しず぀、距離を詰めおきた。

    だが、ただあれは、
    遠くに小さくみえるだけだった。
    必死で足をあげお歩いた。

    だが、あれは、
    少しず぀、少しず぀、距離を詰めおきた。
    やがお、あれは、
    息がかかる距離にたで詰めおきた。

    恐怖ず焊りで目が血走る。
    歯が折れんばかりに食いしばり、
    党おの力を出し尜くすようにしお、
    足を䞊げお前に眮いお、
    たた足を䞊げお前に眮いた。
    振り返るず、
    血で赀く濡れた人型の金属の塊がいた。
    角匵った叀い型の甲冑のような
    姿をしたあれが、すぐ背埌にいた。

    あれは遂に私を捉えた。
    私の肉䜓は、あれに抱きすくめられ、
    熟れた無花果いちじくの実のように、
    握り぀ぶされ、匟けた。

    2 誓玄の蚘憶

     䞀筋の光も差さない暗闇の䞭、凄たじい叫び声ずずもにハヌりッドは寝台から跳ね起きた。
     巚倧な獣の断末魔のような、歯ぎしりず痙攣が亀じり合ったような、凄たじい叫び声に分厚い壁が震え、卓䞊の真鍮の氎差しは暪倒しに転がり、氎は床を濡らしおいた。
     右手は無意識に、傍に眮いおいた片刃短剣ダヌクを持っおいた。巊手はあるはずのない斧槍ハルバヌドの柄を虚空で探り、空を掎んでいる。党身は冷や汗でずぶ濡れになり、心臓が肋骚を突き砎るかのように早鐘を打っおいた。
     激しく荒い息を吐き、溺れた魚のように口を開閉させ、暗闇の䞭で焊点の合わない目を瞬しばたかかせた。
     血の臭いはしない。
     泥もない。
     銬の悲鳎も聞こえない。
     燃えた皮革の臭いもなかった。

      ここは戊堎ではない
     ここは、キャスタリヌロックの䞊局階の最奥の石宀のような郚屋だ。窓は䞀぀もなく、扉は鉄を匵った分厚い暫の朚の扉だった。内偎から鉄の閂かんぬきを閉める仕様になっおいる。 

     ハヌりッドは、震える䞡手を口に抌し圓お、吞う息を無理やり抑えお、深く、長い息をゆっくりず、吐き出した。
     激しく扉を叩く音がする。野倪い声が聞こえる。

    「ハヌりッド様どうされたした」
     ハヌりッドの埓士を務めるグヌドン兵士長の声だ。

    「  グヌドン、倧䞈倫だ」
     応じた声は掠れお疲劎を滲たせおいた。

    「  開けおください。氎か葡萄酒をお持ちしたす」
     扉のすぐ向こうでグヌドンの息遣いが聞こえる。心配をかけおしたったようだ。

    「いや、倧䞈倫だ。すたないが、萜ち着くたで、もう少し䞀人にさせおくれ」

    「  わかりたした。隣郚屋で控えおおりたすので、い぀でもお呌びください」

    「 すたない」
     グヌドンの気配が扉の向こうで静たるのを感じながら、ハヌりッドは息を錻から深く吞っお、口から深く吐いた。䜕床か繰り返しお、呌吞を敎えるず、再び深い闇の䞭に沈み蟌んだ。

      久しぶりだな。あの倢を芋るのは

     原因は分かっおいた。か぀お「嵐の地」ストヌムランズの激戊の際に魂に刻み蟌たれたひび割れだ。
     聖堂で叞祭セプトンに䜕床も懺悔をした。䞃神に祈りを䜕床捧げたか分からない。
     だが、倜の底から這い䞊がっおくる、あの「血塗られた金属の塊」を远い払うこずはできなかった。

     救いずなったのは神ぞの祈りではなく、孊匠メむスタヌが調合した苊い薬だった。薬を煜っお思考を麻痺させ、匷制的に泥のような深い眠りに萜ちるこずでしか、玅色の悪倢から逃れるすべはなかった。
     時が経ち、今では薬に頌るこずは無くなったが、呌吞ず眠りに関する鍛錬は孊匠メむスタヌなどの助蚀を埗お、欠かさず実践しおきた。野営での神経を匵った浅い眠り、遮断された環境での深い眠りなど、意識しお眠りを調敎できるように鍛錬しおきた。
     ハヌりッドは暗闇の䞭でゆっくりず呌吞を敎えた。分厚い暫の扉には重い閂かんぬきを厳重に䞋ろしおいる。物音䞀぀、月の光䞀筋すら入り蟌たないこの絶察の暗闇ず静寂に包たれた寝宀も、朝たで死んだように眠り抜くためだけに蚭し぀らえたものだ。
     ハヌりッドは暗闇の䞭で、自身の倪い指が枕元の片刃の長短剣ダヌクの鞘をなぞっおいるのに気づいた。


    「呜什を倉曎したす」
     先日の䌚議のこずが脳裏に甊る。公劃はハヌりッドに察しお、隊の線制方針の倉曎を呜じた。
     十幎埌に䞀人前になれば良いず考えお、若い雛のような階士や兵士を、基瀎䜓力から鍛えおきた最䞭だ。 
     だが、遠くない将来に、圌らを率いお、スタックスピアの蟺境で異囜の傭兵たちず戊うこずになった。

     早ければ数か月埌。間に合わない  
     ハヌりッドは汗にたみれた頭髪に指を突っ蟌んで頭を抱えた。

     暙的は西郚の秩序を螏みにじる異囜の傭兵どもだ。
     勝぀こず自䜓は難しくない。
     だが、こちらも䜕人かは死ぬ。

     静寂に包たれた暗闇の䞭で、公劃ぞの誓玄を反芻した。

     公劃は、䌚議の埌、展望宀に残るように、ハヌりッドに呜じた。
     満倩の星空に囲たれた薄暗い展望宀に、二人だけで察面した。

    「  「金座掟」の商人どもを根絶やしにするのは、埗策ではありたせん」
    「  だからこそ、あの異囜の兵たちには、その報いを背負っおもらわねばなりたせん」
     公劃はハヌりッドを諭すような声で蚀った。

    「  ラニスタヌは借りを返す」
    公劃はラニスタヌ家の譊句を呟いた。柔匱なタむトス公の時代になり、この蚀葉が人々の口から蚀われなくなっお久しい。

    「私もラニスタヌ家の䞀員である以䞊、
    借りは返さねばなりたせん」
     ゞェむンの声は鋌鉄の響きが消え、酷く疲れた声になっおいた。

    「ラニスタヌの城皎官を殺し、我が旗䞻の領土を蹂躙した鋌鉄の代償を、敵味方関係なく、西郚りェスタ―ランズのすべおの者に瀺さねばなりたせん」

     ゞェむンは䞍意に芖線を䞊げ、ハヌりッドを真っ盎ぐ芋぀めた。その茶色の瞳は、公劃ずしお呜什を䞋す目ではなかった。二十幎前の少女の時から知っおいる、理知的ではあるが、どこか䞍安げな色を垯びた瞳だった。

    「ハヌりッド。我が息子の誓玄の盟にしお、私の匟よ。か぀お私に捧げた、剣の誓いは、今なお貎方の心にありたすか」
     䞍安気に確かめるかのような問いかけに、ハヌりッドは迷わず膝を぀いた。圌の厚刃の片手剣の鞘先が、石畳を打ち、静かな展望宀に重く響いた。

    「  護衛の任を離れたずはいえ、出仕の折に捧げた誓玄を忘れたこずは䞀床もございたせん」
    「私は呜が尜きるたで、ティルト様の盟であり、公劃、貎女の剣でありたす」

    ゞェむンは目を閉じお深く息を぀いた。
    「よろしい。ならば数か月埌、貎方がこの件に決着を぀けなさい。我が剣ずしお」

     回想を振り払い、ハヌりッドは再び深く息を吐いた。スタックスピア領の山に巣食う異囜の獣ども。奎らは圌我の力の違いを枬るこずもできず、ラニスタヌを、錆び぀いた獅子だず䟮っおいるのだろう。

    「  案ずるな、グヌドン」
     扉の向こうに控える老緎な埓士に届かぬほどの䜎い声で、圌は呟いた。

    これは戊などではない。階士が名誉を賭けた決闘でもない。獅子の瞄匵りに玛れ蟌んだ哀れな獣を、䞀匹残らず叩き朰す。ただの駆陀䜜業だ


    3 組打ち

     汗ず土の匂いが錻を刺した。
     キャスタリヌロック䞭局の修緎所は蒞し颚呂のようだった。呚囲を取り囲む若い階士や兵士たちの芖線が、ハヌりッドの䞀挙手䞀投足に纏わり぀く。
     螏み固められた緎習堎の土の䞊で、二人の倧男が組打ちリングンのぶ぀かり皜叀の最䞭だった。

     ハヌりッドの䜓には、汗を吞っお重くなった革の緎習着が肌に匵り付き、䜓に぀いた土は、噎き出す汗を吞っお泥氎のようになっおいた。
     組打ちリングンの盞手は巚挢のハヌりッドよりさらに頭䞀぀倧きい巚倧な男だった。キャスタリヌロックの護衛階士「のっぜのノルランド」ノルランド ザ トヌルこずノルランドクレゲむン卿だ。

     四本の倪い腕は、互いの倪い銖ず肩の関節を軋たせながら掎み合い、額同士が鈍い音を立おお激しくぶ぀かった。 
     ハヌりッドは、䞀方的に抌しこたれおいた。ノルランド以倖でここたで抌し蟌たれる盞手はいない。
     顔を真っ赀にしお、歯が砕けんばかりに食いしばる。銖筋にはいく筋もの血管が浮かび、䞡肩の岩のような筋肉が異垞なたでに盛り䞊がる。肺が酞玠を求め、喉の奥で血の味が滲む。
     枟身の力を蟌めお抌し蟌むが、盞手はそれを䞊回る圧倒的な力で抌し返しおきた。
     だが、ハヌりッドはノルランドの凶暎なたでの圧力を躱さず、あくたで正面から受け止め続けた。巊右に立ちたわったり、足捌きで盞手を牜制するような技も䜿わない。 案の定、食い䞋がるものの、䜕床も抌し切られお連戊連敗だったが、それでも正面からぶ぀かるのをやめなかった。

     螵が土に沈む。膝が軋む。だが腰だけは萜ずさなかった。 
     倧男二人は獣のような唞り声を挏らしながら、黙々ずぶ぀かり続けた。
     その肉䜓が衝突する音ず荒々しい呌吞が修緎所に響き枡っおいた。

     このぶ぀かり合いが十五回目を数える頃には、疲劎のためか、ノルランドの力が萜ち始めた。逆に、底なしの持久力を持぀ハヌりッドが力でも拮抗し始め、抌し戻す状況も出始めた。なかなか力だけでも圧倒できない状況になるず、ノルランドは唞り声をあげ、次第に息が䞊がっおきた。 
     ノルランドは苛立ったように歯を剥き、組み手を厩した。次の瞬間、攟たれた力任せの暪投げに、景色が回転した。背䞭が激しく土を打った。

    「参った、ハヌりッド卿、䌑憩にしよう」
     ノルランドが荒い息を䞊げお喘いだ。ハヌりッドは腕に匵り付いた土を手で払い、立ち䞊がった。力比べでは十五戊ずも抌し切られた。それでも、先に䌑憩を口にしたのはノルランドだった。
     ハヌりッドにずっおは、組打ちリングンで、正面から党力を出しお骚が軋むほどの力でぶ぀かり合える盞手はそうはいない。それはノルランドも同じだろう。互いに替えのきかない、貎重な緎習盞手ずなっおいた。

    「匷い盞手ずあたっおおくに越したこずはない」
     ハヌりッドは、幌い頃に歊術指導を受けた、老クレむトンの蚀葉を思い出した。既に故人ずなったトネリコの蟺地の城アシュマヌクの歊術垫範の穏かだが、油断なく芋守る芖線はハヌりッドの脳裏に焌き付いおいた。その教えの倚くを今も実践しおいた。 

     倧男二人は、暪に䞊んで座り、冷えた氎を呑んだ。ハヌりッドも無口だが、ノルランドにいたっおは喋るこずはほずんどなかった。二人を遠巻きに芋぀めるのは、ハヌりッドの率いる小隊の階士や兵士たちだった。
     ハヌりッドは、若い連䞭に、この組打ちリングンでぶ぀かる蚓緎を芋せ぀けおおきたかった。戊での栄光を倢芋る若者たちは、芋栄えの良い剣ばかり振りたがる。だが、幟重にも重ねられた鎧や鎖垷子を、剣の䞀撃で䞡断できる者など存圚しない。実戊で甲冑を着お戊えば、剣の刃はこがれ、折れ曲がる。最埌は、泥の䞭に転げ回り、盞手に銬乗りに乗っお喉笛を絞め䞊げ、鎧の隙間に短剣をねじ蟌む殺し合いになる。
     これたで、䜕床も口で蚀い、組打ちの実挔もしおきたが、䜕床蚀っおも分からん奎ばかりだった。この無様な肉䜓の削り合いを芋せお、「真の戊堎の泥臭さ」を思い知らせる必芁があった。

     二人は、䌑憩を終えるず、今床は暡擬の甲冑を身に着けお、「甲冑組打ち」を行った。
     ハヌりッドは、厚手の皮手袋の䞊からさらに指を保護する硬化皮革の小手を぀けた。衚面が䞞く凊理された暡擬甲冑ずは蚀え、巚挢二人が甲冑を぀けお激突する甲冑組打ちリングンずなるず、耳を぀んざく金属の衝突音が鳎り響き、鉄補の暡擬甲冑がぞこみ、火花を散らす。手を挟めば簡単に骚折する危険な修緎だ。

     暡擬甲冑を纏うこずより、重量ず容赊のない暑さによっお、これたでずは比范にならないほど消耗が激しくなる。兜の䞭に熱気がこもり、息を吞うたびに湿った熱が肺を焌く。窒息しそうなほどの苊しみ。䞀方で、甲冑の内偎の厚い垃衣は汗を吞い曎に重くなる。䌑憩で倚少は取り戻したはずの䜓力は䞀瞬で消耗した。今床は䞉戊目から、ハヌりッドが圧倒し始めたが、五戊目ずもなるず、動きもたたならず、双方どちらずもなく、終了の合図を指で瀺しお、暡擬甲冑を脱いだ。拳をぶ぀けお、お互いの健闘を称え合い、修緎を終えた。

     暡擬甲冑を脱ぐず、汗が噎き出した。甲冑の内偎の厚手の垃衣を匕き出し、暡擬甲冑は氎で流したうえで、壁に掛けお干しおおく。小隊の兵士たちが手䌝おうずするのを手を䞊げお制した。
     内偎の厚手の垃衣は汗を吞っお鉛のように重くなっおいた。これは、絞ったうえで、暜に入った氎に぀けお眮いた。埌で、掗い流しお干すのだが、厚手のため、也くのに二日かかる。些现なこずだが、歊具や緎習具の手入れは必ず自分で行う。これも老クレむトンの指導だった。

    「゚ストレン卿、これでは、私の埓士ずしおの立堎ありたせんな」
     雑務をさせないハヌりッドの姿勢にグヌドン兵士長が苊笑しながら蚀っおきた。

    「埓士は建前だ。副官ずしお偎にいおもらっおる。若造扱いする蚳にもいかん」
     ハヌりッドは、身の回りの雑務は自分でするず決めおいた。

    「別に埓士を眮かれおはいかがですか。私は副官ずしお、隊のほうから絊金をもらうこずもできたす」

    「埓士の件は子匟を出仕させたいずいう申し出をたずめお断ったばかりでな。それに、、、定員の空きはもうすぐ、埋める予定だ」
     ハヌりッドはグヌドンを芋぀めお、頷いた。

    「  十幎埌ではなく、十か月埌ぐらいですかね」
    グヌドンも隊の線制方針が倉わるこずを察しおいた。

    「十カ月もあれば良いが  、䞀定の即戊力を揃えたいが、今晩にも方針は固たる筈だ」
    ハヌりッドは眉根を寄せお溜息を぀いた。

    「わかりたした。あい぀らの修緎がひず段萜したら、塩の吹き溜たり゜ルティ ボトムの野営地に戻りたすか」
     修緎所の奥で、にわかに組打ちリングンに取り組んでいる小隊の階士や兵士に目をやった。

    「ああ、埌は任せる。線成方針が倉わるこずは決たっおいる。早期に戊力になりうる兵士を遞抜しお、基瀎蚓緎から、実戊蚓緎ぞ移行させる。それ以倖の奎らは埓来通り、長期蚈画の基瀎蚓緎をさせるかな」

    俺ずグヌドンは、実戊蚓緎に掛かりきりになる。基瀎蚓緎の指導ができる老緎な人物が欲しい

     ハヌりッドの脳裏に、故人ずなった老クレむトンの顔が目に浮かんだ。今日はやたらず過去のこずが頭をよぎる。


    4 獣の檻

     修緎所での組打ち蚓緎をグヌドン兵士長に任せるず、ハヌりッドは、氎で濡らした垃で党身の汗をぬぐい、也いた麻の胎衣に着替えた。その䞊から、玺色の厚垃防衣ガンベ゜ンを着蟌む。腰には分厚い片刃の剣を䞋げお、軜軍装で䞀人、䞋局階の厩舎に向かった。
     キャスタリヌロックの巻き䞊げ機りむンチを䜿わず、壁の石階段を延々ず降りた。暗闇のなかを金属音が響き、鉄籠が䜕凊かの階士ず思われる男たちを茉せお降りおいくのが芋えた。足腰を鍛える修緎ずしお階段を䜿うこずは倚いが、巻き䞊げ機があたり奜きではないこずも䞀因だった。
     だが、䞀千段にもなろうかずいう長い石の階段を降り続けるず流石に倪腿の筋肉が匵っおきた。

     曎に降りおいくず、也いた干し草の匂いず、発酵した糞尿の臭気が挂っおきた。
     ハヌりッドは、ようやく倧厩舎のある䞋局階たで降りおきた。
     石畳を蹄が打぀音が岩壁に反響しおいる。銬の嘶きもあちらこちらから聞こえおくる。
     この倧厩舎には、数癟頭の銬が繋がれおいた。
     この階局は岩を掘った叀代の坑道が幟筋も闇の奥ぞずのびおいる。
     ハヌりッドは、迷うこずなく、薄暗い岩肌の现長い空間を歩く。巊右には倪い朚の柵で぀くられた厩舎から銖を出す銬たちの顔が芋える。この区画の銬はいずれも諞䟯や階士の銬が飌われおいるため、いずれの銬も倧きく面構えも良い。

     通い慣れた䞀画に着くず、若い厩舎番の少幎が、ひどく怯えた様子で空の飌葉桶の前に立っおいた。少幎の芖線の先には、巚倧な岩塊のような二頭の銬が、苛立たしげに前掻きをしおいる。
     どちらもハヌりッドの重軍銬ヘノィ コヌサヌだった。

     挆黒の黒鹿毛の牡銬は、「鉄槌」ハンマヌ。二幎前に倧枚を叩いお譲っおもらった若い荒れ銬で、長幎連れ添った老銬の代わりに銬を探しおいた際に出䌚った。分厚い銖、暜のような胞、埌躯には岩でも詰たっおいるかのような筋肉が盛り䞊がり䞀目で気に入った。厩舎長が荒れ銬で困っおおり、繁殖者である諞䟯も攟出したがっおいるずいう噂を聞き、本来は倍はするずころを栌安で頌み蟌んで匕き取った。心配しおいた気性は幎を経るごずに幟分萜ち着いおきたが、食欲は増す䞀方だ。少幎の飌葉の補充が遅いのに苛立っおいるようだ。

     やや明るい黒鹿毛の牡銬は、「嵐」ストヌム。こちらは八幎前の嵐の地ストヌムランズの戊圹での戊利品だ。敵䞭で階銬を倱ったハヌりッドが奪った軍銬で、その分厚い銖筋や埌躯には、矢や槍がかすめた癜い叀傷が幟぀も残っおいる。血ず排泄物の臭いが充満する乱戊の䞭でも決しお怯たない、歎戊の銬だ。
     倚少の幎霢差こそあれ、どちらも、朝から晩たで走らせおも朰れず、甲冑姿の階士を乗せおも脚色が萜ちない。

     華やかな槍詊合の階士たちが乗る瞬発力ず衝突力のみの匏兞の重軍銬ではない。より実甚的な「戊堎の道具」だ。維持費だけで月に䜕枚もの牡鹿銀貚スタッグを食い぀ぶすこの二頭の巚獣に、ハヌりッドは自身の報酬のほずんどを泚ぎ蟌んでいた。

    「  よし、代わろうか」
     怯える少幎に声をかけるず、圌は匟かれたように道を譲った。
     ハヌりッドが無造䜜に近づくず、黒鹿毛の「鉄槌」が嚁嚇するように嘶いななき、分厚い歯を剥き出しおきた。だがハヌりッドは埮塵も動じず、その巚倧な錻面を倪い掌で軜く叩き据えた。
     巚獣が䞍満げに倧人しくなるず、慣れた手぀きで豚毛の獣毛刷毛ブラシず銬櫛コヌムを甚い、銖筋の汚れを削ぎ萜ずしおいく。萜ち着いたのを芋蚈らっお倪い脚を持ち䞊げ、蹄を確認する。銬の䜓枩ず、獣特有の匷い䜓臭が錻腔を突いた。
     暪から「嵐」が銖を突っ蟌んできた。同じように銖筋を撫でお、豚毛の刷毛ブラシで撫で぀けた。こちらの歎戊の重軍銬は、そろそろ蹄鉄の取り換え時期かも知れない。

    「飌葉を絶やさず、食べさせおくれ。少しでも脚を匕く玠振りを芋せたら、すぐに俺を呌んでくれ」
     厩舎番の少幎にいく぀か指瀺を出しおいるず、埌ろから気配がした。

    「ハヌりッド様、今日もお越しでしたか」
     振り返るず、革の胞圓おを着けた䞭幎の銎染みの厩舎頭が立っおいた。

    「若い者にはこい぀の䞖話は厳しそうだな」
     ハヌりッドは少幎に出した指瀺を再床、確認するず、厩舎の端にある氎桶で、この二頭に氎を䞎えた。黒鹿毛の二頭は喉を鳎らしお氎を呑んでいる。

    「ご指瀺通り、良質なカラス麊をふんだんに䞎え、筋力を維持するために也燥させた倧豆を少しばかり混ぜおおりたす」
     厩舎頭は、カラス麊が高隰しおたすのでご理解をず、付け加えた。

    「牡鹿銀貚スタッグが飌葉に消えおいくな。それでいい」
     苊笑いしながら、厩舎頭の報告に頷く。毛䞊みも良い。銬䜓も匵りがあり、調子よさそうだ。

     宮廷の階士たちは、銬の芋た目や鞍の装食に金をかけたがる。だが、ハヌりッドは金糞を瞫い付けた鞍などどうでもいい。食り立おた銬では敵兵は螏み朰せない。圌がもずめおいたのは重さず脚力だった。
     厩舎頭は䜕も蚀わずに頷いた。䜕幎もこの二頭を任せおいる。今さら説明する必芁もなかった。

     ハヌりッドはこの二頭を平時の移動に乗るこずは決しおない。平時は屋倖の厩舎で過ごしおいる粕毛の牝銬毛むくじゃらの淑女シャギヌ レディや隟銬の勇者ブレむブで十二分だ。
     こい぀らが走る堎所は道ではない。血ず泥に塗れた戊堎だ。そのためだけに、暗い厩舎の奥でその時を埅たせおいた。

      出番が来るぞ
     ハヌりッドは、䞡脇に䞊ぶ二頭の銬の、岩のように硬い銖筋を䞡脇に抱え蟌みながら呟いた。
     近い将来、異囜の傭兵どもを駆陀するために、この巚倧な質量ず暎力が必芁になる。

    012 ハヌりッド Ⅲ 完


    煀けた石 第䞀郚 獅子の仔 第䞀線 ゆりかごの宣誓 
    012 ハヌりッド Ⅲ012 玅の倢
    248 AC・倏末期 / 西郚 キャスタリヌロック
    POVハヌりッド゚ストレン (Harwood Estren)


    【本䜜は「氷ず炎の歌」のファンフィクションです】
    原䜜者のゞョヌゞ・R・R・マヌティン氏、および関連する出版瀟・映像補䜜䌚瀟等の暩利者様ずは䞀切関係がありたせん。
    本䜜は「氷ず炎の歌A Song of Ice and Fire」の䞖界芳をベヌスにした非公匏のスピンオフ䜜品であり、原䜜の五十幎前の時代埁服暊248幎以降の䞃王囜西郚りェスタヌランズを独自の解釈で描いおいたす。


    ▢ 次の話 013 クレストル Ⅲ 013 森林の官吏

    ▢ 前の話 011 ノ゚ル Ⅱ (011 錠の宣誓)

    ▢ 蚭定資料・目次はこちら



     
     
     

    GOMM

     
     
    「氷ず炎の歌」の䞖界のファンフィクションを曞いおいたす。 最近は疲れお、戊囜時代ものを少し曞いおたす。 ※連茉「獅子の仔」は原䜜の 五十幎前の西郚が舞台です。 ※原皿の䞍備は随時修正しおいたす。 ※原䜜が執筆の動機なので シリアルナンバヌの削陀に螏み切れず。

    あなたぞのおすすめ